【臨床工学技士インタビュー】急性期病院として地域医療支援に取り組む「社会医療法人財団 白十字会 白十字病院」。透析から人工心肺まで多岐にわたる業務を臨床工学技士18名が担う。臨床工学部から副主任の臨床工学技士と次長に話を聞いた

白十字病院

福岡市西区石丸に位置する「社会医療法人財団 白十字会 白十字病院」は、1982年に開設され、地域の病院として成長してきた。開設40年を迎えた2021年に、ケアミックス型病院を二つに分院し、約300m南側の地に急性期病院として新築移転し、それまでの地には「白十字リハビリテーション病院」が分院独立した。白十字病院に所属する臨床工学部は現在18名の臨床工学技士が業務を担当している。10に分化した業務の中で専門性を身につけようとスペシャリストを目指す。浦田英明(うらた・ひであき)次長と岡田卓也(おかだ・たくや)副主任から話を伺った。

浦田次長(左)・岡田副主任(右)

 

岡田副主任に聞いてみた

岡田 副主任

Q.臨床工学技士を目指したきっかけは?

中学生の頃、心臓の病気を患っていたので、福岡の大きな病院へ行きました。そこで、初めて医療の方々と接する機会があり、「医療職っていいな」と思いました。高校生の時、学校の先生へ進路の相談をしている時に、「将来は医療職に就こう」と決めていたので、臨床工学技士の職業を紹介していただいてたいへん興味を持ちました。大学のオープンキャンパスへ行き、臨床工学技士とはどんな仕事なのか、積極的に説明会へも参加しました。説明会では臨床工学技士は他の医療スタッフと常に連携を取り、患者さんとのコミュニケーションも多い仕事だということがよく分かりました。

高校の先生は、他の職種も紹介してくれましたが、私自身、臨床現場で働きたいという気持ちと、臨床工学技士は業務の範囲がまだ発展途上なので面白そうだという気持ちで、臨床工学技士を目指すことにしました。実は機械は苦手だったので、大学に入学してからは先輩などに細かく指導をしていただき、苦手分野を克服しました。

Q.白十字病院へ入職されたきっかけは?

福岡が好きだったので福岡で就職したいという気持ちがありました。また、臨床工学技士のたくさんある業務の中から自分が好きなものを見つけたいという思いもありました。そこで、業務の幅が広い大きな病院に勤めようと考えました。福岡にある大きな病院のホームページをいくつか見たところ、その中に白十字病院があったのです。

見学に行き、浦田次長と話をしたとき、とても感銘を受けました。浦田次長は、「臨床工学技士である前に、まずは人として当たり前のことができる人間であって欲しい」というお話をされたのです。ちょうどその頃、私自身が就職後に不安を抱えていた時期でした。「うまく業務が出来るだろうか。医療職という責任が重い仕事にどのような心持ちで臨めばいいのか」と悩んでいたのですが、浦田次長の話を聞いた途端、目の前の霧が晴れたようで、ほっとしました。「人として、社会人として頑張ることから始めていけばいいんだ」と分かり、「この人の元で働きたい」と思いました。

他の病院も色々見学に行き、それぞれ特色はありましたが、浦田次長の存在が決め手となりました。それから、就職試験を受けました。試験は、国家試験から数十問抜粋した筆記試験と、小論文と面接です。小論文のテーマは『将来どんな人になりたいか』でした。ちょうど私が抱えていた課題でしたので、うまく書けたと思います。試験に無事合格し、現在、7年目です。

研修が始まって、実習との違いを感じた点はやはり患者さんとの関わりが一番大きかったと思います。実習では、実習先の施設の先輩とのコミュニケーションがメインでしたが、実際の業務では患者さんと多く関わります。また、他の医療スタッフとの連携も行う点も大きな違いの一つです。
特に臨床工学技士は、医師、看護師、メディカルスタッフなど多くのスタッフと話し合う場面がとても多いと感じます。
初めは、多職種のスタッフとの連携がうまくいかず困ることも多々ありました。そこで、相手と話をするときは、なるべく相手の元へ足を運び、直接話をするようにしました。PHSで話す方が早いように思えますが、やはり相手を目の前にすると、相手の顔色も分かるし、こちらの意図も伝わりやすくなります。お互い歩み寄ってうまくいくことが多くなりました。他の臨床工学技士もなるべく、相手と直接話すように工夫しているようです。

