【臨床工学技士インタビュー】機器を貸し出しただけで終わりではない。正しく使用されているか、正常に作動しているか、毎日各病棟を回って丁寧に点検。安心安全につながるきめ細やかなケアはいつでもどこでも実践されていた。そこには、医療を提供するだけでなく、医療業界で活躍できる人材を育てたいという大学病院「熊本大学病院」ならではの想いがあった

熊本大学病院

江戸中期の1756年(宝暦6年)、肥後藩主細川重賢(ほそかわ・しげかた)が日本初の公立の医学校である再春館を創設したところからはじまる。以降、260年以上の歴史を歩んできた。
熊本大学病院のME機器管理センターは、2007年(平成19年)に発足。現在、21人(女性5人)の技士がME機器管理業務、手術室業務、血液浄化・高気圧酸素治療、循環器内科関連業務の4部門で勤務している。「高度な医療安全管理によって、患者本意の医療を実践し、医学の発展及び医療人の育成に努め、地域の福祉と健康に貢献する」という病院理念を実践している様子が伺えた。今回は、小原大輔(おばら・だいすけ)臨床工学技士長とME機器管理業務を担当する山下大輔(やました・だいすけ)技士に話を聞いた。

1日のスケジュール

山下 技士 呼吸療法認定士/第1種ME技術者

山下技士は、地元熊本の工業高校を卒業後、県内の専門学校で学び、福岡県の病院に入職。熊本大学病院には11年前に入職し、主にME機器管理業務を担当している。

山下技士のある日のスケジュール
定時8:00〜16:45

7:30  出勤
7:45  全体ミーティング
8:00  勤務開始
前日返却分の機械の清掃・点検 もしくは月1回の機器の定期点検
10:00 使用中の人工呼吸器の点検(動作状況の確認)のため病棟を回る
同時に、使用済みの機器の回収
12:00 ICU、CCUなど 予備機器の補充

13:00 休憩(昼食)1時間程度

14:00 輸液ポンプ・搬送用の人工呼吸器などの清掃・点検 (毎日100台くらい返却)
16:45 終業

※オンコールは2人体制で月に6〜7回担当。

病床数845床の熊本大学病院

M E機器管理業務では、約3,000台の機器を管理しており、清掃・点検だけで年間42,000台にのぼる。また、医療機器の取り扱いについて院内に周知しておきたい内容を掲載したニュースも不定期で発行している。

Q.熊本大学病院では、M E機器管理センターで機器の回収まで担当するのですね?

山下技士「毎日、人工呼吸器を使用している入院患者さんの機器点検のために各病棟を回ります。院内全体で30人くらいいらっしゃいます。巡回しているときに、各病棟で使用済みの輸液ポンプ、シリンジポンプなどを回収しています。」

研鑽を積むジェネラリストの育成

小原大輔 臨床工学技士長

小原技士長「熊本大学病院では、ジェネラリストを育成するということでローテーション業務を行っています。入職してはじめの半年間は、M E機器管理部門で機器管理システムを学んでもらって、そのあとは、1年ごとに手術室、血液浄化療法室、循環器部門という形でローテーションしていきます。夜勤に加えて土日祝日も対応できるようにしています。まずは、1人で夜勤対応ができるように1年かけて仕事を覚えてもらいます。4部署ありますから全ての業務を覚えるのに4年ほどかかります。」

Q.全ての業務を対応できると人手不足の場合に助かることもありそうですね。

小原技士長「まさに、先日、コロナの陽性者が出て3、4人一度に休まなくてはいけない状況になりました。その際には、部門を超えてローテーションで業務を行ってもらいました。様々な診療科があってそれぞれの部署で働けるというところも総合病院の魅力であり、強みだと思います。」

Q.臨床工学技士の皆さんはたくさん資格を持っていらっしゃるようですが、理由があるのですか?

小原技士長「積極的に資格を取ってもらうようにしています。不整脈や血液浄化など多岐に分かれている専門分野の資格はもちろん施設認定のひとつになっている体外循環技術認定士なども取得してもらうよう働きかけています。試験のための講習会の費用も一部負担しています。さらに、該当の資格が取得できると『認定手当』というのを設けていていますので、給与に反映されます。」

きめ細やかなケア

山下技士「人工呼吸器を装着している患者さんの“CT撮影をしたい“、”MRI検査をしたい“などのリクエストがあった際には、搬送用の人工呼吸器を準備して院内搬送を行います。機器を準備して付け替えて、一緒に撮影に立ち会って終了したら帰ってきて元の機器に付け替えるという作業をします。大学病院なので、慢性の人工呼吸器装着患者さんになると地域の方で診ていただくことになります。搬送の途中、どうしても人工呼吸器を外すことができないという患者さんには、院外搬送用の人工呼吸器を付けて、医師と一緒に次の病院まで同行することもあります。今までで一番遠かったのが宮崎大学病院です。陸路で搬送したので、1日がかりでした。」

Q.時間がかかっても丁寧なケアをされるのですね。

山下技士「日々気をつけているのは、“機械の先に必ず患者さんがいる“ということです。若い頃、人工呼吸器の回路を交換する際に数値ばかり気にしていて機械の先が疎かになりそうなことがありました。教訓として胸に刻んでいますし、後輩たちにも十分気をつけるようによく言っています。」

患者の負担軽減につながる連携

Q.九州大学病院と連携しているということですが、どういった連携ですか?

小原技士長「2017年から人工心臓の管理施設として九州大学病院と連携しています。重症心不全患者さんの中には、人工心臓を植え込んでいる人がいます。今までは、人工心臓の植え込み施設である九州大学病院が患者さんを全部管理していました。連携をとったことにより、熊本在住の患者さんに関しては、熊本大学病院の外来で診察したり、入院を受け入れたりとサポートできるようになりました。」

Q.定期検診などであれば、わざわざ九州大学病院まで行かなくてもいいということですか?

小原技士長「そうです。以前は、毎月九州大学病院まで通われていたそうです。今は、年に4回、九州大学病院へ。それ以外は、熊本大学病院へということでかなり負担が減ったと聞いております。また、何かトラブルがあったときに頼れるところが近くにあるというのは助かるそうです。」

求める人材

 小原技士長「コミュニケーションがしっかり取れる人。仕事にプライベートを持ち込まない人。探究心のある人。大きくこの3つを求めます。2つ目の『仕事にプライベートを持ち込まない』は、医療関係の仕事では気持ちの浮き沈みがない人の方が向いているからです。3つ目の『探究心のある人』は、私たちの仕事は特に働きだしてからも日々勉強が必要ですので、しっかり学んで知識や技術を自分のモノにしてくれる人を求めます。目標としては、熊本大学病院で学んだことを他所の病院でも生かしてくれるような人材を育成していきたいと思っています。延いてはそれが、売りになるような施設にしたいです。」

 

取材協力

熊本大学病院 ME機器センター
〒860-8556 熊本県熊本市中央区本庄1−1−1 Tel.096-344-2111(代)
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