【臨床工学技士インタビュー】「農民とともに」の精神で予防に重点を置きつつ、医療を近代化させてきた佐久総合病院。 地域に根ざし、先端医療から在宅医療まで幅広く手がける

長野県厚生農業協同組合連合会 佐久総合病院

佐久総合病院グループは長野県厚生連の組織として、慢性疾患の診療、在宅医療、健康づくりなどを担う佐久総合病院(本院)と、専門医療と救急の紹介型病院である佐久医療センター、山間部の農村を支える小海分院・小海診療所が協働して地域医療を担っている。

臨床工学科の小宮山進一(こみやま・しんいち)技士長と、佐久医療センター勤務の小林駿(こばやし・しゅん)技士にお話を伺った。

小宮山 技士長

Q. 臨床工学技士の人員体制について教えてください。

本院が10名、佐久医療センターが26名、小海分院が2名です。グループ全体では38名の臨床工学技士がおり、このうち男性が32名、女性が6名です。年齢構成では30代が20名、20代が10名、40代が4名、50代が3名、60代が1名です。

当院はもともと本院と小海分院の2つの病院でしたが、本院の急性期機能を佐久医療センターに分割するという形をとりました。現在では、臨床工学技士が一番多いのは佐久医療センターとなっています。病院の再編にともない、臨床工学技士についてはいったん専門的業務を覚えてもらったうえで、他の業務の補助もできるように教育・訓練を実施している最中です。どちらかと言えば、スペシャリストというよりはジェネラリスト寄りの育成をしています。

業務を大きく分けると人工心肺、心臓カテーテル・不整脈治療、血液浄化、内視鏡、医療機器(ME)管理となります。実際には内視鏡業務をメインとしながら、人工心肺業務と掛け持ちしているような臨床工学技士もいます。

Q. 新人の育成についてはどのように進められていますか。

新人は透析センターで血液浄化を一通り覚えてもらいます。一人前になるまでには、長ければ3年かかります。一つのカテゴリーである程度習熟してきたら、その業務に従事しつつ、ME業務の研修を始めます。新人が夜勤に入れるようになるまでには、半年から1年くらいはかかります。

Q. 勤務体系などについても教えてください。

定時は8時30分から17時までとなっています。夜勤は1名体制で平均月2回ほどあります。待機は心臓血管外科で月4~5回、心臓カテーテル・不整脈治療で月1回ほどです。残業に関してはここ3か月で見ますと、一人平均で月8.6時間です。有給休暇については、年間で平均13日くらいは消化できています。

小宮山さんご自身は、どのような経緯で臨床工学技士になられたのですか?

私は入職31年目で、地元の長野県出身です。浪人している頃に、消防署長をやっていた父が臨床工学技士のことを知っており、「こういう資格もあるらしいぞ」と勧められ東京の専門学校に入り、臨床工学技士の資格を取ってから地元の長野に戻ってきました。

Q. もともと機械への関心などは高かったのでしょうか。

もともと機械いじりは嫌いではありませんでしたが、それほど強い興味がある訳でもありませんでした。そのため、機器の扱いにさほど高い関心がなくても、実際に仕事に就いてから機器の操作などは身に付けられると考えています。

実習で臨床の現場を見た時に、一番気になったのは人工心肺でしたね。私は東京の大学病院でお世話になったのですが、オペ室の空気がものすごくピリピリしていていたことを覚えています。

Q. これまでのキャリアや、苦労した点などについてもお聞かせください。

私が入職した頃は臨床工学技士が5人しか居なかったのですが、血液浄化業務を5年ほど行った後に、手探りでいろいろな業務をこなしながら、ここまで来ました。医療機器についても一つ一つ覚えていきました。

若い頃は、機器のボタンを押すといった操作はできても、なぜそうなるのかという仕組みについては分からず、勉強では苦労しました。医療機器メーカーさんにはいろいろと教えて頂きました。ペースメーカーに携わり始めたときには、当時の技士長から「もっとしっかり勉強しないといけない」と言われたため、2泊3日缶詰になってメーカー研修に参加したこともあります。そのおかげで、かなり技能が身に付いたと思います。

循環器系医療機器に関しては、メーカーさんにお願いして、みっちり研修をして頂きました。最初の頃はメーカーさんの事務所や施設などに出向いて、泊まり込みで勉強していたのを思い出します。

Q. 臨床工学技士として一番困ったことは何でしょうか。

トラブル対応で呼ばれることがあるのですが、何の機器か知らずに対応しないといけない場面がありました。手術室やICUなどで、医療機器以外の機器があり、取扱いマニュアルを見て、手探りで対処することもありました。私達も、全ての機器について知っている訳ではありませんので、今でもそういった場面は出てきます。

Q. この仕事のやりがいについてはどうお考えですか。

自分が勉強して身につけた知識を、患者さんにお返しできるところでしょうか。それがやはり、一番のやりがいだと思います。植込み型除細動器を手動でうまく動かせた時や、私たちの補助により医師の治療がうまくいった時には、達成感を感じます。

