いのちのエンジニアと呼ばれる臨床工学技士が扱う医療機器ってどんなもの?専門性の高い医療機器も

「いのちのエンジニア」と呼ばれる臨床工学技士は、医療機器のスペシャリストです。専門性の高い医療機器には、きちんとした手順を踏まなければ、正常に作動しないものや、測定精度に異常が生じるもの、ときには患者に影響を及ぼすものまで様々です。今回は、臨床工学技士が扱う医療機器についてお話します。

臨床工学技士が扱う医療機器

医療の発展にともない、医療現場では、扱う医療機器もより高度なものになっています。医学的、工学的な知見を持った医療職として1987年に誕生したのが臨床工学技士です。実際の現場で臨床工学技士は、どのような場面で、医療機器を扱うのかご説明します。

医療法における医療機器

医療法では、人工心肺装置及び補助循環装置、人工呼吸器、血液浄化装置、除細動装置(自動体外式除細動器:AED を除く)、閉鎖式保育器などについて、保守点検の計画と適切な実施が要求されているが、その他に薬事法第 2 条第 8 項にあげられている「特定保守管理医療機器」についても、適切な保守点検 の実施が求められています。参照:日本臨床工学技士会
保守点検の概念で言えば、臨床工学技士は上記の医療機器を管理しています。しかし、臨床の場ではこの限りではありません。

オペ室業務

オペ室では、人工心肺装置をはじめ、オペに関わる様々な医療機器が用いられています。臨床工学技士が扱う機器としては、先に上げた人工心肺装置の他、電気メスや自己血回収装置、MEPやSEPのモニタリングに用いる、誘発電位測定装置などです。機器のトラブルは、手術に大きく影響を及ぼす物も多くあります。専門性や緊急性が高い機器もあるため、日常の保守点検、医療機器や、手術手技に対する知識が必要です。

集中治療業務

ICUをはじめとする集中治療を行う場では、人工呼吸器やECMO、透析装置などの生命維持管理装置が常に稼働しています。外来部門やオペ室と違い、集中治療に休みはありません。24時間刻々と、変化する患者の状態に合わせるため、機器の設定や使用する医療機器が、変わっていきます。そのため、高頻度で、使用後の機器点検や清掃、急変時の対応が必要です。今年(2022年)から、日本集中治療医学会認定の集中治療専門臨床工学技士制度が制定され、注目の分野となっています。

心臓カテーテル業務

心臓カテーテルでは、後述する不整脈治療に関わるデバイスを含め、IVUS(血管内エコー)やポリグラフの他、IABP、ECMO、IMPELLAなどの医療機器を管理しています。患者の血行動態に深く関わる為、操作や動作原理に熟知していなければなりません。心臓カテーテルでは、AMI(急性心筋梗塞)などの緊急症例に対応する必要もあり、医療機器だけでなく、手技に用いられるデバイスなど、物品管理もしておく必要があります。

不整脈業務

不整脈分野は、特殊な医療機器も多く、電気生理を理解していなければ、難しい領域です。主だったものは、心臓カテーテル室で行うアブレーションや、ペースメーカーなどの、デバイス植込み術に用いる機器です。アブレーションでは、ポリグラフやクライオ装置、マッピングシステムなどで、異常な電気信号の発生箇所を焼却したり、電位の測定を行います。ペースメーカーなどの植込みデバイスでは、各社プログラマーを用いて設定変更やデバイスの状態の管理です。近年では、遠隔モニタリングの普及もあり、パソコン上でデバイスの状態を把握することも可能になりました。

血液浄化業務

臨床工学技士の代表的業務の一つである血液浄化では、透析装置の管理だけでなく、透析液の管理、所謂「水処理」を行う施設も少なくありません。透析クリニックでは、ほぼ行なっている業務ではないでしょうか。総合病院においては、敗血症に対するSHEDD-fAなどの急性期治療や、血漿交換などの特殊な透析が多い印象です。透析装置の仕組みを理解するだけでなく、治療の目的や用いる膜の特性も理解することが大切です。

高気圧酸素業務

高気圧酸素治療では、装置の点検や操作のほか、患者へのボディチェックや説明などです。治療中は患者をモニタリングするため、血圧計やサチュレーションなどの機器を用いています。100%酸素は爆発の危険性も高いため、治療の安全性を保つため、治療装置を熟知するだけでなく、患者とのコミュニケーションも必要です。

医療機器管理業務

臨床工学技士の職務は、病院内の医療機器管理です。先に触れた医療機器の他、病棟で使用される輸液ポンプやシリンジポンプなど、様々な機器が臨床工学技士の部屋(病院により異なる)に集まってきます。昨今の感染症もあり、医療機器を媒体とした感染対策も大切です。人工呼吸器で言えば、どの患者に使用されたかを把握するのはもちろんですが、人工呼吸器の構造を理解することも必要です。感染リスクが高い部品や、ディスポ化できる物を把握しておきましょう。勤務先により、医療機器の管理体制は様々ですが、医療機器を熟知することから、臨床工学技士の業務は、はじまります。