国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センターは受精・妊娠に始まり、胎児期、新生児期、乳児期、学童期、思春期を経て次世代を育成する成人期へと至るライフサイクルに生じる疾患(成育疾患)に関する医療(成育医療)と研究を推進するために設立されました。この目的を目指す上で忘れてはならないのは子どものためのアドボカシー(advocacy:自己主張できない存在の代わりになってその存在のために行動すること)の理念です。
当センターは、必要とする全ての子どもや青年そして妊娠・出産に関わる女性に優れた成育医療を提供しています。感染症などの急性疾患や難病などの慢性疾患を持つ子どもとそのご家族、合併症妊娠や出産を願う女性とそのご家族が安心して医療を受けることができるように、安全でこころのこもった医療・看護・患者支援を行うことを第一に心掛けます。また、子どもや青年とご家族をbiopsychosocial(身体的・心理的・社会的)に把握し、支援することを目指しています。
また当センターは2016年に米国の評価機関 “Top Master’s in Healthcare Administration” から、高度な技術を有する世界の小児病院30の一つに選ばれました。※1
さらに2020年2月に国内5施設目の、小児専門病院としては初の「小児心臓移植実施施設(11歳未満)」として認定されました。※2
2019年末に施行された成育基本法の趣旨を十分に意識し、日本の成育医療と医学研究を推進するため、これからも一層の努力をして参ります。
今回は子どもの小さな命を守ることを使命に、日々躍進する医療工学室の芝田正道(しばた・まさみち)室長、入職5年目の柏木ともか技士にお話をお伺いしました。
芝田正道 室長(左)・柏木ともか 技士(右)
※1 30 Most Technologically Advanced Children’s Hospitals in the World – BestColleges.com(外部リンク)
→18. National Center for Child Health and Development
※2 国立成育医療研究センターで初めてとなる「心臓移植」を実施~2020年2月「小児心臓移植実施施設(11歳未満)」に認定~ | 国立成育医療研究センター(外部リンク)
柏木技士が臨床工学技士を知ったきっかけ
大学進学にあたって医療職に就きたいと思っていました。物理が好きで機械の構造を知るのが好きだったので、色々ある医療職の中でも、人の生命に直結する生命維持管理装置の操作や保守管理をする臨床工学技士に興味を持ちました。
入職にあたって
もともと小児医療に携わりたいと思っていました。私は大学院卒なので、既に働いている同級生にも相談していました。色んな話を聞く中で、臨床工学技士の人数が少なく早く業務を覚えられる環境であること、ローテーション業務であること、また元々の希望である小児医療に携われることをメインに就職先を考えました。
また実家が神奈川なので、勤務地は東京か神奈川で、将来的に研究がしやすい環境がある病院ということで、成育医療研究センターを選びました。
1日の流れ
業務は、病棟業務(人工呼吸器ラウンド、呼吸器装置・回路交換、在宅指導)、ICU業務(人工呼吸器のラウンド、ECMO、アフェレーシス)、NICU業務(人工呼吸器のラウンド)、手術室業務(脳神経外科・移植外科・胎児診療科、トラブル対応全般)、透析室業務、体外循環業務(人工心肺、ペースメーカ、VAD管理)です。
現在は体外循環(VAD管理を除く)以外の業務をローテーションで回っており、ペースメーカー業務とECMO業務を修得中です。
・定時 8:30~17:05(1時間休憩)
・日当直 8:30~翌8:30
[1勤務目(日勤)]8:30~17:05
[2勤務目(夜勤)]17:05~25:30、25:30~翌8:30当直) 月3〜4回
・オンコール 月3〜4回
【病棟業務の日】
8:30 カルテで入退院の情報収集
8:45 約40名の人工呼吸器の使用中点検(長期で使っている方の装置の交換、回路交換)
入退院の呼吸器回路のセッティング、ICUから病棟への転棟
13:00 お昼休憩
14:00 午前中業務の続き、緊急入院、トラブル対応
15:30 返却された呼吸器の使用後点検
16:30 日報作成
17:05 終業
【手術室業務の日】
脳神経外科、移植外科などの手術の立ち合いを1日数件程度とトラブル対応します。
【透析室業務の日】
朝は透析室でプライミングから導入を行い、その後の返血までの時間帯で次回透析の準備、物品等の補充・発注、他装置の水洗・消毒などを行います。透析の定時チェックやトラブル対応も行います。またICU業務を兼務している場合もあり、他スタッフと連携を取りながら対応しています。次回準備や装置メンテナンス、水質管理等のスケジュールを立てています。
透析室ではお子様の体調や機嫌により、食事摂取量や輸液量が異なるため体重増減の幅が大きく、毎回透析時間にも変動があり、3時間~6時間の透析を週3回行います。
【ICU業務の日】
朝はICUに入室している患者さんの情報を確認します。
基本的な業務は人工呼吸器のラウンドとトラブル対応です。
