【臨床工学技士インタビュー】淀川キリスト教病院の3年間の経験で、どこに出しても恥ずかしくない臨床工学技士のジェネラリストになる

宗教法人在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院

当院は1955年に米国長老教会の婦人会の誕生日献金をもとに、戦後、医療施設が少なく、戦争の被害も甚大であった淡路(大阪市東淀川区)の地に、米国長老教会の医療宣教師ブラウン初代院長によって建てられた病院です。創立から現在に至るまで理念である“全人医療”、すなわち、“からだとこころとたましいが一体である人間(全人)にキリストの愛をもって仕える医療”を一貫して受け継いでいます。
キリスト教精神に基づいた「全人医療」を実践し、患者さんならびに地域医療機関に最も信頼される中核病院であること。そのために、「生命の始まり=周産期医療」「存続への危機=急性期医療、救急救命医療」「生命の終末=エンドオブライフ・ケア」において高度であたたかな医療を提供することが淀川キリスト教病院の基本方針です。

当院には、創設者であり初代院長である<フランク・A・ブラウン>から、代々受け継がれる「7つのビジョン」があります。我々はこれらを「全人医療」を実践するための指針とし、より質の高い医療の提供に励んでいます。

1. 患者中心の医療
2. 地域社会の病院
3. チーム・ワーク
4. 教育と研究の病院
5. 資金的安定
6. 外部からの援助の必要
7. キリスト信仰が人生によろこびと意味を与える

大阪臨床工学技士会の理事で、臨床工学課の課長を務める宮本哲豪(みやもと・てつひで)技士にお話を伺った。

宮本哲豪 課長

宮本課長

臨床工学技士になるきっかけ

医師になりたくて浪人生だった時に、定期購読していた「医歯薬進学」と言う雑誌(出版社:玄文社)で臨床工学技士の紹介記事を見て興味を持ったのが最初でした。大阪にも学校があると言うことで、3月初めに学校見学に行ったところ、今受験すると4月から入学できると言われ、とんとん拍子に臨床工学技士の学校に入学することになりました。

今まで、浪人生活で一人でしたので、全国各地から色々な人が来て、友達が出来て学校生活は楽しかったです。友達の下宿先に集まってテスト勉強をするのも楽しく、教科書も定まっていないような時期でしたので、先生といっしょに新しい道を作っているような面白さがありました。

入職してみて

1病院目は、堺市にある総合病院の分院(透析専門)に入職しました。その当時は、どこの病院に行っても、臨床工学技士の仕事は血液透析だけのところが多かったです。そこでは6年お世話になりましたが、キャリアアップをしたくて2000年に転職しました。

卒業した学校の先生より淀川キリスト教病院を勧められて見学に行ったのですが、とても大きな病院で、ワクワク感がすごかったのを覚えています。その後、採用試験を経て、運よく入職させて頂きました。入職時、臨床工学技士は3名で、やはり透析業務のみでした。

大きく業務が変わったのは、2004年です。心臓血管外科が開設されたのがきっかけで、人工心肺業務が始まりました。舞鶴の病院から、立上げに来て頂いた職員もいましたし、その当時は、今では考えられないですが、メーカーさんの立ち会いがあり、直接教えていただきましたので、3年目から人工心肺をまわせるようになりました。

人工心肺の業務を皮切りに、MEセンターの立ち上げ、血管造影室、内視鏡センターでの業務、呼吸療法サポートチームへの参加、手術支援ロボット(da Vinci)の準備など業務を拡大して、あっという間にスタッフが増えて、今では21名になっています。

当院の方針は、ジェネラリストの養成なので、例えば月曜日と木曜日は手術センター、火曜日は透析センター、水曜日は血管造影室、金曜日はMEセンターというように、1人が複数の業務をこなすことで、シフト調整がしやすく、均等に休める体制を築いています。このような体制のおかげで、診療報酬において、特定集中治療管理料が新設された際は、臨床工学技士の24時間当直体制を早くに築き上げることができ、大きな貢献となりました。

1日の業務の流れ

出勤時間:8:00~16:50(早出)、8:30~17:20(定時)、11:30~20:20(遅出)、当直17:20~8:30(当直明けは12:30までの勤務ですが、半日有休を申請すれば8:30に帰宅することもできます)

(透析センター)
8:00 プライミング(早出出勤)
8:30 定時出勤
透析センター朝礼(臨床工学課の朝礼も兼ねています)
8:45 患者さん入室、順次穿刺開始
11:30 遅出出勤
11:00~14:00 交代でお昼休憩1時間
14:30 2クール目穿刺開始
16:50 早出退勤
17:20 定時退勤
20:20 遅出退勤

透析センターは「月・水・金」が2クール、血管造影室では心臓カテーテル検査・治療が毎日あり、カテーテルアブレーションは「月・木・金」、手術センターでの人工心肺業務は「月・木」、ステントグラフトは水曜日です。スタッフの月間残業は平均15時間です。

