臨床工学技士になろうと思ったきっかけを教えてください。
小池祐磨 技士
家族の病気がきっかけで高校の進路選択の際、医療関係に就きたいと思い、臨床工学技士と臨床検査技師の資格が取れる大学に進みました。大学4年まではどちらの仕事にするか決めかねていましたが、最終的に実習で臨床現場を見たことで、機器を通して医療の安全や患者さんの治療に携われることに魅力を感じ、臨床工学技士を選択することに決めました。
今は、臨床工学技士として臨床検査技師の資格も活かしながら業務に取り組んでいます。
信楽園病院を選んだ理由は?
信楽園病院が透析で有名な病院で実績も多かったことや、血液浄化療法を学びたいと思っていたことが、選んだ理由でした。
また病院見学に来た際、透析病床の多さ、フロアの広さ、機器の多さに驚きました。同時に、透析以外に医療機器保守管理・循環器・医療ガス保守点検と様々な業務経験が積める病院だと感じたので、この病院を選びました。
臨床工学技士として働いてみて、いかがでしたか?
実際の臨床現場に出ると、学生時代と違って医療機器の先には患者さんがいます。また、自分の仕事が患者さんの命に関わっているので、学校で学ぶのとは違う責任の重さを感じました。
また当院は透析患者さんの人数が多いので、入職当初は顔と名前を覚えるのがとても大変でした。
現在では2年目になり、いろいろな患者とコミュニケーションをとれるようになり、他の医療従事者とも仕事の連携が少しずつできてきて、楽しく仕事をさせていただいてます。
臨床工学技士としてのやりがいはどんなところですか?
透析の現場では、穿刺から回収まで患者さんとコミュニケーションを取る機会が多くあり、治療が終わった時に患者さんから「ありがとう」と言われることが、やりがいに繋がっています。
また機器のトラブルがあると最初に臨床工学技士に連絡が入るので、頼りにされていると感じられることがやりがいになるし、対応をする中でトラブルが解決できることもやりがいに繋がります。
入職して2年目なので、今は日々出来る業務が増えて、役に立てることが増えていくことがモチベーションになっていますが様々にトラブルに対して、まだまだ知識や経験が足りていない部分があるので業務を行っていく中で積み重ねていきたいと思います。
臨床工学技士のお仕事では、どんなことを意識していますか?
今、私が担当しているのは、血液浄化・医療機器保守管理業務になります。医療機器保守管理業務では、一つ一つの機器を丁寧に点検し、テストなどを行って、問題が無い状態で貸出できるように意識しています。まだ一度も触れたことの無い機器もあるので、その場合は先輩にしっかりと確認しながら業務をするように心掛けています。職場の先輩方は接し易く、些細なことでも質問しやすい方ばかりなので助かっています。
透析治療では患者さんとのコミュニケーションを大切にしています。当院では約380名の透析患者さんが治療を受けられています。実際の現場で穿刺や回収をしていくので患者さんとコミュニケーションをとるなかで、患者さんの性格や状態を理解して、信頼関係を築くことを意識しています。
また、透析治療では患者さんの状態が変化しやすいので、常に患者さんの状態を確認しながら業務をするようにしています。
それに加えて、今年度からバスキュラーアクセス係としてエコーを用いて、患者さんのバスキュラーアクセス管理に関わっています。透析治療を行う上でバスキュラーアクセス管理は重要なので知識や経験を深め、責任のある検査を行えるように意識しています。
小池技士の一日のスケジュールを、教えてください。
定時 8:00~16:45
6:30 起床
7:30 出勤
7:45 病院着 情報収集など
8:00 臨床工学技士のカンファレンス後、分担業務へ
8:15 バスキュラーアクセスエコー検査の準備 患者さん2~3名の検査 レポート作成
11:00 医療ガス保守点検
12:00 昼食
13:00 呼吸器のラウンドや、医療機器センターで、返却機器の点検
16:30 臨床工学技士のカンファレンス
16:45 帰宅
どんな人が臨床工学技士に向いていると思いますか?
