先程、病院にドクターヘリが来ていましたね?
はい。我々の病院の大きな柱のひとつが救急医療です。昨年度(2021年度)1年間でお受けした、救急車搬送(救急車)の件数は18,000を超えました。この実績はおそらく日本でも指折りで、全国でも、これが10,000件を超えるところはそれほど多くないと思います。いつでも、あらゆる患者さんに最善の医療を提供するために、「救急車を断らない」という当院の一つの大きな方針の結果だと考えます。
例えば、病床がいっぱいで、これ以上の患者さんが入院しにくい状況でも、救急車の受入れ要請があれば、必ず一度はこちらでお受けします。その上で、当院で緊急の対応が必要であると判断すれば、こちらで医療を継続します。近隣の病院などに当院からの転院搬送を受入れていただく場合でも、まず患者さんの状態を確認したうえで、可能な場合に限ってさせていただきます。とにかく当院では、救急車の要請を絶対にお断りせず、必ず受けさせていただいております。
凄い数の救急車ですね…。
元々地域の医療に貢献していくという所からスタートしている病院ですが、今では1日50件を超えることが珍しくなく、多いときは100件をうかがう日もあります。新型コロナウィルス感染症がピークの頃は、地元だけではなく、遠方から来られる救急車も多くありました。ご依頼さえあれば、どこからを問わず全ての救急車をお受けする、それは当院が大切にしていることです。
高室技士長
当院の臨床工学科を簡単にご紹介させていただきたいと思います。人数ですが、今年新人4名が入り、総勢40名になりました。40名と言うのは結構大所帯です。総合病院さんでも20人規模くらいが多いと思います。40名と言うと徳洲会の系列病院でも数えるぐらいではないでしょうか?
また、当院の臨床工学科は1/3が女性です。女性の臨床工学技士も比較的多いのですが、女性に対して病院のサポートも充実しています。なお当院は、働きやすい病院評価のホスピレートの認定(女性職員を主対象に、医療従業者にとって働きやすい環境が整備されているかを、育児・介護・復職・キャリア形成などの支援体制や病院の方針について、現地視察と書類審査で7つの基準に沿って調査し、その結果に基づき専門家が評価・認証するもの)を取得しています。
実際に子育てが終わった女性や、子育て中の女性から、サポートをさせていただく前提で色々なお話を伺ったりしています。因みに現在、女性の臨床工学技士は14名在籍していますが、そのうち子育てが終わり職場へ復帰した方は4名います。
臨床工学技士がその資格で認められている業務の領域は沢山あるのですが、我々、湘南鎌倉病院の臨床工学科(部門)の特徴は、本当に幅広い業務を行っているというところです。
透析室、手術室、心臓カテーテル室は、我々の業務エリアの中でも特に人気があります。そのほかにも内視鏡(胃カメラ、大腸カメラなど)や設備業務(電気、水、酸素、医療ガス関連)までを当科で行っています。設備の重要性と言うのは我々、人一倍感じています。停電が起きると機械が動きませんし、断水してしまうと透析治療が出来ません。酸素が遮断されてしまったら人工呼吸器やECMO装置も動きません。東日本大震災の時に計画停電など色々と対策を必要とする場面が多くあったのがきっかけとなり、臨床工学技士が設備業務にも注力するようになりました。
さらに高気圧酸素治療、高気圧酸素のカプセル。病院によりますがこうした設備まで有しているところはそう多くはありません。
臨床工学技士を目指した理由とは?
古川技士
臨床工学技士を目指したきっかけは、高校時代の恩師が、教職に就く前に、臨床工学技士を目指している方でして、その恩師に色々と伺った内容が印象に残っていたからだと思います。実際に自分が高校卒業後の進路を考えた時に、恩師と話した事を思い出し、自分でも色々と調べている内に次第に技士への興味が高くなっていきました。患者さんの予後にも大きく関わる生命維持管理装置を扱っており、大きな責任を果たせるということ、また、自分の母親が看護師だったことも、この道に進んだきっかけだったのかもしれません。勿論、生命維持管理装置を動かすためには、色々と勉強も必要ということも分かっていたのですが、やりがいがありそうだなと感じたこと。あとは、格好良かったというのもきっかけのひとつです。
臨床工学技士の仕事のやりがいと大変なこととは?
