【臨床工学技士インタビュー】高度急性期病院としての医療提供体制を整備する名古屋市立大学病院。スタッフが笑顔で生き生きと働き、自分の仕事に誇りを持ち、愛される職場を目指しています

名古屋市立大学病院

名古屋都市圏の中核医療機関として、高度先進かつ先端医療を皆様に提供するとともに、高い専門性と倫理観を兼ね備えた医療人の育成に努めている。同院臨床工学技術科の技師長で、臨床工学技士の田島志緒里(たじま・しおり)さんにお話を伺った。

田島志緒里 技師長

臨床工学技士になられた経緯とこれまでのキャリアについて教えてください。

私は愛媛県出身ですが、子供の頃から何か手に職をつけて働きたいと考えていました。高校生の頃は何となく看護師になりたいと考えていたこともあり、医療職に就けば、女性でも働いていけると考えていました。その後、看護師以外にも、臨床検査技師という仕事があることを知り、その道に進もうと考えました。

大学受験では愛知県の大学に合格し、進学することになりました。もう1校、佐賀県にある大学にも受かったのですが、せっかく大学生活を送るなら、都会で過ごしたいと思い、名古屋を選びました。大学では、臨床検査技師の資格を取りました。

ただ、臨床検査技師として診療に必要な検査を行い、結果を報告するよりも、患者さんに直接携われる仕事に就きたいと考え、臨床工学技士の方が、私には向いているのではないかと考えるようになりました。そこで大学卒業後に、短期大学の臨床工学技士のコースに通い、臨床工学技士の資格も取りました。臨床検査技師と臨床工学技士の二つの国家資格を持っていることになります。

臨床工学技士としては、1999年に愛知県の総合病院に入職して、機器管理、透析、集中治療、心臓カテーテル、人工心肺、ペースメーカ、内視鏡、高気圧酸素治療を経験し、2006年10月に、当院に入ってからは機器管理や透析、集中治療、末梢血幹細胞採取を経験しています。その後は係長職を経て、今年、技師長を拝命しました。

臨床工学技術科の人員体制について教えてください。

当院の臨床工学技術科には現在、17名が在職しています。私のほかに、係長が1名、主査が1名、臨床工学技士(スタッフ)が14名の体制です。スタッフのうち3名が女性です。年代別では40代が6名、30代が2名、20代が9名という構成です。初めての育休取得は男性でした。

臨床工学技士の育成について、特徴はありますか?

当院の特徴は、担当制ではなく、ローテーションで、すべての業務に携われるところです。新人教育プログラムでは、1年目で2、3か月ごとに、各部門の業務を経験します。1年目は、社会人に慣れ、職場に慣れ、基礎力を育成するために、基本的に残業がありません。

透析、集中治療、心臓カテーテル、手術室など、1年目で当院の業務内容についておおよそ理解ができるため、2年目以降ラダー制度を導入し、各部門をスペシャリストが専門的に指導し、複数業務を兼任できるジェネラリストの育成を開始します。育成には、各業務によって1年から5年近くの期間を要します。例えば、ペースメーカの設定変更について、自分だけでプログラマを使用し設定変更ができるようになるといったことが挙げられます。

2年目以降は、1つの業務についてチェック項目を全てクリアしたら、次の業務に移るというように、数年かけて医療機器管理・手術関連・集中治療関連・透析関連・心カテーテル関連・デバイス関連・末梢血幹細胞採取関連のすべての業務習得を目指します。2年目以降は、緊急患者対応や手術時間の延長に伴い、残業が発生します。

1日のスケジュールを教えていただけますか?

スタッフの就業時間は、定時が8時30分から17時までになります。現在、夜勤はありませんが、7時30分~16時までの早番があります。早番は8時30分の手術開始などの準備のためです。また、昼からの手術が入る場合は、12時~20時30分という勤務時間帯もあります。夜勤が無いため、待機があり、緊急呼出に対応しています。

田島技師長の1日のスケジュール

6:30 起床
7:45 自宅を出る
8:10   病院に到着
8:30 勤務開始  労務管理やメールチェックなど 各現場の状況把握
9:00~ スタッフからの連絡対応
他職種打ち合わせ、MEセンターの医療機器管理業務など

昼食休憩

13:00 ~会議、トラブル対応など
19:00頃 退勤

医療機器管理業務において重視されていることは、どのような点でしょうか。

医療機器の効果的な運用です。医療機器の稼働状況について“見える化”し、どのような装置がどれぐらい実際に稼働しているのかといったことを把握、分析しています。こうしたデータ抽出も、私たちの重要な仕事の1つだと考えています。

見える化については、2、3年前から取り組み始めました。位置情報+電流計測(ワットチェッカーという機器)を使用し、実稼働を割り出します。あとは医事データやシステムデータなどと照合して、稼働状況を把握し、機器更新に反映させます。

新しい医療機器の導入を提案するには、正確な現状分析が必要だと考えています。

ご自身の仕事のやりがいについては、どうお考えでしょうか。

透析にしても、集中治療にしても、患者さんが快方に向かっていく過程が見えることがやりがいに繋がっています。かつて透析の現場に入っていた時に、機器の扱いがうまいと患者さんから褒めて頂いたり、私が担当するのを知って安心してくれたりしたことは励みになりました。

