聖隷浜松病院
聖隷福祉事業団は、1930(昭5)年5月、貧しくて結核を病み“天地の間に身の置き所もない”と悲嘆にくれている、桑原某という青年があり、この窮状を見るにしのびず、相協力して一個の病室を建て、彼をあたたかく迎え入れた数名のクリスチャン青年の愛が、今日の聖隷福祉事業団設立の端緒となる。
1931(昭6)年、入野村蜆塚(現浜松市)の松林のなかに粗末なバラックの病舎が建てられ、その名をベテルホーム(神の家)と称した。病苦と飢えと迫害に安らう所もない悲惨な結核患者の運命を、日毎にみる若きキリスト者達は持てるものすべてを投じ病者の善き友とならんと懸命の努力を傾けた。
1939年(昭14)クリスマスの記念すべき日、天皇陛下より思いもよらぬ多額の御下賜金を拝受し以後事業を拡大し続け、現在、1都8県に、162の施設を設置している。
“皆さまから信頼され地域社会に貢献できる病院”を目指し、地域の中核病院として高度急性期医療を提供し続ける聖隷浜松病院の臨床工学室室長北本憲永(きたもと・のりひさ)技士と臨床工学室太田早紀(おおた・さき)技士にお話を伺った。
臨床工学室 太田早紀 技士
太田技士
臨床工学技士になる
医学が好きで治療の最前線の仕事がしたいと思っており、また患者さんを治せる医療職に就きたいと思っていました。理系で機械をいじり、PCいじりが好きだったこともあり、臨床工学技士を選びました。
進学した北海道の学校の実習では、人工心肺業務、維持透析業務、機器管理業務、呼吸器業務、ICU業務を実習で入らせてもらったのですが、人工心肺が一番やってみたいと思っていました。
聖隷浜松病院で働く
実習でCEの先輩から「自分一人で成長するには限界がある。師事したい人を見つけなさい」と言われていました。サイトで調べた上で、道内の説明会に参加したところ、静岡県浜松市にある聖隷浜松病院の北本室長が北海道まで来て説明会をしてくださっていました。偶然の出会いではありましたが、自分の興味のある人工心肺の体外循環技術認定士のお話をされていたことを今でも覚えています。お話聞いているだけで、その知識の多さや優秀さが伝わってきました。「格好いい!目指すべき!この人に師事したい!」と思い、聖隷浜松病院を希望しました。
入職して1~2か月目のご指導で、今でも覚えていることがあります。ある時、北本室長に「出来そうか?」と聞かれました。私は「出来ると思います」と答えたところ、室長は「『出来ると思う』では困る。出来るか出来ないか、ワンミスが生命にかかわる」と仰いました。私は完全に出来ないと、言葉で保険を掛けてしまうことがある自分に気付くことができました。傍から聞くと些細なことのように思われるかもしれませんが、私にとっては重要な出来事でした。
その後は従事したかった人工心肺業務もやらせていただくことができました。6年目の今では、体外循環技術認定士を取得していますが、これも最初のころは「格好いい」と思うだけで、どれだけ大変なことか分かっていなかったです。勉強すればするほど、やることができてきて、ゴールが遠くなるような感覚がありました。
今は研究にも興味があるので、大学院にも行きたいと思っています。
太田技士の一日
・人工心肺業務がメイン、ほか誘発電位業務、清潔介助、呼吸器業務など。
・勤務時間の開始は業務によるが、人工心肺の場合7:30~16:00(通常勤務)、7:30~20:15(業務が押す場合には、1.5勤務)、臨床工学室の通常定時は8:30~17:00、夜勤を含め8つのシフトがある。
7:30 出勤、人工心肺業務準備
9:30 患者さん手術室入室
14:00 お昼休憩(1時間)
16:00 手術室から直通エレベーターでICUに移動後、通常勤務の終業時間
20:15 1.5勤務※の終業時間
※聖隷浜松病院は基本4週8休だが、「1.5勤務」と言う制度があり、人工心肺業務では、1.5勤務を2回やって、週休3日とすることが多い。
週3でお休みの事が多いので、先日のお休みは、1日学術大会の準備をして、1日趣味の事をやって、1日はゆっくりお休みしています。
聖隷浜松病院の臨床工学技士をすすめたい理由
これと言った明確な目標が無くても、業務の幅が広いので、その中から、極めたいものを見つければいいので、自分の好きな業務のスペシャリストになれる環境があります。
