臨床工学技士が管理している医療機器。以前は臨床工学技士という資格者が出てくるまでは、管理・メンテナンスは、誰が担当していた?

現在、医療機器のメンテナンスは臨床工学技士が行っています。臨床工学技士は医療機器のスペシャリストとして誕生した国家資格で、30年ほどの歴史があります。この資格が誕生した理由は医療機器の発展です。現在の医療現場には輸液ポンプや除細動器などの基本的なものから人工呼吸器や人工透析装置といった生命維持装置といった医療機器が様々あり、正しく扱うためには適切な知識をもった人材が必要となります。

また、いつでも医療機器を安全に扱うことができるように、定期的にメンテナンスを行う必要があります。これらの医療機器の発展により、誕生したのが臨床工学技士という資格です。ここからは、さらに詳しく臨床工学技士という資格が誕生したきっかけとこの資格が誕生する前は医療機器のメンテナンスは誰がおこなっていたのかという点についても説明していきます。

臨床工学技士以前の医療機器のメンテナンスは誰がやっていたの?

まず、医療現場では必要不可欠となった医療機器は臨床工学技士という資格が誕生する前から存在しており、当時は診断で使用されるのみだった医療機器の管理は主に医師や看護師が行っていました。しかし、医療技術が進歩するにつれて医療機器も治療でも使用されるように発展した結果、新たな医療機器が高度化、複雑化により、医学的な知識のみであると対応することができなくなっていました。また、透析治療や人工心肺手術が全国的に広く普及し始めてからは、専門的な知識を持った人材が必要とされるため、医師や看護師のみで対応することは困難となりました。この高度化してきた医療機器に対応するために「病院ME技術者」とされる人材が臨床現場に登場しました。

しかし、当時は大きな病院か透析クリニックを中心に活動していたため、一般的な病院には、病院ME技術者は配属されておらず、医師や看護師が院内の医療機器の対応をしているという問題がありました。また、放射線技師や臨床検査技師の資格を取得している方もいましたが、そのほとんどは無資格の方が病院ME技術者として勤務していたため、医学的知識が一切ないまま医療機器を操作するという問題もありました。この病院ME技術者というのは専門学校などを卒業することで就職することができ、ME技師やMEテクニシャンなど呼び方も統一されていませんでした。このころから病院内にも本格的な医療機器に対応する部門が設立されましたが、仕事内容は現在病院内に存在する臨床工学部とほぼ同じとなっていました。これらの過程を通して医療機器に携わることのできる人材が病院内で必要であるということが徐々に理解されていき、現場の医療を支えるME機器に関わる人々の質の向上を目指した結果、放射線技師や臨床検査技師と並ぶ形で臨床工学技士が誕生しました。

現在の臨床工学技士の仕事

この臨床工学技士には、生命科学と工学技術の間で臨床医療に直接貢献することを目的とした学問技術分野で働く業種としており、具体的な業務としては生命維持装置の操作運用、関連ME機器の操作運用、高エネルギーME機器の操作運用、およびこれらの機器の工学的な安全管理とされている。しかし、資格が誕生する際にこれだけでは広く浅い知識しか得ることができず、専門的な知識を持つ人材が必要という意見がありました。そのため、生命維持装置をはじめとした医療機器に対してより専門的な知識が備わっていることを証明するために、専門学会が個別に専門認定していくという形が誕生し、それが現在でも引き継がれています。その結果1988年に第1回臨床工学技士国家試験が開催され、2022年度には第35回が開催されました。

これらの過程が臨床工学技士誕生のきっかけとなっており、当初は医師と看護師のみで行っていた医療機器の操作やメンテナンスを臨床工学技士が行うようになりました。しかし、現在でも臨床工学技士という資格は歴史の浅さもあり、認知度が低く、同業者にも知られていない場合があるというのが現状です。また、臨床工学技士の人材はまだまだ不足しており、この人材不足が原因で生じた医療事故も数多く存在します。それは、人材不足による臨床工学技士の不在時に医師と看護師のみでの医療機器の対応によるものです。この原因による医療事故は、人工呼吸器や人工透析装置など臨床工学技士の扱う生命維持に関与する医療機器によって生じるものが多いです。

これらの医療事故に共通していることは臨床工学技士のような医療機器の専門的な知識がないにも関わらずに医師と看護師の判断で医療機器を操作することによって生じるものです。このような現状が続くと臨床工学技士の存在価値は一切なくなってしまいます。そのため、病院内に24時間在中していることや医師や看護師が臨床工学技士に対応を求めるという信頼関係の構築が重要となってきます。今後、臨床工学技士の重要性が大きく認知されていくことで臨床工学技士が必要とされた経緯を再認識してもらう必要があると思います。チーム医療を行っている現代医療で、臨床工学技士もその一員としてしっかりと活動していくことが今後の医療の発展につながると思います。