【臨床工学技士インタビュー】急性期から回復期までを担う蒲郡市内唯一の基幹病院「蒲郡市民病院」。アットホームな臨床工学科から、ゼネラリストを目指す臨床工学技士に話を聞いた。技士長が話す育休から復帰した女性技士についても

蒲郡市民病院

蒲郡市とその隣接する地域の基幹病院である「蒲郡市民病院」。自治体病院として全国で初めて「特定認定再生医療等委員会」を設置している。1945年に前身の「宝飯診療所」が開設され、1963年に現在の名称へ改称。臨床工学科は、2016年に創設された。技士長を含む現在7名の臨床工学技士が、心臓カテーテルや透析、血液浄化、オペ、機器の点検修理などの業務を担当している。多職種連携の取り組みや、技士同士のコミュニケーション、女性技士が現在取得している育休の状況などについて、山本 武久(やまもと・たけひさ)技士長と西分 匠(にしわけ・たくみ)技士から詳しく話を聞いた。

臨床工学技士を目指したきっかけは?

西分 技士

父は臨床工学技士、母は看護師という家庭で育ちました。両親の影響もあり、自分も将来は医療職に就こうと考えていました。中学生のとき父から仕事の話を聞いていたこともあり、臨床工学技士の仕事に興味を持っていたところ、高校生のときに病院を回る機会があり、初めて臨床工学技士の仕事を目の当たりにしました。機器の操作をしながら医師と話す姿を見て、自分に合っていると感じました。一時期、母の影響で看護師の仕事にも関心を持っていましたが、当時はコミュニケーションに自信がなかったという理由もあり、裏方で医療と関わりたいと思いました。もちろん、臨床工学技士も患者さんと関わる場面があることは父から聞いていましたが、看護師ほど患者さんと関わるわけではないので、臨床工学技士の方が務めやすいと感じたのです。そして、資格が取得できる大学へ進学することを決めました。

蒲郡市民病院へ入職されたきっかけは?

実は、大学を卒業し資格を取得後、透析クリニックで2年ほどアルバイトをしていました。学生の頃は患者さんとのコミュニケーションを心配していましたが、実際働いてみると、最初はしどろもどろだったものの、だんだんと慣れてスムーズに話せるようになっていきました。クリニックから「このまま就職しないか」と話をいただいていたのですが、父や大学の人から「まだ若いのだから透析業務に特化して働くのではなく、総合病院へ行って色々な業務の経験を積んだらどうか」とアドバイスを受け、募集が出ている病院をいくつか見学し、そのうちのひとつが蒲郡市民病院でした。病院だけでなく、臨床工学科の雰囲気がとてもアットホームで、話がしやすいスタッフばかりでしたので、ここで働きたいと思いました。

透析以外の様々な業務を学びたいという気持ちはありましたが、特にこの業務がやりたいというこだわりはありませんでした。学生の頃は、花形といわれる人工心肺に強い関心がありましたが、大学4年生の病院実習の際、「臨床工学技士の仕事は人工心肺だけでなく、呼吸器や血液浄化など大事な仕事がたくさんある、人工心肺にこだわらなくてもよい」と感じた影響もあるかと思います。

前職との大きな違いは、多職種連携ができるところですね。前職も比較的スタッフ数が多いクリニックでしたが、総合病院では倍以上になります。医師や看護師だけでなく、事務方や臨床検査技師・放射線技師等の医療スタッフなど、多職種との連携が必要となり、報連相がとても重要となります。クリニックでは、全体への連絡が比較的容易でしたが、総合病院ですと、様々な部署への連絡も必要になってきます。通常の業務だけでなく多職種と連携して行う業務が多く、1日のなかで様々な仕事が出来るところが当院の特徴かと思います。

また、当院では他の医療スタッフから「機器一般については臨床工学技士へ連絡する」と思われているようで、パソコンが動かないときでも呼ばれることがあります。そのときは、様子を見に行くなど対応します。周囲から頼られることが多く、嬉しい気持ちになります。もちろん、機器の修理やメーカー対応も業務の範囲内です。機器関連だけではなく、手術室の物品管理も行っています。

