職域に拘らず臨床工学技士の職務の幅を広げ、タスクシフト/シェアの先行施設として貢献。さらに、臨床工学技士の現場において女性活躍もいち早く導入。医療業界に新しい風を吹かせる済生会熊本病院で働く臨床工学技士に話を聞いた。
済生会熊本病院
済生会は、1911年(明治44年)から医療・保健・福祉を総合して提供する日本最大の社会福祉法人で全国40都道府県に拠点がある。済生会熊本病院は、1935年(昭和10年)にわずか9床からスタートした。現在、病床数400床。熊本済生会病院の近隣には、回復期リハビリテーション病院やかかりつけ医として日常的な診察や健康管理を行う診療所がある。低侵襲治療に力を入れている高度急性期病院として、患者にとって適切な医療を提供できるよう密な連携に取り組んでいる。
済生会熊本病院の臨床工学技士
臨床工学部門は、1987年に発足。現在、臨床工学技士は、50人(女性16人)。荒木康幸(あらき・やすゆき)技師長(右)と笠野靖代(かさの・やすよ)係長(左)に話を聞いた。
どのような組織体制ですか?
・集中治療室
・中央手術室/内視鏡室/予防医療センター
・血管造影室/高気圧酸素治療室
・ME機器中央管理室/連携機関支援/医療情報部支援/※T Q M部支援
・血液浄化室
の5つの部門に分かれていて、それぞれに係長がおります。笠野係長は、中央手術室/内視鏡室/予防医療センターの担当です。
※Total Quality Management=組織全体での医療・サービスの質の向上
どのような業務をしていますか?
現在、主に手術室の業務と教育をしています。心臓血管外科の手術で使われる人工心肺という生命維持管理装置の操作をメインにしています。あと、手術室では、医師不足の対応として、院内で認定している麻酔アシスタント(麻酔科医師の補助)の資格を取得して業務にあたっています。こちらは、医師のタスクシフト/シェアの一環でやっております。
1日の業務の流れ
定時8:00〜16:30 ※手術室担当技士の1日の業務例
7:50 チームミーティング
8:00 手術の準備(人工心肺の組み立て、手術支援ロボットの準備)
8:30〜 入室 手術開始 ※1時間の休憩を交代で取る
16:00 退室 片付け
部署内で調整、協力して有給は年間8日以上取得。(年間を通してスケジューリング)基本的に希望通りに休暇が取得できる。子どもが3歳までは、希望に応じて、待機・宿直を免除している。
入職してからの流れは?
今年でいえば、血液浄化室と手術室にというように、最初から現場への配属になります。そして、配属先の業務を覚えてもらうようにしています。人材不足している分をそこでなるべく早く補充していくという形です。配属先で、シフトを回せる人材になってもらわないといけないので、研修期間をなかなか取れないのが現状です。早く一人前になってもらい、1年後くらいにほかの部署の業務も覚えてもらうようにしています。
宿直はどのような体制になっていますか?
病院に24時間いる宿直と自宅待機という2つの体制を取っていまして、宿直者は1人で、5年目以上のスタッフが担当します。自宅待機は、透析室が1人、オペ室が2人、血管造影室関係が2人と5人待機しています。事実上6人は、何かあったらすぐ病院にきて処置を行える体制をとっています。
女性技士 活躍の場の充実
入職のきっかけは?
たくさんの診療科があって、その中で学生時代に学んだ透析をはじめ人工心肺、または、集中治療であったりカテーテル治療であったりと幅広い業務や経験が当院であればできるのではないかなと思い選びました。
22年目の笠野係長は、地元熊本の高校を卒業後、熊本の専門学校で学び熊本済生会病院に入職。良い意味で予想と違った配属になったという。
私が入職した当時は、女性は透析関連の施設に行くことがほとんどだったので、手術室で人工心肺を担当するのは結構珍しかったです。就職して1年くらい経った時にまわりは皆透析の話ばかりで自分の経験していることが貴重なことだと感じました。
私の同期は3人で、ほかの2人は男性だったので、私が透析の担当になるのではないだろうかと思っていましたので、まさか手術室で人工心肺を操作するとは思っていませんでした。
特にその頃女性で人工心肺を担当されていたというのは珍しかったのでは?
