広島大学病院
広島大学病院は、「全人的医療の実践」、「優れた医療人の育成」、「新しい医療の探求」を理念としてかかげる。2022年3月に国産初の手術ロボット”hinotori”(ヒノトリ)を導入し前立腺がんの摘出手術を実施した。ヒノトリを用いた手術の実施は国内5施設目。高度医療や先進技術などをいち早く取り入れ業界をリードしている。
病床数は742床。年間の手術数は、8,500件以上。
広島大学病院の診療支援部臨床工学部門には、20代8人、30代9人、40代5人の合計22人(女性5人)の臨床工学技士が所属している。
今回は、宮本聡史(みやもと・さとし)部門長と森重水貴(もりしげ・みずき)副部門長に話を聞いた。
宮本 部門長(左)・森重 副部門長(右)
間違えることは恥ずかしいことではない
Q.学校を卒業してすぐに広島大学病院へ入職されたのですか?
いいえ。呉市にある透析の専門病院と医師会系の病院を経て26歳の時に広島大学病院に入職しました。
Q.広島大学病院へ入職したきっかけは?
最初に勤めた病院では、透析業務だけをしていました。日本の臨床工学技士の資格であれば、透析も呼吸器も循環器もできます。一方、欧米では日本のように広い領域で業務を行うことができる資格はありません。”透析だけではもったいないのではないか” と思うようになり変化を求めて広島大学病院へ入職しました。
Q.広島大学病院へ入職されてどのような業務を担当してこられたのですか?
新しい分野を担当したいと思っていました。広島大学病院に入職して1年目は、救命センターの担当でした。臨床工学技士という資格があるのだから、ずっと「循環器系に携わりたい」と上司に伝えていました。入職してから2,3年が経って任せられた救命センターの業務をしっかりできるようになったので『じゃぁやってみる?』と言われてから循環器業務をやりはじめました。大変でしたけど、人生の中で一番充実していたのも27,28歳の頃だと思います。循環器の領域の知識をより多く身につけようというのがあったので、365日、毎日呼ばれるくらいの覚悟で勤務していました。
Q.そこまでの気持ちにさせたものは何だったのですか?
何だったんですかね・・・。勉強をしたり学会へ行ったりして色々なことが頭の中で描けるようになりました。描けたことと実際の患者さんの反応であるとか・・・答え合わせではないですが、循環器系は結構はっきりしていて、悪くなった人が確実に良くなるという領域です。こうしたらこうなるのだろうなと思ったことが合致することが興味深いところですよね。
医師らとカンファレンスなどをする際に、臨床工学技士の立場で意見を言って間違っていたとしても恥ずかしいことではありません。医師からしてみるとひとつの意見として聞くだけです。何も言わないと合っているか間違っているかもわからないですが、意見を言うことによって合っていると評価される場合もあります。言葉にしないと結果は出てこないので、声には出そうということをやってきましたし、若い人たちにも積極的に言葉にしていこうと伝えています。
大学院での博士(医学)取得
入職17年目の森重副部門長は、広島大学病院の臨床工学部門で初となる大学院での博士(医学)取得者となった。
Q.現在、どういった業務をしているのですか?
脳外科の手術について業務をしています。手術後に麻痺など様々な合併症が起きる可能性があります。合併症が起きないように手術中に特殊な医療機器を使って患者さんに処置を施しています。具体的には、機械を使って患者さんの運動、感覚、視覚、聴覚の反応が心電図のような波形で表れるのでその波形を解析してなるべく問題が起きないように手術中に取り組んでいます。
Q.どういうきっかけで博士課程を目指したのですか?
入職4年目のときに、厚生労働省からの通達でオペ室への業者の立合い制限が行われるようになりました。脳外科手術の人手が足りなくなるということで私に声がかかりました。はじめはとても困りました。守備範囲外でしたし、初めて触れる機器や言葉ばかりでした。ただ、新しい領域にチャレンジできるという期待感もありました。医師らからのすすめもあり、2010年から大学院へ通いはじめました。
Q.臨床工学技士の仕事を続けながらですか?
