現役臨床工学技士が解説!医療機器管理の重要性を分かりやすく説明

現在の医療において、医療機器管理は非常に重要なポジションを担っています。医療機器の不具合は、医療が提供できなくなるだけでなく、重篤な合併症を引き起こす可能性があるからです。病院内では医療機器に精通した、臨床工学技士が医療機器の保守管理を行っています。病床数480床の総合病院に勤務する、現役臨床工学技士の筆者が「医療機器管理とは」そして、その重要性について考えていきます。

医療機器管理とは

医療機器管理とは、病院内で使用される医療機器を安全に使用できる状態に管理する事です。ここで言う安全とは、故障がない事はもちろんですが、医療従事者が正しい使い方をし、安全な医療が提供できる事も含まれています。医療機器管理は、単に医療機器のメンテナンスだけでなく、医療従事者に対して安全使用の研修や体制作りも必要なのです。医療法では医療機器管理は以下のように定められています。

改正医療法 医療機器安全管理のための体制確保

(1)医療機器の安全使用を確保するための責任者(医療機器安全管理責任者)の設置
(2)従事者に対する医療機器の安全使用のための研修の実施
(3)医療機器の保守点検に関する計画の策定及び保守点検の適切な実施
(4)医療機器の安全使用のために必要となる情報の収集、その他医療機器の安全確保を目 的とした改善のための方策の実施。
参照:平成19年4月 厚生労働省 改正医療法「医療機器に係る安全管理のための体制確保 に係る運用上の留意点について」

平成19年に改正医療法が施行され、保守点検計画の策定、及び実施記録の保管等が義務化されました。これは臨床工学技士が不在の施設でも医療機器管理をしなければなりません。

管理が必要な医療機器

臨床現場では滅菌ガーゼやシリンジなどの消耗品にはじまり、人工呼吸器やCT装置まで、沢山の医療機器が存在します。では管理が必要な医療機器とはどのような物でしょうか。医療法では、人工心肺装置やエコー、輸液ポンプなどの管理医療機器や、高度管理医療機器について保守点検計画と適切な保守点検の実施が求められています。

臨床工学技士が行う医療機器管理

臨床工学技士は、医療機器を扱うスペシャリストです。臨床工学技士の業務は勤務先の病院で大きく違いますが、医療機器管理を行う事は共通と言ってもいいでしょう。臨床工学技士が行う医療機器管理には、以下のようなものがあります。

(1)医療機器の保守点検
(2)医療機器の院内研修
(3)医療機器の更新や新規導入

※臨床工学技士の医療機器管理は医療機関によって異なります。臨床工学技士はメーカー修理担当者とは違い、機器内部を修理する事はほとんどありません。しかし、臨床工学技士は実臨床で働く事で、医療現場の実際を経験しています。そのため、必要に応じた点検計画や、機器の更新、院内研修などに「現場の声」を生かす事ができます。

医療安全の観点からも重要な医療機器管理

医療安全では「事故はいつでも起こり得る」「人はミスをするもの」という考え方の基、常に危機意識を持ち、業務に当たる事が必要とされています。しかし、医療機器の不具合や操作ミスは、重篤な合併症に繋がる危険性があります。特に、術中などの機器使用中のトラブルは焦りから更なるインシデントを誘発してしまいます。実際の臨床では、近年の医療機器では技術の進歩により、医療機器本体が原因のインシデントは多くありません。医療機器に関連するインシデントの多くは「操作ミス」「使用に関する知識不足」「配線等の繋ぎ間違え」です。医療機器本体に原因が無い以上、人為的なトラブルが原因です。「人はミスをするもの」ですが、それ以外の要因は医療機器管理に起因する所もある、といえます。医療機器のスペシャリストである臨床工学技士は、自分自身が医療機器を使いこなすだけではなく、他医療従事者が医療機器を正しく使える事で、医療安全に寄与することができます。

参照:公益社団法人医療機能評価機構 医療事故防止事業部 医療事故情報収集等事業 2020年年報

医療機器管理を怠ると、どうなってしまうのか

医療機器管理を怠った状態で、医療機器を使い続ける事はリスクでしかありません。輸液ポンプやシリンジポンプは規定の流量を送る事、測定機器は精度保つことで、はじめて医療機器として機能します。例えば、シリンジポンプの流量が設定より多く流れてしまったら、患者に対して過剰に薬液が投与され、重大な事故に繋がってしまいます。そして機器に異常があっても、機器管理がされなければ、修理されません。再び故障した状態でシリンジポンプを使ってしまう可能性があります。

また、COVID-19によるニュースが絶えない昨今ですが、医療機器も感染経路の一つとして考える必要があります。医療機器の清掃やメンテナンスをしないままの患者間、病棟間での医療機器の移動は、感染拡大の一つの要因です。そして感染患者に使用した人工呼吸器などの医療機器は、他の医療機器とは別に扱う事で感染予防策となります。医療機器の故障や感染予防は、目視で判断できません。故に、医療機器使用後の適切なメンテナンスが必要です。