現在、私の主な担当業務はペースメーカーになります。他は、透析と内視鏡、オペ室業務を担当しています。

Q.1日のスケジュールについて

6:30 起床
7:30 出勤
8:00 到着
8:30 カンファレンス
8:40 手術前準備、内視鏡業務(スコープ洗浄)、透析業務
※当日のシフトによって異なるが、以下は透析業務を例として記載。
11:00 休憩
12:00 午後の業務開始 引き続き透析業務
13:00〜15:00 透析業務終了
機器のメンテナンス等
17:30  業務終了
18:00 帰宅
1時間は毎日資格の勉強
23:00 就寝

オンコール業務は、現在心臓カテーテル業務のみで月2回程度。
当直は17:30〜8:30、基本1人体制。
休日は、週休二日制。週7日のなかから休日2日がシフトで決まる。

コロナ禍で外出することが減りましたので、料理をして気分転換することが多くなりました。肉料理が得意です。

Q.モチベーション維持のためにされていることは?

資格を取るということも、モチベーションの一つになっています。私の専門はペースメーカー業務なので、それに関連した「植込み型心臓不整脈デバイス認定士」の資格取得を目指し、毎日1時間は勉強しています。

患者さんと話すことが好きです。また、透析業務などで、患者さんから「ありがとう」と言っていただくと、とても嬉いです。私自身、患者さんと接する際、心がけていることのひとつは、なるべく患者さんの不安を取り除き、傾聴を心がけることです。患者さんはベッドの上で横になっているので、なるべく同じ目線の高さで話すようにしています。その方が患者さんの不安を解消できると感じます。また、ペースメーカー業務で医師などに助言や提案をして、私の意見が採用されたときは、やはり勉強してよかったと感じます。日々のやりがいや喜びが、モチベーションにも繋がっていると思います。

Q.将来の目標は?

就職したての頃よりは、だんだんと自分のやりたいことが絞れてきたと感じています。ペースメーカーや他のデバイス系の機器の操作や知識をもっと深めていきたいですね。「この業務だったら、岡田副主任がスペシャリストですよね」と人に言われるような専門性を身につけるのが私の目標です。ゼネラリストよりはスペシャリストを目指しています。

Q.受験生や学生へアドバイスがありましたら教えてください

私が学生だった頃と比べて、今は臨床工学技士についての情報が溢れていると思います。YouTubeでも、分かりやすい動画がたくさんアップされていますので、なるべく情報に触れて、ある程度どのような職種なのか、業務の内容も含めて、イメージを持ってもらうといいのではないかと思います。学会は学生でも参加できますので、学会に参加するのもよいかと思います。また、周りに医療関係者がいないか探してみて、臨床工学技士の話を聞くのもよいでしょう。

 

浦田次長に聞いてみた

浦田 次長

Q.臨床工学部について

当院の臨床工学部の業務は主に10種類あります。ペースメーカー、透析、内視鏡、ICU、人工心肺、心臓カテーテル、オペ業務、ME機器管理のメンテナンス、睡眠時無呼吸症候群、在宅医療です。

臨床工学部の構成比は、男性13名、女性5名。
役職者は、次長、係長、主任、副主任、合計5名です。

臨床工学技士は1人あたり3つもしくは4つの業務を担当しています。1日のうち、一番多く人数を配置する業務は透析業務です。内視鏡業務は、3名配置するので、次に多いチームですね。他の業務は、基本1人ずつ入ります。緊急の休み等でマンパワーが足りないときは、その業務が出来るスタッフが代わりに担当します。その日の症例数によって、臨機応変に対応しています。