臨床工学技士はとてもやりがいのある仕事で、新しいことに積極的にとり組んで学んでいきたいという方に、向いている職種だと思います。
また知識や経験を積むと出来ることが増えていく職種でもあるので、私のように機器や医療に興味がある人ならよりやりがいを感じられる仕事です。そういう方に、臨床工学技士について興味を持ってもらいたいと思っています。
これから臨床工学技士を目指す方にアドバイスをお願いします。
医療に興味があったり、人を助けたいという気持ちがある方が考える職種の一つに、臨床工学技士があると思います。臨床工学技士はチーム医療の一員なので、患者さんや他の医療従事者、そして医療機器メーカーの人など、多くの人と関わる仕事になります。そのためコミュニケーションは、とても重要なスキルになります。
それに患者さんとコミュニケーションがとれていることで、聞き出せる情報があります。患者さんの情報を的確に、看護師や医師に伝えることが患者さんの回復に繋がるので、臨床工学技士として患者さんとのコミュニケーションはとても大切になります。
信楽園病院 臨床工学科について
星野一 臨床工学技士長
臨床工学科の人数や業務内容について教えてください。
臨床工学科には18名の臨床工学技士が在籍しています。以前は女性もいましたが、結婚退職などで現在はすべて男性です。
サテライト施設の信楽園病院附属有明診療所には、男性1名、女性2名の臨床工学技士が在籍しています。今はそれぞれの施設のみで勤務していますが、今後は2つの施設を3~5年でローテーションしていく運用を考えています。
業務は、血液浄化・医療機器保守管理・循環器・医療ガス保守点検の4つがあります。専門性が高い循環器業務は4名で担当。その他の14名の技士は、血液浄化・医療機器保守管理・医療ガス保守点検の3つの業務を毎日ローテーションして担当しています。ただ医療ガス保守点検業務は、毎日の点検とメーカーさんが点検する際の橋渡し等の業務で、メインは血液浄化・医療機器保守管理業務になります。
医療機器保守管理業務で管理している機器数は、透析監視装置が158台、第一機械室に透析液供給、溶解装置が合計9台 第二機械室も9台。それ以外に輸液ポンプ、人工呼吸器、生体情報モニター、シリンジポンプ、吸引機などの医療機器が2,000台になります。医療機器センターから1日の貸出返却件数は、約30台。患者使用後、看護師が返却に来るため、それらの機器を点検、修理して臨床使用可能な状態するまでが仕事です。
循環器業務については、命の危機に直面している患者さんへの対応になるため、突然のことに対応できるかなどを踏まえながら、本人のやる気やスキルを面談で確認して人選しています。
臨床工学科へ入職後の研修について教えてください。
4月に入職すると、新人1名に対して1名のプリセプターをつけています。プリセプターの大きな役割は、新人の精神的なバックアップになります。当院の教育はより多くのことを吸収して欲しいという考えから、若い技士が教えたり経験豊富な技士が教えたりと、1人に対して様々な人が教育をする屋根瓦方式を取っています。
入職して最初の1~2週間は、先輩技士の後ろについて各業務の見学のみを行うシャドー研修になります。その後約3か月間は、機械室で透析装置の点検についての教育を行います。同時に医療機器センターの医療機器保守管理業務についての教育も行います。
そこまでの教育が終わる頃には現場の雰囲気にも慣れてきているので、次に透析現場に出て看護師と一緒に、透析の穿刺から回収までや患者さんへの接し方について学び、1か月後には1人で穿刺回収業務が担当できるように教えていきます。また、同時進行で医療機器センターの医療機器保守管理業務を行ったり、先輩に付いて緊急の透析業務を学んでいきます。
その後11月か12月頃からは、透析の準夜勤※業務。年明け1月か2月には急性の透析治療についての教育を行います。
※準夜勤:14:45~23:30勤務、16:00~0:45勤務
一つひとつの業務に対しては、テストを行っています。テストに合格したら、その業務については独り立ちと判断しており、最終的に3月頃までにはすべての業務を1人で担当できるような教育体制をとっています。
それ以外に認定資格取得は、病院からの補助もあり推進しています。現在、呼吸療法認定士、透析技術認定士は数名が取得しています。研修費や研究発表時の交通費・宿泊費の負担など、教育に関する病院のサポートは充実しています。
臨床工学科の勤務体制について教えてください。
日勤は8:00~16:45。準夜勤は14:45~23:30または16:00~24:45で計3パターンの勤務形態があります。週休2日で、当直はありません。循環器業務のみ待機があります。
勤務スケジュールについては、準夜勤の後に睡眠だけで休日が終わらないように、準夜勤と休日を工夫して組むようにしています。また年次有給休暇はメンバー間で協力して取っており、年間で平均7~8日は取得ができています。
こちらの臨床工学科にはどんな特徴がありますか?