なんといっても患者さんの生の声が一番うれしかったです。それに加えて、私は仕事内容の中で工夫をして、業務のやり方を効率的に変えていきました。薬剤投与一つにしても今までのやり方を変えると業務が楽になります。作業が早くなると、その分患者さんと話す時間を設けて、導入期指導に時間を注ぐことができるようになりました。業務を効率化すると自分たちの時間も増えました。その辺が楽しかったです。

集中治療では、患者さんが悪くならずに回復したときには、「やったぞ」とうれしくなります。こういった日々の積み重ねが、達成感につながっているのではないでしょうか。

私個人としては血液浄化が長かったです。集中治療の場ではその昔、医師自らが実施していましたが、しだいに業務が私たちにシフトしていくタスクシフトを経験しました。待機中の私を、皆さんが待っていてくれた、というのも懐かし思い出です。また、透析液の清浄化も開始し、今でも、臨床工学技士の大切な仕事の1つです。

当院の臨床工学技士は、2003年より採用が開始されました。医療機器管理としてMEセンターを立ち上げ、2005年には、小児人工心肺が開始されました。それから、私が透析の担当として採用され、集中治療にも、参入したという経緯です。業者立ち合い規制の影響もあり、2008年以降業務範囲がどんどん広がっていきました。人工心肺以外のペースメーカや術中モニタリング、ロボット支援手術などにも対応し、心臓カテーテル療法、末梢血幹細胞採取、CAR-T療法にも参入するようになってきました。最新の医療に携わり、臨床工学技士の質向上に努めることが、今の私のやりがいです。

名古屋市立大学病院の将来性については、どうお考えですか。

当院では、新しい救急・災害医療センター(仮称)の建設が始まっています。臨床工学技士の業務範囲も広がっていくと考えています。2025年には、24時間常駐体制も構築する予定です。人数が増えれば、救急医療にも携われるようになります。病院側も臨床工学技士の重要性を認識してくれており、臨床工学技士が必要とされていることは、直(じか)に感じています。現に、今年は臨床工学技士4名以上の採用があります。2003年から採用が始まって、今年度、技師長が配置され、組織として確立されました。新しい組織ですので、今後も人員は増えていき、組織強化も図っていきます。

当院の特徴は、先ほども触れましたが、高気圧酸素治療以外の、ほぼすべての業務を習得でき、部門毎に分かれていないという良さがあります。様々な臨床経験を積みたければ、当院に来ていただいたらよいと思います。当院は急性期の病院なので、どうしても緊急対応はしなければなりません。予定外の時間外勤務もあります。

高度な医療機器も使えますし、(手術支援ロボットの)hinotoriといった新しい医療機器も使えます。新しい機器を扱ったり、新しいことも覚えられたりできる病院です。臨床現場で、医師からも直接指導を受けられるという恵まれた環境にもあります。人数も増えており、育成には力を入れていきたいと考えています。また、大学病院ですので、治験や研究にも携われます。

新たに入ってくる臨床工学技士には、長く定年まで勤めてもらいたいと思っています。20代から定年まで働いた時、振り返ってみるとみんなが平等だったと感じられる働き方を実施しています。年齢に応じた働き方もありますし、多様性を認め合っています。スタッフが気持ちよく働ける、働きやすい職場環境に導くことが、私の役目だと思っています。

ミュニケ―ションについて、学んだのですが、人にはそれぞれ弱みと強みがあり、感じ方も異なります。同じことを伝えるにも、本人が受け入れやすい伝達の仕方があります。当院においても、スタッフが受け入れやすい言葉や表現などに気を遣い、ハラスメント防止にも努めています。

これから臨床工学技士を目指す若い人へメッセージをお願いします。

当院では、社会科見学のような形で、地域の高校生の見学も受け入れています。過去には手術支援ロボットのダヴィンチを操作してもらったこともあります。実際の業務内容を見学してもらうと、臨床工学技士の良さが伝わると思っています。今後は臨床工学技士の業務も広がっていき、将来性がある仕事ですので、時代の変化に対応できる若い人たちに興味を持ってもらいたいです。

私たちの職場は、実際に働いてみると、おそらく楽しいと思います。学校のように5時になったらチャイム鳴らして「仕事が終わった人は早く帰りましょう」といったように、少しでも仕事を楽しくやろうと心がけています。

現場では、命に直接関わる医療機器を扱っているため、笑顔をあまり出せないところもあります。それでも自分の部署に戻ってくると、愚痴を言いあったり、笑ったりする声が聞こえるというのは、私たちの職場の良いところだと思っています。

やる気さえあれば、何でも挑戦できるところが、当院の特徴です。仕事に対するやる気は、もちろん大事ですが、大学院や研究にも力をいれることができます。また、自分たちがお互いに気持ちよく働ける職場環境を育んでもらい、「ここで働いていて良かった」と思えることが、仕事を続けるうえでは素敵なことではないでしょうか。

 

取材協力

公立大学法人 名古屋市立大学病院 臨床工学室
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