福岡大学病院
総病床数915床を有し、23診療科と15診療部および18診療支援部門を中心に約2000人の職員が協力し、地域医療機関とも連携している。2011年1月に新診療棟を開設し、一部の外来と病棟部門が移転。新本館も2021年10月から着工し、現在順調に建設が進んでおり、2023年12月に完成予定としている。佐藤寿彦(さとう・としひこ)臨床工学センター長と、臨床工学技士で同センター主任の浜内和也(はまうち・かずや)さんに話を伺った。
臨床工学センター 浜内和也 主任(臨床工学技士)
浜内 主任
Q.臨床工学技士になったきっかけやこれまでのキャリアについて
医療機器自体にも興味がありましたが、高校時代から臨床現場で働いてみたいと考えていました。臨床工学技士を目指し、高校を卒業してから博多の専門学校に入りました。専門学校を卒業すると、ほとんどが病院に勤務するのですが、中には医療機器メーカーに就職する人も大体1割か2割はいました。
臨床工学技士としては、人工透析専門の専門病院に8年勤務し、30歳になる前に大きな病院に移りたいと考えていたところ、タイミングよく福岡大学の系列の筑紫病院の募集があったため、そこに移り嘱託として2年間働き、手術室を経験しました。その後、採用試験を経て、正規の職員として当院に就職することができました。
Q.これまでどのような業務に従事されてきたのでしょうか?
当院では、透析の経験があったため血液浄化療法センターに始まり、救命センターでの人工呼吸器管理や人工心肺業務、それから心・血管カテーテル業務、 ICU(集中治療室)も経験しました。そして1、2年前から少しずつですが、週に2回だけ内視鏡センターにも行くようになっています。ちょうど、同センターでは、呼吸器系の手術支援ロボットの導入準備も進めているため、立ち上げ専任のような形で入らせて頂いております。
現在の役職は主任で、私の上に臨床工学センター長の佐藤先生がいらっしゃいます。現場スタッフを束ねつつ、自分自身も臨床の現場に立つというポジションになります。
Q.1日のスケジュールを教えていただけますか?
6:30 起床
7:20 家を出る
8:00 病院到着
8:05 ミーティング
8:30 シフトで人工透析などに入る
17:00 院内業務が終了、資料作成や要望書や報告書の作成などの事務作業
18:30頃 勤務終了
朝のミーティングは8時5分から10分程度で、その後に各部署に配置という形です。
残業は、月30時間超えないように調整しています。
Q.この仕事のやりがいは、どういうところで感じられますか
臨床検査技士の仕事というのは、臨床現場で患者さんと接しつつ、さらに機器の管理も担うということで、病院のなかでは無くてはならない職種の一つになりつつあると認識しています。本当に、臨床工学技士がいないと病院経営が成り立たないというレベルまで、臨床工学技士の役割が高まってきていると実感していますね。
これから臨床工学技士を目指そうという人たちにとっても、さまざまな場面で専門性を発揮できる職種になってきたということが言えると思います。そういうところがやはり、この仕事の魅力ではないかなと思います。
Q.臨床工学技士と医師の役割分担や病院内での存在感についてはどうお考えですか?
医療機器の導入や使い方を検討する際に、医師と相談して、意見交換をしています。医療機器も日本製から海外製までいろいろあります。その特性を活かして、長期になるのか短期になるのかといった相談も医師と相談させて頂いております。医療機器全般に関しては私どもに任せてもらい、医師には診療や治療に専念していただくといった業務分担はできていると考えています。
また、医療機器に関する要望書を、私が自分で書くこともほとんどです。新しい医療機器を導入する際、院内全体としては、どこの部署で購入するにしても、「機器を管理している臨床工学センターから意見を出してもらった方がよい」いった意見をいただくこともあったりします。
当院においては、手術室を拡大する方針がありますので、先々は臨床工学技士についても増員が検討されることになると思います。ここ3、4年くらいだと思いますが、院内でも臨床工学技士に対する認知度は、かなり高くなっていると思います。その理由としては、当直を始めたということも大きいのではないでしょうか。
臨床工学技士が当直に入る前までは、機器トラブルなどは看護師が対処していたような状態でした。臨床工学技士が夜間も、院内に常にいるという安心感も生まれたと感じています。病棟全体でも扱う医療機器が多いため、24時間動いている人工呼吸器をはじめとして、そういった機器のトラブル対応は臨床工学技士が任されています。したがって、医療安全的にも貢献度が増している面があります。
Q.工学技士さんを目指す人にメッセージをお願いします