それこそ笑い話になってしまいますが、20年くらい前までは懐中電灯や電気毛布、車椅子などの修理依頼も私達のところに来ていました。今ではそういった雑務はなく、医療機器の保守管理に深く関わるようになっており、強い責任を感じています。今では医療機器自体に点検機能が備わるなど、医療機器の機能が格段に進歩しています。

Q. 臨床工学技士のイメージは入職された頃と比べて変わったと感じられていますか。

私は入職以来、いろいろな業務をやらせて頂きました。人工透析から入って腎臓など代謝について学び、それから循環器を勉強しながらME業務全般に関わっています。その間に病院内での臨床工学技士に対する認知度が上がったと感じています。ただ、病院に勤めている人には知られていますけれども、一般の人には、まだまだ知られていないのではないでしょうか。

次に小林さんにお伺いします。臨床工学技士という職業を知ったきっかけについて教えてください。

小林駿 技士

私はもともと機械系と生物系(特に人体)に興味がありました。母が医療事務に従事していたこともあり、臨床工学技士という職種があることは聞いていました。高校2年生の夏頃に臨床工学技士について調べていくと、国家資格であるため就職に強く、安定している職業だと分かりました。

ちょうどその頃、佐久医療センターができるという話も耳にしており、臨床工学技士を目指して愛知県の大学に進学し、卒業してから佐久総合病院に入職しました。

Q. 実際に臨床工学技士になられて、どうでしたか?

私は2013年4月に入職しました。はじめに本院の透析室に入りましたが、実際に臨床に入ってみると、やはり座学と臨床は違うと感じました。教科書的には異常値とされる、血圧などの数値を目の当たりにした時は、驚きましたね。

入職してから約1年半は本院で血液浄化業務に従事して、その後は佐久医療センターに異動し、しばらく血液浄化業務に就いた後に、人工心肺業務に配属となりました。今は主に人工心肺の操作を担当しながら、掛け持ちで人工透析や心臓カテーテルも担当させて頂いています。

私は臨床工学技士の教科書に載っている業務については、全てやりたいと思っていました。実際に佐久医療センターでは20代後半くらいまでに、一通りの業務は経験させて頂きました。

Q. 1日のスケジュールについても教えてください。

7:30 起床
7:50 家を出る
8:05 病院着
8:20 朝礼開始
8:30 準備
9:00 患者さん入室 人工心肺業務
11:30 ~ お昼休憩
12:30 人工心肺業務
16:30 手術終了
17:00 業務終了

といったスケジュールになります。

Q. この仕事のやりがいについてはどうお考えですか。

命に直結するような操作が多いので、勉強すればするほど人体のことも分かりますし、患者さんの状態が改善したり、効果が目に見えたりすると充実感が得られます。知識が増えれば増えるほど、医師に提案できるという点が、非常にやりがいです。

Q. 今後はどのようにキャリアを積み重ねていきたいですか。

もともとジェネラリストを目指していましたが目標が達成できたため、今はスペシャリストになれるよう人工心肺の認定資格(体外循環技術認定士)の取得を目指しています。このほかにも周術期の認定資格も取得したいと考えています。

また、後輩の指導にも力を入れていきたいと思っていて、正確な知識を分かりやすく伝えられるよう心がけています。

当院には経験豊富で熟練した先輩が多く、何を聞いても答えてもらえますし、海外で論文発表される方もいます。そうした姿に学びながら、まだまだ勉強しなければいけないなと思って精進しています。私自身は年1回くらいのペースで学会発表することを目標としています。

Q. 佐久総合病院で働くメリットについてはどう感じられていますか?

心臓血管外科の分野では、人工心肺の症例が年間約120件で、その中で低侵襲の内視鏡手術(MICS)も年間15症例くらいあります。このほかにも、末梢血幹細胞を採取してがん治療を行うハーベストや心臓カテーテルアブレーション治療を行ったりもしていますので、スキルアップにつながる業務は多いです。

体外循環や埋め込み型人工心臓、透析の特殊な療法など、先端医療も行っていて、(手術支援ロボットの)ダヴィンチも2022年に入りました。その立ち上げを先輩らが手がけ、私も準備を手伝わせて頂きました。当院は地方の病院ですが、大学病院並みの設備が整っているので、本人が望めば、高度な医療に携わることができます。

これから臨床工学技士を目指す若い人たちに、メッセージをお願いします。

小林 技士「臨床工学技士になるのであれば、私は4年制大学をお勧めしています。幅広い分野のカリキュラムが組まれていますし、卒業論文などを通じて論文の書き方も習得できるからです。また、大学生の時にしかできないキャンパスライフを送ったほうが、社会に出てから役に立つこともあります。

就職してからは仕事も大事ですが、遊ぶこともとても大切だと思います。どの業界でも当てはまることですが、仕事ではどうしてもストレスがかかります。仕事だけ頑張ってストレスで体を壊してしまうようなことは、あまりにももったいないです。思う存分遊んでストレスを発散し、仕事も頑張ってください。

20代はやる気や体力に満ちており、自由に使える時間やお金もたくさんあります。1度しかない貴重な青春時代を後悔しないように生き抜いてください。」

 

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