自分に関しては、やりたかった手術室に配属していただけました。やりたかったことができているので、自分では大変だと思ったことがなくてですね…。特に人工心肺に関しては、先生レベルの知識がないと出来ないことも多いです。先生からは、こうした方が良いとか、この辺りを勉強した方が良いとか色々アドバイスや指導を受けますが、自分がやりたかったことだったこともあり、大変だと感じたことはありません。
先生と言うのは…
執刀医の先生や、麻酔科の先生です。業務においては、先生方とは連携を取りますが、最初のころは正直めちゃくちゃ怒られました。たぶん周りからは、大変だと思われていたと思います。でも僕は、これが自分のやりたいこと、やりたい仕事なので、きついなとは思わなかった。むしろ、色々教えていただきありがとうございます。という感じで、キツイと思ったことはなかったです。
逆にそこまでやろうと駆り立てるモチベーションについて教えていただけますか?
定例のオペは勿論ですが、救命に関して言えばここで頑張らないといけない。一命を取り留めることのできる大切な現場に常に携わりたいということで、湘南鎌倉総合病院を選びました。学生時代に実習に来て、先輩達を見て「ここで働こう!」と思って、実際にここに来ることができました。勿論、高室技士長から手術室を任せてもらっている責任感もあります。
そのモチベーション、どうやって維持されるのでしょうか?
それがですね…。維持しようと努力しているわけではないんですよね(笑)。自分がやりたくて来てるので…。そこは結構大事だと思います。日々勉強することはたっぷりありますし、更に新しい機械もどんどん出てきます。自分の中で常に考えや、知識を更新していかないと、追い付いていけないというのもあります。モチベーションとは離れますが、やりたい仕事ができているということが大きいと思います。
後輩から、どうすれば高いモチベーション維持できるんですか?と聞かれたら
正直に話します…。ただ配属にも適正があると思います。そこは技士長が見て決めていただける。自分としては、任されてるからには、やれることはしっかりとやらないと思うわけです。そこは患者さんの為でもありますし。最低限はやり切らないといけない。そう言う風に思っています。
臨床工学技士の目指すところはゼネラリスト?スペシャリスト?
理想はゼネラリストなんでしょうけど(あらゆる医療機器に対応)、我々も色々とチャレンジはしてきたのですが、全部を網羅することは難しいですね…。我々の業務は年々多様化し、かつ専門性が高くなってきてますので、一人で全領域をカバーするのは範囲が広すぎてなかなか困難だと考えるようになりました。若いうち(3~5年)に、見識を深めるために広く浅く業務に携わることは必要ですが、最終的には自分に与えられた領域を深堀りしていく。これが理想的な姿と考えています。
当院は、透析や呼吸器を扱うICU、手術室、各モダリティがあるうえに、在宅(在宅医療)も行っておりますが、いずれの業務量も多く、また、専門性が高くないと回りません。今日は手術室だけど、明日はカテ室と言ったシフトも考えられなくはないのですが、それぞれ専門性が高すぎて、1つの分野を完璧にするだけでも何年もかかりますので難しいです。手術室に関しては、心臓血管外科も呼吸器外科も普通の外科もいます。そうすると、心臓を知ってないといけない、肺を知っていないといけない、消化器を知っていないといけない。医療機器も様々ですし、業務自体も重いです。
古川技士がおっしゃられた通り、専門性が高く、モダリティがしっかり分れていると言うことですと、御院の技士さんは、部署の掛け持ち(別モダリティへの掛け持ち)と言うのはあまり行われないものなのでしょうか?
特に専門性が高いのは、手術室と心臓カテーテル部門です。ここは特に教育年数がかかります。そのことから、この二つを掛け持つのは、まず難しいと思います。そして、その部門に携わってる技士が、他部門の業務と掛け持ちするのも難しい。
それは一般的なのでしょうか、それとも御院だから、そのようにやられているのでしょうか?
