「臨床工学技士になって日本の医療に貢献したい!」「仕事に興味はあるけれど、実際に大変なことってなんだろう?」臨床工学技士に興味があったり、現在学生の方で働いている人の声が聞きたいと思ったりしている方もいるのではないでしょうか。筆者は現在専業主婦ですが、7年間女性臨床工学技士として、地方の総合病院で働いていました。日々働いていると、さまざまな感情が生まれます。今回は、なかなか直接は聞きづらい、辛かったエピソードに焦点を当てていきます。臨床工学技士になって辛かったことは数えきれないほどありますが、その中で特に印象的なものを紹介します。これから臨床工学技士になる方への参考になれば幸いです。
辛かったこと①業務範囲の広さ
総合病院の場合は業務範囲が広いため、どうしても最初は浅く広く業務をこなしていく必要があります。就職してからの1~2年は覚えることが特に多くて大変でした。社会人になり、慣れない生活に加え日々新しいことを吸収しなければいけない環境下で毎日を必死に生きるのに精いっぱいでした。とにかくメモをして、自分なりにノートにまとめて業務をこなせるよう工夫し、家に帰っても勉強の日々でした。私の職場では、4か月ごとに業務のローテーションをおこなっていましたが、他職種から見ればベテランも新人も関係ありません。求められるレベルの高さ(今思えば、わざと新人に意地悪で業務を押し付けてきた人もいました)に苦労しました。最初は必死になんでも頑張っていましたが、次第に別の問題も起きます。得意な業務と苦手な業務もはっきりとわかってくるのです。苦手な業務の時にはいつもより時間が長く感じられて、とても辛かったです。
辛かったこと②当直業務
二交代制を取っている病院もありますが、私の職場では当直をおこなっていました。当直業務では、集中治療室での機器管理や急性血液浄化療法、手術室対応、緊急心臓カテーテル治療が主な業務です。いつ、どの業務で呼ばれるのかがわからない電話に緊張し、毎回お腹を下していた思い出があります。日勤帯は、何かあればすぐそばに上司や先輩がいるという安心感がありますが、当直時間帯ではひとりです。対応できない場合は、すぐに駆け付けてくれるようになっていましたが、やはり病院内に同じ臨床工学技士がいないとわかっていると不安になります。私はひとりの時間が辛かったです。日勤後に当直をし、次の日も勤務があるため、生活リズムが崩れやすいのも悩みでした。ちなみに、私は夜の病院で1度も幽霊は見たことがありませんが、病院あるあるですよね。
辛かったこと③男性社会と人間関係
女性臨床工学技士が増えていますが、まだまだ男性が多い臨床工学技士の部署では男性社会です。職場にもよると思いますが、女性にとってはまだまだ生きずらいです。特に、女性特有の妊娠・出産・育児などのイベントは理解されないことも多く難しい問題でした。就職活動で不合格だった病院では、子どもは産むの?と言われ、働いていた職場ではマタニティーハラスメントが日常的におこなわれていました。私の職場では、理不尽なことを言われたり、要求されたりと辛い思いをした同期や後輩を見てきました。私自身は、働いている間に妊娠や出産を経験していないのですが、同期や後輩を見て胸が苦しくなりました。どこの職場でも人間関係に悩むことは必ずあるので、その対処法や時には逃げる方法を身に付ける必要もあると思います。
辛かったこと④患者の死
医療現場で働くようになり、今まで非日常的なことが日常的になりました。人の死を見ることです。特に透析業務では週3回患者と顔を合わせるため、亡くなったときにはとても辛い気持ちになりました。経験も浅いこともあり、最初の頃は気持ちを整理できずに泣いてしまうこともしばしばありました。上司や先輩の中には慣れている人もいましたが、私は人の死には慣れたくないと思っています。ただ、患者は他にもいます。気持ちの切り替えは早くできるようになりたいです。
辛かったこと⑤独占業務がない
臨床工学技士は独占業務がないため、しばしば他職種に、(言い方が悪いのですが)都合のいいように利用されることがあります。きちんと臨床工学技士の地位が確立されている病院であればそういったこともありません。しかし、私の働いていた病院では、これは臨床工学技士の業務なの?という業務をお願いされることがありました。そのたびに、チーム医療といいながらも下に見られているようで悲しくなりました。肩身が狭かったです。今では法改正もあり、少しずつ臨床工学技士の業務の範囲も広がっています。このまま良い方向に向かっていくことを願っています。
辛かったこと⑥透析室での患者との関係
針刺しは苦手な人にとっては本当に辛いようです。私自身は、透析患者への針刺しに対しては苦手意識はありませんでしたが、たまに失敗してしまうことがあります。その際には、汗がとまらなくなり、今すぐここから逃げたいと強く思ったことも。患者に痛い思いをさせてしまった、私は下手だと自分自身を責めることが多く、また次にその患者の元へ行くのが怖くなりました。血液検査の結果が悪かった時や、体重の増えが多い場合も伝えるのに一苦労しました。良い結果は気持ちよく伝えられるのに、悪い結果は自分で言いたくないですよね。私は人に注意をするのが苦手なため、強く言わなければ伝わらない際には緊張していました。
おわりに
今回は辛かったエピソードを紹介しましたが、これを読んで少し臨床工学技士になるのが不安になってしまった方もいるかもしれません。ただ、私が7年間続けられたのは良いことや好きな業務があったからです。患者に感謝されたときには、自分のやっていたことが認められた気がしてとても嬉しい気持ちになり、もっと頑張ろうとやりがいを感じました。辛い時には一緒に悩んでくれる同期や仲の良い他職種の存在がありました。辛いことがあっても続けられたのにはそれなりの理由があったからかもしれません。どの職業にも辛いことや大変なことはあります。辛いことだけではなく、いいところにも目を向けられるようになりたいです。