がん研有明病院
前身の癌研究会は、日本初のがん専門機関として、1908年(明治41年)に創設。がんがあまり知られていなかった時代に「がん撲滅をもって人類の福祉に貢献する」という目標を掲げた。
1934年(昭和9年)には、がん研究所とその附属病院が西巣鴨に開設された。現在、病床数は、686床で、年間8,800件のがん手術を行なっている。初診から入院・退院後の生活に至るまでの一貫した支援を行うトータルケアセンターを発足し、時代のニーズに合わせたがん専門病院として患者を支えている。
がん研有明病院のM Eセンターには、11人(女性8人)の臨床工学技士が所属している。今回は、山田沙織(やまだ・さおり)副技士長と鈴木幹子(すずき・もとこ)技士に話を聞いた。
目指したきっかけ
Q.お二人が臨床工学技士を目指したきっかけを教えてください。
高校生のときに進路を考えていて、医療職を希望していました。小さい頃から機械が好きでした。時計を分解してまた組み立てるというようなことをしていましたので、放射線技師か臨床工学技士かで迷っていました。先生に相談したらまだまだ可能性を秘めている臨床工学技士の方が良いのではないかというアドバイスをもらったのでこちらの道に進みました。
私は、一緒に住んでいた祖母が慢性腎不全で10年ほど人工透析を受けていました。その姿を見ていたので、何か力になれたらなと思い医療の世界に興味を持ちました。『これからさらに活躍の場が広がる職種では』という知人からのアドバイスもあり、臨床工学技士を目指しました。
Q.山口県のご出身で地元に近い病院で勤務していたと聞きました。上京しようと思ったきっかけは何かあったのですか?
友人が卵巣がんになって、20代で子宮を全摘出しました。『もしかしたら(子宮を)温存できたかもしれない』というのを医療関係者から聞いて、最先端の医療を見てみたいと思い当院に入職しました。
働きやすい環境を目指して
Q.こちらは女性技士が多いですね。
山田副技士長
そうですね。男性社会の中でも女性が働きやすい環境づくりを目指しています。当センターは、オペ室I C U業務(CART含む)部門と外来病棟機器管理部門の2部門体制になっており、それぞれの部門に主任がいます(外来病棟機器管理部門は医療安全管理部も兼務)。一般的には、臨床工学技士というと男性技士のイメージが強いかもしれません。部門毎で固定はせず、週代わりでローテーション業務を行っています。専門性を極めたいという本人の希望や能力があれば男女問わず勤務できるようになっています。
Q.研修の体制はどのようになっていますか?
まず、入職1年目~2年目は全部の科をローテーションします。解剖を理解するために当院では、オペ室から(研修に)入ります。そのあと、I C U業務を覚えてもらいます。個人にもよりますが、独り立ちするのは2年くらいですかね。血液浄化などの症例がどうしても少ないので。毎日のようにあればもっと早いのでしょうが。座学はいくらでもできるのですが、経験するとなると難しいです。当院で経験できない症例に関しては、コロナ禍前は他病院と連携を取り、研修に参加していました。コロナが終結したら外部研修も再開を予定しております。
1日のスケジュール
鈴木技士のある日の業務 ※オペ室担当の日
定時 8:30〜17:05
8:00出勤
機械の点検・準備
8:10~入室開始 オペ室業務開始
10:00 MEセンターカンファレンス
11:00〜13:00 交代で休憩を1時間取る
13:00~16:00 オペ室業務に戻る(午後入室の機器点検、随時終了したオペの片付け等、翌日の準備)
17:05退勤(オンコール、残業係へ引き継ぎ)
オンコールは、交代制で1人あたり月に3〜4回程度、月間残業20~30時間程度(PHS持ち帰り)。オンコール1人(18:35~翌8:30)、それをサポートする残業係(業務が終わり次第帰宅)を2人付けて3人体制にし、負担を減らす努力をしている。時短勤務はもちろん、在職中のパパ技士の要望で週2回子どものお迎えのため優先的に定時で終業できるようにするなど、子育て中の技士たちにとって働きやすい環境も整っている。また、資格取得の為の研修や大学院で勉強したい技士にとって有休がとりやすい環境も当センターの特長だ。
手術だけではない
手術支援ロボット4台を有するがん研有明病院。ロボット支援下手術は、年間600件にのぼる。内視鏡外科手術と合わせると、がん手術(年間8,800件)の3分の1を占めている。
Q.やりがいは?
鈴木技士
もちろん、高度機器を使って医療を提供できるということも当院の魅力ではありますが、それだけではありません。CART(腹水ろ過濃縮再静注法)※ を例にあげると、内臓と腹膜の間に過剰に溜まった水は、腹水といってお腹の圧迫感や苦痛になります。溜まった腹水を抜いて、栄養分を戻すことで食事が取れなかったり動けなかったりするような患者さんが日常生活に戻れるようになるのは嬉しいことです。また、抗がん剤も投与できるため、だんだん腹水が貯まらなくなっていった症例などもあります。アクティブなところにもフォローできるのが当院のCARTの特長です。
※がんや肝硬変によって溜まった腹水から有用なタンパク質成分を取出し、再び体内に戻す治療
鈴木技士は、都内のCART専門のクリニックでの勤務経験があり、その技術と経験をがん研有明病院でもぜひ活かしたいと積極的にカンファレンスへの参加や院内勉強会での講師を務め、先生方にCARTを広めることで業務を確立させています。
臨床工学技士の将来
これからどんどん機械がメインになっていくので、今私たちが行っている業務の中にはなくなるものもあると思います。日々の仕事の中で「どうしてこれこうなっているのか?」「どうしてこの患者さんこうなっているのだろう」と疑問を持つことは、人間だからこそ。機械にはケアすることのできない小さな変化に気付くことで(機械を)使う人になっていかなくてはいけないと思っています。
将来的には、当院の売りのひとつでありますロボット支援下手術が普及し優秀な先生の治療を遠隔で受けることができるようになるはずです。高度な医療が地方でも受けられる時代が来るのではないかと思っています。臨床工学技士も自分の得意分野を生かして今の資格にプラスアルファしたようなより専門性の高いスペシャリストがこれから生き残っていくには強いのではないでしょうか。