【臨床工学技士インタビュー】国立大学の中でも5本の指に入る心臓血管外科の症例数。加えてTAVIやダ・ヴィンチなどの先進医療と幅広い活躍の場がある滋賀医科大学医学部附属病院で、30年以上働く臨床工学技士にお話をお聞きしました

臨床工学技士になったきっかけを、教えてください。

滋賀医科大学医学部附属病院 臨床工学部 吉田均 技士長

私がこの仕事に就いたのは約30年前。ちょうど臨床工学技士法が施行されて、学校ができたのはその1年後という時期でした。進路指導の先生にデスクワークよりも機器を保守したり操作する仕事に興味があると伝えていたので、医療機器を触る仕事があるから受験してみたらと言われたことが、臨床工学技士になったきっかけです。もともと医療に興味があった訳ではないので、イメージとかけ離れた仕事に入職当初はとても驚きました。

法律ができただけで、臨床工学技士の免許はまだ誰も取っていない時代だったので、入ってからこんな仕事があるんだ、こんなことができるんだという感覚でした。

Q.臨床工学技士の業務前例が無い中で、どのようにお仕事を覚えていったんですか?

入職当時、臨床工学部はまだ無くて、配属は手術室ICU救急部兼任の医療技術職でした。朝から晩まで手術室の中で機器の準備などさまざまなことを担当させて頂くことで、仕事を覚えていきました。そこから5年後、臨床工学技士に合格した時の手術室の副部長先生から、人工心肺を担当して欲しいと言われて今に至ります。

当時、人工心肺を担当できるのは私一人だったので、休暇は心臓血管外科の先生が学会や休暇の時に一緒にとり、365日枕元には携帯電話を置いて、いつでも対応できるようにしていました。
そのうちにECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)も担当して欲しいと言われ、救急やICUの急変時には呼ばれるようになったり、しばらくはそんな風に一人で担当しながら仕事を覚えていった感じです。

30年以上お仕事を続けられている、やりがいはどんなところですか?

初めて手術室に入った時、現場の迫力を感じたと共に、自分がこういうことをやっていくんだ、それは覚悟を持ってやらなければいけない仕事なんだと認識しました。でも、そんな風に大変な仕事だと感じたと同時に、やりがいのある仕事だとも感じました。

だからこそ5年後の国家試験※では、受からなかったら職が無くなるという緊張もありながら、この仕事をやっていきたいと思えたので前向きに向かえて、無事合格することができました。そこから人工心肺を担当することもできたので、良かったと思ってます。
※特別措置として、第5回まで実務経験5年が臨床工学技士国家試験の受験資格と認められていました。

私が臨床工学技士になった頃の人工肺は脆弱なところがあり、試行錯誤しながら、先生に教えてもらいながら技術を上げていくことで、自信をつけることができました。その自信があるから、夜中に呼ばれてもやっていこうという強い想いを持つことができたと思います。先生からの信頼が増すことで任されることも増えるので、重圧感はあっても誇りに思えました。

そう言えば初めて人工心肺を担当したのは、緊急手術でした。それまでは先生が担当していましたが、その時はその先生がなかなか来なかったんです。するとオペレーターの先生に「吉田君、担当して。」と言われて、問題が無いか誰も見てくれない状況の中で初めて担当したということがありました。それもオペレーターの先生が私のことを信頼してくれていたからこそ、言ってもらえた言葉だと思っています。そんな先生の信頼を裏切らずに対応できたことは、すごくやりがいになりましたね。

やりがいということでは、もちろん命を預かっているという部分もあります。
部のメンバーに人工心肺の指導をする時は、「自分の親や身内に行うつもりで、やりなさい。」と伝えています。それほど重みのある命を預かっているということも、やりがいに繋がる部分は大きいと思います。

Q.臨床工学技士のお仕事は、医師の先生とのコミュニケーションも大切になってくるのでしょうか?

そうですね。臨床工学技士は間違っていたら、相手が先生でも指摘しなければいけないこともあるし、先生とのコミュニケーションは重要だと思っています。

以前オペにメーカーさんが入っていた頃※、ちょっとした問題が発生したことがありました。その際オペ中に当時の教授から、「メーカーさんの間違いは吉田君の責任だし、吉田君の間違いは私の責任だよ。」と耳元で言われたことがあるんです。それは、君に任せているんだよ、という先生の信頼から言われた言葉だと感じました。そういった経験の中から、先生の信頼を裏切らないように、誠実に対応する。先生の要求に対して、出来ることは絶対にしよう。逆に無理な時は無理と言えるコミュニケーションが取れるようにしようと、意識してきました。

