【臨床工学技士に聞いてみた】地域医療と先進医療が調和する大学病院「島根大学医学部附属病院」。山陰で唯一の小児心臓外科の運営を臨床工学技士が支える。そんな臨床工学技士に話を聞いてみた

島根大学医学部附属病院

地域により密着した地域完結型の高度医療を実践し、地域の中核病院としての医療を提供するのが役割となっている。診療技術面では、ロボット手術を泌尿器科や消化器外科、婦人科、呼吸器外科へと拡大し、脳卒中ケアユニット6床による脳卒中の集学的治療も始めている。同院MEセンター臨床工学技士長の明穂一広(あけほ・かずひろ)さんにお話を伺った。

MEセンターの人員体制や概要について教えてください。

明穂 技士長

MEセンターは18名技士がおりまして、男性が14名、女性が4名となっています。平均年齢は30才と、かなり若い組織となっております。現在は若いスタッフが多いため、今後、臨床工学技士が成長していくことを期待して、頑張っているところです。

年代別では40代が3名、30代が4名、20代が11名となっています。組織は大きく3チームに分かれており、

  1. 集中治療部(ECMO業務、人工呼吸器業務、急性血液浄化業務など)・手術部(人工心肺業務、医療機器管理業務)担当チーム
  2. カテーテル・ペースメーカー・外傷センター・温熱療法担当チーム
  3. 血液浄化治療部・GCU・NICU 担当チーム

で運営しています。

1年目はローテーションで、各業務を一通り学びます。2年目からは業務と人員のバランスを考えながら、臨床工学技士を配置していく体制になっています。ローテーションを組むという考え方もあると思いますが、当院では全体的に若いスタッフが多いため、できるだけ専門性を高めるというところに重きをおきながらも、ベースとなる人工透析、MEセンター業務などは全スタッフができるという体制をとっています。

管理している機器の台数は手術室で約900台、MEセンターで約1,300台です。主な特徴として山陰唯一の小児心臓外科手術を実施しているため、小児心臓外科の人工心肺を運用しています。また、コロナ禍で注目されたECMO (エクモ)や手術支援ロボットのダヴィンチが2台稼働しています。

※人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療

勤務体制や休日についてはどうなっていますか。

出勤は基本的に、暦(こよみ)通りですが、透析業務だけは土曜祝日にも行います。この他に当直と日当直があります。当直は、出勤しているスタッフだけで対応が難しい場合は、待機者(オンコール)を呼ぶという形になります。当直はだいたい一人につき月2回くらいです。オンコールは一人につき月約10回となります。

就業時間は、定時は8時半から17時15分までとなっています。なかには透析や人工心肺の準備をするために、早出勤で7時半から出てくるスタッフもいます。

スタッフの平均的な1日のスケジュールとしては、出勤すると各部署に分かれて、人工透析や人工呼吸器などの点検・管理、ペースメーカーチェック、カテーテル業務、NICU業務など各部署での業務を行います。各部署で日常業務を行い17時15分に業務が終わるという流れです。

有給休暇は年20日取得できています。

職場の雰囲気についてはいかがでしょうか?

雰囲気は良いと思います。スタッフからは、できるだけ意見は聞こうと思っていますし、挨拶はきちんとするなど、気持ちよく働くことを意識しています。1年目や2年目の新人は敷かれたレールの上をしっかり走ることが先決です。3年目以降は業務で信頼を積み重ねつつ、学習をしながら自分なりの医療知識を身につけて、それを臨床に活かしていってほしいと思います。

当院の症例数は、山陰地方ではトップクラスですが、大都市圏の病院に比べると忙しすぎるということもなく、有給消化率は良いので仕事とプライベートのバランスはとれているのではないかと思います。みんなで助け合いながら、できるだけ一人に負担がかたよらないように配慮しています。

明穂さんは島根県臨床工学技士会の副会長もされているそうですね。

技士会として、地域における臨床工学技士の教育・普及活動に取り組んでいます。新型コロナウイルス感染症が広がる前までは、講師を呼んでセミナーなどを行っていました。コロナ禍になってからは、数年前とは状況が一変してしまいましたが、いろいろな人たちと情報交換することは重要だと考えており、地域の中で連携がとれるよう働きかけています。コロナ禍で今は実施できませんが、いろいろな人たちと情報交換することは重要だと考えています。

技士会の活動としては、コロナ禍前までは医療の安心安全の啓発や、キッズセミナーなども開催してきました。小学生や中学生向けに、医療機器を触ってみようという会をなど積極的に開いていましたね。人工透析器・人工心肺・ペースメーカー・エクモ・電気メスなど、5種類くらい体験してもらって、興味を示してもらおうという取り組みをしてきました。今後も若い世代への啓発活動は続けていきたいと考えています。

そもそも臨床工学技士を目指したきっかけは何だったのでしょうか。

私自身はもともと医療系に進みたいという想いがあり、奈良の専門学校で臨床検査技師の資格を取り、卒業後は京都の病院で数年間働きました。そのときに、臨床工学技士という職業の存在は、知っていたのですが、当初はあまり興味がありませんでした。

