【臨床工学技士インタビュー】ME科立上げ、一念発起して栄養課の調理師から臨床工学技士への転身[医療法人辰星会 枡病院]

医療法人辰星会 枡病院

枡病院は、昭和25年10月に枡外科医院として開業。二本松市、本宮市、大玉村、など約107,000人(推定診療人口 67,000人)を対象とする、一般病院。現在、関連の枡記念病院、介護老人保健施設 “やまびこ苑” 、特別老人養護施設“うつくしの丘”、の連携によって、急性期から慢性期・在宅さらに終の棲家の提供を可能とするいわゆる、医療・介護・福祉の複合体を形成しています。
枡病院は開設以来、昼夜を分かたずどんな時も、いかなる患者さんに対しても手をさしのべ、決して断らず、まずは施す、を理念にかかげている。今後、さらに医療の質・安全性さらに地域への貢献をめざし、職員一同、研鑽を積んで行く。

 

齋藤照馬 主任

昔からただ何となくものづくりや工学に興味があり神奈川の大学に行きましたが、紆余曲折あり中退しこちらも元々興味があった調理師になり、神奈川で働いていました。知り合いのつてでペンションのシェフという名前的には立派な仕事にお呼びがかかり、住み込みとなるため神奈川から撤退し、実家に居住地をひとまず移しました。そんな折、昔から良くてして頂いていた先生から、調理師資格を持っているのならウチの栄養課で働かないかと言うことで、枡病院の栄養課の調理師として働きだしたのが25歳です(丁重にペンションの方にはお断り入れました)。
父が臨床検査技師として枡病院で働いていて、私も枡病院の寮で生まれ3歳ごろまで住んでいたので、病院が第2の家のような感じで、病院の先生や職員の方々に可愛がってもらっていました。

当時、臨床検査技師がダブルライセンスで臨床工学技士の資格を持っていたのですが、その方が退職されると、臨床工学技士の加算が無くなると言うことで、臨床工学技士が病院としては必要となりました。そこで、キミは工学系得意じゃないかと先生より白羽の矢が立てられ、臨床工学技士になることを検討するわけです。
元々枡病院で出会い結婚した妻がその当時は関連施設の栄養士でしたが、将来像なども良く話し合い臨床工学技士になることを決意しました。31歳で妻も子どももいて、3年分の生活費が稼げなくなるので、養成校の授業が終わると、せめて生活の足しにと夜間、週末とバイトに行っていました。週に2回だけあった深夜2時までのバイトの時はキツかったです。当法人には看護師用の奨学金システムがありましたが、それを適応していただき奨学金を活用しました。資格取得後は枡病院で働き始めて、学費返還を頂きました。当時就活は当然のごとく全くしていません(笑) ただ、国家試験に落ちるという選択肢も全く存在しないのはそれなりに恐怖ではありましたね。

 

病院での仕事

6畳くらいのME室がありますが、実質物置きのような状態ではあります。臨床工学技士の実務のない時は事務付けME科なこともあり、事務室で仕事をしています。代表電話を取るのは当然のごとく、他病院への患者救急搬送も行ったりします。サイレンありの救急車の運転は緊張しますね。
冬の大雪の時などは家から近所ですぐに来れるので除雪車で駐車場の除雪をして、患者さんがスムーズに駐車場に入れるようにしています。3シーズンあればかなり除雪車のテクニックも上がりますね。年配の患者の方が多い当院の為、転んだりしてしまうと危ないですからね。
ともあれ、まとめて言うと自分がやっていることは病院の何でも屋といったほうが正しい表現でしょうか?カッコ良く言うとオールラウンダージェネラリストですね。

 

臨床工学技士としてのお仕事

透析は法人の関連施設のみで行っており、当院では行っていないので毎日決まった仕事と言うのはありません。内視鏡検査は人員調整のためヘルプに入ることも多々あります。先ほどまでERCP※ があって、器械だしをやっていました。看護師が清潔野にはいるので、第2助手みたいなお仕事になります。基本的に第1助手は行わないようにしています、自分が毎日いるわけではないので、欠員になる可能性がどうしても発生するからです、看護師は必ず毎日いますので緊急時も対応可能です。

