【臨床工学技士インタビュー】人工心肺症例が多く13名の体外循環技術認定士が在籍、九州・中四国で唯一心臓移植にも携われる九州大学病院

九州大学病院

九州大学病院は、ルーツである京都帝国大学福岡医科大学附属医院開院より119年、黒田藩の医育機関「賛生館」まで遡れば150 年以上の歴史を有しています。

またNewsweek誌のThe World Hospital 2021で国内5位以内、世界で100位内にランキングされており、名実ともに日本を代表する大学病院であり、西日本における高度医療の中核拠点としての役割を果たしています。

九州大学病院のさらなる成長を促すために、本院が認定されている「臨床研究中核病院」や「がんゲノム医療中核拠点病院」といった多くの高次機能を活用して先端医療の実施を促進するとともに、対応する医療安全の仕組みも強化します。

九州大学病院であれば最先端医療も安心して受けられるという環境を整備することで、新規患者数の増加による財政基盤の強化を実現するとともに、ハイボリュームセンターとしてのデータ蓄積や、財源増加によるさらなる先端医療の開発につなげます。そして、このプラスのサイクルを回し続けることで、九州大学病院の成長を促進し持続的なものとします。

体外循環技術認定士13名を抱える医療技術部臨床工学部門の定松慎矢(さだまつ・しんや)技士長・古庄宏嵩(ふるしょう・ひろたか)シミュレーション部門リーダー、人工心肺サブリーダー、渡邉直貴(わたなべ・なおき)集中治療代謝部門サブリーダーにお話を伺いました。

渡邉サブリーダー(左)・定松技士長(中)・古庄リーダー(右)

臨床工学技士を知ったきっかけ

古庄リーダー古庄リーダー

母が看護師だったこともあり、医療職に興味がありました。私が小学生のころ、母が大きな手術を受け、病室に戻るころにはたくさんの医療機器がついていました。

そんな母の姿を見て、幼いながらその機器がなぜ必要なのか、どのようにして動いているのかという疑問を持っていました。

高校へ進学したころに医療機器のスペシャリストである臨床工学技士という職業を知りました。幼いころの疑問を解決したい、自分も医療に携わりたい、そのような気持ちが日に日に大きくなり、臨床工学技士養成校への進学を決めました。

 

渡邉サブリーダー渡邉サブリーダー

叔父が理学療法士をしていたのですが、脳卒中で若い時に倒れてしまい仕事が続けられなくなったこともあり、ずっと医療系の仕事に従事したいと考えていました。

また化学や物理など得意としていた学問が活かせる医療職ということで、臨床工学技士養成校への進学を決めました。

 

九州大学病院を選んだ理由は何ですか?

古庄リーダー古庄リーダー

人工心肺がやりたかったので、九州で人工心肺と言えば臨床件数も多い九州大学病院一択でした。

大学1年生が終わる頃には、九州大学病院に行く。と決めていました。大学が宮崎だったこともあり、実習先として宮崎県内や私の実家があった北九州の病院を勧められました。

しかし、九州大学病院に実習に行くと決めていたので、大学にも協力していただき、九州大学病院に実習に行くことが出来ました。実際に人工心肺を見たとき、人の心臓が止まり、止まっていた心臓が再び鼓動することに感動したことを今でも覚えています。

実習の時から「九州大学病院に就職します。就職試験受けます」というのはアピールしていました。

 

定松技士長定松技士長

目標も高くアピールが凄い学生でした。

 

渡邉サブリーダー渡邉サブリーダー

私の場合は、中途採用で入職しています。

それまでは様々な業務に従事し、特に集中治療の分野に興味がありました。

結婚を機に、近くの公的な病院を中心に転職を検討していたところ、集中治療分野に秀でている九州大学病院の求人があり応募しました。

前勤務先では、人工心肺業務には携わっていませんし、このような症例数が多い施設で人工心肺に従事できるようになるとは夢にも思っていませんでした。また前勤務先での6年間、人工心肺以外の業務は習得していました。

 

定松技士長定松技士長

即戦力でした。

一日の業務

古庄リーダーの一日

■人工心肺・集中治療部を担当

7:40 出勤、人工心肺プライミング
8:00 朝礼(技士長から挨拶・伝達事項、夜勤者からの引継ぎ)、人工心肺プライミング
8:15 患者入室
・麻酔導入のサポート、薬剤等準備、人工心肺を回すための準備(心電図・動脈血酸素飽和度モニタ取り付け、医師が動脈留置カテーテルを挿入したら動脈圧の表示と採血、挿管介助送還、スワン・ガンツカテーテルの介助等)
9:30 タイムアウト
・チームスタッフ全員静止して術式の確認と問題点などを共有
10:30 人工心肺開始
14:30 人工心肺停止
・止血、閉胸の間に交代で休憩(3名体制、1名は外回り・教育等)
・3名:生体情報モニタや低侵襲手術(MICS)で使用する機材など、準備するものが多いのでより安全な環境を作るのが目的
16:00 ICUへ
・ICU入室後は、血液ガス分析、人工呼吸器設定確認、スワン・ガンツカテーテルの校正等
16:45 終業

