愛知医科大学病院
約半世紀にわたり地域の人たちに安全かつ高い医療を提供してきた愛知医科大学病院。救命救急センターは、愛知県の高度救命救急センターとして定められており、重度熱傷や急性中毒といった特殊な救急患者に対しても、24時間365日対応している。2021年の救急車の応需は、94.3%。また、高度な医療の提供・開発・研究を担う特定機能病院として厚生労働省から承認されている。22の診療科があり、病床数は、900床。愛知医科大学病院で働く臨床工学技士は、21人(女性4人)。今回は、勝啓佑(かつ・けいすけ)副技師長と黒田貴樹(くろだ・たかき)技士に話を聞いた。
Q.臨床工学技士になろうと思ったきっかけは?
勝 副技師長
私自身が幼少期に病気になったことがあり、そのときに病院スタッフの方々によくしてもらったという印象がありました。加えて手に職をつけたいとも思っていましたので、医療系を希望しました。それと、小さい頃から物づくりが好きで様々なものを作っていました。ときには、時計などを分解して直せなくなり怒られたこともあります(笑) 父親が建設関係、母親が医療関係の仕事をしていましたので、私はハイブリットのようなものですね。
黒田 技士
私も小さい頃から機械をいじるのが好きでした。父親も機械系の仕事をしていたので、ラジコンやパソコンなどいろいろ触らせてもらいました。高校は、工業高校の電子科に進みました。そこで人工心肺を動かす臨床工学技士の存在を知りかっこいいと思いました。両親に進路の相談をしたら、大学進学に賛成してくれました。同級生たちがほとんど就職する中、大学進学を選択するのは珍しかったです。
臨床工学技士の現場
Q.実際、臨床工学技士として働いてみていかがでしたか?
愛知県内の専門学校を卒業後、様々な業務に関わりたいと思い最初に入職したのが京都の病院でした。臨床工学技士も約50人と大勢いました。透析業務、集中治療室業務、機器管理など幅広く業務に携わることができ充実していました。
ただ、本当に色々な業務を請け負っていて設備のような仕事もしていました。臨床工学技士に対するニーズは年々増えていますが、臨床工学技士の業務の幅の広さやこれからの可能性に魅力や責任を感じています。
私も愛知県内のほかの病院勤務を経て、愛知医科大学病院に入職しました。臨床工学技士としてのキャリアは6年目になります。まだまだ勉強中ですが、患者さんによって状況が違いそれに伴って対応も変わってくるので勉強をすればするほど奥が深い仕事だなと感じています。
現在は、元々やりたかった人工心肺業務をしながら、手術の無い日にはICU業務など様々な業務に携わっています。
1日のスケジュール
黒田技士のある日の勤務※心臓外科手術がある日
定時8:30~17:15
8:00 出勤
情報収集など
8:30 患者さん入室
- 手術前準備
- 麻酔科補助
- 機械装置点検
- 人工心肺準備※タイムを測る
10:00 人工心肺操作
14:30 昼食(1時間)
15:30 医師との反省会
16:00 患者さん退室
16:30 片づけ、次の日使用する機材準備など
17:15 終業
- 手術終了が早い日は、ICUや手術室など他部門の補助。
- 愛知医科大学病院では、約7年前に当直がはじまった。
- 当直は、1人体制だが各部署オンコール担当者を設け、当直で対応できない場合にはフォローに入る。
常に訓練・常に本番
Q.医師との反省会ではどのようなことを話すのですか?
輸血の必要性や血圧管理など、反省点(または良かった点)臨床工学技士目線で管理に難渋したことなどを簡単にディスカッションしています。正解があるわけではないのですが、今後さらによくしていくためのコミュニケーションの場となっています。
Q.準備やトレーニングをするのにタイムを測るとありますが、何のためですか?
緊急時でも迅速に回路を組めるように通常の業務のときにトレーニングをしています。症例が多い病院では手術の前などに人工心肺を準備すると思うのですが、愛知医科大学病院では、心臓外科の医師の希望もあって患者さんに麻酔がかかった状態で、ある程度の手技が終わってから人工心肺を組みはじめます。緊急時にすぐに回路を組めるよう、あえて厳しい状況において日々実務と訓練を兼ねています。
働く環境を整えて
Q.入職後の研修体制はどのようになっていますか?
愛知医科大学病院の臨床工学技士は、透析・心臓カテーテル・オペ・機器管理の4部署から成り立っています。入職後は、各部門で指導者(教育係「プリセプター」)の下、3か月を目処にローテーションしながら研修を行っています。
個人差はありますが、1年~1年半をかけて全ての業務を経験してもらいます。質の高い医療を提供するには、スペシャリストの存在は必要ですが、愛知医科大学病院では、まずは広く浅く理解できるジェネラリストを育成していく方針です。
Q.昔からこのような体制だったのですか?
私が入職した当初は時代もあり、いまのような教育システムは整っていませんでした。30歳を目前にほとんど透析ばかりでは大学病院で働いているのにもったいないと感じ、環境を変えたいと上司に相談したところ少しずつ体制が変わっていきました。あのとき“環境を変えたい”と行動してよかったと思います。
Q.目標を持って働きやすい環境ですか?
私は、人工心肺を主軸としたジェネラリストを目指しています。臨床工学技士になって6年目になるので後輩や実習生などに教える機会も増えてきました。同時に人に教えるということの難しさを実感することもあります。例えば、カンファレンスに参加したときに、医師の話の中で臨床工学技士が携わらない病名や治療方法が出てくることがあります。そのとき後輩たちに尋ねられてわからないとは答えられないですし(笑) これまで尋ねられたときはなんとか答えられたのでよかったですが…。
そういう意味でもしっかり勉強しなくてはいけないと感じています。愛知医科大学病院の臨床工学部は、若いチームですのでやりたい業務に従事できるよう可能な限り配慮してもらっており、高いモチベーション維持にも繋がっています。新しい考えや若さゆえのエネルギーもあるので、やりたいことを挑戦できる環境は整っています。
求める人材
一番は、一緒に働きたいと思える人ですね。私が臨床工学技士となった16、17年前は、技士自ら医療機器を修理するというような業務が多かったです。しかし、医療機器がどんどん高度化してメーカーでないと部品交換ができないような機械も増えましたので、機械が扱えるだけではダメだと思います。
私たち臨床工学技士に求められる役割は、やはり医療安全だと思います。医療の安全を保障する上で、コミュニケーションは非常に大切なことだと思います。患者さんとはもちろん、医師や看護師、コメディカル、医療機器メーカーとの連携を図っていかなくてはならないのでコミュニケーション能力の高い人を求めています。