他の病院さんの手術室、カテーテル部門の業務内容によると思うのですが、業務の幅が深い、あるいは専門性の高い業務を行う施設においては、掛け持ち業務は厳しいのではないかなと思います。
技士長でも全てを網羅することはできないくらい、業務の幅は深いのでしょうか?
現場はどんどん進歩、進化してしまうので、2~3年その業務をやってないとついていけなくなってしまう…。今まで使用していたデバイスではない、新しく異なるデバイスを使い始めたり、新しく違う機械が出てきたり…。回転や進化、進歩が早いのです。
マネージメントを行う技士長という役職についてお教えください。どのようにして技士長になるのでしょうか?また技士長は、現場の技士とは違った難しさがあると思いますが、その辺りはいかがでしょうか?
どうなんでしょう?私も知らない間にこの立場になったので。私がこの任にふさわしい人物かどうかは分かりませんが…、マネージメントには現場にはない大変さがあります。現場というより、組織の内外を調整していくといった業務が大半になりますからね。部下の気持ちに寄り添って状況を把握するとか、他部署のニーズを良く伺って折衝対応するとか、機械だけではなくそういった、人や組織の勉強もしていかないと、なかなか。
古川技士にお伺いします。今後の話になると思いますが、キャリアとして技士長を目標としていたりしますか?
僕は今のところ主任とか役職とかをあまり気にしていません。今は人工心肺で患者に対しての症例をベストで終わらせる。その為には、手術前から情報を取って、ベストな状態で手術に挑む。これを日々繰り返すだけと思っています。緊急の場合は、準備が通常より出来ない事が多いので、どんな状況においても出来る限りベストな対応が出来るように、自分の中で準備しておく。これを日々繰り返すだけです。その結果として、自分もアップデートが出来てその状況が認められたら、主任や責任者になるのではないか?と思っています。
古川技士はどのような臨床工学技士を目指していますか?
湘南鎌倉総合病院の特徴として、色々な診療科でオペをしているので、da Vinc(先端医療機器ダヴィンチ)や医療機器、器材が沢山あります。そういうものに対して知見を深め、色々な科の先生から信頼していただけるような臨床工学技士になっていきたいと思っています。
臨床工学技士の1日の流れ、スケジュールを教えてください。
日(手術の件数や内容)によって変わりますので目安となりますが。
5時 起床
7時45分 出勤
8時出勤ですので15分前くらいに出勤します。僕たちはオンコールで呼ばれても大丈夫なように、湘南鎌倉総合病院から10分程度の所に住んでます。起床してから出勤するまでは、症例を元に患者さんのデータや今日の術式が事前にわかっているので、頭の中で一通りシミュレーションを行います。これは先輩から教わったことで、実践しています。
9時 患者さん入室
事前に行うこととしては9時までに人工心肺装置の準備をします。
12時前後 ランチ
業務の合間を見て休憩をとっています。午前中に長い手術があれば、終了後に休憩、ランチという感じになります。午後 手術があれば手術。定時は16時30分です。そこからはプライベートになるのですが、オンコールがあることもあるので…。オンコールは、月に15日ですので、月の半分は拘束となります。そんな業界です(笑)
就寝 23時
18時過ぎに帰宅して、予習と復習をしている感じです。今日は、あそこをこうすればよかったかな?とか、やっぱりこうしたほうが良かったかな?とか頭に浮かんでくることをノートにまとめておいて、朝見返すという感じになっています。今後、後輩に実務が行くようになると自分の経験も減ってきますので、そこは自分なりにアウトプットが必要かなと思っています。
臨床工学技士を目指す人にアドバイスは?
臨床工学技士はやりがいもあります。しかしその半面、常に勉強していかないと置いてかれますので、そういう大変さはあります。それを天秤にかけて、やれる、やりたいと思ったならば志望すると良いのではないかと思います。知らずに飛び込むのも良いとは思いますが、辛いと感じてしまう人も少なからずいると思います。自分は臨床工学技士の良さは、凄く分かっているのですが、ちょっとやそっとじゃ伝えられないように感じています。伝えるのは難しいんですよね。業務の幅も深いので。
全体的に見て、どんな人が臨床工学技士に向いている?向いていない?というのはありますでしょうか?
