【臨床工学技士インタビュー】朝倉地域の医療のために。少数精鋭で経験豊富な臨床工学技士たちが知識と工夫でよりよい提案を。医療安全を院内に浸透させるための勉強会での例とは。UJIターン者が働きやすい周辺環境も魅力

朝倉医師会病院

1984年(昭和59年)甘木朝倉医師会病院として発足。2008年(平成20年)には、県立消化器医療センターを引き継ぐなど病院の形を変えながらも長年にわたり朝倉地域の医療を支えてきた。朝倉医師会病院の臨床工学科には、4名(女性2名)の臨床工学技士が所属している。病床数は、224床。現在、中央管理されている機器の数は約600台。臨床工学科の小野裕明(おの・ひろあき)科長と馬場彩(ばば・あや)技士に話を聞いた。

Iターン

小野裕明 科長

大分県臼杵市出身で、大分県内の専門学校を卒業後、広島県内の総合病院や大学病院勤務を経て約2年半前に朝倉医師会病院へ入職しました。

Q.どうして朝倉医師会病院を選んだのですか?

妻の実家が朝倉市にあります。Iターンです。私の地元大分県でも働きたいという気持ちもありましたが、子どもが2人いるので手がかかりますから妻の実家の近くの方が子育てもしやすいと思いこちらに転職しました。朝倉市は、自然豊かでいいところです。それに、博多まで車で約40分とアクセスも良好でとても住みやすいです。

他病院での勤務経験だからこそ

朝倉医師会病院は2008年に開院しました。14年経って様々な医療機器が買い替えの時期になりました。以前勤めていた病院で医療機器管理の業務もしていましたのでその経験が生かせました。

Q.どのような場面で生きましたか?

高額な医療機器が多くあります。医療機器を購入する際に、現場の医師や看護師さんは業者さんの提案する最高グレードの機器が欲しくなるのが人間心理としてあります。また、事務部の方々は、現場が必要と言っているなら高いけど買うしかないかなとなります。そこに医学と工学の知識を持った我々臨床工学技士が関わることで、病院の規模にあった最適なグレードの機器を提案することは、病院にとって大きなメリットがあると考えます。さらに、機器の稼働率を計算して購入台数を吟味し無駄のないように更新を進めていけます。統合、合併するなかで臨床工学科を経由せずに購入している機器もあり管理するのが難しくなっていました。今回、良い機会でしたので、事務部と相談をして購入審査をする委員会を設置し、窓口を一括化しました。この先数年をかけて全てを把握できるようにしたいと考えています。

Q.臨床工学科には臨床工学技士は何名所属していますか?

現在、朝倉医師会病院の臨床工学科には、私を合わせて専任の臨床工学技士が4名います。そのうち女性は2名です。私が朝倉医師会病院へ入職したときには3名(女性2名)で、内視鏡室に臨床工学技士が1人も行っていない状態でした。業務内容を見直すなかで試しに内視鏡室で業務をしてみると、医師や看護師から「機器トラブルの場合にすぐに対処してもらえるなど臨床工学技士さんにいてもらった方が安心だ」という声をもらいましたので、病院へお願いをして業務を拡大し臨床工学技士を1名増員してもらいました。

朝倉医師会病院の特徴

朝倉医師会病院は、近隣の病院の医師らの会で組織された病院です。近隣で開業している医師から紹介された患者さんが入院した場合、その医師は朝倉医師会病院へ患者さんを診に来られます。地域支援病院なので、休日の診療を会員の医師らが交代で担当したり、朝倉医師会病院の器械を使って会員の医師が自分の患者さんを手術したりもします。

Q.会員の先生が担当した手術の機器のメンテナンスは臨床工学科でするのですか?

そうですね。朝倉医師会病院の所有機器になりますので、私たちが担当します。

県外の大学から地元へ就職

馬場彩 技士

入職10年目の馬場技士は、福岡県内の高校を卒業後宮崎県の大学へ進学。卒業後、朝倉医師会病院へ入職した。

Q.どうして朝倉医師会病院を選んだのですか?

