北島技士が臨床工学技士になったきっかけを、教えてください。
北島 技士
高校一年の時に入院や手術を受けた経験から、医療系の仕事に興味を持ちました。その後進路を決める際、手に職をつけたいと思ったこと。授業時のラジオ製作などで、機器を触ることが好きだと感じていたことから、医療と工学を合わせた職種を調べて、臨床工学技士を知ったことがきっけでした。
進路を考え始めた時は医療系がいいと思って、看護師や検査技師、放射線技師など、他の職種についても検討しました。その中でも、臨床工学技士は幅広い機器を触ることのできる職種で、比較的、臨床現場に携わることが多い仕事だと分かりました。過去の入院時に医師や看護師の方と接したことで、自分もこの人たちと同じように医療に関わる仕事がしたいと思っていたので、最終的に臨床工学技士を選びました。
臨床工学技士に就いてみて、就く前とのギャップはありましたか?
入職当初は大学時代に習った知識がベースとなって、その知識をもとに臨床工学技士としての経験を重ねることが大事だと思っていました。でも実際に仕事に就いてみると経験を重ねることはもちろん大事ですが、知識や技術は日々進歩していて業務も拡大していくので、経験だけでは足りないことが分かりました。自分から意識してスキルアップしていくことが必要だと気づいたので、今は技士会やメーカーの勉強会・セミナーに積極的に参加して、知識を深めるようにしています。
あとは、大学でイメージしていた臨床現場の雰囲気と実際の現場とは、大きな違いがありました。特に患者さんの容態が悪い時の張り詰めた空気感は、大学では感じることができなかったことでした。
機器操作という点では、学校で学んでも実際は病院によってやり方が違うんです。例えば透析のプライミングは、大学とこの病院の機器とでは、やり方がぜんぜん違いました。また、最初は臨床現場自体に慣れていないので、緊張してその場の雰囲気に飲まれてしまうことがありました。
北島さんの業務内容と、今までの業務の中で感じてきたことを教えてください。
私が担当しているのは、心血管カテーテル・ME・血液浄化の3つの業務です。入職して5年目で、当直業務も担当しています。
入職当初で記憶に残っているのは、心血管カテーテル業務の際、救急で来られた患者さんが治療の甲斐なくお亡くなりになった時に、看取られるご家族の方を見ながら、悲しいの一言では表せない何とも言えない気持ちになったことを覚えています。
臨床工学技士の仕事に就いて感じているのは、単純な業務でも、技術を必要とする業務でも、一つひとつ丁寧に考えながらやらなきゃいけないということです。例えば透析で針を刺すだけでも、患者さんが痛くないか、体調は大丈夫かということも考える。そうやって一つひとつの業務に対して、深みを持って行うように意識しています。
臨床工学技士のお仕事で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
業務に慣れてきて見える範囲が深まることで、もっとこうした方がいいんじゃないか、と広く考えられるようになることや、それによって出来ることが増えることで、やりがいを感じます。
またそんなやりがいを継続するためにも現状に満足せずに、常に改善できることがないかを考えて、改善が必要なことがあれば勉強会などで知識を得て、取り入れていくことが大切だと思っています。
勉強会と言うと最近では、透析業務でエコー下穿刺※ を始めることになり、腎臓内科医の指導や学会のセミナーで一から学びました。心血管カテーテル業務でも、先生が新しい治療器具を取り入れる場合、勉強して手技の習得をしています。そうやって出来ることが増えていくことで、やりがいも増していきますね。
※エコー下穿刺(エコーかせんし):エコー(超音波診断装置)を用いて、穿刺部位に皮膚の上から超音波を当てて、血管の状態を画像で確認しながら穿刺を行う方法。
北島さんの一日の業務スケジュールを、教えてください。
定時 8:30~17:00
6:30 起床
7:50 出勤
8:30 業務開始 心血管カテーテル室の準備(機器の使用前点検など)
8:50 患者入室、心血管カテーテル業務開始
12:00 ME業務担当と交代
(昼食45分)
17:00まで ME業務(病棟への機器の搬送、機器のトラブル対応、モニター・除細動器のラウンドなど)
9時・11時・15時にはMEセンターへ機器の返却があるため、その時間にME業務担当の場合は、その返却機器の点検、修理対応も行います。機器返却の一番多い9時は、結構大変です。残業は月に10~20時間程度。血液浄化は残業が発生しやすい業務です。また心血管カテーテル業務が終わらない、夕方の時間帯に救急が入る、などの場合は残業になります。
福井赤十字病院を選んだ理由について、教えてください。
就活当初は人工心肺業務ができる病院を探していましたが、この病院を見学して、人工心肺業務が無くても担当する業務の幅広いところに魅力を感じました。臨床工学技士の業務範囲は日ごとに広がっているので、担当業務が幅広いことで得られる経験や広い視野が将来的にも有効だと思って、この病院を選びました。また、地元となる福井の地域医療に貢献したいというのも、選んだ理由です。
臨床工学技士に向いているのは、どんな人ですか?
