大阪府済生会吹田病院は、1945年(昭和20年)に開設。大阪府地域周産期母子医療センター等の認定を受け、がん医療、救急医療、小児・周産期医療、生活習慣病等の疾患に積極的に取り組んでいる。病床数は、ICU:集中治療室6床、NICU:新生児集中治療室6床、GCU:新生児強化治療室及び回復期治療室4床含む440床を持ち、臨床工学科は、9名(うち女性1人)と少ない人数でありながら、透析業務、保守管理業務、呼吸器業務、循環器業務、手術室業務をこなしている。
また、日々の業務だけでなく臨床工学技士のスキルアップにも力を入れている。研修や大学院進学の応援、医師や看護師などへ向けた院内勉強会も開催するなど、教育にも手厚い。さらに、臨床工学科の有給消化率は80パーセント。残業数は月間約10〜20時間。どうやって日々、多忙な業務をこなしているのか、臨床工学科の木村雄一(きむら・ゆういち)技士長と亀井亮太(かめい・りょうた)係長に話を伺った。
臨床工学技士になりたいと思ったきっかけは?
元々は、臨床検査技師になろうと3年制の短期大学に入っておりました。3年生になって就職を考えている矢先父が透析になりまして、その時に臨床工学技士の仕事を知りました。臨床工学技士は、検査技師と違って、機械を通して患者さんと関わる職種です。私も、父のように病気を患っている方の手助けをしたいと思い、臨床検査技師ではなく臨床工学技士の道へ進もうと考えました。臨床検査技師の免許を持っていると、臨床工学技士の資格を取れる学校へ入学することが可能です。そのため、入学後1年で臨床工学技士の資格を取得が出来しました。私のようにダブルライセンスの方は多くいらっしゃいます。
実際、臨床工学技士として働いてみて、どんなところが魅力だと感じますか?
当然ですが、医療機器を幅広く扱うことが出ます。そして患者さんや医師、看護師、院内スタッフとコミュニケーションが出来るというのが非常に魅力的だったなと思います。仕事を始めてから感じたことですが、セミナーなど勉強会が色々ありますので、自分の知識を広く深める機会がたくさんあります。当院では、スタッフの教育に力を入れており、私自身も資格を取得するだけでなく、学問を深めるために医療系の大学院へ行かせていただきました。そのような協力体制も当院の特徴です。自分のスキルを深めていくことが出来るのは医療職にとって良いことだと思います。どんなスキルを身に付けたいか、自分のキャリア作りも非常に分かりやすくなっていきます。
亀井係長の1日のスケジュールを教えてください
7:00過ぎ 起床
8:00頃 出勤
8:20 始業 各科に行って朝の準備
8:30 朝礼 各業務に振り分けをしていくので、人によって全く流れは変わります。
11:00か12:00 二つのグループに分けて昼休憩(40分)。午後に20分休憩をとる
13:0 透析業務ピーク
16:30 業務終了
残業は基本残業当番がひとりで担当。ただし、症例によっては2名体制で残業を行う。
係長含め、新人を除いた技士6名で回す。
1日の残業平均時間は、2〜3時間。
月の残業時間は、10〜20時間。
新人を除いた技士はオンコール体制。
勤務時間内に医師など他スタッフへの機器勉強会開催、プリセプター制度(先輩であるベテラン職員がプリセプター(教師や指導者の意味)となり、見習いの新人職員(プリセプティー)をマンツーマンで指導や調整役を担う新人研修制度)による指導が入る。
入職をして、どのような研修が始まりましたか?
まずは透析センターの方に入って、同時並行で人工呼吸器やカテーテル業務にも携わりました。当院はオンコール義務がありますので、1人で対処出来るまでが研修となります。大体入職して半年後の10月から徐々に先輩のフォローなく業務が行えるようにし、次の年の3月まで1年かけて1人でオンコール体制が取れるのが研修の目標です。もちろん、オンコールが基本1人体制であっても、症例によっては2人体制や先輩がつき、電話で指導や指示をいただくこともあります。
研修が終わったら、2年目の目標としてはダヴィンチ(内視鏡手術支援ロボット)やペースメーカー業務が出来ることが大体の目標になりますね。
当院は440床ありますので、各臨床工学技士が業務を幅広くこなさないといけません。血液浄化業務、呼吸器業務、心臓カテーテルやペースメーカー業務があります。また、手術室にも入ります。誰でもすぐには上達出ませんので、各業務先輩の指導が入り、徐々に覚えていきます。
業務に入って、ギャップなど感じたことはありましたか?
