救急医療を提供する街病院として。“断らない”医療をどれだけ提供できるか。大学病院と比べると規模は小さいが、同程度の年間約5000台の救急車を受け入れている。救急に特化した南多摩病院で活躍する臨床工学技士に話を聞いてみた

南多摩病院

今回紹介するのは、東京都八王子市にある医療法人社団 永生会 南多摩病院。24時間患者の受け入れ体制が整っている。 ※「東京都指定二次救急医療機関」のひとつだ。救急医療機関の使命として24時間365日“断らない”医療に取り組み地域の人の命を守っている。臨床工学技士として医療の世界に入り25年のベテラン筒井一雅(つつい・かずまさ)さんに聞いてみた。

※入院を必要とする中等症・重症患者に対応できる医療機関

従兄弟が導いてくれた臨床工学技士の世界

筒井一雅 技士

Q.臨床工学技士を目指したきっかけは?

高校3年生のとき。漠然と医療の道へ進みたいと希望していて、医師や看護師以外にどのような職業があるのだろうかと思っていました。インターネットが普及していない時代で情報を得る手段がなく困っていました。高校3年の時、進路に迷っていたら、年の離れた従兄弟が同職者にいるのですが、M E(臨床工学技士)っていう仕事があるよ。と教えてくれました。

ただ、当時の臨床工学技士の業務というと、人工透析や一部人工心肺がおもで今ほど仕事の幅は広くありませんでした。それでも従兄弟の話から臨床工学技士の可能性を見いだし、自分も同じ道へ進みたいと思って目指しはじめました。

Q.どのようにキャリアを積んできたのですか?

山梨県出身なのですが、地元を出て都内の専門学校に進学しました。卒業後は、都内の病院勤務、地元山梨県の病院勤務を経て南多摩病院に入職しました。こちらで3病院目ですね。

臨床工学士の転換期

Q.どうして南多摩病院を選んだのですか?

救急棟が建ち上がるところで工事をしていました。そのタイミングで救急や循環器などに力を入れるということを聞いて。前にいた病院では、心臓カテーテルなどもやっていなかったので、新たな分野に挑戦してみたいなと思っていたタイミングと重なり、入職しました。
実際、自分の思っているイメージと現場でやるのとでは違いますよね。それでも、やりがいを感じます。

タスク・シフト・シェアはチャンス

Q.どういったこところやりがいを感じますか?

正直に言いますと、年々、歳をとってからの方が私はやりがいを感じます。というのも当初は、臨床工学技士と言っても“透析技士さん”と言われるような言い方が多くて。任される業務が限られていました。ですので今、色々なことをやらせてもらっていますが、20年前、25年前はここまでできると思っていませんでした。

Q.現在取り組んでいることは?

タスク・シフト。医師からの業務というところで、去年、臨床工学技士とかそれ以外の職種としても法律として変わりましたよね。うちの病院も先駆けとして取り組んでいます。研修費用が結構高かったのですが、12人の臨床工学技士全員が受けさせてもらいました。研修へ行ったからには、還元しなければならないですし、ただ学んだだけではもったいないので、タスク・シフトを今、一番のチャンスと捉えています。

Q.具体的にはどのような業務をしていますか?

臨床支援業務ですね。手術室なのですが、先生と話をして、スコピニスト(内視鏡手術のカメラ持ち)をしていて、私も5例ほど実績があります。ありがたいことに先生(医師)たちからの要望もいただいていますし、期待に応えられるようにしていこうと思っています。

 

臨床工学技士の働きぶりについて、事務部長の木下力(きのした・ちから)さんに伺いました。

医療機器の管理だけではもったいない

木下力 事務部長

Q.臨床工学技士の皆さんの働きぶりはいかがですか?

年間、約5000台の救急車を受け入れています。夜間の緊急の心臓カテーテル手術にも入ってもらうこともあります。臨床工学技士は、インテリジェンス(能力)が高い。現在は、12人という限られたメンバーでやっているのですが、個々の能力が高いメンバーが揃っている。それは、コミュニケーション能力であったりスキルの部分であったり。非常に良いチームが組めているから他の部署からも信頼されて、重宝されています。これから、病院として夜間の対応を充実させていくなかで、臨床工学技士が必要不可欠な存在になると思います。

価値ある職場へ

Q.新人研修はどのような体制で行いますか?

新卒で入職した場合、ひと月間の法人研修や病院研修を経てから各部署に配属され、半年後にはフォローアップ研修も実施しています。加えて、同期というものを意識できるように研修しています。

Q.キャリア形成についてはいかがですか?

病院の中では、必ずジェネラリストとプロフェッショナルがいるのですが、多分、彼(筒井さん)は、ジェネラリストの方向に向いている。中には、プロフェッショナルの方向に向いているものもいると思うので、そういう人たちが価値ある職場にしていかないといけない。(両者が)納得して働き続けられる条件・役職・等級というバランスを作っていくことが課題ですね。

臨床工学技士を志す人へ

私は、臨床工学技士の仕事を勧めますね。
私が今、感じているやりがいや以前とは違う臨床工学技士という立場を実感しているので、可能性があるということを伝えたいですね。誰でもはじめはうまくいかないことも多いです。もちろん、私にも経験があって、23年目の時に担当した透析の60代くらいの女性の患者さん。私が若かったのでおばあちゃんに見えていたのですが、すごくよくしてくださって。透析って針を刺すのですが、正直、技術がまだなくよく失敗してしまっていました。それでも、『気にしなくていいよ。やらないと上手くならないからね。』といつも励ましてもらいました。緊張することはつきものですし、絶対に避けては通れないです。だからこそ自分のできることをしっかりこなすということを心がけています。

職員数450人という規模だからこそ小回りが効くし、機材も買いやすい。やりたいことをできるというのもこの規模だからこそ声が通るのではないかと思います。救急医療も提供できる街病院として地域医療へ貢献していきたいです。

 

取材協力

医療法人社団 永生会 南多摩病院
〒193-0832 東京都八王子市散田町3-10-1 042-663-0111(代表)