臨床工学技士必見!臨床工学技士に心がけて欲しい事、出来れば行わないで欲しい事を医師の目から見て感じることを現役医師が解説

病院で働く人の職種には医師や看護師の他に、医療機器のスペシャリストである臨床工学技士、レントゲン・CT・MRIなどを扱う診療放射線技師、血液や細菌検査・心電図や脳波などの検査を行う臨床検査技師、リハビリテーションを行う理学療法士などが挙げられます。医師以外の診療補助に従事する看護師や各種の医療技術者のことをメディカルスタッフ(または通称コ・メディカル)と呼ばれますが、まさに臨床工学技士はコ・メディカルの一職種となります(臨床工学技士学会より一部引用)。左記学会ではClinical Engineerと呼んでいますが、臨床の現場ではMedical Engineer略してMEと呼ばれることがほとんどではないでしょうか?。そのため以下、臨床工学技士をMEと表記しています。

幅広い業務で活躍!医師からの信頼も厚いME

まず自分自身の経験から述べていきます。私は消化器外科医として働いており、手術室を主な仕事場としているので、手術セッティングにおいてMEにお世話になる機会が非常に多いです。もちろん、手術室のみならず病棟・透析室・ICUなどその他の場所で働いているMEも多数おられると思います。私が務めている病院は大規模市中病院で、計14室ある手術室でそこに専属のMEスタッフが5人くらい在籍しています。

特に午前中の手術開始時刻になるとほぼ全ての手術のセッティングに関わるため手術室間を忙しそうに巡回している印象が強いです。業務内容としては普段の手術における手術機器の設定(電気メスや超音波凝固切開装置など)、腹腔鏡・内視鏡カメラ機器のセッティングを行ってくれます。

以前は看護師だけでセッティングをしていた時期もありましたが、最近ではMEが手伝いに入ってくれるようになって、スムーズに手術開始に進むようになっている実感があります。そのように円滑に業務が進む結果、患者さんの入室から退室するまでの時間がトータル短くなる(麻酔時間の減少)、つまり患者さんの負担軽減に繋がります。これはメリットが非常に大きく、MEはその一役を担ってくれていると言えます。他科でいうと心臓血管外科手術を行う病院では人工心肺の術中管理も大きなウェイトを占めるのではないでしょうか。心臓外科手術チームではMEはなくてはならない存在です。

また、昨今流行している新型コロナウイルス感染症の重症例に対してはICUにおいてエクモ(ECMO:体外式膜型人工肺)が使われることもありますが、これも同じくMEの手助けが必要不可欠となります。最近では外科領域では高度医療としてロボット支援下手術が保険収載されるようにあり、手術操作用ロボットDa-Vinciのセッティングなどもあります。このように日々の医療機器の進歩は目覚ましく、その分だけ医療が高度化・複雑化しているということであり、MEの需要はさらに高まってきていると肌で実感しています。

手術室での活躍にも期待!MEに求められる対応力とは?

上記に加えて、最近気になったニュースを一つ紹介します。近年、医療業界では医師の軽減負担のため、医師以外でもできる仕事はコメディカルを含む他職種に仕事を割り振るという流れになってきています。手術中に他の外科医師と話していたところ、次の話題が挙がりました。『医師の働き方改革の推進に係る議論を踏まえ、法令改正により臨床工学技士の新たな業務範囲として次が追加された。…(略)…手術室で生命維持管理装置を用いて行う鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持及び手術野に対する視野を確保するための当該内視鏡用ビデオカメラの操作(2021年5月28日公布)』消化器外科における開腹手術なら2人でも可能ですが、腹腔鏡手術では術者、助手、スコピスト(カメラマン)と3人必要になります。

この視野(術野)を撮影するスコピストは研修医や人手が足りない病院では看護師がすることが多いです。もちろん、スコピストが下手だと手術がうまく進行しませんので、重要なポジションになります。今回の法改正でMEにスコピストの業務が追加されることになりました。私はまだこの状況に出くわしたことはありませんが、実際にMEが手術に参加してくれるかどうかは各々の病院の環境や診療科の人手不足の程度など様々な要因が関係するでしょう。医師の人手不足問題もありますが、患者さんに不利益がないことが最優先であることは言うまでもありません。今後現場でどのような動きになるかはとても気になるところです。

MEに求められるコミュニケーション力とプロ意識とは?


これまでに述べてきたようにMEの業務内容は範囲が明確でありますが、その分高度な知識と技術を要します。またそれ以外にも他の医療スタッフとのコミュニケーション能力を要し、更には責任を伴うやりがいのある職業だと思います。私がこれまで見てきたMEたちは皆、任せられた仕事をきっちりして、コミュニケーションも取れる人がほとんどでした。文字通りエンジニアではありますが、臨床現場で実際に患者さんの命と向き合っているという感覚が根ざしているからでしょうか?。

私(医師)の立場からMEに心がけてほしいこと・やって欲しくない事を注文するのは非常におこがましいことではありますが、やはりこれはプロ意識を持って仕事をするということに他ならないと思います。今後もMEと一緒に医療チームとして一丸となって患者さんの治療に向き合うことができればと思います。