命に関わる仕事ですので、ちょっとのミスでも患者さんを死に追いやってしまう可能性があるという緊張感は、入職前に想像していたより重く感じました。
ボタンを一つ間違えば患者さんが亡くなることもありますので、そういった責任感は業務に入ってからひしひしと感じました。
印象に残った患者さんとのやり取りがありましたら、教えてください
以前、呼吸器をつけたお婆様がいらっしゃいました。お婆様は意識がなかったのですが、技士長はじめ先輩から、「意識のない方でも声をしっかりとかけてきなさい」と教わりました。
ラウンド(院内見回り)に行ったとき、他の患者さんと同じようにお婆様にも「今日はいい天気ですね」など技士長はじめ技工士みんなが毎回声をかけていました。お婆様にはお二人娘さんがいらっしゃったのですが、我々が声をかけている様子を見ていたようで、お婆様が転院されるときに、スタッフ一人ひとりにお手紙をいただきました。とてもありがたく感じました。と同時に、意識のない患者さんであっても、家族にとっては変わらず大事な家族であるということを身にしみて感じました。そのことは今でも印象に残っています。
今現在の亀井係長の目標を、教えてください
後輩を指導する立場にはなってきましたけども、医療人として倫理感を持ち、その想いを大切にしつつ勉強をしっかりとし続けなければならないという自負があります。ですので、まだ取得していない認定集中治療関連臨床工学技士などの資格を今年も取ろうと思っています。また、大学院を卒業して5年が経ちましたが、通信制大学で他の勉強も少しずつ始めたいですね。勉強したことを患者さんに還元していくことが、やはり医療人として必要ではないかと思います。
勉強の内容は、臨床工学技士のゼネラリストとしてスキルの範囲を広げていく勉強ももちろんですが、他の学問や教養も身につけていきたいと思っております。これは大学院在学中に非常に感じました。英語や歴史や国語など、自分の裾野を広げていき、人としても豊かになっていくことが、医療従事者としての倫理感を培う上では必要かなと思っています。
臨床工学技士さんに向いているタイプはありますか?
非常に難しい質問ですが、やはり向いている方というのは、ある程度コミュニケーション能力がある方だと思います。医療機器に携わっていますが、患者さんと接することが少なくても、医師であったり看護師であったり、機器を使っていただく方とお話をする機会が多々あります。
そこでうまくコミュニケーションを取れないと、機械の正しい使い方を伝えられず、看護師が操作をミスしてしまう事態も起こりかねません。ですから、正しいことを伝える、相手の業務も理解した上で丁寧にコミュニケーションを取る、ということは大事な業務の一部なのです。また、看護師が困ったら「後で見に行きます」とかフォローをしっかりと出来ることも大事だと思います。細かい人の方が現場ではいいのかなと思いますね。
例え、口下手でも、看護師が困っていたら、ちょっと見に行ってあげるとか大丈夫かどうか確認するフォローがしっかり出来るならいいかな、と思います。
臨床工学技士さんを目指す学生さんへアドバイスはありますか?
医療従事者の仕事は、キャリア構成やスキルアップの環境が整っている恵まれた職業だと思います。臨床工学技士は直接、患者さんと触れ合う機会はあまりありませんが、機械を通してそこに患者さんがいるということをしっかり理解していただければ自ずと心配することはないのかなとは思います。
大学院で教わって非常に感銘を受けたのは、「臨床工学技士は、機械を通して患者さんの体を見ているけど、それは本来家族がしてあげたいこと。でもそれを技士に、依頼をしている」という言葉です。なので、私は機械を通して患者さんを見ていますが、これは全部、患者さんの家族の目でもあると常に思っています。
ペースメーカー部門もありますが、立ち上げは何年前でしょうか?
本格的なのは10年ぐらい前です。そこからぼちぼち広げていったという形ですね。実は、亀井は一旦当院を退職し循環器専門の病院に転職しています。当時、亀井は循環器業務を本格的に学びたいという意思が強く、転職の相談を受けました。私も彼を応援したい気持ちがありましたので、快く送り出しました。転職先の病院は、ペースメーカーを始め、不整脈や心臓血管などの分野に非常に強みを持っている病院様でしたので、彼が学びたいことは全て学べたようです。数年後に、ちょうどこちらのペースメーカー部門が本格始動したところ、亀井の要望でまた当院に戻ることになりました。相手の病院様も快く受けてくださったので、亀井が学んだことを当院で役立たせていただいております。
今後も、このように新しい業務や部門が立ち上がる可能性はあると思います。タスクシフトという医師業務軽減の動きがありますので、臨床工学技士の業務の範囲は広がっていくと思います。
学生さんにどのような視点で貴院を選んでいただきたいですか?
