金沢大学附属病院
高度医療の提供、高度医療技術の開発や研究を実施する能力を備えた特定機能病院。北陸では4つの病院※1 が承認されており、そのうちの1つが金沢大学附属病院だ。病床数は830床。北陸の“地域医療の要”として石川県内だけでなく県外からの患者も受け入れている。年間延入院患者数は225,000人余り※2 で、年間に7,500件以上※2 の手術が行われている。金沢大学附属病院の臨床工学技士は、18人(女性7人)平均年齢は31.5歳と若いのが特徴。今回は、松嶋尚志(まつしま・たかし)主任と8年目の菊池郁美(きくち・いくみ)技士に話を聞いた。
※1:2022年4月1日現在
※2:2021年度実績
ME機器管理センター
松嶋 主任
Q.どのような業務分けをしていますか?
- 集中治療
- 体外循環
- 心臓カテーテル
- 血液浄化
- 光学診療
- 手術室
- ME機器管理
- 病棟業務
と業務を大きく8つに分けています。その上で、集中治療、病棟業務、血液浄化などが時間帯により業務間を行き来するという事も多いです。人によっては、毎日様々な業務をすることになり、日によって業務の内容が全く違ことになります。
Q.新人で入職するとどの業務からスタートしますか?
入職する人数や経験によって様々ですね。しかし、一番大切で、誰もができないといけないのが、ME機器管理です。臨床工学技士として機器を点検するということは誰もができないといけないですね。夜勤業務ができなくてはいけないですからね。多くは、血液浄化を何カ月間か経験してもらい、そのあと心臓カテーテル、体外循環とローテションします。約1年かけて夜勤業務に入れるように研修していきます。
Q.体外循環業務だけでも習得するのに2~3年はかかるのではないですか?
まずは、体外循環の補助ができればいいです。メインでまわす人は、現在6人いますから。記録を入力したり、血液ガス分析測定などの補助をするようなアシスタントが必要になります。2、3か月かけてこの業務ができるようになってもらいます。
数年前からプリセプター制度※ を導入して新人研修を行なっています。必ずしも教育担当者と新人が同じ業務になるとは限りませんが、金沢大学附属病院の臨床工学技士たちはみんないくつか専門を持っていますのでどの分野でも安心して新人教育を任せられます。まずは、約1年後に夜勤業務に入れるようになるところを目指します。その後、専門性を身に付けてもらいます。希望としては2~3分野専門性を高めてもらえることを望んでいます。
※先輩が後輩をマンツーマン指導・教育する制度
北陸の冬
冬の寒さが厳しい金沢大学附属病院特有の事情はありますか?
大雪で道路がふさがっていると徒歩で病院へ向かう日もありますので、オンコール業務があるので20分以内に病院に来ることができるところに住んでいます。
冬は心臓カテーテル手術など緊急症例が増えます。寒いときというのは、心筋梗塞や大動脈解離が多くなるので忙しくなります。そうすると、残業時間も夏よりも冬の方が多くなりますね。
挫折からの出会い
菊池 技士
秋田県出身の菊池技士は入職8年目。体外循環技術認定士の資格をもち、主に体外循環業務に従事している。
Q.臨床工学技士を目指したきっかけは何だったのですか?
最初は、放射線技師を目指していましたが、高校の先生に進路相談をしたら同じ機械を扱う仕事で臨床工学技士があると教えてもらい、小松短期大学(現・公立小松大学)に進学しました。よしやってみようと、興味とやる気だけで、入学しました(笑)
Q.実際、臨床工学技士になられていかがでしたか?
思っていたより自分に合っていたなと思います。急変した患者さんの対応など、毎日同じ業務をするわけではなく様々な変化があります。わからないことを先輩方に聞きながらスキルアップしていけるところにやりがいを感じています。
Q.体外循環が専門分野になった経緯は?
学生のときの臨床実習が金沢大学附属病院でした。そこで体外循環に興味を持ちました。でも、実際にやってみないとわからないなと思ってこちらに入職しました。私が新人のときは、各部署を2カ月ずつローテーションでまわって(入職した年の)12月から希望の部署をどこにしたいか面談で尋ねられました。大きい機械を操作するのがかっこいいなと思い、体外循環業務を希望しました。
Q.これまでの体外循環業務のなかで印象に残っている出来事はありますか?