病院長の許可があれば、働きながら大学院へ通うことができます。業務後に受けることができる講義を探して出席し、座学は1年目で取り終えることができました。そこから少し時間はかかりましたが、研究もまとめることができました。
Q.どのような内容の論文をまとめられたのですか?
脳外科で取り組んできたことの一部で、手術後に患者さんが合併症を起こさないということを目的としています。手術中は、麻酔薬や筋弛緩薬をはじめ、手術そのものとは関係ない影響を患者さんが受けているのでそういった要因を排除して適正な手術中の脳機能を評価する方法の提案をしました。
Q.森重副部門長の功績は、部内にも良い影響を与えていますか?
そうですね。なによりも医学系の国立大学で医学博士を取得したということが素晴らしいですね。森重副部門長に続きたいという人も出てきています。
Q.博士(医学)を取得して変わったことはありますか?
医師たちの反応が変わりました。より密度の高い話ができるようになりました。また、医師が多く出席する学会で発表する機会も増えました。後輩たちの礎やきっかけになることができているのであれば嬉しいことです。
1日のスケジュール
●森重副部門長のある日のスケジュール(手術のある日)
定時 8:15~17:00
8:00 出勤
8:15 入室 オペ準備
9:00~17:00 手術、適宜休憩・昼食(60分)
17:00片付けなどをして終業 ※症例によって手術時間が変わる
●森重副部門長のある日のスケジュール(手術のない日)
定時8:15~17:00
8:15 出勤
8:25 カンファレンス(10~15分程度)
8:40 オペ室 機器のメンテナンス フォロー/リーダー業務など
11:00~14:00 外来業務
14:00 休憩・昼食(60分)
15:00 オペ室 機器のメンテナンス フォロー/デスクワーク(医療機器の更新手続きなど)
17:00 終業
残業は、月10時間程度。月に2回程度宿直を担当。
宿直勤務がある人は、土日祝勤務あり。待機勤務がある人は、土日祝日勤務なし。なるべく業務を均一化できるようなシステムをとっている。
臨床工学技士としての武器
Q.資格取得や学会発表に関する補助はありますか?
あります。研修費や宿泊費の補助が病院側から認められる場合もありますし、もし認められなくても部門で費用を持っているので研修費や学会にかかる費用に充てることもできます。学会発表は、入職してから3年目までに1回はしてもらうようにしています。学会でも研修会でも良いのですが、自分たちが何をしてきたのかといことを形で残してほしいからです。臨床工学技士は、たくさんの患者さんをみてきたとしてもなかなか伝わりません。病院側からも業績の出し方を意識するようにいわれていますのでその辺りを理解してもらいたいという狙いがあります。
Q.入職するとどのようにして勤務を覚えていきますか?
3年前から臨床工学部門では宿直をしています。臨床工学技士全員にある程度の臨床対応ができるようになってもらいます。学校を卒業してすぐの人は、1年。ほかの病院での経験がある人は半年程度で宿直業務に就いてもらいます。ある程度の臨床対応ができるというのが、救命センターや緊急でしなくてはならないカテーテル業務、病院内で使っている呼吸器やオペ室で使っている機械の対応というものです。最初の1年間で宿直を担当できるようにして、加えて次の2年間で専門的な分野のサポートに入ってもらうというのを現在行っています。3年目の段階で適性や本人の意向も踏まえてどの領域を担当していくのかを決めます。宿直の業務は継続していくので、スペシャリティな部分だけではなくジェネラルな部分を残しつつというのが、いまのうちのスタイルですね。
求める人材
具体的に希望や目標をある程度持っていて、それを漠然と思っているだけではなく言葉にできる人がいいですね。年齢を重ねた時にそれぞれ武器を持っていてほしいというのがあります。武器というのは臨床で身体を動かすだけではなく、これまでこういうことをしてきたという実績を言葉で表現して誰かに何かを伝えられるということです。将来的には、臨床工学部門全体をそういう方向へ持っていけたらと考えています。
《見学問合せ》
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広島大学病院総務グループ
Tel.082-257-1787
広島大学病院 診療支援部 臨床工学部門
〒734-8551 広島県広島市南区霞1-2-3 Tel.082-257-5555 (代表)
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