睡眠時無呼吸症候群は、他の病院では、臨床検査技師が担当することも多いようですが、当院では臨床工学技士の仕事です。機器の装着や解析をしています。在宅医療は、現在は訪問看護と連携を取りながら、呼吸器関連を入口として業務の立ち上げを計画・推進しています。

Q.入職後の研修について

最初は基本的にマンパワーが足りていない業務に配属します。例えば人工心肺担当が不足していた場合、人工心肺業務育成からスタートするといったイメージです。人工心肺など独り立ちするまで3年ほどかかる業務もあれば、比較的短い期間で習得できる業務もあります。

業務体系は、約10種類あるすべての業務の習得を目指すのではなく、1人3つもしくは4つの業務を担当し、一週間(ウィークデイの5日間)で最低1つは担当業務に充たるようシフトを組んでいます。この方法であれば間隔が開くことがないのでスタッフも不安なく業務に従事でき、専門性の向上に繋がることが期待できます。当直業務に参入するのは、概ね入職1年半から2年ぐらいです。育成チェックシートをもとに本人の習熟度を判定します。人工呼吸器やCHDF※、また突発的な医療機器トラブルに対応できるかどうか、都度評価していきます。

理想は全ての業務を習得することですが、大小300項目近くある業務を習得するのは物理的に困難であり、万が一習得できたとしても専門性・安全性を担保することが難しくなるので、例えば人工心肺操作ができなくとも人工心肺装置担当者が来院するまでに機器の立ち上げや準備が出来る、心カテ業務ができなくとも心カテ担当者が来院するまでに清潔物品を準備するといったことも当直に入れる条件(育成チェックシートの項目)としています。

オンコールは心カテ担当が対応しており、コールから30分以内に到着するルールとなっています。

当然ながら医療機器を扱うプロフェッショナルとして機器トラブルに対応できることも育成内容の重点項目です。

※CHDF:血液濾過透析(HDF)を24時間持続的に行う療法

Q.白十字リハビリテーション病院との連携はありますか?

機器の貸し出し(輸液ポンプやシリンジポンプなど)を行っています。
基本的に機器の定数は決めていますが、不足した場合は連絡を受け対応しています。他にモニター系のトラブル対応や、AEDの定期点検を実施しています。

Q.指導で心がけていることは?

技術面の指導に関しては、係長や主任に役割分担をさせています。ICU、心臓カテーテル、オペ部門、内視鏡、透析、その他の部門はその2人に技術的な監督・指導を任せています。
私が常に指導していることの一つとして、社会人として必要な部分について特に注意深く育成しています。病院という性質上、多職種と良好な関係を築くことができないとチーム医療は成り立ちません。
ですので、コミュニケーションの取り方や人間性、社会性を身につけることの指導を特にしています。
物品を補充する、ベッドをきれいにする、ゴミを棄てる、患者さんを移乗する等々、資格に関係のない業務が院内にはたくさんあります。そういう業務も思いやり・奉仕の精神を持って積極的に行うよう指導しています。

コロナの影響で、入社3年目以下のスタッフは歓迎会がまだ出来ていません。コロナが五類になった暁には是非、歓迎会・親睦会を開催したいです。毎日顔を合わせて業務を共に行なっていますが、本当は何を考えているんだろう、趣味は何だろう、と気になっています。スタッフ達の心の根底の部分を知って、本音の部分も共有したいと考えています。

Q.理想の新人像

初めから技術がないのは当然なので、入職後に技術力を磨いてもらえればよいと思っています。元気のいい挨拶ができる、困った人を手助けできる、整理整頓ができる、他職種を尊重できるような人材が望まれます。

病院は、専門職の方々の集まりなので、どうしても自分の技術を磨く方向性に向かいがちです。しかし、相手を尊重する気持ちがなければ、他職種との連携は成り立ちません。一緒に仕事がしたいと思われるようなコミュニケーション能力を持ち合わせていることや挨拶や返事がハキハキしていることが社会人の基礎として大事だと思います。

 

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