それ以外の業務としてアフェレーシスやECMOの対応などがあります。
また、人工心臓装着患者の搬送業務があります。
循環器のドクター1名、心臓血管外科のドクター1名、国内の場合は救急のドクター1名、看護師1名と装置管理の為の臨床工学技士1名の5名チームで行います。先日は、初めての患者搬送を自衛隊機で国内搬送をしてきました。滑走路で先方の病院に引き渡しをしてきました。
やりがいについて
透析室で小さい子が成長するのを見ると、元気になれるようにこちらも頑張ろうとやる気が出ます。理念のアドボカシーにあるように、自己主張が出来ない小さいお子さんですので、なおさら頑張れます。また、そういった小児医療に携わるスタッフたちの温かい雰囲気も好きです。
また、NICUから病棟に転棟しお家に帰れる患者さんもいます。その場合、人工呼吸器が必要な患者さんには使用方法をご家族に指導します。長期間関わっていた患者さんが安全に帰るサポートができた時、とても嬉しくやりがいを感じます。
資格について
三学会合同呼吸療法認定士は取得していて、来年の目標は人工心臓管理技術認定士(小児体外式)の取得です。
入職から業務習得まで
医療工学室は10名です。男女5:5で、20代2名、30代4名、40代3名、50代1名になります。
入職するとまず2日間の病院研修があります。感染、情報セキュリティ、医療安全、電子カルテ、ハイリスク薬取扱い、接遇などです。他には医療機器研修があります(サチュレーションモニタ、輸液ポンプ、シリンジポンプ、酸素ボンベのハンズオン研修)。
医療工学室は、手術室業務、病棟呼吸ラウンド業務、ICU業務、体外循環業務、透析室業務の5つの業務があります。配属後は常に40~50人の人工呼吸器を使用する患者さんがいますので、病棟呼吸器ラウンド業務を覚えてもらいます。人工呼吸器の組み立て、設定を3か月くらいで覚えて、その次は在宅指導を覚えて行きます。病棟研修や医療工学室で人工呼吸器の説明会の練習をして、ご家族向けの在宅指導が出来るように指導スキルを上げてもらいます。
その次は手術室業務で、まずは、脳神経外科と移植外科の対応がメインになります。あと、胎児診療科です。
胎児診療科は何をする科ですか?
胎児診療科はお母さんのお腹の中の赤ちゃんの治療をする科です。私たちは胎児診療科が手術をする際に立ち会います。例えば横隔膜ヘルニアという疾患では、横隔膜に穴が開いてしまっているため口から羊水が漏れてしまい肺が成長できません。肺を成長させるために胎児鏡を使って赤ちゃんの気管にバルーンを入れ羊水が口から漏れないようにします。初めて見た時はお腹の中にいる赤ちゃんの気管の中にバルーンを入れるという技術に驚きました。
その次は透析室業務になります。子どもの透析は成人と異なり自動プライミングが出来ずにモディファイした透析になりますのでプライミングは手動になることもあります。小児の透析の物品が無い時代は、全て手作りで対応しないといけませんでした。体外に出る血液が多くなって、生理食塩水で血液が薄まると、血圧が下がってしまうので、体重の10%(10キロの子どもの血液は8%で、血液量は800cc。10%を許容とすると80ccまでなら血圧は落ちにくいと言われています)を超えるようであれば、輸血プライミングをするなど血液製剤を使います。血液製剤は21日の使用期限で、後半になってくると赤血球が壊れてカリウムが高くなり、クエン酸という抗凝固剤が入ってますので、そのまま使うのではなく輸血する血液を透析するところから始まります。手際よくやらないと固まってしまうので、その辺りが難しかったです。今はリソースが良くなっているので、準備にそこまで手間や時間がかからなくなっています。
穿刺はどうされるのでしょうか?
基本、シャントが無くカテーテルで対応しますので穿刺はありません。CHDFや末梢血幹細胞の採取や血漿交換も透析業務に含まれます。
その次はICUの人工呼吸器になります。ICUの人工呼吸器は病棟の人工呼吸器と違うので、病棟の人工呼吸器が理解出来たらステップアップとして、ICU、NICUの人工呼吸器業務を担当します。
そのほか、体外循環(ECMO)やペースメーカー業務(埋め込みは手術室業務、設定変更はICU業務、外来設定変更)を覚えます。
その次は、人工心肺ですが希望は確認しますが症例が多くないので、ある程度決まったスタッフで対応しています。
教育支援について
認定士を取る際の指定講習会は補助を出してもらえます。
更新の場合は、聴講は参加費のみで、演題発表の場合でしたら出張旅費が出ます。
少ない人数で回していることもあり学会発表は依頼があった時に発表している状況です。アカデミックな側面もある病院なので、研究案を出して取り組んで欲しいと病院長からも言われていますので、各個人個人にテーマを持ってもらい、研究発表を増やしていける環境を作っていきたいと思います。
採用について
向上心がある人に来てもらいたいです。
コミュニケーションが上手な人という希望はありますが、まずは、人の話をしっかりと聞くことが出来ることが重要です。
「人の話をしっかり聞く。他人を否定しない」という気持ちを持つ人は、チーム医療の中でも活躍していけると思います。
国立成育医療研究センター 医療工学室
〒157-8535 東京都世田谷区大蔵2丁目10−1 Tel.03-3416-0181