ただ、30歳の時に、専門学校時代の同級生が臨床工学技士の資格を取ったという話を聞いたことが転機になりましたね。そのとき私は、実家のある山陰に帰らないといけないという事情もあり、臨床検査技師は就職先がなかなか見つかりませんでした。さらに、できるだけ臨床の最前線に立ちたいという思いもありました。

そこで臨床工学技士になるために、もう一回専門学校に通い直し、資格を取得しました。その後、この地域で医療が進んでいる当院を選びました。

実際に臨床工学技士として働いてみて、いかがでしたか。

仕事が面白いと思いましたね。患者様の横で機器を調整して、自分の考えたことによって患者様の具合が良くなるといったことが、一つの喜びです。また、私は人工心肺を操作したいという目標を叶えるために当院へ来たようなところもあります。

2008年4月に入職したのですが、私と同時に採用された3名を含め、臨床工学技士は5人しか居ませんでした。しかし、院内で臨床工学技士へ求められる業務も増えるにしたがい、スタッフが増えていきました。

一番印象に残っていることは、2013年4月に心臓血管外科内に小児心臓外科が立ち上がったことですね。そのときに静岡県から医師が来られて、その先生からものすごく厳しく指導して頂きました。静岡県に1カ月間、研修に行かせて頂き、多くを学べた事が、現在の自分に繋がっています。だからこそ、現在は安全に手術ができるようになり、当院では年間40~50の症例がこなせています。

ここ数年で医療機器が進化したところはどのようなところでしょうか。

医療機器の性能が進化したというよりも、一番感じるのは電子カルテとの連携など、情報周りが進化しているところです。昔は機器の性能が良いという理由で、その機器を買うことが多かったのですが、今はデータ連携なども重要視されています。

これからの臨床工学技士には、情報系の知識も必要になってくるのではないかと見ています。今後、ある程度データを活用しながら、医療機器の管理などを進めていかなければならないと感じています。

臨床工学技士の仕事の魅力についても教えてください。

やはり、本当に医療の最前線で業務を行えることが、1番の魅力です。患者様が回復するのを感じることもできる職種だと思います。人工呼吸器の設定やECMOの設定などについて、医師に対して提案したり、やりがいのある人工心肺は医師の指示の下で私どもが自ら操作することもできます。

臨床工学技士がいないと病院業務が成り立たないということは、よく先生方からは言われています。緊急時などの場面で活躍する場が増えていますので、認知度は高まっていると感じています。今後、医療の分業が進んでいくことを考えると、臨床工学技士の医療知識についても、医師に近づけるくらい高めていかなければならないと考えています。

医療の知識を高めるにはどうしたらいいでしょうか。

私の中で思うのが、やはりやる気がない人に勉強しろと言っても、なかなか身に付かないということです。自ら積極的に学会発表などをやることによって、自分なりに勉強していくことが必要です。ただし、当院では、分からないことがあれば質問できる環境だけは、整えておこうと思っています。「この先輩には聞きづらい」と思われるのは一番良くないですからね。

私自身は、負けず嫌いなところがあって、当院のMEセンターを全国に認めてもらうためには、どうしたらいいのかと考えました。そこで大学病院に勤めている限り、自分が技士長になるためには、修士や博士といった学位が必要になってくると考えました。

現在、島根大学医学部の博士課程に通っています。2014年に島根大学医学部の修士課程に入り2年で修了しました。専攻は医療シミュレーター教育指導者養成コースです。その後2017年に博士課程に進みました。業務との兼ね合いで、時間はかかっていますが、今年度に博士課程を終える予定です。若いスタッフでは、2人が昨年、修士を修了しました。

また、最近MBA(経営学修士)に興味を持つ臨床工学技士も多く、私も経営に興味があります。病院経営をみながら、医療機器の更新をうまくやっていくことは、これから臨床工学技士に求められる重要なスキルの一つになっていくでしょう。私も経営者の意見を聞いたりしながら、経営についても学びたいと思っています。

最後にこれから臨床工学士を目指す人にメッセージをお願いします

この仕事はやる気があれば認めてもらえますし、チャンスもあります。こういうコロナ禍の際にはとても頼られる存在でもあります。常に向上心をもって知識と技術を習得すれば、より病院内で認められる存在になっていくと考えます。がんばって医療の道に進んでもらえばいいと思います。

臨床工学技士は自分で道を切り拓くことが大切で、自ら積極的に学んだ方が吸収が早いです。いったん社会人経験をするなど、遠回りした方がモチベーションが高くなる場合もあります。少しの寄り道であれば、遅れている分を逆にエネルギーに変え取り戻すことができます。皆さんも頑張って立派な臨床工学技士を目指してもらいたいと思います。

取材協力

島根大学医学部附属病院
〒693-8501 島根県出雲市塩冶町89-1 Tel.0853-23-2111(代)
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