八王子消化器病院(旧 中山記念胃腸科病院)の開設者である中山恒明先生は、東京女子医科大学に消化器病センターを開設し、1924年に死亡率95.4%であった食道癌根治切除率・手術直接死亡率を1964年に7.4%まで下げた食道外科の手術法を確立した権威である。消化器外科の世界的権威として海外からも高く評価されていた中山先生が、1983年に中山記念胃腸科病院を開設し、1996年に八王子消化器病院と改称、2002年には子安町より現在の万町に新築移転を果たし今日に至っている。
日本医療機能評価機構の認定を受けている同院だが、臨床工学技士の常勤が必須となり、当時放射線技師歴13年の髙﨑技師に白羽の矢が立った。臨床工学技士免許を取得するために一から勉強し、国家資格に無事合格した後、ME科を立ち上げた。放射線技師と臨床工学技士のダブルライセンスを持つ髙﨑技士に小規模病院での仕事のやりがいについてお話いただいた。
何故、臨床工学技士になろうと思ったのですか?
当時の八王子消化器病院では、医療機関の機能を学術的観点から中立的な立場で評価する日本医療機能評価機構の訪問審査にあたり常勤の臨床工学技士が必要でした。そのため、医療機器の専門となる臨床工学技士を雇用することを検討しましたが、消化器疾患専門病院である当院では、臨床工学技士のメインの業務とも言える人工透析、人工呼吸器、人工心肺が必要な患者がいないため、就職希望者が集まらず、在職している職員に臨床工学士資格を取得させることが検討されました。そこで、放射線技師として技師歴13年目の私に白羽の矢が立ち、当時の理事長と事務長に勧められたのと、私自身が新しいことにチャレンジしたかったこともあり臨床工学技士になろうと決意しました。
臨床工学技士を配置できていない病院も多いですが、どのように資格を取得されたのでしょうか?
私の場合は、病院の業務命令として臨床工学技士の国家資格を取得することになりました。その分、病院から授業料やその間の給料などの費用面のサポートはあったのですが、国家試験に落ちるわけにはいかない大きなプレッシャーは忘れられません。
ちなみに私は、医療系国家資格(診療放射線技師)を持っていたので、1年間だけ学校に通えば臨床工学技士の国家試験を受験できるという編入制度を利用しました。クラスには私と同じように看護師や臨床検査技師といった医療系国家資格を持っている方が4割くらいいました。その他に、ちょうど一回り年下で同じ干支の大学4年生たちと一緒に国家試験の受験を頑張ったのは、とても良い思い出となりました。
臨床工学技士を取得されて、ME科を立ち上げられたと言うことですが、臨床工学技士になって、どのように業務を確立していったのでしょうか?
ME科の立ち上げは、ゆっくりとしていきました。日中は放射線技師の業務を行い、時間外にME科業務をしていたからです。最初は、病院内で使用している機器の把握を行い、機器リストを作成しました。それと同時に、日本医療機能評価機構の訪問審査もあったので、規程、規約、マニュアルなどの整備や、医療機器の勉強会などを行いました。
放射線業務を行いつつ、日本医療機能評価機構の訪問審査や東京都の立ち入り検査などの管理的な業務や、機器のメンテナンス講習を受けてからの機器の修理など少しずつ業務範囲を拡大していきました。そして、ME科業務の活動時間は時間外から業務時間内の週2日の午後となり、週2日、毎日午後、基本的にはME科業務と8年かけて活動時間を確保することができました。
現在の主な業務は医療機器の保守点検と修理ですが、最近増えてきたのが消化器疾患に関係する特殊透析です。例えば、末期癌患者などの腹水中の栄養成分を濾過濃縮して点滴で体内に還元するCART(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy:腹水濾過濃縮再静注法)や、潰瘍性大腸炎の患者さんに行うCAP治療(cytapheresis:血球成分除去療法)が増えています。
このような感じで出来ることから少しずつ信頼を得て、臨床工学技士の仕事を色々な職員に理解してもらいME科の業務を現在の形にすることが出来ました。
13年間の放射線技師のキャリアを経て臨床工学技士になられましたが、ダブルライセンスを持つ臨床工学技士としてどのような業務を行われていますか?
現在は、ME科の業務が確立でき、臨床工学技士として保守点検や修理や特殊透析などの仕事をメインで行っていますが、放射線技師の人手が足りないときに透視検査やレントゲン撮影などをしています。私は放射線技師としてのキャリアと実績があるためこの様な働き方が出来ますが、大学病院などの大きな病院では、資格に応じた職務が決められていることもあり、ダブルライセンスは中小規模の病院でないとメリットを活かすことができないと思います。
ダブルライセンスを活かした業務は、その施設に合わせたやり方があるので一概には言えませんが、放射線技師としてCT(Computed Tomography:コンピュータ断層装置)や胸部レントゲンや透視検査の経験と知識は、患者状態の把握であったり医師と話したりする上で有用だと実感しています。
臨床工学技士としてのやりがいは何でしょうか?