心臓血管外科医、麻酔科医、看護師、CEでブリーフィングがあり、症例ごとのカンファや手術プランがあります。毎回手術個別に勉強なので、やりがいがあります。
学生のころは、女性が1/3くらいしかいなかったので、男性が多いから働きにくいのかなと思っていたのですが、実際に入職してみると産休・育休はきちんと取れるし、責任のあるポジションについている方もいます。またパワハラ、セクハラのない男女平等で、女性も働きやすい環境です。
北本室長もいるので、聖隷浜松病院は最高の職場です。人工心肺は業務がタフなので、女性は選んでもらえないと言うのが一般的らしいのですが、私も選んでもらえていますので、性別に関係なくチャレンジできる環境だと思います。
臨床工学室室長 北本憲永 技士
聖隷浜松病院の臨床工学室 北本憲永 室長に「研修」「臨床工学室」「タスク・シフト」「教育・学習支援」などのお話をお伺いしました。
北本室長
研修について
全員手術室業務からスタートになります。
1日間看護師と合同で安全、感染の講習があります。接遇、一般的なことの講習も事務・医療技術職合同で3日間行います。
基本的な医療機器の始業点検、手術室で使われている医療機器全般の取扱、清潔野で使用する医療機器は点検してから滅菌しますので、それらの点検方法など、基本マニュアルがあります。手術室は概ね6か月で習得できるステップアップ教育リストに沿って業務習得していきます。
太田技士の場合には、半年の一般的な業務の上にプラス3か月で、整形のせぼねの誘発電位(MEP、SEP)の業務を覚えてもらいました。
最初のゴールは、1年半で手術室の一般的な業務と病棟・中央管理の点検(+内視鏡)を経験後、宅直が開始されます。
夜勤は、15名のICUチームのエキスパートが入り人工呼吸器、カテーテル治療、植込みデバイス、急性血液浄化などに対応します。他の病院の当直のようにオンコールを呼ぶのでは時間がかかるので、夜勤はICUの精鋭で行います。
残りの業務は、宅直(手当有り)6名が各業務(手術室業務2名、麻酔補助業務1名、人工心肺2名、周産期1名)対応者を決め呼び出します。
手術室業務には30~40名が配置されます。配置人数が多いのは、整形外科とか眼科の手術に関しては、外回りにも器械出しにもCEが入る体制になっているためです。年間12,000件の手術のうち、4,500件くらいCEが器械出しと外廻りを行います。
キャリアパス・キャリアラダー
仕事の経験やスキルを積みながら自らの能力を高くしていくための順序を系統立てて、将来の目的や昇進プラン、キャリアアッププランを具体化、明確化します。
能力・役割・資格・経験を積んでいき、初級(Level1.指導を受けながらの業務遂行、Level2.支援を受けながらの業務遂行)、中級(Level3.業務担当の遂行及び後輩指導)、上級(担当業務の模範的遂行及びリーダー行動)のラダーをのぼっていき、専門職志向(熟練者)、マネジメント職志向(熟練者→監督者→管理職→経営職)の目的地にのぼっていくイメージです。
ステップアップ教育
麻酔科医からの教育が受けられ、麻酔補助担当者の選抜となることができます。
・手術室業務一般を卒業した臨床工学技士
・学習できるスタッフ
・麻酔科医と看護師と協働できること
・ICLSを受講
事前課題としての学習(周術期管理チームテキスト、麻酔科研究30日ドリル、麻酔科研修チェックノート等)があり、週2回計12回の受講(3か月1クール)があります。
麻酔補助CE合格条件:周術期管理認定を合格
臨床工学室
88名(うち女性技士25名うち3名育休中、6割が県外出身)、平均年齢30.7歳です。
2021年~2022年は5名の男性が育休取得しています。病院は男性にも3年間の育休を認めているのですが、3年までは育休で休む方は今のところいませんが、1月半とか2か月とか育休しています。休める環境がありますし、有休も最大で3週間連続して取得することも可能です。
医療技術職別人数では臨床工学技士が一番多いです。
(臨床工学技士88名、薬剤師67名、臨床検査技師65名、放射線技師61名、理学療法士54名、作業療法士24名、管理栄養士22名、視能訓練士12名)
臨床工学技士の働き方改革
1.有休繰り越し分以外100%消化(有休を捨てる人はゼロ)