当院は440床を現在9名の臨床工学技士で回しているので、1年でいろんな業務に携われる点が大きな魅力かと思います。ですので学生さんからもいろんなこともやってみたいという方には、当院が向いているのかなと思います。私の方で目標としているのが、安全な環境作りですね。
医療機器のトラブル対応、一次対応は全てうちの科に連絡していただくようにお願いしています。医療機器に関してはトラブル件数が多く、昨年度は大体300件ぐらい年間対応しています。今年度であれば多い月は月間35件ぐらいトラブル対応をしています。機器の操作に困っている場合もかけつけています。あとは、臨床工学技士が主体となり院内スタッフへ向けて教育や研修を開催しています。やはり安全な環境を作るには、医療機器を正しく操作する必要があります。新規で除細動器や12誘導心電図が導入になった時は、それぞれ40回程度の説明会を開催しました。コロナ禍で依頼が減りましたが、以前は年間150回程度開催しています。それは当院の特徴かなと思います。ですから教育や、職員に対しての指導に興味持たれる方は、当院に合っているのではないかと思います。
有給消化率は何パーセントですか?
有給消化率は80パーセントで、昨年は各技士、年間20日以上有給を消化していましたね。院内でも多い方だと思います。待機明けで朝まで業務をしていると、そのまま仕事をさせるわけにいかないのでそこで有給を使ったり、勤務表は既に出来ているので、カテやオペが入らない週があると、余裕があれば有給を取らせたり、そういう形でちょこちょこ取れるときに取って頂いています。また、PCPS(補助循環)が回ると急遽当直業務になります。明け勤務が発生するため、その月の休暇が消化できないことがあります。そのため、毎月1日は有給希望をもらうようにしています。仕事だけでなく、プライベートも充実してほしいと思っているので有給消化が出来るよう工夫しています。
どんな方に、入職していただきたいと思っていますか?
先ほど亀井も申したとおり、最初の研修を1年と目標していますが、僕は5年後10年後を考えたら、指導に2年かかっても頑張れる方に入っていただきたいと思っています。例え、2年研修が続いたとしても、5年後10年後から見れば「あの時、ちょっと時間かかったね」ぐらいの印象しかありません。ですのでモチベーション高くやってくれる方を、指導したいなとは思います。逆につまずいてしまう方に多いのが、自分を俯瞰出来ない方ですね。出来る方は自分が出来ているか出来ないかというのが見えているのですが、出来ない人は他人が出来るか出来ないかはわかるのに、自分になるとなかなか見えなくなってしまいます。ですので、俯瞰して自分が今何をどこまで出来るのか、何が出来ないのかっていうのをきちっとわかることが大事だと思います。自分は出来ていると思い込むのではなく、自分を俯瞰して冷静に自分を評価出来れば、業務の習得に多少時間がかかってもいいと思っています。「いや僕はここまでしか出来ません、これが分かりません」って言える方が僕としては安心して指導が出来ます。
自分のスキルを確認出来る制度はありますか?
スキルのチェックリストを用意しています。新人は自分が出来る業務に丸をするんですけど、新人を指導する2年目以上の先輩(当院ではブラザー・シスターと呼ぶ)にも評価をさせます。お互いが新人のスキルに対し、丸をつけるのです。本当にその業務が出来るのかを先輩の目と本人の思い込みをすり合わせ、都度ずれがないように整理していきます。チェックリストの結果を見て、それを謙虚に受け止めて、成長していける方が、つまずいても成長出来る方という感じですね。プリセプター制度は準備していて、週1から3日おきに、ブラザーシスターが新人を指導したり、相談を受けたりして本人がつまずかないように努めています。また、ブラザーシスターも、どういったことを指導したのか報告を上にする仕組みがありますので、上下の繋がりはとても濃いと思います。
臨床工学技士さんを目指す学生さんに、勉強以外でのアドバイスを教えてください
臨床工学技士は、医療機器のスペシャリストというイメージを持たれている方が多いですが、やはり病院に入ると、コミュニケーション能力がすごく必要になっていきます。勉強会だけでなく、治療するにしても、看護師や医師とも話す機会がありますし、医療機器の整備や修理について事務方と話すこともあります。意外とコミュニケーションを取る機会が多いですね。ですので、コミュニケーションはすごく重要な仕事だということを認知していただいて、コミュニケーション能力を身に付ける準備もしておくことが大事かと思います。
大阪府済生会吹田病院 臨床工学科
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