【臨床工学技士インタビュー】近年脳外科・整形外科などで高い技術を取り入れながらも、昭和42年から患者様と向き合い、長年地域に根差した医療を目指してきた愛宕病院。そんな医療現場で活躍する臨床工学技士。臨床工学技術科 入交 育生(いりまじり・いくみ)科長に話を聞いてみた

臨床工学技士になったきっかけを、教えてください。

15年くらい前、私が学生の頃には、臨床工学技士はまだマイナーな職種で、臨床検査技師とよく間違えられていて、私自身もそんな職種があること自体知りませんでした。もともと、「医療関係の仕事に就きたい」とは考えていたので、進路を考える中で先生に臨床工学技士という仕事があることを聞き、自分なりにいろいろ調べました。そうやって臨床工学技士について知る中で、今思うと当時は表面的な知識でしたが医療分野と機器分野を両立できる職種ということに理想を描いて、この道を選びました。

臨床工学技士になる前のイメージや理想とのギャップは、ありましたか?

入交 科長

入職したての頃は臨床工学技士のギャップというより、学生と社会人との常識の違いを強く感じました。仕事に就いた20代前半では報連相ができない、上下関係も学生の時の感覚だったので、最初の3年間は社会の常識や礼儀を学ぶ期間でしたね。現場では、臨床工学技士として一人前になるには5年かかると言われています。4年目以降、臨床工学技士として全体像が見えるようになってきて5年経って振り返った時、描いていた臨床工学技士の理想と現実のギャップは、それほどありませんでした。そもそも臨床工学技士は法律ができてから浅いので、まだまだ発展途上の職種です。仕事の対応範囲もどんどん増えていますし、理想自体を新しく描いて追いかけていける職種だと思います。

それ以外に違いを感じたとすれば、患者さんの命ですね。病院は、生死をかけた場所です。その場所はイメージと現実とでは、かなり違いました。愛宕病院は救急病院です。重症の患者さんが運ばれてくるケースを最初に見た時は、衝撃的でした。それまではドラマだけで見ていたような、意識のない患者さんへの挿管、針刺し、現実として目の前でお亡くなりになってしまうこともある。最初はそんなショッキングな現場に、かなり衝撃を受けました。

お仕事に就いてから、他に感じたことはありますか?

学校で習ってきたことと実際の病院業務は、全然違うと感じました。病院の最新情報は学術に間に合ってないんですよね。そのギャップを埋めるために、経験を積んだ臨床工学技士が学校に出向き講義をするなど、現場の最新情報をいま学んでいる学生に伝えられる体制ができれば、そのようなことも減ると思います。

最近は、臨床工学技士が手術室に入ることも増えました。でも学生にはそんな最新情報や内視鏡・心臓カテーテルをこんな風に操作しているという現実は、伝えられていません。特に国家試験対策に力を入れている学校だと、授業内容とのギャップはより大きいと思います。試験で覚える機器の細かい名前とかも必要ではあるのですが、「臨床」と名前が付いているように、臨床工学技士に大切なのは臨床なんです。なので実際の現場の情報と学生が学ぶ内容が上手くリンクできたら、スタート地点が変わり入職する際の目的が明確になって、成長がもっと早くなると思います。

これまでのお仕事の中で、一番印象に残っていることはどんなことですか?

患者さんに初めて針を刺した瞬間が、一番記憶に残っています。愛宕病院は精神科があって、精神科の患者さんは透析の説明をしてもすべてを理解できない、自分がどんな処置をされるのかも上手く理解できない方もいらっしゃいます。そんな状況の中で針を刺す際は、スタッフで患者さんを押さえなければいけなかったり、患者さんが攻撃的になってしまい、蹴られたりすることもあったので、針刺しについては印象に残っているシーンが多いです。

臨床工学技士の一日の主なスケジュールを、教えてください。

透析担当の場合は朝、病院に入ると透析装置の準備を行います。その後患者さんが入られたら、針を刺して透析装置とつなぎます。透析が4時間なので終了後昼食をとって、午後からの患者さんの対応を同じように行います。夜間透析を行う場合は、夜間の患者さん対応で22時30分か23時まで行い、3クールになります。病院によって、午前と午後だけの2クールを担当するところと、夜間がある3クールを担当するところがあります。それ以外に手術室担当の臨床工学技士の場合は、手術の開始と終了時間によって対応時間が変わってきます。救急担当の場合は、救急患者さんが運ばれてきたら出動するなど、それぞれの担当業務によってスケジュールは変わります。

ただ臨床工学技士のメイン業務としては透析が多いので、先程話した透析スケジュールで仕事をしている方が多いと思います。

透析担当の日は、透析のみを行うのですか?

