【臨床工学技士インタビュー】横須賀市の中央に立地する『横須賀市立うわまち病院』。臨床研修指定病院として、教育・研修に力を入れている。シミュレーションセンターの活用により、迅速に的確な治療を実施。MEセンターは、希望が通る風通しの良い職場環境づくりに努めていた

横須賀市立うわまち病院

地域に寄り添う病院として100年以上の歴史を持つ『横須賀市立うわまち病院』。2025年には移転、建て替えを控え、より市民に親しまれる病院へとリニューアルする。現在は、横須賀市の指定管理病院として地域の医療を支え、”顔の見える診療連携” を合い言葉に、紹介率60%、逆紹介率70%以上と、医師会との連携が有効に機能している。さらに、年間6,300台の救急車を受け入れ、急性期から社会復帰まで地域の医療機関と一貫した患者支援を行っている。

横須賀市立うわまち病院の医療技術部MEセンターには、臨床工学技士が10名(女性3名)所属している。今回は、宗方潤(むなかた・じゅん)技士に話を聞いた。

宗方 潤 技士

方向転換

Q.臨床工学技士を目指したきっかけは?

実は私、臨床検査技師の資格も持っています。地元横須賀の高校を卒業して、臨床検査技師になろうと東京都内の専門学校に通っていました。専門学校のときの病院実習先で臨床工学技士の方とお話しする機会がありました。人工透析、人工心肺、手術室の業務など、より患者さんとふれあうことができる職業だと知り、もう1年学校に通い臨床工学技士の資格を取得しました。

Q.臨床工学技士になっていかがでしたか?

よかったですよ(笑) 横須賀市立うわまち病院では、基本的に日替わりでローテーションしています。そのなかでも私は、主に人工心肺や血液透析などを担当しています。当院の特長でもあるのですが、自由に様々な業務をできるところにやりがいを感じています。希望が通りやすい環境ですし、新人であってもやりたいことを伸ばしてあげられるように努めています。

1日のスケジュールと業務内容

宗方技士のある日のスケジュール ※手術業務の日

定時8:30~17:00

8:30    出勤

手術の準備(人工心肺の回路を組み立てるなど)

9:15     患者さん入室
10:00   手術開始
10:30 人工心肺開始

随時交替して昼食、休憩1時間

14:00   人工心肺終了→片付け
15:00   手術終了→患者さん退室
15:00 データ処置 病棟側の機器のメンテナンスなど
17:00 終業

残業は月平均20時間程度

Q.入職するとどのように研修を行っていきますか?

MEセンターでは、病棟業務、カテーテル室業務、高気圧酸素治療業務、血液浄化業務、手術室業務の大きく分けて5部門があります。10名という人数ですからカテーテル室だけ血液浄化だけのスペシャリストというよりもジェネラリストという色が強いですので、ひと通りできるようになってもらいたいと思っています。

まずは、手術室業務以外の4部門を1週間ずつローテーションしていきます。当院では、夜勤はありませんが、オンコール対応という形で待機があります。オンコールでは、1人で対処しなければならないことが結構あるので安全に業務を行うことができるようになったらオンコール対応に入ってもらいます。その人の適性にもよりますが、早ければ年明けくらいですかね。もちろん、最初から1人だけでオンコール対応してもらうのではなく慣れている人と一緒に組んで呼ばれたら一緒に出勤するという体制をとっています。みんなが様々な業務につくことでお互いの業務にも理解を示し風通しもよく働きやすい環境が整っていると思います。

Q.どのような業務ができるようになるとオンコール対応できると判断されるのですか?

一番は、心筋梗塞の急性期のカテーテル対応ですね。あとは、人工呼吸器で器械トラブルなのか設定が間違っているのか患者さんの容態が悪化しているのかの判断ができるかどうかですね。夜間の問い合わせは何でも受けているのでMEセンターで請け負っている業務全体を把握できるようになるということですね。また、今後は夜勤を行うことが視野にありますので、人員拡大もしていきます。

地域医療振興協会

当院と横須賀市立市民病院は共に、公益社団法人地域医療振興協会の運営施設です。最近でいいますと合同で人事採用をしていますし、当院から出向して横須賀市立市民病院で働いている臨床工学技士もいます。人が足りない場合は支援することもあります。

Q.実際にはどのような連携がありましたか?

約5年前に当院の透析室を立ち上げる際、私は立ち上げのメンバーでしたので横須賀市立市民病院へ2カ月ほど研修に行きました。当院で急性血液浄化はしていたのですが、慢性の患者さんへの透析はしていませんでしたので準備、穿刺、返血の仕方など最初から最後まで透析にまつわる様々なことを教えてもらいました。急性血液浄化との大きな違いは、血液をきれいにするスピードです。ICUに入っているような重症度の高い患者さんの血液を一気にきれいにしてしまうと刺激が強すぎてさらに状態が悪化してしまいます。逆に維持透析をしている患者さんは、1回約4時間の間にいかに効率よく血液をきれいにできるかなど根本的な違いがありました。同じことをしているようですが全く異なることをしているという点が大変勉強になりました。

シミュレーションセンター

Q.2011年からシミュレーションセンターが運営されているようですが、臨床工学技士の皆さんはどのようなことをされていますか?

ここ数年は、ECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)の挿入についての手技の講習が多いです。遠心ポンプの特性など基本的な機械の説明からはじめます。ICU、心臓血管外科、循環器の医師、ICUや病棟の看護師などが参加し、本番を想定して様々なシミュレーションを行います。ECMOは心臓、肺に対して非常に強力な補助が得られる優れた機械ですが、使い方を少しでも間違えると大変危険です。さらに、ECMOを使用するときは緊迫した状況が多いので手元に集中してしまいがちですので、薬液を入れたかなど逐一声をかけてチーム全体でインシデントを防ぐということを確認し合います。

Q.どのくらいの頻度で講習会を行っているのですか?

シミュレーションセンターで実施されるものに限らず臨床工学技士が関わる講習会は、2~3カ月に1度くらいですね。1年目の研修医や病棟の看護師向けの勉強会も実施しています。医師、看護師は体や病気についての知識は豊富ですが医療機器の取り扱いに関しては習熟していない場合が多いです。輸液ポンプやシリンジポンプの正しい使い方やアラームが鳴ったときの対処方法など基礎的なところからレクチャーしています。院内に正しい機器の使い方を広めるのも我々の使命だと思っています。

求める人材

臨床工学技士の仕事は、1人でする仕事ではありません。医師の指示、看護師や同じく臨床工学技士と連携をとって行いますのでコミュニケーション能力の高い人が向いていると思います。いざというときに信頼関係が築けていないと大切な命を救うことができませんからね。

 

取材協力

公益社団法人地域医療振興協会 横須賀市立うわまち病院
〒238-8567 神奈川県横須賀市上町 2-36  Tel.046-823-2630 (代表)