この記事では発達障害に対する理学療法士の仕事内容、外部機関との連携のとり方、子どもを対象とした理学療法の難しさ等を紹介していきます。
発達障害専門の理学療法とは?
理学療法が担当する役割は、歩く、立つ、座るなど基本的かつ生活にとって不可欠な運動能力の再獲得です。一方、子どもの場合には発達段階の障がいにより運動能力が未達成であるため、再獲得ではなく「獲得」するということになります。よって子どものリハビリの場合、リハビリテーションではなく、”ハ”ビリテーションと呼ばれることがあります※。担当している子どもが様々なことができるようになり、成長していく過程はとても感動的で非常にやりがいのある仕事です。(※2015,鈴鹿医療大学紀要より一部抜粋)
理学療法の対象は?
理学療法士の仕事の一つに発達障害を持つ子どものリハビリテーションがあります。対象は様々で先天的に脳や神経系、筋骨格系の病気により身体に障害を持つ脳性麻痺、筋ジストロフィー、二分脊椎、染色体異常や精神運動発達遅滞、また後天的な事故や病気等で生じた四肢麻痺や脊髄損傷、血液腫瘍疾患にて入院している子ども達です。さらに近年増加してきているのが疾患名のないいわゆるグレーゾーンと呼ばれる子や発達性協調運動障害という日常生活に影響を及ぼすほどの不器用さを呈する子ども達も理学療法の対象となっています。
どんなリハビリテーションをするの?
よく大人と違って難しそうというイメージを持たれがちですが、基本的な理学療法は大人と変わりません。そして発達分野の理学療法はここ10年ほどで急速に変化し、対象の子ども患者の多くは、従来の療育センターからではなく、医療機関のNICU(新生児特定集中治療室)から介入が始まっています。ここでは発達時期に分けて紹介します。
新生児
寝ている赤ちゃんにストレスをかけないように理学療法評価(NBAS,GMs,Dubowitz等が新生児の評価としてよく知られています)を行い、結果に基づきポディショニングと呼ばれる良肢位を保てるような姿勢変換を行ったり、人工呼吸器管理中の赤ちゃんには呼吸理学療法という手技で苦しさを和らげたりします。
幼児期
幼児期は運動を獲得していく非常に重要な時期と言われています。発達には定頚から始まり、寝返りや四つ這い、つかまり立ち、歩行までの一連の流れがあり、それを獲得できるように理学療法を行なっていきます。その過程において、ボバース法、ボイタ法、上田法といった促通手技が使われることもあります。
学童期
学童期は一度獲得した機能の低下、二次障がいの出現などに対する予防、さらに介護量の軽減という目的を考慮しつつ理学療法を行う必要があります。例えば、拘縮(関節が硬くなり、動きが制限された状態)は麻痺がある子どもによく見られる症状ですが、これに対して関節可動域訓練を行う、また筋力低下に対して筋力増強訓練、歩行訓練等を行ったりします。
青年、成人期
理学療法の内容としては、学童期とほとんど変わりませんが、二次障がいの重症度により疼痛が出現することもあるため、ポディショニングや異常筋緊張の抑制、痛みが出ないような日常生活動作の練習を行ったりします。
子どもは社会の中で生きている?
幼少期から理学療法を受けている子どもは、病院、学校、療育、訪問看護等の様々な機関と密接に関わりながら生活しています。例えば入院から自宅へ退院する時は、退院前カンファレンスがあり、そこには主治医、訪問看護ステーションの医師、看護師、理学療法士、学校の担任、ソーシャルワーカー等のスタッフが集まり、今後のサポート体制をどのようにしていくかを話し合います。その話し合いの中で理学療法士として、現在の児童の身体的能力、移動能力(車椅子なのか歩行器を使用するか等)、介助の方法を伝え、また学校で使用する机や椅子等の環境設定のアドバイスも行います。このような連携をスムーズにするためにも日頃から特別支援学校に出向き理学療法士がポディショニングや介助方法の伝達を行ったり、他施設の療法士同士で情報交換を行うことを心掛ける必要があります。どこかの機関一点に医療、リハビリテーションが集中する環境を作り上げないためにも地域で多職種連携や職域を超えた輪を作ることが求められます。
大人の理学療法と違うところは?
理学療法の仕事内容としては、評価から始まり、治療し、評価で終わるという流れは変わりません。しかし、対象が子どもなだけに言葉が喋れない、意思疎通が上手くいかない、こちらの要望通りにリハビリをやってくれない、泣いてしまう等の難しさもあります。そして、短期的なリハビリテーションではなく、数年、あるいは数十年と続く長期的なリハビリテーションを受ける必要がある子どもがほとんどです。子どもは素直ですから、嫌だと感じたことはやってくれませんし、長続きしません。なので、いかに楽しく、やりたい!と思ってリハビリテーションに取り組ませるかというところがとても重要で、面白みがある部分だと感じます。
まとめ
人間の基本的な動作を獲得する上で理学療法士が果たしている役割はとても大きいです。特に対象が子どもの場合、発達により身体が変化していくことや意思疎通がとれない等の難しさもありますが、それ以上に小さなできることが少しずつ増えていくのを保護者と間近で共有できるのは何ものにも代え難い喜びがあります。