相模原北部の基幹病院として、地域医療に取り組む「JA神奈川県厚生連相模原協同病院」。24時間対応の脳卒中センター・循環器センターから、相模原市内科・外科2次救急まで各種救急事業に積極的な協力体制を構築

JA神奈川県厚生連相模原協同病院

創立77年を迎える相模原協同病院は、2021年度の救急車搬入件数が7,000台を超え、脳外科、循環器内科ともに市内首位の救急受け入れ数をこなした。同院はさまざまな患者への対応を進め、ER型救急として3次救急まで対応できるような、救命センターを目指している。新美文子(にいみ・あやこ)血液浄化センター担当次長と、臨床工学技士で入職4年目の石塚絵梨奈(いしづか・えりな)さんに話を伺った。

臨床工学技士になろうと思ったきっかけを教えてください。

石塚 技士

私は当初、医療機器の本体に興味がありました。中学生の頃に病院で検査を受けたことがあり、コンピュータ断層診断装置(CT)や磁気共鳴画像診断装置(MRI)などを見て、「医療機器は面白いな」と感じた経験があります。

高校に進学してからも医療機器に興味があり、進路を決める際にその話をしたところ、進路指導の先生から、「機器を作る方がいいのか、それとも機器を扱う方が好きなのか」と尋ねられ、私はどちらかと言えば機器を扱う仕事がしたいと答えると、先生が職業をいろいろ調べてくださり、臨床工学技士を勧められました。そして高校卒業後は、臨床工学技士養成校を選んで進学したという経緯です。

相模原協同病院を選ばれた理由について教えていただけますか?

専門学校での授業は基本的に、国家資格を取得するための勉強が多かったため、実際に病院で勤務することや臨床については、具体的なイメージを持っていませんでした。ただ、3次になると臨床実習というカリキュラムがあり、臨床実習先の病院で臨床工学技士がどのような仕事をしているのかを、体験することができました。
就職先を探すために当院へ見学に来たときは、各部門担当の技士の方が一緒に病棟などを回ってくださりました。その際とても丁寧に説明して頂いたこともあり、そのときに自分が働くときのビジョンが浮かび、他の病院は見ずに当院を選びました。

臨床工学技士になられて、実際の仕事はどう感じられたのでしょうか?

病院に来て1日目から、臨床に入りました。透析の患者さんにご挨拶をさせて頂くことから、仕事が始まりました。透析は治療中、患者さんに接することが多く、常に患者さんの体調変化がないか気を付けて業務にあたりました。その結果、患者さんに顔を覚えて頂き、声もかけてくれ、そのときは臨床工学技士として嬉しかったです。

人工呼吸器業務は、患者さんに関わる時間は短い方ですが、当初イメージしていたより、患者さんと接する機会は多いのかなと感じました。また、自分が機器を調整した後に、患者さんの調子が良くなったりした時は、この仕事をやっていて良かったと思います。

現在の業務や、苦労したことなどについて教えてください。

血液浄化センターと集中治療・機器管理部門のかけもちをしています。具体的な血液浄化センターでの業務は血液透析(HD)、血液透析濾過(HDF)、あとは顆粒球吸着療法(GCAP)や腹水ろ過濃縮再静注法(CART)などです。集中治療室や病棟では急性期の血液浄化、人工呼吸器、保育器をはじめとする医療機器の使用中点検(ラウンド)をおこなっています。
使い終わった機械は臨床工学センターに返却されるので清拭後、日常点検や定期点検をしています。

苦労したことは、血液浄化センターの業務では、扱う機種が同じメーカーであっても、型式が異なると画面の配置やボタンの意味などが異なることがあります。また、人工呼吸器に関しては、複数メーカーの機器を扱う必要が出てきます。こちらはメーカーが違うので、モードの名称が異なっていたりするため、一つ一つ覚えていくのは大変でした。

1日のスケジュールを教えていただけますか?

病棟の場合は、定時は8:30〜17:00

7:00 起床
7:30 家を出る(自転車通勤)
7:40 病院到着
8:20〜 朝礼
8:30 部署申し送り(前日勤務の人から)
8:35 院内の人工呼吸器使用中点検に行く、その間に新生児特定集中治療室(NICU)で保育器が正常に動いているかどうかなどをチェック
急性血液浄化がある場合:24時間継続治療の場合はチェックと補液、薬剤補充。6時間や12時間指示の場合は準備をして集中治療室に開始しに行く。
11:00 申し送り
11:30〜 休憩
12:30 午後は機器点検が主な業務 使わなくなった呼吸器の回収や機器の交換など
16:00 急性期血液浄化がある場合:24時間継続治療の場合は夕方機械交換。6時間の場合は返血。12時間の場合はチェックと補充。
17:00 勤務終了

仕事のやりがいやモチベーション、今後の目標は何でしょうか?