当院の臨床工学技士の人数は、現在7名で、男性が4名、女性が3名です。女性3名のうち、2名は育休中です。ですので、最近は4〜5名で業務を回しています。忙しい毎日ですが、各自PHSを所有していますので、何かあればすぐに連絡を取り合い、困っているときにはヘルプへ行き対応しています。連絡の取りやすさ、スタッフの仲の良さで連携して業務を回しています。

1日のスケジュールについて

西分 技士のスケジュール

6:00 起床
6:30 出勤
7:00〜7:30 到着 前日のオペ室業務のまとめや資料作りなど
8:30 カンファレンス
自分の担当業務へ移動し業務開始

8:45 オペ室業務の場合は、オペ室でのカンファレンス
9:00 各オペ室で使用する機器のセッティングと点検
11:00 休憩
12:00 午後の業務開始、午後にオペが集中するため、各手術室のダビンチやレーザー治療器、ナビゲーションなどME機器の立ち合い等を行う(午後にオペが多い、多い日は2~3件ほど担当)機器の修理、機器点検、機器トラブルの対応など

17:15 業務終了
18:30 帰宅、ゲームや趣味のお菓子作り
24:00 就寝

オンコール業務は、月に7回ほど(実際に個人が呼ばれるのは月に1~2回程度)。オンコール対応は現在4名で対応している。残業は月に1、2回ほど(18時ぐらいに大体終わる)。

休日は、基本土日休み。よく趣味の釣りへ行きます。渓流釣りや船釣りなど、病院スタッフと行くことも多くあります。趣味で作ったお菓子は、スタッフへ配ることが多いです。チーズケーキが特に評価が高かったです。

モチベーションの維持で必要なことは?

父の仕事を理解して、自分でやりたいと思ってやっている仕事ですので、モチベーション維持のために特別にやっていることはありません。日々やるべきことをやっています。例え「これは自分にとって苦手だ」と思うことがあっても、モチベーションが下がることはありません。時々、「これは臨床工学科の仕事だろうか」と思うときもありますが、それも誰かがやらなくてはいけない仕事です。自分たちがやらなかったら、代わりに別の医療スタッフがやることになります。それなら、自分たちがやればいいと思いますので、やりたくないとも思いません。この仕事が合っていると思いますし、職場の環境が良いというのも大きな理由だと思います。

将来の目標は?

オペ室以外の業務も行っていますが、呼吸器関連や心臓カテーテル業務に関して個人的に知識不足な点を感じますので、学会などへ積極的に参加し、知識を増やしていきたいと思っています。ゼネラリストを目指していきたいですね。当院では、呼吸器関連業務にも積極的に臨床工学技士が関わっているので、呼吸器関連業務に役立つ資格を一つ取得したいと思っています。自分が出来る範囲から少しずつ挑戦していくつもりです。

入職後の研修について

山本 技士長

机上で勉強会を開くこともありますが、実践がメインになります。まずは、現場に連れていき先輩の業務を見てもらいます。その次は、先輩が後ろに立ち実際に新人にやってもらいます。またその次は、先輩が離れた場所で見守りながら、新人に業務をやってもらいます。このように実践型の研修を行います。研修は、主に心臓カテーテル業務から始めています。なぜなら、個人差もありますが、入職後3か月程度経つと新人もオンコール業務を振り分けていきますので、それまでに心臓カテーテル業務は特に身につけてほしいと考えているからです。ただ、毎日心臓カテーテル検査があるわけではないので、その他の業務であるオペ室業務や、機器の管理点検業務などと併行して行います。

1年ほど経つと、全体の業務を一人でこなせるようになっていきます。2年目からは、教わったことに知識を肉付けしていきます。例えばオペ室業務なら、次に医師が何を求めてくるのか、なぜこの業務が必要なのかなど、全体的な流れを俯瞰的に見ることができるようにしていきます。

臨床工学科について

当院の臨床工学科の業務は主に7つに分けています。オペ室業務、心臓カテーテル業務、血液浄化業務、呼吸器関連業務、医療機器管理業務、ペースメーカー管理業務、院内スタッフ教育業務です。

構成比は、男性4名、女性3名。各自アドバンテージを持った臨床工学技士が揃っています。例えば、前職の医療機器メーカーで修理を担当していた技士や循環器専門病院から転職してきた技士、看護師として働いた経験を持つ技士や、ECMOに対して高い技術を持つ技士などです。

