臨床工学技士の資格を取得して17年が経ちました。17年前に比べると、現在は臨床工学技士の認知度も上がったように感じます。一昔前は臨床工学技士を知らない人に仕事について聞かれ、透析業務をしていると答えても『透析って何?』と言われることが多かったのですが、今では、ほとんどの人が透析を知っています。これもまた、ネット環境の発達で世間に情報が行き渡りやすくなったからでしょうか。新型コロナウイルス関連のニュースではPCPSが取り上げられ、また一段と世間に臨床工学技士が知られることになったのではないかとと思います。
そして、現在の臨床工学技士は生命維持管理装置の操作や保守点検の仕事だけではなく、活躍の場は多くの領域に広がり、多職種と連携することが非常に多くなってきています。仕事の領域が広がったことで現在、専門臨床工学技士資格制度が設けられるなど医療現場からのニーズも高まっています。このように臨床工学技士は現在も活動領域を広げており、とてもやりがいのある職種です。体験を交えながら、臨床工学技士の仕事のやりがいについてお伝え出来ればと思います。
臨床工学技士のやりがいとは?スキル・技術の提供
個人的には臨床工学技士の仕事のやりがいには2種類の提供をすることで、やりがいを感じると思います。それは『スキル・技術の提供』と『知識の提供』で得られるやりがいの2つです。
まず『スキルの提供』で得られるやりがいについてです。臨床工学技士として私が最初に経験したのが透析業務でした。透析業務では患者様から頂いた経験でスキルアップをし、そのまま患者さまに技術として提供できるところにやりがいを感じられると思います。初めて自分がプライミングした回路で患者様が透析を行っている姿を見て、新人のこんな自分でも治療の役に立っていると感じられて感動した反面、自分のプライミングした回路のどこかにミスがあって医療事故になったらどうしようとドキドキしていたことを今でも機能のように覚えています。初めての穿刺の時は針を持つ手が震えて穿刺に失敗してしまい、動揺していた私に『最初は誰でもミスはするもの、だから気にしなくていいよ』と言ってくれた患者様の優しい言葉に涙が出そうになったことは、今でもとても良い思い出です。今になって思うのですが、透析業務に従事している臨床工学技士は患者様に育てられていると言っても過言ではありません。仕事内容は先輩、上司から教われますが、穿刺などの技術的な部分のコツは教わっても上手くなりません。経験が必要なのですが、その経験は患者様がいないと積むことができません。何度も失敗と成功を繰り返し、経験を積むことで針刺しに失敗しそうになってもリカバリー出来きるようになったりますが、その失敗と成功の経験は患者様の血管に針を刺すことでしか積むことができません。そうして、失敗して怒られたり、成功して褒められたりしているうちに成功のコツや失敗しないような工夫が出来るようになります。このように患者様に温かく見守ってもらいながらスキルアップし、それを患者様に技術として提供することで感謝され、やりがいに繋がります。透析業務は患者さまと接する時間が長く、患者様との信頼関係を築きやすいため、患者様と一喜一憂できる機会が多いので、本当にやりがいのある仕事です。
臨床工学技士のやりがいとは?知識の提供
次に『知識の提供』で得られるやりがいについてです。臨床工学技士は大きな病院になるほど保守管理の業務が増え、なにかと病院スタッフから相談されることが多くなります。これは関わる領域が多いことも関係しますが、呼吸器についてやOP室関連の機器についてやセントラルモニタについてなど、さまざまな相談や質問をされることが多くあります。「呼吸器の操作や設定について教えてほしい」や「機器の購入選定について意見がほしい」など色々な職種から相談があり、多職種から必要とされている実感が感じられ、やりがいを感じることができます。このように臨床工学技士は医療機器に関与した医療事故を防ぐため、定期的に輸液ポンプや呼吸器といった様々な医療機器の操作説明や注意点などの勉強会を開催し、医療事故防止に貢献しています。そして、医療機器の購入時には医療機器のスペシャリストとして養ってきた知識を多職種のスタッフに助言やサポートという形で提供し、多職種間のインターフェイスとして信頼されることでやりがいに繋がります。
臨床工学技士は先に述べたように、多くの分野にて仕事をする機会の多い職種であるため、多職種と連携して業務を行うことが多く、様々な職種と共に仕事をします。そのため、チーム医療の一員として、難しいOPを無事に完了出来た時や、治療中の患者様が回復して元気になった時など、一つの事柄に対して多くの方と喜びを分かち合うことができます。そして、一緒に働く仲間だけでなく、患者さまや、そのご家族の方からも感謝の気持ちを伝えられることもあり、それがとても仕事のやりがいに繋がります。臨床工学技士は医療機器のスペシャリストとして知識やスキルを磨き、患者さまにその技術を提供したり、患者さまの命を守るために医療機器の管理や医療機器を扱うスタッフに安全に機器を使用してもらうために日々、成長しなければなりません。仕事内容は命に関わるため、責任が重く大変ですが、それよりも患者さまに安心、安全な医療を提供するという意味では、とてもやりがいのある素晴らしい職種だと思います。