専門学校の実習時代に、CARTを見学させて頂く機会がありました。患者様の腹水(または胸水)を採取しに行くときに、臨床工学技士が患者様の顔色を見たり看護師から病状を聞いたりするという、ごく短い時間のなかで的確に情報を収集・整理して対処していたのを覚えています。患者さんの苦痛を軽減するための裏方だと感じました。

臨床工学技士になってからは、先ほども少し触れましたが、患者さんの調子がどんどん良くなり、そのときに感想をいただくことがあります。「昨日あなたが設定変更してくれてすごく調子が良くなったよ」などと言ってもらえて。こうして患者さんから直接感想を伝えて頂くことが、モチベーションにつながっていると感じています。

振り返ると、病棟に入ったばかりの頃は、自分の顔を覚えてもらうのも大変でした。臨床工学技士だということも分かってもらえませんでした。「いつも他の臨床工学技士と一緒に居る人」みたいな感じです。最近ではよく、周りから話しかけられるようになってきました。

また、新しい機器が入るときはテンションが上がりますね。こちらもモチベーションの維持につながっています。院内では看護師から、「機器のことがよく分からないから、今度勉強会を開いて欲しい」などと言われることも多くなってきました。私自身は4月に新人看護師の研修会を開催し、説明した経験があります。

次の目標としては、オペ(手術)に関する仕事を覚えたいと考えています。

相模原協同病院の特色について教えてください。

新美 血液浄化センター担当次長

当院は地域の中核を担っています。相模原市は大きく3地域に分かれますが、そのうちの市北部で地域医療支援をおこなっており、当院の救急は24時間体制で、2次救急まで受け入れています。臨床工学技士の業務をみても、地域医療支援病院という立場の病院なので、近隣医療施設からさまざまな患者さんを受け入れています。

私は血液浄化センター担当なので透析の話をすると、当院は外来透析だけをおこなっている病院ではなく、他施設の透析患者さんが治療や検査、手術などで入院している間の維持透析をおこないます。また透析の治療を初めて受ける患者さん、急激に腎臓が悪くなった患者さんや重症化した患者さんにも携わっており、透析導入期、急性期、維持期の患者さんにかかわれることが当院の特色ではないでしょうか。そしてすべての血液浄化療法に対応しており、幅広く勉強できる環境が整っていると言えます。

臨床工学室の概要や労働環境などについて教えてください。

当院臨床工学室は呼吸・循環・代謝の3部門構成になっていて、血液浄化センター部門、集中治療・機器管理部門、手術室・IVR部門に分かれます。専属技士とローテーション技士で業務を行ない、2022年4月時点で合計24名の技士が所属しています。また機器管理業務では助手を1名配属し、技士と共に医療機器中央管理業務の一部を行っています。医療機器の管理台数は約1,500台所有しております。

業務体制としては、専属技士とローテーション技士とでおこない、領域ごとにスペシャリストを配置し、安心して治療や若手教育が任せられる体制にしています。

勤務体制は、部門によって異なりますが、オンコールや準夜勤もあります。残業は月平均10時間くらいです。有休消化実績は約10日間で、この他に冬休みや夏休みがあります。スタッフ24人中女性は11人います。このうち小さい子をもつ”ママさん”も3人います。子どもが小さいうちは子育ての実情に応じて、時短勤務が選べます。

新人の育成や配属はどうなっていますか?

当院では3部門を半年かけて、臨床工学技士がどのような仕事をしているのかということを経験してもらいます。今の段階ですと、1部門2か月ずつになります。それが終わると、本人の適性など見て、どこに配属するのか決めていきます。

私たちの幅広い仕事を半年で知ってもらうというのが狙いです。先輩の仕事ぶりを間近で見てもらいます。また私たちはチームで仕事をするため、最低限必要なコミュニケーション能力といったものも身につけてもらいます。

従来、全員が何でもできる「ジェネラリスト育成方式」をとっていました。その後業務領域が増えたため、2008年から3部門体制をとり、スペシャリスト(専属)とジェネラリスト(ローテーション)の融合方式で行っています。臨床工学技士である以上は、さまざまな業務を経験したいという個人の考えと、患者さん側に立った専門者に治療してもらいたいという考えの融合です。ホームページにも書いてありますが、自分の家族や恋人が緊急搬送されても問題ない医療が提供できる臨床工学室体制を目指しています。

おおよそ入職から3~5年もすると、どの領域に向いているのかが分かってくると思います。その上で部門の定数などにもよりますが、本人の希望をできる限り聞きつつ、専門性を高めていく配置をしていくことになります。

臨床工学技士を目指す学生の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

現在の医療現場では臨床工学技士の必要性は高まっていると感じています。一昔前までは、臨床検査技師などと間違われて、認知度は低かったです。実際に働いてみると、人が生きていく上で必要な「呼吸」「循環」「代謝」、この3つの生命維持を担っている機器の操作や保守・点検をしているのが私たちの職種です。人の命に直結する仕事であるため、やりがいはとてもあると思います。その分、もしもの事が起きないよう、教育や指導はきちんと行っています。

就職に関しては、医療機器を扱う専門職種であるため、大学病院や総合病院などの高度な医療がおこなわれている病院に臨床工学技士が多く働いており、求人需要も多いです。また透析専門のクリニックや医療機器メーカーにも臨床工学技士は多く働いています。

いろいろな医療系の国家資格のなかで、臨床工学技士は働きがいがある仕事です。

 

取材協力

JA神奈川県厚生連 相模原協同病院 臨床工学室
〒252-5188 神奈川県相模原市緑区橋本台4-3-1 TEL:042-761-6020(代表)