当院は透析のベッド数が150床、現在患者さんは約380名で、新潟県の中でも透析の歴史ある病院になります。オンラインHDF※、I-HDF※治療、急性血液浄化など、患者数が多いことで様々な症例の経験ができます。また透析室には、看護師が約60名、腎臓内科の医師は7名が在籍しています。臨床工学技士はその看護師へ血液浄化装置の勉強会を行ったり、周知事項の徹底などにも時間を割いています。
人工心肺については、当院では行っていません。対応が必要な患者さんについては、近隣病院へ回ってもらっています。
※オンラインHDF:一般的な血液透析に、さらにろ過作業を加えた透析方法。
※I-HDF:間歇補充型血液透析濾過。透析器(ヘモダイアフィルター)を介して、逆濾過透析液を間歇的に補充する血液透析濾過の一つ。
見学に来る学生さんはどんな人が多いですか?
透析の病床数が多いことから、透析に関心のある学生が多い傾向があります。通常の病は、治れば患者さんは病院へ来なくなります。しかし、透析患者さんは一生通い続けることになるので、そんな患者さんと上手にコミュニケーションを取りながら、どうやって治療に携わっていくか。患者さんに最後まで携われることに魅力を感じて、当院へ来る学生さんも多いです。
星野技士長が入職してからの臨床工学技士や科の変化について教えてください。
院内の臨床工学技士の人数はどんどん増えています。また私が入職してからの18年間を振り返ると当初は、透析業務だけだったのが、医療機器保守管理業務、そして循環器業務と、臨床工学技士の業務は徐々に増えています。病院内でも臨床工学技士が認知され、タスク・シフト/シェアによって今後は更に業務範囲が広がっていくのではないかと思っています。
歴史を引き継ぐだけでなく、新しいことも取り入れ、臨床工学科としても今後、業務範囲を広げていきたいと思っています。
こんな人に来て欲しいという人物像を教えてください。
臨床工学技士に一番大事なのは好奇心であると考えています。初めての医療機器でも、とりあえず触ってみよう。治療でもまずは携わってみよう。そういった好奇心が無いと、向上心にも繋がっていきません。
自分から好奇心を持って、前向きに取り組んでもらえる人だといいですね。
また最近の医療機器はどんどん高度化しているので、向上心が無いとについていけないと思います。機器の高度化に合わせて確実に技術を身につけるために、こちらから課す勉強会だけでなく、自分から積極的に学んでいく姿勢が必要なので、向上心のある方に来て欲しいです。
臨床工学技士の仕事は近年マニュアル化していて、最近の技士は失敗が少ない傾向にあります。私の時は、失敗して患者さんに迷惑をかけて怒られたりと、トライ&エラーの中から多くのことを学べました。
自分で調べて直す経験からも学べましたが、今は機器に自己診断機能が付いていて故障が少なく、修理経験を積むことも難しくなっています。
そんな環境下で、いかにトラブル時にも対応できるように過去の経験を伝えていくかは、課題だと感じています。