一番響いたのは・・・1年目か2年目の時に、体外循環で大きなミスをしたのですが、その時に一緒に業務に入っていた先輩は何も言わずにただ間違いをサラッと直してくれました。特に何も言われなかったということが響いて。後日、すみませんでしたと謝ると『いや、体外循環をメインでまわす人の責任だから』と言われて、自分のやることに責任を持たないといけないなと思いました。それともうひとつ、体外循環をまわしはじめてしばらく経ったころのおととしくらいの話なのですが、体外循環をまわしているときに患者さんの容態が急変しました。ちょうどそのときに、松嶋主任が現場に顔を出してくれて適確に指示をくれなんとかその場を乗り切ることができましたが、後日、松嶋主任に『ただまわしているだけではだめだ。考えてやらないと。』と言われてハッとさせられました。
私たちの仕事はやり直しができないですよね。一度過ぎてしまった時間はもう取り戻せないので、ちょっとした事でも気になって引きずってしまう事があります。
若い子にはなるべくそういう思いをしてほしくないです。ただ、経験をしないとわからないこともあります。大事なことは言わないと私も後悔することになりますから気づいたことは言うようにしています。
また我々の仕事では、複雑な状況により判断が難しくなることがあります。このような時でも、躊躇せずに上司や先輩などに意見を聴いたり、「助けて」を言えるような体制や人間関係が大切だと感じています。
1日のスケジュール
菊池技士のある日のスケジュール (人工心肺業務の場合)
定時8:30〜17:00
6:00 起床
7:15 出勤
7:25 病院着
7:30 業務開始、人工心肺装置・物品準備
8:30 患者入室・人工心肺回路の組み立て
10:30 手術開始
休憩(昼食)は45分 空き時間もしくは交代者が来た時に
17:00 手術終了・患者退室
17:00〜 記録作業が終わり次第、業務終了
2015年から夜勤(2交代制)を導入している。日勤の定時は、8:30〜17:00、夜勤の定時は16:00~翌朝9:00。オンコールは、月に4~5回程度。
実技テスト
コロナ禍の影響で、教育に手がまわらず、特に若年層の実務レベルが下がりました。そこで、ME機器管理センター独自の実技テストを実施するようになりました。臨床を再現したテストで、医師役や看護師役などは全て先輩臨床工学技士で行います。この試験は、おととしからはじめて今年で3年目になります。
Q.どのような試験を実施するのですか?
例えばECMO導入の課題では、まず座学で講習を行い、実技実習を行います。その後、実技テスト期間を設けます。この期間に、業務の合間をみて該当者を呼び出します。実際、緊急対応の場合もありますから、事前に試験があるということは知らせますが、いつ実施されるのか、どのような症例を想定しているのかは知らせません。体外循環認定士の資格を持つ経験年数5年以上の技士3人で評価するのですが、評価する方も大変です。知識、技能、コミュニケーション、対応力を点数化します。テスト結果では、臨床で業務をするには若年者のコミュニケーション能力が不足気味である、ということがわかってきました。臨床において自ら業務ができているか認識してもらう目的もありますので、後で振り返れるようにテスト中の様子はビデオ撮影しDVDにして本人に渡します。また、知識や原理を理解して実行できているか、自ら考えて行動に移すということも現場では求められています。
さらなる高みを目指して
Q.目標は?
菊池技士「日本集中治療学会の「集中治療専門臨床工学技士」※ をとりたいと思っています。」
※集中治療に必要な生命維持管理装置及び関連医療機器の有効性、安全性に関する知識や技術を有しており、質の高い集中治療を実践できる者
Q.その資格を取りたいのはなぜですか?
集中治療の分野は業務をしていて、幅広い知識が必要だと感じる部分が多くありました。集中治療では、体外循環もしますし、血液浄化や呼吸療法もします。全てが集まったところなので資格を取れば自分の最大の強みになるのではないかと考えています。
金沢大学附属病院 ME機器管理センター
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