就職活動をするときに、地元にもどりたいというのが大前提にありました。色々調べていくなかで、朝倉医師会病院は、希望していた高気圧酸素治療の業務があるということで選びました。

Q.高気圧酸素治療に興味が会ったのはどうしてですか?

大学のときに高気圧酸素治療を専門としている先生がいらっしゃってお話を聞くうちに興味を持ちました。気圧が高い環境下で高濃度の酸素を吸って行う治療なのですが、そこで病態の改善がはかれるという点に素晴らしい治療方法だなと思っていました。当院で多いのが腸閉塞の症例です。お腹が張った状態でガスや便が出ない患者さんに高気圧酸素治療を行うと、すごく楽になるそうで「よくなったよ」と聞くと嬉しいですしやりがいを感じます。

1日のスケジュール

日勤 8:30~17:00(早番8:00~16:30)
馬場技士のある日の勤務 (高気圧酸素療法の業務がある日)

8:15 出勤
電子カルテを確認し、治療のオーダーチェック
8:30 臨床工学科でミーティング(当日の業務の割り振りなど予定を確認)
8:40 業務開始
返却された医療機器のメンテナンス
院内ラウンド
人工呼吸器 除細動器など 日常点検
月・水・金 酸素ボンベの交換
10:00 機器トラブルの対応 血圧計、パルスオキシメーターなどの点検

11:00 高気圧酸素療法の治療、治療がなければ、勉強会の資料づくり など
13:00 休憩(昼食) 1時間
14:00 機器の点検・清掃業務
15:00 下肢静脈瘤手術
~17:00 機器点検→終業

残業時間は、月2時間程度。夜勤なし。
オンコールは月5回程度、ほとんどが電話対応。

医療安全の砦

現在、医療安全に携わるなかで重要性を感じています。どうしても学校の授業では、医療安全に多くの時間をかけないので深く勉強する機会がありませんでした。インシデントなど何か起こったときには、人に注目してしまいます。つまり、人が起こしてしまった結果に対して対策を考えがちだったのですが、そこを背景にも着目して考えるとよりよい対策が立てれます。各部署の医療安全の担当者に向けて医療安全の勉強会をするのですが、教科書通りだと伝わりにくく難しくなってしまいます。そこで、身近にある例を交えながらイメージしやすいように説明しています。

Q.身近な例とは?

例えば・・・危険予知トレーニング、KYTとも言うんですが、患者さんがオーバーテーブルに手をついて立ち上がろうとしたら車輪が動いてこけるかもしれないとかですね。他にもコミュニケーションエラーの話をしたときは、患者さんから「おてて打って痛い」と言われて、スタッフは手と勘違いしたけど、本当は「落ちて」の方言で伝える方と受け取る方で別の解釈をしてしまったとかです。身近な例を使うことで、他のスタッフの方にも少しでも医療安全を知ってもらうきっかけになればと思います。

Q.反応はいかがですか?

例があるとわかりやすいと言ってもらえます。イラストもつけながら工夫して勉強会をしています。患者さんに関わる重要なことになりますので継続していきたいと思っています。

求める人材

小野科長「私自身いくつかの病院勤務を経験してきて感じることなのですが、病院によって臨床工学技士に求められる役割が違います。朝倉医師会病院は、急性期から慢性期までを担い、また院内すべての医療機器の管理のみならず、使用方法の教育や医療安全管理室、感染管理室などと連携した幅広い業務になります。自分から能動的に様々なことを提案できる人がいいですね」

Q.どのような提案ですか?

小野科長「例えば、ラウンド業務を普段5階から1階へと上から下へと行なっているものを、1階から行うと効率が良いので下から上へと行うようにしましょう。など当たり前になっていることにも疑問を持って新しい提案をできる方が望ましいですね。まだまだこれからではありますが、手術室の清潔野での介助業務やペースメーカー業務などに将来的に係わっていきたいと考えていますので希望する人が入職してくれるといいですね。」

 

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