全体の業務としてはゼネラリストを目指しておりますが、各分野のスペシャリストも揃っています。数年後に新棟を建てる計画もありますので、徐々に臨床工学科の人数を増やしていきたいと考えています。

蒲郡市民病院について

当院は、1997年に現在の場所に移転し、ちょうどその頃、私も入職いたしました。地域の生命を守る二次救急の病院として、「命を守る30分」というコンセプトを掲げ、救急医療を始め、急性期から回復期まで一貫した医療を提供しています。実際に救急搬送は、市内全体の救急車の90%以上が当院へ搬送されます。

また、蒲郡市は「再生医療のまちづくり」を推進しています。2013年度策定の「蒲郡市ヘルスケア計画」に基づき、2015年度から様々なプロジェクトを進めています。当院は、2015年度に自治体病院として全国で初めて「特定認定再生医療等委員会」を設置しています。現在は、寄附講座を締結している名古屋市立大学や地元の再生医療に関する企業との連携により、高度な技術や安全性が必要となる再生医療の研究を行っています。

女性技士の産休・育休について

今井果歩 技士(先日1年半の産休から復帰)

産休に入るとき、私が一定期間業務から抜けることで、他の技士の負担が増え陰口を言われるのではないか、と不安になりました。しかし、実際は心配したようなことはなく、私の産休を快く受け入れ、体を気遣い、一緒に喜んでくれました。手作りのよだれかけもいただき、とても嬉しかったです。2021年3月に無事出産したあとは、育児をしながら病院での出来事や報告事項、臨床工学科の業務改革等をグループラインから知ることができ、疎外感を感じることはありませんでした。

仕事復帰については、一年半以上仕事から離れていたので復帰後すぐに業務に戻れるかどうか、確かに不安は感じます。ですが、なるべく早く臨床工学技士の勘を取り戻し業務に戻れるよう頑張りたいと思います。

女性で臨床工学技士を目指す人へ、お伝えしたいことがあります。私は、子どもが1歳半になるまで育休をいただきました。仕事復帰後は、しばらくは時間短縮で働くつもりです。当院のように、女性でも働きやすい職場はたくさんあります。また男性技士より女性技士の方が多い職場もあります。一緒に頑張りましょう!

 

当院は、子どもが小学校に入学するまで時短勤務などの制度を活用することができます。これからは男性も育休を取得する時代です。対象者がいれば臨床工学科の男性技士にも育休取得を促していきたいと思っています。

理想の新人像

日々、勉強を続けることができる人です。臨床工学技士は医療機器を扱う仕事です。医療は日進月歩進化していきますので、数年前に学んだ知識も古くて使えないものとなってしまいます。ですから、常に勉強することが必要です。ただ、学生の頃の勉強と違って、学んだ知識が患者さんの生命に直結しますので、勉強も苦にはならないのではないかと私は思います。

また、臨床工学技士は医療の縁の下で働く職種です。患者さんに直接感謝されることはないかもしれません。患者さんから直接感謝されるのは、医師や看護師が多いことは確かです。ですが、縁の下で支える者がいなければ医療は成り立ちません。そのことを理解し、自分たちの仕事が患者さんを助けることを担っていると、誇りを持てることが大事だと思います。

また、他の医療スタッフとも協調性が持てる人が良いですね。自己主張が強い人や自分勝手な人は、正直向いていないかもしれませんね。

最後に、学生さんへのアドバイスとして、就職活動ではぜひ色んな病院を見学してみてほしいと思っています。臨床工学技士の仕事は、病院によってかなり内容が違います。放射線技師や臨床検査技師のように、どの病院でもおおよその業務内容が似ている職種もありますが、臨床工学技士は病院によって業務がバラバラです。当院のような広く浅くすべての業務を行うゼネラリストを目指す病院もあれば、狭く深く専門性を高めてスペシャリストを目指す病院もあります。自分に合った働き方を見つけるためにも、色々な病院を見学してみてください。

取材協力

蒲郡市民病院 臨床工学科
〒443-8501 愛知県蒲郡市平田町向田1-1 TEL:0533-66-2200(代表)
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