臨床工学技士が誕生した当初の仕事内容は、生命維持管理装置の操作と保守管理がメインでした。そして現在、臨床工学技士が誕生して約30年が経ち、生命維持管理装置の業務だけでなく、様々な分野で活躍する臨床工学技士が多く誕生してきました。人工心肺、血液浄化、呼吸器、内視鏡、眼科など多岐にわたる、様々な分野で活躍の場を広げています。今でこそ臨床工学技士が様々なフィールドで仕事をしていることが当たり前になっていますが、新しい分野で仕事を立ち上げ、確立していくことは、とても大変で労力が伴います。
そうして、努力し積み上げてきた成果がこうして、今の臨床工学技士を作り上げました。しかし、その一方で多くの分野で仕事をする臨床工学技士は、多くの分野に関わるがゆえにたくさんのつらいことも経験します。今回、こうした背景から各分野ごとに臨床工学技士の仕事のつらいことについて経験を交えながら、お話できればと思います。
臨床工学技士の仕事のつらいこと 臨床工学技士の責任
臨床工学技士の大半の方は透析業務に従事していると思います。透析に従事していると、同じ患者さまと毎日のように顔を合わせるため、とても患者さまとの距離が近くなります。透析患者と言っても、透析治療に週3回の3〜4時間、病院で治療する以外は食事制限などはありますが、健康な方と同じような生活が送れますし、仕事が終わってから夜間に透析治療する患者さまもいます。しかし、透析患者は糖尿病を原疾患に持っている方が多く、動脈硬化など様々な合併症により日常生活を送れなくなる方も中にはいます。透析を導入したばかりの頃は歩いて通院していたのに、月日が経つにつれ、下肢の動脈硬化が進み、歩けなくなり車椅子での通院になってしまったり、脳梗塞で寝たきりになってしまったり、透析に従事している臨床工学技士は患者さまのつらい経過を間近で見ることになります。この動脈硬化は血管内にカルシウムが沈着して硬くなることで起こりますが、このカルシウムの沈着は食事制限と薬の服用や透析治療の条件変更などで進行を遅らせることができるます。そのため、透析に従事しているスタッフは透析患者さまに対して、食事指導を行ったり、できるだけ薬の効果が出るような薬の飲み方について説明をし、治療時間を延ばしたりすることでカルシウムの沈着を防ぐように努力します。
しかし、実際には透析患者さまは高齢な方が多く、きちんと内服できていなかったり、食事制限について理解できていなかったりすることが多いですし、さらに食事や薬の内服は、患者さまが家にいるときの行動ですので、医療従事者が直接、食事の時間や内服状況を確認することができません。ですので、指示通り内服できているか、食事内容を理解して食事しているかなどの把握がとても難しいです。だからこそ、患者さまの動脈硬化が進み、症状がでてくると「もう少し、しつこく説明しておけばよかった。」とか「食事制限についてもっとお話しすればよかった。」、「治療の条件をもっと考える必要があったのでは。」など色々な後悔が出てきます。そして、下肢の動脈硬化が進むと下肢の血流量が減り、壊死を起こしてくるため、下肢の切断を余儀なくされる場合があります。
そのようなことになった時は、患者さまの気持ちを察すると、本当に胸が痛くなりますし、後悔しても悔やみきれません。このように透析に従事している臨床工学技士は、患者さまと会話しながら楽しく仕事をすることが出来る反面、自分の行動に後悔することも多くあり、つらい経験をすることもあります。だからこそ、日々後悔しないよう知識の向上と技術の向上に努めることが大事だと思います。
臨床工学技士の仕事のつらいこと 患者の死と向き合う事
次に、急性期に従事している臨床工学技士もおり、休日での呼び出し対応などで日々忙しくされていることと思います。急性期の仕事をしていると、患者さまの「死」と向き合って、日々の業務をこなさなければなりません。急性期は回復して元気に退院していく患者さまもいれば、状態が良くならず、そのまま、お亡くなりになる患者さまもいます。このように患者さまが亡くなる瞬間に立ち会うことが多く、そのご家族と接することも少なくありません。急性期での呼吸器や急性血液浄化の業務をしていると、機器のチェックなどで、その患者さまの病室に頻繁に行くことになります。その時に、ご家族の方とお話する機会も多くあり、そこで患者さまの昔話をして頂いたり、現在どのような治療をしているのかと質問されたりと色々なお話をする機会があります。回復傾向にある場合は、お話が弾み、ご家族と一緒になって喜べるのですが、状態が良くない時は本当に心苦しくなります。
業務とはいえ、機器のチェックを行うために病室へ行くのが正直つらいことが多くあります。厳しい状況で、簡単に「大丈夫ですよ。」なんて言えませんし、なんて言葉をかけてよいのか、本当に悩みます。なので、せめてご家族のためにも、臨床工学技士として医師にできるだけ多くの治療の提案をして後悔しないようにしようと、いつも心がけて仕事を行っています。臨床工学技士は生命維持管理装置を扱う仕事が主ですので、やはり患者さまの死と向き合って仕事していかなければなりません。そのため、つらいこともたくさん経験しますが、状態が良くなって退院していく患者さまも多くいますので、そんな患者さまの笑顔を見て、臨床工学技士の仕事に誇りが持て、常に向上心を持って仕事をすることができます。