臨床工学技士は臨床現場に出るので、他の職種や患者さんとのコミュニケーションは大事になりますが、そこは経験を積めば問題ありません。もともと私自身はコミュニケーションが得意な方ではありませんでしたが、業務を通じて成長することができました。透析患者さんは年配の方が多いのですが、笑顔を意識するだけでも患者さんとの距離を縮めることができます。なので、コミュニケーションに自信が無い人でも、機器を触ることが好きとか、医療現場で活躍したいという気持ちがあれば、是非チャレンジして欲しいと思います。
臨床工学技術課の人数や課の体制について、教えてください。
重矢 課長
現在12名の臨床工学技士が在籍していて、割合は男性10名、女性2名です。
課の中は、2つにチーム分けされています。一つが、オペ・ICUチームで担当4名。もう一つが、心血管カテーテル業務・ME業務・血液浄化業務の3つを行うチームで担当8名。女性は、それぞれのチームに1名ずつ入っています。
ただ緊急で行う血液浄化についてはICUに入ることも多いので、どちらのチームが当直になっても対応できるように、すべてのメンバーが業務を出来るようにしています。
臨床工学技術課の主な業務内容について、教えてください。
ME業務については現在約3,000台の機器を、システムを利用して管理しています。1患者1使用となるため使用後は返却してもらい、月に約1,400件強の保守・点検、修理が発生しています。
当直業務は、いずれかのチームの1名が担当します。当直が担当できるのは、約1年の研修で機械のトラブルシューティングやCHDF※ 対応が出来るようになってからになります。オペ・ICUチームが当直に入った時に緊急のカテーテル業務が入ると、心血管カテーテル・ME・血液浄化担当チームの待機スタッフを呼びます。逆に、心血管カテーテル・ME・血液浄化担当チームが当直の際、緊急オペや手術後の片付けが入った場合は、オペ・ICUチームの待機スタッフを呼ぶことになります。
本来一人のスタッフですべての業務ができて、当直につけるのが理想ではありますが、専門性の高い業務なのですべてを習得するのはなかなか難しいところがあります。そのため、当直中に担当外の業務が入ると、担当チームの待機者を呼ぶようにしています。
このような業務の中で、臨床工学技術課は院内でも時間外業務が多い傾向にあります。緊急カテーテルや長時間手術の後処理は、次の日のオペに間に合うようにどうしても残業時間に対応することになります。
そのためメンバーで協力して、有給取得を推進しています。この9月にはオペ・ICUチームの男性が院内でもまだ少数となる育児休暇を取得しましたし、有休取得率は院内で2番目になっています。
※CHDF:持続的血液濾過透析。血液濾過透析(HDF)を24時間持続的に行う療法のこと。
福井赤十字病院 臨床工学技術部は、どんな特徴がありますか?
学生さんが感じる臨床工学技士の花形的な業務に人工心肺業務がありますが、当院は人工心肺業務が無く、オペのための準備、機器装置のロールイン・ロールアウト、カテーテルの記録、カテーテル治療の際の呼吸器・DCの準備、IVUS(アイバス)※ など、先生方が機器をスムーズに使えるよう使用前に確認し準備するという、サポート業務が多いのが特徴です。
法改正での業務範囲の変更によるタスク・シフト/シェアの話題もありますが、当院では先生方からの要望は、まだ増えていません。そこは今後、先生方からの対応依頼があれば増員を検討していく可能性があるかもしれません。
臨床工学技術課では、医療機器を取り扱うすべての医療従事者をバックアップするという目標を立てています。現状は地道な業務の中から、患者さんや先生方に喜ばれるポイントを感じて、やりがいを持ってもらえると良いと思っています。
個人の資格取得については、病院に費用負担をお願いして積極的に進めていて、循環器領域ではCVIT(シービット)※ の資格や呼吸療法関連では3学会認定の呼吸療法認定士などを取得したメンバーがいます。
※IVUS(アイバス):血管内超音波。Intra Vascular Ultra Soundの頭文字をとったもの。超音波によって血管内の様子を観察する検査のこと
※CVIT(シービット):一般社団法人 日本心血管インターベンション治療学会 (Japanese Association of Cardiovascular Intervention and Therapeutics:CVIT)
入職後、配属チーム決定や研修はどのように行っていますか?
近年の新規採用は、担当不足の業務がある際に人事課にその旨を伝えて増員依頼をしています。また学生さん自身も事前にWeb情報を確認して、医療機器を安全に使用できるようにする「後方支援」が中心である、当院の業務特徴を把握してくる方もいます。
入職検討時の見学では臨床工学技術課のすべての業務を見て頂き、課の雰囲気もつかめるように職務中の技士と話をしてもらっています。併せて採用目的やサポート業務が主となる業務特徴、担当してもらう業務を伝えるようにしているので、それを理解して納得した方が入ってこられて、入職後は伝えていた業務担当として仕事を覚えて頂くことになります。そこは入職後に研修をした後、希望を確認して配属先を決める、というような流れとは少し違うと思います。
ただ、2つのチームの担当を入れ替えることはあるので、その際はそれぞれの業務研修をすることがあります。あとは年に一回の勤務評定の際に、担当業務についての要望確認を行っています。
こんな人が臨床工学技士に向いている、こんな人に来て欲しいという人物像を教えてください。
臨床工学技士に向いている人は、相手の話が聞ける、小さなことでも慌てずに立ち止まって考えられる、いろいろなことに気が付ける人でしょうか。そういう人は、安心して任せられます。
望む人物像としては、コミュニケーションが得意もしくは苦手に関わらず、笑顔で対応できる方がいいですね。心血管カテーテル、血液浄化とも患者さんは意識があるので、お顔を見たり声を掛けたりなど当院の技士はとても上手なんです。そんな風に患者さんとのコミュニケーションがとれていると、こちらも安心できます。あとは、どんなことでも興味を持てる人。新しい業務でも、尻込みせずに興味を持ってトライできる人は、嬉しいですね。
臨床工学技士の仕事はとても幅が広いです。その中で特定業務の専門性を極めるもよし、様々な業務を幅広くやるのもよし。とにかく患者さんの力になりたいと思って仕事をすると、やりがいを持てる仕事ですよ。