渡邉サブリーダーの一日

■MEセンター業務(人工呼吸器・持続的血液浄化装置(CHDF)・補助循環・機器管理)を担当

8:00 朝礼(夜勤者からの引継ぎ)、朝礼終了後ICUの補助循環、CHDFの定期交換、呼吸器、LVADラウンド
9:00 病棟ラウンド(植込型左心補助人工心臓(LVAD)の日常点検、呼吸器の消耗品の交換・移動・装着、CHDF定期交換、救急外来の緊急対応など)
11:00~13:00 交代で休憩
12:00 昼食後午前の点検記録をカルテに記載、補助循環・CHDFの回路から採血等
15:30 夜勤に引き継ぎ、医療機器の整備対応、消耗品在庫管理・発注等
16:45 終業

勤務時間

定時8:00~16:45

通常勤務 8:00~16:45 休憩1時間
早出勤務 7:30~16:15 休憩1時間(人工心肺、手術室勤務に適応)
遅出勤務 9:30~18:15 休憩1時間(人工心肺、光学医療診療部に適応)
夜勤勤務 15:30~00:00/00:00~9:00 休憩2時間
その他 11:00~19:45 休憩1時間(緊急手術時に適応)
12:00~20:45 休憩1時間
14:00~22:45 休憩1時間

定松技士長定松技士長

過去にはスタッフの7割が年間420時間を超える残業を行う過酷な労働環境でしたが、2020年より2交替制(夜勤)を導入や早出・遅出など勤務環境の見直しを行いました。現在では、残業時間が月間平均20時間程度、420時間を超え残業をしていたスタッフは0人となり、働きやすい環境へ変化し成果を得ています。

人工心肺の件数は、2021年度で376件となり多くの症例数ですが、体外循環認定士が13名おり(本年3名取得予定)、スタッフが正しい知識と技術を持って人工心肺業務を対応しています。

入職後研修・教育

定松技士長定松技士長

まず、医療技術部で医療人としての研修を3日間行います。その後は、臨床工学部門でのオリエンテーションや接遇研修を行います。

研修後は、現場に出てプリセプター制度で仕事を覚えて行きます。まずは、手術部で清潔不潔の教育から始めていくことが多いです。その後、MEセンター業務、人工呼吸器や血液透析業務、軟性消化器内視鏡業務を始めていきます。入職当初は急性期ではなく慢性期の落ち着いた環境で教育を行います。

夜勤は2~3名体制で行い、6月ごろから入ります。最初は研修生として業務を覚えます。プリセプティにつくプリセプターは毎回同じスタッフというわけにはいきません。各業務にスキル表があり、スキル表を埋めていけるように業務習得の『見える化』を図っています。

一番目の目標は、夜勤に入るスキル表があるので、稼働人数としてカウントできる業務習得をしてもらうことです。

人によって、3か月でクリアする人もいれば、半年かかる人もいます。自己評価と他己評価が一致していれば、独り立ちです。スキル表で、任せられる部分が決まってきます。

手術部業務、血液浄化業務・アフェレーシス業務、軟性消化器内視鏡業務、ME機器管理業務を、曜日ごとに毎日ローテーションで業務を覚えて行きます。「人工心肺やりたい!」と入ってきた学生さんは、この4業務のスキル表が埋まる2~3年後に出来る業務になります。

主な業務内容としては、①人工心肺/補助循環業務、②補助人工心臓管理業務、③手術部業務、④救命救急センター/集中治療部業務、⑤血液浄化/アフェレーシス業務、⑥光学医療診療部、⑦ME機器管理業務、⑧シミュレータ装置管理業務になります。

シミュレータ装置管理業務は、教育センターで医学生や看護学生にどうやったら使ってもらえるかなどシミュレータ装置の運用側での管理業務になります。

九州大学病院別府病院は内科や外科、リハビリの研究施設のある病院で、令和6年の開院に向けて新病院が建築されています。現在、別府病院の人事は、本院よりローテーションで1名に1年間の出向をしています。医療機器管理、整形外科の術中モニタリング、麻酔科のアシスタント、人工呼吸器のラウンド、内視鏡洗浄などをしていますが、1名では休みたい時に休めないので、環境整備を検討しています。