他には、睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療※ の患者さんが200人ほどいますので、遠隔モニタリング等、データ収集し外来診療に活かしています。
糖尿病の外来患者さんも150人ほどいますので、リブレセンサーと言うもので血糖値を測る機器なのですが、こちらもデータ収集などをして管理しています。入院の際も使用する場面が多いものなので、その際は毎日データを医師に提示しています。点での血糖測定ではなく線での血糖データであり、非常に有用だと感じています。針刺し事故、血液曝露も無くなり、そういった観点での医療安全確保も得ることができます。
同世代でもある当法人理事長が消化器内科を専門としている医師ですので、消化器内科の仕事が割と多く、内視鏡室での仕事も過去かなり行いました。せっかくですので消化器内視鏡技師の資格を取得しました。現在も技術の要する内視鏡検査の場合はヘルプに入っている状況です。
その他CAP療法※ とか、CART※ もやっています。

医師が何かをやりたいというお話は積極的に受けるよう努力しています。当然コスト関係も考え総合的にお返事できるようにしています。

※ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影):内視鏡を使って胆管・膵管を造影する検査
※CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法):鼻に装着したマスクから送り込んだ空気の圧で空気の通り道を確保する治療
※CAP療法(血球成分除去療法):腸管の炎症を起こす白血球を選択的に吸着する治療
※CART(腹水濾過濃縮再静注法):腹水を腹腔からぬいて、細菌やがん細胞を取り除き、アルブミンなどが濃縮された腹水を体へ戻す方法

 

ME科の立ち上げについて

救急病院ではないので、オンコールで呼び出しと言うものはほとんどありませんが、ME科が一人しかいない為、何かあれば呼び出される可能性はあります。家から近いのですぐ行ける強みはありますね。基本チャリです、通勤も元気にチャリ通です。
365日オンコールと言っても、旅行に行くと言えば、当然数日間病院を離れることもあります。そう意味では、私一人で病院の医療機器を管理する役割になりますので、写真を撮って説明書を作成して、できることならわかりやすくなるよう動画作成し、私が居なくても電話などで対応できるような説明書や資料作りを心掛けています。

コロナ禍の少し前ですが専用サイトを立ち上げ、院内研修などに活用していました。その後、コロナの状況も悪化し職員集まっての院内研修会もしづらくなったのも重なり、今やそのサイトは全職員が使用するポータルサイト的位置づけまで格上げされたと自分では認識しています。
臨床はもちろんのことですが、医療機器への理解も深めないといけませんし、資材購入の為の知識も仕入れないといけません。医療機器の購入に際しては、事前運用計画書はもちろんのこと、導入された場合の予想収支報告などもしています。


現場からはアレがほしい!と、ただ漠然とした意見がなんと多いことか・・・。それをしっかり噛み砕いて事務方に伝えるのも非常に大事なミッションだと考えています。現場の思いと事務方の考えはかなり解離しています。その間のちょうどいい立ち位置的には居ると思っています、この関係はできることなら今後も続けていきたいと思います。

 

データ分析

現在、やりがいを感じているのは、データ分析です。
今や電子カルテでたくさんのデータ収集が可能であり、地域、年齢、疾患などでの来院分析などもある程度集めることが可能です。例えばここに巡回バスの路線を作ったら来院患者があがるのではないかとか、データを活用したマーケティング分野にも興味があります。
当院の診療科と、来院予測などをマッチングさせ購入機器への進言などが出来たら、病院の経営に貢献できるのではないかと考えています。空いた時間は、プログラミングもそうですが、そう言った未来のちょっとした”足し”になる為の時間にあてています。
そんな空いた時間に完成させた職員食の食事注文システムが完成し、完全ペーパーレス化を構築させました。電子カルテPCに組み込まれたものであり、ExcelVBAを利用しており汎用性が高く、いつどんな時でも注文することが可能となっています。今のご時世こんなソフトウエア購入したら高いですよ(笑)

当院では今のところ募集はありませんが、日本全国、同じような規模で、臨床工学技士のいない病院で、ME科の立ち上げを必要とする病院はあると思います。医療機器が病院備品コストのウエイトを占める割合はかなりあります。経営に臨床工学技士の知識を生かすのも一つの道なのかなと思います。臨床工学技士になってあれがしたい!これがしたい!も大事な要素ではあるでしょうが、あれはイヤだこれはイヤだの方ではなく、とにかく色々やってみよう!色々なアイデアを実現させたい!といった考え方をお持ちの方なら、やりがいを感じれる可能性は非常に高いと思います。よその病院で一通りの経験を積んでからでもいいかもしれませんね。ふとした時にチャンスは転がっていると思います。「ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん」どこかで聞いた言葉です。

 

取材協力

医療法人辰星会 枡病院
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