日本赤十字社医療センター
赤十字社は、世界192の国と地域に広がる赤十字・赤新月社のネットワークを生かして活動する組織で、日本では、1877年(明治10年)の西南戦争中に設立された「博愛社」がその前進。1887年(明治20年)に世界で19番目の赤十字社として正式に認められる。現在、全国に91の赤十字病院がある。 日本赤十字社医療センターは、そのひとつで、病床数701、総退院患者数は15,100人(2021年)。
臨床工学技士は、23人(女性8人)。臨床工学第一課(血液浄化係)、第二課(体外循環・手術室管理係、集中治療係、心臓カテーテル・ペースメーカー係)、第三課(MEセンター係)の3課で構成される。
臨床工学第二課に所属する水田亮(みずた・りょう)さんに話を聞いた。
Q.どのような経歴でしょうか?
長野県出身で地元の高校を出て、神奈川県の4年制の大学に進学しました。卒業後、日本赤十字社医療センターへ入職しました。今年で入職10年目です。
Q.臨床工学技士を目指したきっかけは?
実は、臨床工学技士という職業を知りませんでした。祖母が、交通事故が原因で足を悪くしていたので、祖母のような人の助けになりたいと思い、医療の道に進もうとは決めていました。しかし、看護体験をしてもなんとなく違う気がしていて進路に迷っていました。高校3年生の時、担任の先生から臨床工学技士という仕事があることを教えてもらい興味を持ちました。
1日の流れ
水田さんのある日の業務を聞いた。
定時 7:50〜16:20(休憩45分を含む)※手術のある日
7:30 出勤 情報収集
7:50 業務開始 麻酔の点検・人工心肺装置のセッティングなど(通常3人でセッティングを行う)
8:45 患者さん入室(人工心肺手術の立合い)、他の業務と併行しながら途中交代で休憩をとる
15:00 手術終了→片付け・在庫整理など
16:20 退勤
Q.月の残業はどの程度ですか?
月に1度、当直があります。当直が時間外勤務に含まれますので、それを含めて月に15〜20時間程度です。もちろん、医療現場ですから変動はあります。
Q.入職してどのくらいで夜勤を担当しますか?
現在、夜勤は、基本的に2人体制で行っています。入職してから早い人で半年、遅くとも1年程度研修をして夜勤を担当します。
Q.他の病院と比べると早い方ですよね?
夜勤中の業務は、日常ではなかなか起こり得ないトラブルが起きることが多いので、研修をいくらしても足りないというか。学びながら慣れるという感じです。フォロー体制は整っていて、必ず先輩と2人で勤務するので、安心して勤務することができると思います。
理解ある職場
日本赤十字社医療センターの臨床工学技士は、夜勤が免除になることや男性が育休を取ることもできる。
背景には誰もが働きやすい環境づくりがあった。
Q.夜勤が免除になったりするのはどうしてですか?
お子さんがいらっしゃる女性の臨床工学技士は、夜勤を免除しているので日勤だけという配慮があります。基本的にオンコールはなくて、私たちは夜勤を2人で担当し、その2人で対処しています。23人のうち半数以上が30代の子育て世代で年齢層が近いこともあり、みんな理解があります。私も、育児休業を取得することになっています。夏休みの時期(6月〜10月)と重なっていること、決して多いとは言えない人数のなかですが、上司が理解してくださり育休取得の許可がとれました。感謝しています。
ここでしかできない経験
Q.日本赤十字社医療センターを希望した理由は?
急性期の病院を希望するなかで、日本赤十字社医療センターが小児や周産期医療、また、救急に力を入れているということを知りました。小児の体外循環をやっている施設がそこまで多くないこと。救急領域にも力を入れているということでしたので、ここでしかできない経験があると思い選びました。
Q.小児と大人では処置の際どのような部分が違いますか?
まず、身体の大きさが全然違います。小児だと3kgもない子の手術をするので、ボリューム管理といいますか・・・大人の人工心肺の操作と違って少しの加減で、患者さんの血圧などのバイタル(バイタルサイン)の変動が激しくなります。ですので、自分の手技にすごく左右されます。大人がそうではないと言っているわけではないのですが、より小児の方が顕著に出ることが多いです。
Q.印象に残っている出来事はありますか?
1歳未満の重症患者さんで、人工心肺を回して手術をしました。予定通りの術式が終わったので人工心肺を離脱させようとするものの手術時間が6時間と長くなってしまったことなどもあり、離脱できませんでした。(機器を使う時間が) 長くなればなるほど、患者さんが自分の心臓で循環をまかなえなくなってしまいます。
そこで、人工心肺からE C M O(エクモ:体外式膜型人工肺)という補助循環に移行させて集中治療室に移動しました。その間にも何回か離脱をトライしたり、先生も縫合部分をやり直したりしたのですが、なかなか上手くいきませんでした。1歳未満の患者さんだったこともあり、ずっと補助循環を回しておくこともリスクがあったのですごく心配でした。数週間後にやっと離脱できた時は、一安心でした。その後、元気よく退院できたと聞いたときは、本当によかったなと感じました。
日本赤十字社医療センターは、年間約80例の小児の人工心肺手術の症例がある。小さな命を救う一助になれるのも大きな特徴のひとつだ。
一人ひとりに寄り添った医療の提供
Q.業務にあたるときに心がけていることは?
呼吸器一つをとってもメーカーによって特性があります。医師から出た治療方針はもちろん、患者さんの生活度合いにあった機械を提案しようと心がけています。ペースメーカーの設定を例にすると、ペースメーカーは、心臓の規則的に収縮する働きを補うものです。通常1分間におよそ60回の脈を打つように設定するのですが、歩かない人と運動する人とで設定を変えます。運動をすると、脈が早くなるのでその時にペースメーカーの設定が60回のままだと身体全体に血液が上手く回らなくなり、体調が悪くなったり、疲れたりしてしまいます。そこで、患者さんが運動したことをペースメーカーが検知して自動的に変更できるように設定するようにしています。
Q.患者さんとのコミュニケーションがかなり大事ですね?
先生と一緒にペースメーカー外来というものを行なっていて、私たちはペースメーカーの状態を見ます。その際に先生から患者さんにヒアリングをして、「ちょっと歩くだけで疲れるんだよね」などとおっしゃたら設定を変えるようにしています。
Q.同じ機器でも患者さんによってカスタムしないといけないんですね。
最近は機械の性能が上がっていて誰でも扱いやすくなっています。そのような中で臨床工学技士の存在意義を出せるようにしていかなければならないと思っています。機器についての特性や機能を熟知して、スペシャリストとしてアウトプットしていきたいです。
日本赤十字社医療センター 医療技術部 臨床工学技術課
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