これは永遠のテーマですね。私が良いと思った人がいても、その人が当院の仕事に合って花開くかどうかは別の問題です。試験の点数が良いことと当院の環境の中で仕事が出来ることは全然関係がないですよね。毎年面接をして、面接官満場一致で良かったのに、すぐ辞めてしまったりもします…。それは分からないですね。あえて言うなら、相手の立場になって考えられる人でしょうか?患者さんを主体にして、と言うと綺麗事になってしまいますが…。
今、相手は何を求めているんだ?仕事をしても色々なチームで行いますから、次、医師は何をしようとしてるのか?看護師は何をやろうとしてるのか?そう言う配慮。僕は「目配り」「気配り」「心配り」と言っていますが、そのような事に長けてる人が、長続きするのかなと思います。向き不向きは、たいてい5年くらいは見ないと分からないですね。ですから、人のマネージメントは、正解がいまだに見つけられていない状態なのかもしれません。
ただ、幸運なことに当院は臨床件数が多いので、インプット、アウトプットが物凄い速さで出てくるため、当院の現場にいると成長の速度が早い。
その分、悩みもあります。ステップアップを目的として当院にくる人も自ずと多くなってしまっているという点です。つまり、当院で学んで他の病院へ行ってしまう…ここが悩みの1つです。
臨床工学技士として特に必要なことはなんでしょうか?
難しいですが、大きくまとめると2つあります。一つはコミュニケーションスキル、もう一つはリスクマネジメントスキルでしょうか。リスクマネジメントは、その管理が自分でできるか、色んな事に気付きが出来るかって言うところではないか、と感じています。
日々そう言うところを意識づけるように、部下とは接しているつもりです。ただ漫然と機械操作していては駄目で、何かあったらどうするのか?ということを常に考えながら業務にあたって欲しいと。
コミュニケーションスキルも幅広いので難しいですよね。よく伝えていることが、みなさんもご存知の「報連相(ほう・れん・そう=報告・連絡・相談)」です。他部門とのチーム医療ですから、結局その基本に至るのかも知れません。先ほどお伝えした配慮。「目配り」「気配り」「心配り」っていうところを気にして欲しい、というところでしょうか。とは言え難しいですよね。実際はまだまだだと思っています。
湘南鎌倉総合病院で働きたいと思った場合、学校推薦とかがないと駄目でしょうか?
そんなことはありません。公募で来てくださっても変わりません。最近の傾向として実習生が当院を希望するようになってきました。実習を沢山お受けするようになったので、そういう面ではちょっと評価されてきたのかなとは思います。昔は見向きもされませんでしたからね。
実習で入ってきて、古川さんみたいな臨床工学技士が残ると、湘南鎌倉総合病院としてもありがたいことですよね?
そうですね。ただ、彼が体育会系だとしたらですね。組織はやはり体育会系だけではダメなんですよね。やはり文化系も採用しないといけない。チーム(医療)ですので、バランスが大切だと思っています。
「臨床工学技士(CE:Clinical Engineer)」は、比較的若い国家資格ですが、今後、需要が高まっていくと言うことを感じています。この辺り現場に携わる技士さんはどのように感じていますか?
現代において医療がどんどん高度化していく中で、一番身近にその高度化を感じられるのは医療機器かもしれません。da Vincなど、遠隔で操作できるような高度医療機器が今後も出てくると思うのです。その時、そのような医療機器、機械を適切に操作管理する職種とは何なのかと考えると、臨床工学技士になるのです。そう言う意味では、今後においても医療機器がある限り、我々の需要は引き続き存在し続けるのではないかと思っています。その点、当院は沢山の機材を使用していますから、経験を積むにはうってつけの病院です。やはり経験数、いかに経験を積むことができるかは、社会人としてやっていく上で大切な点なのかもしれません。現に当院への実習にこれだけ要請があると言うことは、色々勉強出来ると言う期待が背景にはあるのだろうと思っています。
医療法人 徳洲会 湘南鎌倉総合病院 臨床工学科
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