先生とのコミュニケーションを取る場としては、コロナ前は打ち上げなどお酒を交えながらという機会に積極的に参加していましたね。でも今はそれが難しいので、自分から先生と話す機会を作るようにしています。やっぱりメールだけだとなかなか距離は縮まらないので、直接話すことが大切です。

コミュニケーションが取れていなくて一番困るのは、トラブルがあった時に先生にはっきり言えないことなんです。例えば機器に問題が起こった時、先生に現状や対応内容を伝えて、必要であれば手術の手を止めて欲しいとまで言えるくらいコミュニケーションが取れていないといけない。それは患者さんのためだし、先生のためでもあるんです。

臨床工学技士に求められているのは、先生に気持ち良くストレス無く、手術に集中できる環境を作れるかだと思っています。そのために先生とのコミュニケーションは、とても大切になります。

※2008年 臨床工学技士法改正されるまでは、医療機器メーカーからの出向者による医療機器操作が可能となっていた

貴院での臨床工学技士の一日のスケジュールを、教えてください。

手術室業務の場合、人工心肺があればファーストとセカンドの2名体制で担当になりますが、当院では午前担当は8時30分~12時30分、午後担当は10時30分~で、間の2時間は両者がかぶって4名になります。そのため、午後担当の人は午前の方の業務サポートをして午後の準備をすることになります。透析業務担当の日は主に丸一日透析を担当しています。

また、TAVI(タビ:経カテーテル大動脈弁留置術)が入っている日があれば2名は、そちらの業務に就いて、裏で「ダ・ヴィンチ」(内視鏡手術支援ロボット)が入っていれば、そちらの準備を担当する人など、1週間前から計画を立てて、ひとり一人の時間配分を組んでいます。

あとは月に1回機器点検があるので、手が空く時間があれば各現場の点検業務に入ることがあります。

 

臨床工学技士の将来性については、どのように考えていますか?

国からも言われている医師のタスク・シフト/シェアを進めていくことを考えた時、臨床工学技士が一番各現場の近くにいて、進められる可能性が高いと思います。放射線技師も検査技師も部の外に出ることは、ほぼありません。が、臨床工学技士は逆でいろんな部署に出ていって業務をしているので、対応範囲を上げようと思えば上げていける立場にいるんです。

現在でも、スコピニストや消化器内視鏡、麻酔業務など、院内での対応ニーズは高まっています。それまでは先生方がやっていたことを、どんどん依頼されている。それは先生からの信頼があるから、対応範囲の増加に繋がっていると言えます。今後はさらにその信頼度を上げていくことで業務拡大に繋がって、やりがいも増していくと思います。

そもそも臨床工学技士が今は当たり前に行っている人工心肺、心臓カテーテル、血液浄化業務も、以前は先生が担当していた業務でした。私も人工心肺業務を、当時先生から教えてもらいましたから。それを臨床工学技士が担当するようになって、今では逆に先生はできない状況です。

そうやって過去、臨床工学技士は先生の担当業務を代行しているので、今後も先生との信頼関係を増していくことで代行できる業務を増やしていって、先生にとって居てもらわないと困るという存在になれる可能性は、どんどん出てくる仕事だと思っています。

タスク・シフト/シェアが増えていく中で、今後は若い先生に臨床工学技士が業務を教えることも出てくるかもしれないし、機器の購入選定も先生と相談しながらできたり、点検をしながら新しいデバイスの提案もできるなど、これからも活躍の場は広がっていくと思います。

 

滋賀医科大学医学部附属病院 臨床工学部について

Q.臨床工学部の人数や運用体制について、教えてください。

現在15名の臨床工学技士が在籍しています。割合は男性13名、女性2名。そのうち女性1名は、来年6月まで育休に入っています。
休暇については与えられている権利は使えるように、部内で可能な限り協力し合っています。月1日有給休暇の消化、最長で9日間の夏季休暇の取得推進を行っており、育休についてはこれまでに男性2名も取得しています。

また当院の臨床工学技士は、放射線技師、検査技師と違って夜勤や当直にプラスして待機業務があります。心臓血管外科手術の緊急対応でファースト・セカンドと毎日2名、心臓カテーテル検査の緊急対応で1名と待機があるので、そこは負担が大きいかなとは思っています。

勤務内容としては月2日の日勤夜勤(土日は当直)勤務。待機業務については、心臓血管外科担当で月8日~10日ほど、心臓カテーテル担当で6日~7日ほどを受け持っています。その勤務内容の中で、休みの希望を聞いたり当直明けや当直前は待機無しなどのように部内で協力しながら負担が大きくならないようにシフトを組んでおり、バランスは取れていると思います。