医療機器は日々発展し、新しい製品も次々と開発されていますので、新しい知識を日々習得し、現場で実践することもできます。もちろん患者様との触れ合いもありますし、さまざまな意味で、臨床工学技士はかなり魅力的な職種ではないかなと思います。
この先は法改正も検討されておりまして、タスクシフトという風な形で、臨床工学技士が担える業務が広がっております。幅広い業務が担える職種になりつつありますので、そこを目指して、活躍してもらいたいと思いますね。
臨床工学センター 佐藤寿彦 センター長
佐藤 センター長
Q.臨床工学センターの概要について
当センターは2003(平成15)年4月に部長1名、技士5名でスタートし、現在は専任職員17名(アルバイト2名)、このうち女性は3人となります。年齢層としては50代が2名、40代が6名、30代が3名、20代が6名になります。
臨床工学技士は病院内において、医師・看護師や各種の医療技術者とチームを組んで生命維持管理装置やその他のME機器の操作・保守・管理を担当しています。当センターで管理している医療機器は、2500台の登録があり、それを1年間通して点検している状況です。
また、医療機器の安全性確保と有効性維持のために、保守・点検・修理をおこなっています。関連部署は、手術部(SICU※ を含む)・救命救急センター・血液浄化療法センター・総合周産期母子医療センター・内視鏡センター・心臓カテーテル室(ハートセンター)・脳血管内治療室・中央機器管理・病棟部門で、病院全体をほぼ網羅しています。また、臨床工学技士は救命救急センターにも入っています。
当院においては、内視鏡手術が多く行われていますので、内視鏡機器のメンテナンスなどの業務もあります。また、循環器内科であれば、カテーテルの機器操作などもあります。
※SICU(Surgical Intensive Care Unit:外科系集中治療室)
Q.病院としての特長や職場の雰囲気はいかがでしょうか
私大の大学病院で働いたのは当院が二つ目ですが、当院のいいところは、国立大学病院などと比べて人の移動が頻繁にないこともあり、皆で助け合えるような雰囲気があります。そういったチームワークは伸ばしていきたいと思います。それから当院はアットホームところがあり、職員も患者様のために頑張ってくれていると思います。
Q.医師からは臨床工学技士の存在がどのように映っていますか?
新しい機器などが出てきてそれを我々が扱う場合に、臨床工学技士にいろいろ操作方法を尋ねながら習熟していくというところがあります。新開発の医療機器はよく使いますので、皆で勉強会を開くなどして、一緒に学んでいくということもあります。
当院は手術支援ロボットを使った手術がとても多く、臨床工学技士がいるからこそ、数を多くこなせているという側面があります。また、内視鏡などについてもいろいろなタイプがあるため、どこにどういった機器があるといったことを、臨床工学技士が把握しているので助かっています。
新しい機器が出てくると、「先生こんな機器が出ているみたいですよ」といったように、臨床工学技士から提案してもらうこともあります。現場にある機器についても臨床工学技士がよく分かっているので、「これはもう取り替えた方がいいです」というようなやりとりも交わしています。
Q.これから臨床工学技士を目指す人にアドバイスがあればお願いします
当院の臨床工学技士は、手術部や救命救急センター、血液浄化療法センター、総合周産期母子医療センター、内視鏡センター、心臓カテーテル室などさまざまなところで活躍しています。そういう意味ではさまざまな経験を積んでほしいです。
キャリアとしては、管理職として病院の経営の方に入っていく道も開かれていると思います。それはそれで苦労するかもしれませんが、成長をしていくうえではさまざまな経験ができる病院を選んだ方が良いのではないでしょうか。仕事を覚えながら、日々成長していくという姿勢で職場探しをしてもらいたいと思います。
臨床工学技士として、最初から特定の分野に専門性を狭める必要はありません。さまざまな治療や手術、あるいは将来、病院の経営そのものに関われる可能性もあります。若い人にはとにかく視野を広く持って欲しいですね。
医療技術の発展とともに、今後も新しい機器ができたり病院の環境が大きく変わったりすることも予想されます。将来の医療を担う人たちには、アンテナを広く張り、いろいろな人と会い、若いうちにさまざまな経験しておくことが大事だと考えます。
総括
センター長で医師の佐藤センター長は、コメディカルの集まる場に赴いて、「医療機器の機能説明や、万が一のトラブル対処、他症例や効果説明が出来るので、当院の臨床工学技士に絶大な信頼を寄せている」とのお話があり、やりがいも、人間関係も良さそうな大学病院との印象を持ちました。