放射線技師と比較した視点でお話すると良いでしょうか。放射線技師は治療に関わることもありますが、メインはレントゲン撮影やCT、バリウムなどの透視検査で病気の発見を手伝う仕事です。接遇も大切ですが、患者さんの負担を少なくするためにどれだけ短い時間で診断に値する写真を撮影するかといった職人的な世界で、自己研鑽が主になる資格だと思っています。
一方、臨床工学技士は、自己研鑽も重要ですが他職種と関わる仕事が多く、臨床工学技士法でも掲げられているようにチーム医療の一員としてコミュニケーションが重要な資格だと思います。例えば透析は、医師や看護師とコミュニケーションを取り色々な情報を共有しつつ、治療をスムーズに行うために患者さんともコミュニケーションを取ることが重要です。私は、CAP療法の時など患者さんの緊張をほぐすために色々な話をしますので、コミュニケーションが好きな方は向いてると思います。また、人工呼吸器や透析などの専門知識を高めれば、医師に意見を求められたりすることもあります。専門家として信頼してもらえるような関係になれば、非常にやりがいのある仕事だと思います。
もうひとつのやりがいとして、現在も業務の幅が広がっていることです。医療分野でもIT化が進んでいるため、ロボットやシステム、IoTなどの最新技術に興味がある人には向いていると思います。また医師業務のタスク・シフト/シェアもあり、臨床工学技士の行える業務の幅は広がっています。
臨床工学技士として大変なこととはどんなことでしょうか?
苦手な人にとっては、患者さんとのコミュニケーションが非常に大変だと思います。当院では行っていませんが、透析治療の場合、10年以上お付き合いすることになります。透析患者さんは毎週3回など通院され、何時間か治療されますので、コミュニケーションが苦手だと少し大変ではないかと思います。
個人的には、ME科以外の仕事が大変です。病院には業務委員会というものがあって、医療安全や感染対策や電子カルテなどの部署横断的な活動を行っています。各部署から人員を募る委員会もあり、ME科は私一人のためいくつかは免除されていますが、現在も9つの委員会に所属し、月十数回の会議に参加しています。その中でも、医療機器安全管理責任者や電子カルテ管理者や教育委員会副委員長などといった役職もあり、忙しいですが充実しています。
その中でモチベーションをどうやって維持されていますか?
結構忙しいのですが、やりたいことをできる環境があることがモチベーション維持に繋がっていると思います。
例えば、毎年学会に発表するために実験を行ったり、プログラミングに興味があるので院内でのグループウェアや予約管理などの色々なWEBシステムを作成したり、最近はArduino(アルドゥイーノ)というマイコンで温度湿度監視システムを作ったりと、時間を作り色々なやりたいことをやらせてもらってモチベーションを維持しています。
髙﨑技士の1日のスケジュールを教えてください
定時 9:00~17:00
6:30 起床
8:00 出勤 メールチェック 今日の業務準備
8:45 放射線科で合同朝礼
9:00~17:00 病棟ラウンド、機器の修理や保守点検、特殊透析、会議や業者と打ち合わせ
24:00 就寝
臨床工学技士の将来性についてどのようにお考えですか?
臨床工学技士は1987年に国家資格となった比較的若い医療系国家資格ですが、医療機器は現在の医療に必要不可欠となっており、臨床工学技士の業務分野はこれからも広がっていくと思います。実際に今回のタスク・シフト/シェアにおいても、透析などの穿刺業務や、手術室での内視鏡カメラ持ちなどの業務が増えています。今後は更に、認定看護師のように専門分野に特化した仕事も増えていくのではないかと思っています。
臨床工学技士を目指している方にアドバイスはありますか?
臨床工学技士になりたいと思っている学生さんからすると、聞いたことのある大学病院などで、色々な知識を求めるのも非常に良いと思います。もしくは私のように臨床工学科(CE科、ME科)がない中小病院でME科をゼロから立ち上げるもの良いと思います。また、企業に就職することも良いと思います。この様に就職先の選択肢が多いので、医療系国家資格の中でも臨床工学技士をお勧めします。
医療法人財団中山会 八王子消化器病院
〒192-0903 東京都八王子市万町177-3 TEL.042-626-5111(代表)