Q.臨床工学部の業務内容や入職後の研修について、教えてください。

業務には、①呼吸療法・②人工心肺・③血液浄化・④心臓カテーテル・⑤手術室・⑥ペースメーカー・⑦集中治療室・⑧医療機器管理の8つがあります。その中の「呼吸療法・血液浄化・医療機器管理業務」については全員がベースとして対応できるように覚えてもらいます。

研修順序としては、当院の夜勤の場合ICUのCHDF(持続的血液濾過透析)の対応が必要になるため、入職後まずは血液浄化業務を3か月程度教育します。その後ICUの業務を一緒にやって、医療機器管理業務や呼吸療法、シリンジポンプなどの点検業務、ラウンドなどを覚えてもらって、入職半年で夜勤に入っていくという流れになります。

夜勤を3か月程度担当した後の5か月間で心臓カテーテル、その後の5か月間で機器点検や手術室の準備業務を行いながら、その一環として心臓血管外科の人工心肺のセカンド業務を1か月程度担当してもらいます。そこまで経験した後に、本人の希望と適性を見ながら、「心臓血管外科」または、「心臓カテーテル」どちらかの待機に入ってもらい、最終的にはファースト業務ができるように教育をしていきます。

院内での臨床工学技士の対応ニーズは広がっていて、消化器内視鏡やアブレーション業務がまだできていないということがあるので、そういった業務も対応できるようにしていきたいと計画しています。

Q.臨床工学部の対応ニーズは、他にどんな業務で広がっていますか?

今回の法改正で臨床工学技士の対応できる範囲が広がったことで、消化器外科の先生からはスコピニスト対応の希望があったり、整形外科の先生が対応していたMEPやナビゲーションについても昨年の10月頃から対応依頼がきています。また看護師が対応していたダ・ヴィンチ(内視鏡手術支援ロボット)のドレーピングについても、臨床工学技士が業務対応するように変化してきています。

あとは現在、看護師でも他のメディカルスタッフでも臨床工学技士でもできる仕事の中で、臨床工学技士のフットワークがいいためお願いしたいと先生方から言われている業務もあるので、これからも病院のため、患者さんのため、先生方やメディカルスタッフ一丸となって臨床工学部として発展していきたいと思っています。

Q.見学に来る学生さんは、どんな人が多いですか?

滋賀県で唯一TAVI治療※ をしており、2022年11月からはマイトラクリップ※ も始まるということもあって、先進医療に興味のある学生さんは多いですね。また心臓血管外科の症例が多いため、人工心肺に興味のある方も多いです。

ただ、同じ業務への関心がある方ばかりだと偏りができてしまうこと、また興味があっても必ずしも先進医療に携われるかは分からないことを、先程の業務内容の説明と併せて見学者の方にはお伝えしています。

実際、TAVIについては循環器内科、心臓血管外科の先生から入って欲しいと言われて、4名がクリンプ業務※ の対応が出来るようになっています。その4名は、人工心肺・心臓カテーテル業務に対して先生からの信頼もあるため、依頼されています。また症例が多い訳では無いのでスペシャリストを育てるという意味でも、先進医療についてはある程度限られたメンバーで回すようにはなりますね。

※TAVI治療:経カテーテル大動脈弁留置術(カテーテルを使って人工心臓弁を患者の心臓に留置する治療法)
※マイトラクリップ:経皮的僧帽弁クリップ術。僧帽弁の前尖と後尖をクリップで挟み込み、弁を引き合わせることにより僧帽弁の逆流を少なくするカテーテル治療
※クリンプ業務:清潔野(消毒済みの場所)でカテーテルに生体弁を取り付ける作業

 

求める人材

Q.こんな人に来て欲しい、こんな臨床工学技士になって欲しいという人物像を教えてください。

先生や病院の立場を理解して謙虚さを持ちながら、自分の意思を言える人。
自分で臨床工学技士になろうと思って始めることなので、その思いを追求できる人。しんどい部分があっても、それをやりがいや自信にして頑張れる人がいいですね。

あとは先輩が何をやっているのか、目と耳を鍛えて興味を持てること。
耳という点では、今のメンバーにも耳を大事にしろと伝えています。例えば手術室ではいろんな音がしていて、先生の声が聞こえないことがあるんです。でも聞こえないと、一方的に話すだけではコミュニケーションは取れません。だから耳を大事にして、必要な音を聞き取って行動できることが大切だと思っています。

もう一つ若いメンバーには発想力をつけて欲しい、ということを言ってます。
私が長年やってきて確立していることはスタンダードなだけで、もっといい方法があるかもしれない。
別の方向から見たら、もっと違うやり方があるかもしれない。自分が考えたことが世に出る可能性もあるから、常にあれっ?という発想力を持って、やってみていいことだと思ったらどんどん上にも提案していく。そんな人になって欲しいですね。

 

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