入職者研修

当院ではジェネラリストを育成します。3年目で当直に入れるような教育をします。

1年目は、透析センターでプライミング、穿刺などをプリセプター制度で覚えて行き、1年で透析業務をマスターします。

2年目は、いよいよジェネラリストとして業務を覚えてもらいます。透析に加え、人工呼吸器の操作や血管造影室での業務を当直の出来るレベルまで、身につけます。緊急の人工心肺業務ではオンコール者2人が到着するまでのリードタイムで人工心肺装置の準備をします。

資格、告示研修について

各種認定士は、今のところ病院として評価の対象になっていないので、取得に際して費用のサポートはありません。しかしこれまで自己研鑽として、各自でさまざまな資格を取得してくれていますし、先ず、評価の対象にしていきたいと考えています。

また、施設要件になる体外循環技術認定士は、講習受講料などの全額援助は行っています。

さらに医師の働き方改革、タスク・シフト/シェアに伴い、「告示研修」の費用は出ます。

告知研修を受けない場合、デメリットはありますか?

血液透析の業務のうち、これまで明確になっていなかった、表在化された動脈もしくは表在静脈への穿刺、抜針および止血ができなくなります。

しかし、告示研修を修了することで、従来の業務範囲であった「シャントへの接続または除去」から発展した業務ができるようになります。

さらに、以下の業務を行うことができます。

① 手術室または集中治療室で生命維持管理装置を用いて行う治療における静脈路への輸液ポンプまたはシリンジポンプの接続、薬剤を投与するための当該輸液ポンプまたはシリンジポンプの操作ならびに当該薬剤の投与が終了した後の抜針および止血

② 生命維持管理装置を用いて行う心臓または血管に係るカテーテル治療における身体に電気的刺激を付加するための装置の操作

③ 手術室で生命維持管理装置を用いて行う鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持および手術野に対する視野を確保するための当該内視鏡用ビデオカメラの操作

告示研修を受けないと、医師の働き方改革、タスク・シフト/シェアと言われる業務が全く対応できない臨床工学技士になりますので、私見ですが、将来「S級臨床工学技士」、「A級臨床工学技士」などと区別して給与格差を設ける病院も出てくるのではないでしょうか。

「当院における電波環境の現状の課題」という論文について

大学院に行っていた時の研究テーマです。2022年3月に医療安全管理学修士を取得しました。院内の無線LANを対象にした研究で、生体情報モニタでも無線LANを使う製品があり、当院でも一部の病棟で使用しているので、私物のモバイルルータと電波干渉を起こして、セントラルモニタに数値、波形が出ない等のトラブルを危惧しました。

研究ではRaspberry Pi(小型コンピュータ)を用いた調査により、院内には多くの無線LAN電波が飛んでいることがわかりました。これらのデータからセントラルモニタに不具合が起こらないように電波環境の整備をしています。

新しい医療機器ですと、無線LANを利用できたり位置情報を把握するシステムも製品化されていたりするので、無線LAN活用機器の把握、チャネルの一括管理やアクセスポイントの改善などを情報管理課のスタッフといっしょに部署連携で取り組み、医療安全の確保に努めています。

今後、サイバーセキュリティ対策、医療DXの推進も臨床工学技士が関わってやっていきたいと思っています。

福利厚生

職員が当院で診察すると、診察料が補助される制度があります。

そして、当院の一番の特徴としては、労働組合があることです。給与・賞与アップの交渉などもしてくれます。(職場に労働組合がない場合、産業別労働組合のユニオンに個人で入っているかたもおられます。)新入職員歓迎会をホテルで行ったり、コロナ前は一泊旅行、日帰り旅行などを行ったりしていました。また再開されると思います。

また、職員がワークライフバランスのとれた勤務ができるように、働きやすい環境づくりをしています。メンタルヘルス推進課や職員専用の保育施設「こひつじ保育園」、病児保育の設置や職場復帰プログラムなどがあります。

クリスチャンは全職員の6~7%くらいなのですが、毎朝15分間の礼拝が職務時間内で行われています。礼拝は院内に音楽コンサートなども行うことのできるチャペルで行います。

淀川キリスト教病院の臨床工学技士になる

当院は、学生さんが多く見学に来てくれますが、学生さんから、『私をどんなCEに育ててくれますか?』 という質問をよくいただきます。

「3年で当院外に出ても恥ずかしくない臨床工学技士のジェネラリストとして、一通り経験をさせてあげることができます。3年で広い範囲にわたる仕事に携わってもらい、そして深くやりたい業務が見えてくるところまでは、育っていける環境です」と説明しています。

3年とは言わず、長く私達と一緒に勤めて、希望する分野のプロフェッショナルになって欲しいですけどね。

臨床工学課担当部長 莇医師(左)・臨床工学課 宮本課長

臨床工学課担当部長の莇 隆 医師(心臓血管外科部長と院長補佐も兼務)にも、『スーパースターは求めていない。知識・技術面でも精神面でも、コツコツと仕事をして、ひとつひとつ階段をのぼってくれるような人材が欲しい』と言ってもらっています。

 

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