それは病院の規模によります。病院内の臨床工学技士の人数によって、一人の技士に対する仕事内容は変わってきます。なので、透析をしながら他の業務をする場合もあります。愛宕病院については、透析をしながら他の業務も行っています。

臨床工学技士のやりがいは、どんなところですか?

機器を苦手としている他職種のスタッフが多い中、逆に得意としている医療機器の分野から、機器のことだけでなく患者さんの状況を踏まえて、どういう機器を使うのかを入念に考えチーム医療に貢献できることが、臨床工学技士のやりがいだと思います。

また臨床現場で分からなかったことを繰り返し調べたり、先輩に聞いたりしながら、他職種のスタッフと相談してチーム医療一丸となった結果、患者さんが回復した時。それは臨床工学技士というか医療従事者として、やっていて良かったと感じる瞬間ですね。もちろん悪くなった場合も全員で、次に活かすために何が悪かったのかをフィードバックする。一番の目的となるのは患者さんのQOL(クオリティ オブ ライフ「生活の質」「生命の質」)を改善させること。そのゴールに向かって医師の指示のもと、チーム一丸となる中に臨床工学技士が存在することもやりがいになっています。

そのやりがいは、お仕事に就いてすぐ感じられるものでしょうか?

入ってすぐは右も左も分からない状況なので、やりがいはなかなか感じられないかもしれないです。特に最初の5年は、キツイと思いますね。そこを乗り越えるためには努力が必要ですが、最低限の常識とやる気があればどんな人でも乗り越えられます。心臓カテーテル、人工呼吸器、透析、そして救急分野になればさらに多くの機器を、臨床工学技士は扱います。経験を積み重ねて、成功と失敗を繰り返す中でスキルを身につけていって、全体が見えるようになった瞬間、臨床工学技士としてのやりがいを感じられると思います。

臨床工学技士の今後の将来性について、どのように考えていますか?

臨床工学技士だけの問題ではないと思うのですが、高齢化社会などいろいろな問題を抱えて変わっていく日本の中で、個々が自分の仕事の将来性について考えていく時代になっていると思います。誰かの意見に従うだけではなく、自分から臨床工学技士の仕事の存在、魅力を発信していかないと将来性を広げていけないのではないかと思っています。例えば、少し前は透析患者さんも増加傾向にあって、診療報酬もいい時代でした。でもこの先、人口が減少していく中で、医療体制や病院経営はどんどん変わっていきます。その状況の中で、臨床工学技士をどう特徴づけるか。いろいろな意見を出し合って、新しい分野を作っていく。そういう風土作りが一番大事だと思っています。

それに法律改正によって、臨床工学技士ができることが増えました。例えば手術室や集中治療室で、輸液ポンプやシリンジポンプを使う際に静脈穿刺ができるようになるなど歴史を変えるような法律改正があって、臨床工学技士の対応範囲が緩和されています。その新しいルールを活かして、さらに新しい可能性をアピールしていく。そうやって自分たちで将来性を広げていかないと、これはすべての仕事に言えると思いますが、将来性のある仕事も必要のない仕事になってしまうと考えています。

こんな人が臨床工学技士に向いている、という人物像を教えてください。

病院では必ず一人、医療機器安全管理責任者を置いています。その医療機器安全管理責任者は臨床工学技士がなることが多いんです。そんな医療機器安全管理責任者に向いている臨床工学技士は、Excelでカチッカチッとできるタイプの人ですね。次のメンテナンス日の把握や機器に番号を振って、必要な場所へ必要な時間に設置できるなど、こまめなマネジメントができる人が向いています。

臨床工学技術科の体制について、教えてください。

現在12名の臨床工学技士が在籍しています。割合は男性9名、女性3名。女性は産休育休をとって、続けている方が多いです。部署は、血液浄化・内視鏡・心臓カテーテル・手術室に分かれています。その部署それぞれに主任がいます。手術室については発展途上なので現在主任はいませんが、実力をつけてもらってマネジメントできる人材を育てて、早く主任を配置していきたいと考えています。

現在、臨床工学技術科で管理している機器は、どのくらいありますか?