教育の助成

定松技士長定松技士長

必要な書籍があれば、部門で購入しています。
また、年に1回は好きな学会等に参加できる環境を作っています。認定試験に使ってもいいですし、学会参加に使ってもいいです。

教育研究にも力を入れていこう。ということで、認定士の取得、学会への入会は勿論のこと、学会発表、職能団体の役員としても活動したいと思います。

タスク・シフト/シェアについて

定松技士長定松技士長

定松技士長「大学病院なので研修医もいますし、残念ながらあまり進んではいません。しかし、準備し、環境を整備しています。臨床工学技士法が改正され、業務範囲が追加されました。その厚生労働大臣指定による研修(告知研修)も28人中20名終わっています。今年中に残りの8名も終わらせたいと思っています。

病院では、医師の働き方改革、負担軽減ワーキングという会議でいつも話には出てきます。臨床工学技士は何が出来るのかをお知らせして、各診療科の要望をいただくようにしています。

1つは循環器内科のカテーテル治療(脳カテ、心カテ)、もう一つは血液浄化のアフェレーシスの時間外対応の要望があります。臨床工学技士の育成も計画しないといけませんので、まずは体制を整えて徐々に業務を増やしていきます。

九州大学病院のいいところ

古庄リーダー古庄リーダー

日本でトップクラスの医療が提供できる病院で、日々勉強できる環境です。また新しい物事を知りたいという人には、唯一無二の環境の病院です。

 

渡邉サブリーダー渡邉サブリーダー

九州・中四国で唯一心臓移植の実施施設ですので、他の施設では経験できないことができると思います。他の施設では、人工心肺を行う方は固定という所が多いかと思いますが、体外循環技術認定士が13名在籍している事実からも、様々な人が人工心肺業務に関われることが分かってもらえると思います。

必ず毎朝8時に朝礼で顔も合わせますし、コミュニケーションがとりやすいので、幅広い年代のスタッフ同士でも仲が良く働きやすい職場です。

採用について

古庄リーダー古庄リーダー

臨床工学技士が単体で医療行為や治療をすることは少なく、患者さんに対して、看護師や医師と相談したうえでその医療行為を行うという、縁の下の力持ちのような存在です。

なので、他のスタッフとしっかりとコミュニケーションがとれることは非常に重要だと思っています。

 

forista.biz編集部forista.biz編集部

ちなみに、古庄リーダーを採用された理由は?

 

定松技士長定松技士長

気が利く人間。明るいところ。社会人としての基礎力が部活動とかで身について、何か一つの事に一所懸命に打ち込んだ。そういう人間性が大好きですね。

 

定松技士長定松技士長

例年、夏休みに見学に来てもらって、10月くらいに採用試験となっています。

チェックしているポイントは、履歴書。一所懸命に丁寧に書いている人もいれば、走り書きのような履歴書を提出する人もいます。

しっかりと要求されたことが書かれているかどうか、ミスがないか?ミスに気付かないまま提出するのは現場でもミスをするような人なので、ダメです。修正液は使ってもいいですよ。今日も現場で言いましたが、「チェックがチェックになっていないのはダメ」ですけれど、ミスに気付いて修正しているのですから大丈夫です。

会ったときの第一印象も大事です。第一印象のいい人はしっかり表情として顔にも出ていますから。

採用試験では、グループディスカッションをしています。一つのテーマを決めて、30分間。役割分担は参加している受験者に決めてもらい、リーダーだったり、サブリーダーだったり、書記だったり、その中で、誰かが発表しなさいと。それを見学しているのですけど、アピールしたいから仕切る人もいますし、縁の下の力持ちの人もいます。色んな個性が見れて勉強になっています。

最後に面接ですが、面接は大学で凄く練習しているので、みんなプロなんですよ。見抜けないですよ。上手です。気持ちがちゃんと入っているかを評価させてもらっています。ちゃんと、入りたいという熱意が伝われば。

Uターンで当院を志望されている方の実習も受け入れしています。学校さんから臨床工学部門に電話でもメールでも、ご依頼いただければ、事務手続きで臨床教育研修センターをご案内しますので、事務手続きが終われば臨床工学部門に実習受入の依頼が来ますので、受け入れできます。北海道の学校でも、どこでも構いません。

 

取材協力

九州大学病院 臨床工学部門
〒812-8582 福岡県東区馬出3丁目1-1 Tel.092-641-1151
採用情報