当時は、全国の学会に行っても女性は数人程度でした。当時は、男性のベテランの技士さんがする職業だったので、そう思うと近年は女性も増え男性女性比は変わったなと感じます。
どうして笠野さんは手術室への配属になったのですか?
当時の技師長とそろそろ人工心肺は女性も参入してもらった方がいいだろうと話していました。そこへ笠野さんが入職し、さらに優秀だと聞いたので、是非、手術室へということで来てもらいました。
タスクシフト/シェアの先駆け
当院のタスクシフト/シェア に関しては、2004年から、外科系の医師の代わりに助手として業務を行っています。また、内視鏡外科手術の時に元々医師が行なっていた内視鏡カメラを操作する業務であるスコーピスト(スコープオペレーター)を行っています。こちらは、研修医の先生も含めて症例数に対して医師が少ないということで、我々(臨床工学技士)が参入しました。我々のデータは、厚生労働省行政推進調査などに使用され、今回の法令改正に貢献したというところです。2019年から法令改正のための日本臨床工学技士会理事の皆様の視察や厚生労働省の政策科学総合研究事業の視察などがありました。全国3か所を見て回ったそうですがその一つに選ばれたそうです。
手術室業務にあたることができる臨床工学技士は何人いますか?
技士は全員で50人です。そのうち手術に携わることができる技士は15人いまして、大体1日に8〜10人手術室の方に常駐しています。一般的に手術室の業務にあたる臨床工学技士は、男性が多いのですが、当院は、手術室業務を担当できる女性技士は約半数の7人います。
タスクシフト/シェアのきっかけは?
2004年に技士が清潔野(術野)に入ることに関して、技士もまわりも違和感がありました。もちろん、よそでもやっていませんし。ただ、当院の医師が忙しすぎて倒れそうな状況でした。誰かがサポートしないと医療が立ち行かなくなる可能性もあったので、そこで、臨床工学部門が手を挙げて『我々でできることがあればやります』という形ではじめました。
2004年、済生会熊本病院の臨床工学部門は、整形外科、シャント手術、心臓外科の第二助手業務を開始。臨床工学技士が担当する業務を明文化し、集計することで根拠づくりを行なった。その根拠づくりが基になり、その後も様々な部署での業務拡大に繋がった。現在では、中央手術室で行われる、年間、約5,500症例の一翼を担っている。
院内認定資格
済生会熊本病院では、臨床工学技士や看護師の業務の拡充を目的に院内認定の資格を設けている。現場での研修や筆記試験を経て資格が与えられる独自のシステムだ。
院内認定資格はどのように取得することができますか?
麻酔アシスタントの業務で言いますと、半年間の研修を受けまして、その後筆記試験と口頭試問があります。そちらをクリアしましたら、病院長をはじめとする院内認定チームの審査を経て認定という形になります。取得までには1年くらいかかります。現在3人が資格を持っています。これから後輩にも繋げていきたいですし、自分自身も業務を開拓中ではありますので、麻酔科の先生方にどんどん期待してもらえるような技士になっていきたいなと思っています。
業務を行ううえで大切にしていることは?
自分自身のスキルアップというのは、きちんと考えなくてはいけないと思っています。加えて、チームで働いていますので、それぞれのスタッフが責任と自覚を持って業務を行うことが全体のボトムアップにつながるのではないかと思っています。また、チームワークを大切にしています。
求める人材
臨床工学技士の業務をおおきく拡大してきましたが、必要ない業務は“捨てること”も考えています。スタッフの皆様には時代の流れに沿って、変化できる者であってほしいですね。当院は、急性期の高度医療を習得できることと、幅広い業務が経験できます。ほかの病院ではできない経験ができる可能性もあります。求める人材は、自分でレールを敷ける技士です。受け身ばかりではなく、自分でボトムアップして、新たな業務を創造できる技士がほしいです。
社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院 臨床工学部門
〒861-4193 熊本県熊本市南区近見5丁目3番1号 096−351−8000(代)
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