2.平均残業時間12時間/月
3.残業30時間/月以上ゼロ
4.サービス残業ゼロ
[臨床工学室内訳]
中央管理2枠、内視鏡室6枠、周産期2枠、ICUカテーテル呼吸器15枠、透析室15枠、手術室30~40枠(麻酔補助業務4枠、手術室業務10~16枠、人工心肺3枠、眼科3~4枠、スコープオペレーター3~4枠、骨関スポーツ2~5枠、手外科2~3枠、せぼね・脳神経外科4~7枠)
2023年はS棟増築につき4名増予定
北本室長の業務
2年前までは、人工心肺の臨床に入っていましたが、職員が育ってきましたので、現在は、管理業務が中心となっています。日本臨床工学技士会や学会の仕事など、対外的な業務が多いです。麻酔補助業務を行っていますので日本麻酔科学会との調整、スコープオペレーターの業務が始まったので日本内視鏡外科学会との調整、清潔野に入るので日本手術看護学会との調整など実施しています。また、静岡県内では臨床工学技士会の副会長もしていますので、その関連業務などです。
タスク・シフト/シェア、PDCA
2022年は13病院からの見学申し込みがあり、日本のモデルケースになるようにしています。日本中の総合病院が当院と同じように業務展開できると臨床工学技士の未来はとても明るいと考えています。
今後はさらに救急の分野、医工連携や中央材料室業務など、まだまだ、取り入れたい業務はあります。
CEへのタスク・シフト/シェアのポイント
・現場ニーズを的確に捉えCEから提案する
・医師と協働するための教育と姿勢
・医師の視点に立った働き方改革
・医師が求める以上の結果を出す
・対応するスタッフの人選
・管理者の姿勢と経営戦略
今後の課題や対策
・臨床工学技士の職種(法令改正含め)に対する正しい理解
・医師・看護師、病院がCEを活用しようとする理解(診療科毎の温度差や施設毎の環境)
・臨床工学技士の配置が診療報酬に関連してほしい
・NP※や特定行為と同様な上位資格への道
※NP:ナースプラクティショナーの略、医師の包括的指示の下で診療の補助行為を実施できる特定看護師。日本NP教育大学院協議会が認定する、診療看護師教育課程を有する大学院へ進学し、座学・筆記試験・実習・OSCE・特定行為研修・卒業論文作成等の過程を経て卒業すること。 日本NP教育大学院協議会が行うNP資格認定試験に合格することで取得可能な資格。
改善検証(整形予定手術終了時間)
整形にCEが外廻りに入った結果、CEが看護師にペンライトで器械だしを指示する状況となりました。これではCEが器械出しを行った方が効率的で安全であり、医師からの要望もありCEに移行しました。その効果として、看護師が行っていた時には、9~17時で手術が終了するのは52.3%だったのに対して、CEが行った結果、並列手術は増加し71%と2割ほど改善されました。これは確実に整形外科医の時間外労働削減にも繋がったと考えます。
麻酔補助CEについてのアンケート
・麻酔補助CEを導入して良かったですか? はい(100%)
・夜間・休日対応は役立っていますか? はい(100%)
・麻酔中の安全性の向上に役立っていますか? はい(100%)
・術前のカルテチェックは役立っていますか? はい(100%)
・麻酔記録入力は役立っていますか? はい(100%)
・タスク・シフト/シェアに効果はありますか? はい(100%)
労務軽減効果
・麻酔科医のみ2名 中央値78分(64~88分)
・麻酔科医1名+麻酔CE1名68分(60~80分)
→ 麻酔科医の労働時間10分/件軽減
スコープオペレーター参画の効果
1.スコープオペレーター参画の効果(産婦人科4名、大腸・肛門外科3名、呼吸器外科2名、上部消化器外科1名)
2015年より開始して症例2,500件超
・視野が良くなった はい(100%)
・医師の人員配置に効果があった はい(100%)
・手術に専念できるようになった はい(100%)
2.スコープオペレーター参画の効果(全腹腔鏡下子宮摘出手術(TLH))
・麻酔開始から手術開始までの時間 51分±7分(CE無) → 47±6分(CE介入)
・手術時間 201±40分(CE無) → 179±49分(CE介入)
→ 外科医・麻酔科医の労働時間26分/件軽減
カンファレンスの効果
症例1.
