医師から見た!新型コロナウィルス感染症まん延で変わったこと、変わらなかったことを解説

こんにちは、私は市中の大型病院に勤務する外科医師です。今回、勤務医の観点から見た新型コロナウィルス感染症まん延で変わったことについて述べていきます。読者の皆さんも実感していることでしょうが、このコロナ禍は一般社会全体を変えたといっても過言ではありません。中でも病院は、その主戦場であり、最も影響を受けた場所になります。これまでは、マスクを付けずに診療をしていた医師もいましたが、今ではマスク着用は当然ながら、その他の感染対策を講じた上で診療するのが、至って普通の光景となっています。コロナ禍で病院の日常にどのような変化があったのかについて、以下の3点について順に触れていきます。

患者診察・診療行為

病院だけに限ったことではありませんが、患者・スタッフを問わず病院に入る際には検温されます。また院内での手指衛生は徹底されるようになりました。特に発熱患者の対応ではCOVID-19感染を念頭に置き対応に当たらなければなりません。具体的には個人用防護具(PPE)での対応が必要になります。PPEとはpersonal protective equipmentの略語です。これは感染症対策のためのガウン、手袋、マスク、キャップ、 エプロン、シューカバー、フェイスシールド、ゴーグルなどを着用したフル装備のことを指します。

さらに着脱には手順があって、感染予防のためにはその手順を守ることも重要なポイントです。これには非常に気を使いますし、さらに対応する患者毎に着替えが必要になり、かなり手間がかかります。発熱がない患者の対応でも院内感染を防ぐために、入院前にCOVID-19検査がルーチンで必要になっています(PCR検査または抗原検査のいずれかは病院によります)。

実際に、無症候性の新型コロナウイルス感染症にかかっていることが判明し、手術延期になったという事例を経験することもあります。ただし、デメリットだけかというとそうとは限りません。例えば、多数の医師で行う患者回診も無くなったとは言わないまでも、チーム制に移行したという病院は多いのではないでしょうか。その他の部分でも合理化が進んだというメリットの部分もあるのではないかと思います。このようにコロナ禍によって患者診察・診療の部分は最も影響を受けたと言えるでしょう。

スタッフ同士の関わり

患者との関わりのみならず、院内でのスタッフ同士の関わりにも変化が生じています。医師の働き方改革もあいまって、デジタル化が一気に進んだ印象があります。代表例としては、カンファレンスが挙げられます。外科では術式・アプローチを検討する術前カンファレンスや切除した標本の病理結果を確認する術後カンファレンスなどがあります。これまで内科・外科・放射線科・病理診断科などの他診療科の多数の医師が一つの部屋に集まってプレゼンテーションをしていました。しかし、今では感染対策のためWeb会議システムにシフトしています。もう、以前のような会合スタイルには逆戻りすることもないだろうと思います。また、一般社会とは異なり医療者は院内ピッチを用いて連絡することが多く、メール・LINEの活用は比較的少なかったです。しかし、最近ではこのような連絡方法も徐々に普及してきている印象があります。さらには最新のIT技術を活用したアプリによる患者データの共有による取り組みも加速しました。保険適用となったことでも注目を集めているJoinが有名です。これを用いると医師が自宅にいながら、CT検査やMRI検査の画像結果を確認することができます。コロナ感染対策と医師の働き方改革を同時に達成させるという目標に向かって、一般社会と同様に医療の世界でもIT技術がとてつもないスピードで浸透してきています。

病院全体としてのあり方

病院全体でも変革が起きています。そもそも病院に受診すること自体を減らそうという取り組みがあります。例えば、定期受診でいつも同じ処方をもらうなどの場合には、2,3ヶ月毎の受診を半年毎の受診に変更するなどといった取り組みがされています。ただし、病院受診がしにくくなったことによる、いわゆる「受診控え」も生じてしまっているのが現状です。症状は気になっていたが、放置していた結果、いざ検査してみたら進行癌が見つかるというケースも多くなっています。この受診控えの結果、初期のがんの手術症例が減り、進行がんの手術症例が増えたという報告も散見します。また、最近の報告では外来患者減少に伴って入院患者も減少し、手術件数の減少もあったということです。この傾向はコロナ受入れ病院で顕著であったということです。政府からの補助金制度はあるものの、病院経営は厳しい状況が続いています。不必要な受診は減らす一方、必要な受診を増やすという取り組みは今後も必要ですが、同時にその啓蒙活動も進めていかなければなりません。また、クリニックなどではオンライン診療・遠隔医療など始まったことも多いのではないでしょうか。このような直接対面にならないような工夫もなされています。我が国は特に医療分野でのデジタル化の遅れが顕在化しています。すでに技術的には実用可能だったオンライン診療ですが、新型コロナウイルスをきっかけに急速に広がったと言えるでしょう。以上、3点について新型コロナウィルス感染症まん延で変わったことについて述べてきました。実際にコロナ禍によって病院の日常は様変わりしました。上記で述べてきたように医療の世界でも合理化・IT/デジタル化というのがキーワードになりつつあると言えそうです。今後のさら更なる医療・公衆衛生の発展・進歩を期待したいです。