輸液ポンプ、シリンジポンプ、人工呼吸器、透析装置、除細動器、AED、麻酔器、ネイザルハイフロー、ナビゲーションシステム、ペースメーカ、NPPV装置、IABPなどがあり、まとめると管理している機器が10種類以上、合計で100台以上はあると思います。それらの機器をExcel台帳で管理していて、日常点検の他に機器によって年1回や半年に1回の定期点検を行っています。

夜勤やオンコールも含めて、貴院の勤務体系について教えてください。

定時は、8時30分~17時で途中に45分の休憩があります。早い時間の手術がある場合などは、7時30分出勤になります。

入職後すぐに入ることはありませんが、慣れてきたらオンコール担当があります。機器の準備ができるようになることと、分からない場合に先輩へ的確な連絡をして対応ができるようになったら、少しずつ回数を増やしていく形でオンコールを担当してもらっています。オンコールで呼ばれる仕事としては、心臓カテーテル・手術室・緊急透析・人工呼吸器の装着。オンコール対応ができるように、30分以内に病院へ着ける場所に居ることが必須になります。

月間の残業時間は、どのくらいですか?

担当によってさまざまですが、ピーク時は20~25時間くらいです。業務分担を考えながら、できるだけ30時間を超えないように科内で調整しています。

研修については、どのように進めていますか?

研修というか配属については、話し合いによる本人の希望を尊重しています。というのも手術室業務が立ち上げて2年で、まだ発展途上にあります。そのため手術室業務が成熟しないと、何年おきに各部署を回って研修ということができないため、手術室の業務確立までは適正と本人の希望を踏まえて配属を決めています。
各部署とも主任クラスを軸に、それ以外のメンバーの希望を聞きながらローテーションすることで、主力メンバーに育てられるようにと考えています。

仕事をする上での貴院の魅力は、どんなところですか?

いろいろな業務を担当できるところが魅力だと思います。例えば透析専門病院だと、透析のみしか担当できません。そのような方で透析以外の業務も担当したいと、当院に問い合わせが来るケースもあります。いろいろな考え方があると思いますが、若いうちに多くの業務を経験していると、将来の可能性は広がると思います。

あとは職員の中で、部活動を行ってるところですかね。釣り部やテニス部、野球部など、コロナ前はかなり活発に活動していました。今はコロナもあって忙しくそこまで活動できていませんが、部活動がモチベーション維持やスタッフ同士のコミュニケーションの場になっています。

最先端の技術を要する脳外科や整形外科で臨床工学技士は、どんなお仕事をされていますか?

脊椎手術や脳外科手術にてナビゲーションシステムを使用しています。特殊な器具を使用してターゲットとなる部分を三次元的に確認し、手術を安全に行うことが可能になります。臨床工学技士はナビゲーションシステムを準備、セッティングし手術中に操作をしています。

入交科長が、愛宕病院を選んだ理由を教えてください。

私の場合、透析だけでなく他の業務もやりたいという希望がありました。特に学生の頃から呼吸器関連に興味があったので、透析プラス医療機器管理ができるということで愛宕病院を選びました。私が入った時点では医療機器管理業務は無く、その業務を構築して欲しいと言ってもらえて一から立ち上げてきたので、そういう意味でのやりがいもありました。

どんな学生さんに、来て欲しいですか?

一番は、コミュニケーション能力の高い方に来て欲しいですね。医療の現場は、無言でやってしまうことが一番怖いです。目の前にある状況を的確に伝えられることがとても大切なので、そのためにコミュニケーション能力が重要だと考えています。それ以外は、働く上で遅刻をしない、ウソをつかないなど最低限の常識があれば、医療現場は大丈夫です。理系・文系もあまり関係無く、とにかくやる気がある方に来て欲しいです。

臨床工学技士を目指す学生さんに、アドバイスをお願いします。

臨床工学技士と聞くと、理系のイメージが強いかもしれません。私は臨床工学技士になるために専門学校で化学や物理、電気といったことを学んできましたが、高校は文系出身です。
臨床工学技士はこれから可能性のある職種なので、やる気があれば化学や電気が苦手だからと敬遠せずに是非、挑戦してみて欲しいです。そうは言っても臨床工学技士はまだマイナーで、イメージがわかないかもしれないのですが、「人を救う」ということに興味があれば、選択肢の一つとして調べてみてもいい、価値のある職種だと思います。
私自身もこれからの若い皆さんに希望を持ってもらえるような、臨床工学技士という職種にもっとしていきたいと思います。

 

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