AS moderateからsevereへ進行していることを前日にCEがカルテから確認
→ 麻酔科医に報告
麻酔科医と執刀医間で、手術の必要性・緊急性を議論
→ 手術前日に中止が決定となった
症例2.
抗凝固剤、抗血小板薬の休薬忘れを前日にCEがカルテから確認
→ 麻酔科医に報告
→ 麻酔方法の検討、変更につながった
症例3.
重症心不全を全日にCEがカルテから確認
→ 麻酔科医に報告
→ 執刀医と協議し、全身麻酔→局所麻酔と変更することで手術
教育・学習支援
資格や認定士は一部しか費用がでませんが、告知研修などは業務として行って頂きますので、出勤扱いで、交通費、宿泊費、受講費は支払われます。
演題発表は、出勤扱いで参加費、交通費、宿泊費等全額補助しますが、学会見学は自己研鑽となりますので、費用は出ません。
臨床工学室での教育
新人スタッフの教育では、スタッフごとに2年間の教育計画を作成し、教育がスムーズに進むように努めています。また教育の進行状況などを確認する専任のスタッフを設け、定期的に教育者側、教育を受ける側と面接を行い、教育の進捗状況や問題点を毎月CE役職者会議とCEリーダー会議で把握し、改善・評価を行っています。
医師・看護師・CEなど医療機器に関わる院内研修は年間400~500回。勉強会、学会、セミナーへの院外への参加は延べ200回。CEで発表や座長、講演などは年間90回程度。
看護師さんへの研修は、名簿で数回に分けて参加頂いて、出欠管理をしている。
学生の志望動機
総合病院ですので、色々な業務から、自分のやりたい業務、専門性を高める仕事を見つけたいと言った動機が多いです。人工心肺の症例も多いので、人工心肺を目的とする方も多いですし、手術室業務を拡大していますので、麻酔補助業務など、医師の業務の一部を担いたいという部分にひかれる学生さんも増えてきました。
入職して欲しい職員像
コミュニケーションが取れて、自己研鑽して学ぶ姿勢がある人。自主性、自ら考えて行動できる人が好ましいです。
見学や採用面接ではどのような観点で審査しているのか?
採用までの流れ
1.施設見学会(※希望者のみ)
2.履歴書の提出
3.適性検査受験
4.一次選考(面接・筆記)
筆記試験(初級公務員試験程度、一般常識を問う)
専門テスト(国家試験程度、国家試験に合格できるかどうか)
面接(ポテンシャル、採用されたいと言う積極性、素直さ・コミュニケーション、病院の理解度等)
5.役員面接(面接)
6.内定
履歴書で見ている点
〇まわりが認めるような内容
・長く部活を頑張った
・レギュラーではなくても応援する側で支えた
・チームを大切に協調できた内容
・ボランティアを継続している
・アルバイト頑張り継続し任される存在になった
・卒論で学会発表など学生中に実施した
×あまりよくない内容
・卒論研究大変で頑張った(全員やっていること)
・国家試験、第2種ME勉強頑張った(取得して当たり前)
求める人物像
1.相手の気持ちを理解しようとする姿勢を持っている
2.相手のニーズに気づき、応える姿勢を持っている
3.自ら行動しようとする姿勢を持っている
4.持っている力を最大限発揮して、仕事に挑戦し続けようとする姿勢を持っている
就職選びに気を付けて欲しいポイント
学ぶための大切な環境
・その病院は学ぶべき業務をどれくらい実施しているか
・教育プログラム:見学などして確認する
・学会への参加は多いのか(新しいことにチャレンジしているか?)
・スタッフは疲弊していないか
・休みはとれるのか(有給休暇は捨てるのが当たり前?)
・退職者が多い施設かどうか
・残業はつくのか(サービス残業、上司が帰るまで帰れない)
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷浜松病院 臨床工学室
〒430-0906 静岡県浜松市中区住吉2-12-12 Tel.053-474-2222
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