【臨床工学技士インタビュー】ローテーションで全ての業務に携われて、学会発表や教育の行き届いた労働環境レベルが高い東京都立多摩総合医療センター

東京都立多摩総合医療センター

多摩総合医療センターは、1946年、戦後間もなく開設された結核保養所(国立健民保養所)を前身として、東京都の人口の約1/3が居住する多摩地区を支える総合的な医療機能を持つ公的広域基幹病院です。

当院の使命は、先進医療や行政的医療を担い、多摩地域の皆さまに貢献することにあります。

重点医療は「救急医療」「がん医療」「脳血管疾患医療」「心臓病医療」「周産期医療」「難病医療」「精神科救急医療」「移行医療」「結核医療」「障害者歯科医療」「造血幹細胞移植医療」と多岐にわたります。

特に当院の救急医療は、2002年に東京ER・府中(当時)を開設後、飛躍的に増加し、現在では国内でも有数の来院患者数で救急車の搬送も多数受け入れています。当院の強みは、これらの高度専門医療を支える総合的な医療機能にあると考えており、それを支える教育研修活動には特に力を入れているところです。

行政的医療の要である救急医療においては,「東京ER・府中」から「東京ER・多摩」を継承して運用し,24時間365日にわたって、脳卒中,心血管疾患,重症呼吸不全,多発性外傷,あるいは母体救命など幅広い救急に対応しております。

働きやすい環境整備と、臨床工学室を係から課への拡大を目指す、古賀史郎室長(係長)にお話をお伺いしました。

臨床工学室 古賀史郎室長

臨床工学技士を知ったきっかけ

医療従事者が多い家系で、小さい時から医療の現場を見ていたというのもあって、医療に興味がありました。入職当初、工学はあまり得意ではありませんでした。

心臓手術を担当していますが、人工心肺装置のレイアウトなど工夫して自分で作らないといけないことが今でもあります。現場でどのようなものがあると便利など考えて、必要な装置を構成していくことで、段々と工学が好きになってきました。

都立病院機構を選んだ理由

「大都市東京の総合病院はどんなところだろう」という興味がありました。私の資格を取得した時期は創成期で、色んな業務にあたれるというよりも、仕事につきたいという気持ちの方が強かったかもしれません。多摩総合も老人医療センター(現:東京都健康長寿医療センター)も、当時臨床工学技士は1名体制の頃でしたので、ほぼゼロのところから業務拡大をしてきました。

都立病院が養成校を卒業した臨床工学技士を採用したのは、平成8年が最初で、私はその第一号採用でした。それまでは救済制度で臨床工学技士になられた方が既に働いていましたが、病院経営本部の方針に従い14病院全てで医療機器管理をすることになり、各病院で医療機器を中央管理する体制を作りました。その中で、機器管理と人工心肺を業務とする病院もあれば、心カテをやる病院等、病院ごとに進化をしていきました。

就職は全都立病院が対象となりますので、異動のタイミングは主に昇進がきっかけになります。私の場合、まずは健康長寿医療センターで9年間透析業務と心臓カテーテル業務に従事し、清瀬小児病院(現:小児総合医療センター)で8年間小児体外循環を経験してから、多摩総合医療センターに異動後成人の体外循環を始めとする一通りの業務を経験させていただいています。
小児の心臓手術は、大学病院でもやっていないような業務になりますので、素晴らしい経験をさせていただきました。

臨床工学技士のやりがい

命を救えた時に立ち会えた時だと思います。奇跡みたいな瞬間に立ち会えることが、コメディカルの中で唯一あると思っています。他の医師がまだ集まらない中、心臓外科医1名で緊急手術をやらざるをえない状況で、一人の先生が信じがたい手技で手術を進めていくわけです。前立ちの先生も居なかったりする状況で、臨床工学技士も人工心肺操作も先生の意図をくみながら、一歩先、一歩先を行い(医師が手術に集中しているので輸血をした方が良いなど先回り準備する)、先生に負担のかからないような手術をしたことで、救命率50%というような患者が助かったケースがありました。

外科医の先生がこうした症例を執刀し、その瞬間に自分も技士として立ち会い、退院後、患者さんが外来に来て普通に会話している、元気に歩いていると主治医から聞くと、臨床工学技士になってよかったと思いますし、やりがいがある仕事だと思っています。

集中治療室での業務風景

1日の流れ

●定時業務
8:30~17:15 (休憩45分+15分)

●業務当直3~4回/月 (一直二勤務)
8:30~翌8:30 (1勤務目8:30~17:15、2勤務目17:15~25:30、

●管理当直
25:30~翌8:30 (当直呼出の場合は残業扱い)

全ての業務が8:30開始で17:15に終了します。休み時間は、お昼45分、中休み15分ですが業務の状況によっては、合わせて1時間休みとなることもあります。

業務当直が2名配置になるのでオンコールはありません。緊急の人工心肺は件数が少ないので、私に連絡が来て、基本的には私が臨床に出ます。また当直明けは休みになるので、明けの翌日をなるべく週休として体を休めてもらうようにしています。

da Vinciの難易度の高い手術は、残業があることがありますが、当直者に代わってもらいますので、残業は月間12~13時間です(学会、研究残業含む)。プライミングなどの前残業は、残業申請して業務に当たってもらいます。
ECMO搬送は二次救急から当院へ搬送することもありますので、救急車(ECMOカー)に同乗する業務もあります。色々な業務に携われる病院です。

二十数年前の進学に迷っていた自分に臨床工学技士をすすめますか?

臨床工学技士は、生命維持管理装置の操作をするため、患者さんの命に携われるやりがいのある業務ですので、振り返っても当時の自分には是非、目指して欲しいなって思います。

但し、今就活するなら、臨床工学技士のフィールドは日本だけじゃないので、若い技士には、海外で働くチャンスもあるよと言っています。ここをステップにして、もっと大きな世界を見て欲しいって思います。

自分も海外の成人体外循環も小児体外循環のオペも見に行きたいと思っています。海外では透析も出来て、不整脈も出来て、人工心肺も出来る技士は凄く重宝されるとの評価を耳にしますので、若い人に夢を託してスケールの大きな仕事をして欲しいと思っているのですが、残念ながら誰もまだ行っていないです。

教育支援について

告示研修、認定士等資格は東京都立病院機構の予算で補助してもらっています。院内教育は、毎月ECMO研修などをします。救命科とコラボなど他職種とも研修します。今回のCOVID19ではECMOプロジェクトのチームに何人か派遣して地域貢献もしています。もちろん厚生労働省告示研修は全員参加してタスク・シフトにも対応できる体制になっています。学会発表や参加は部署の予算を出せますし、治験事務局からの予算もありますので、教育という面では凄く力を病院幹部が注いでくれています。

救命とコラボしたECMO研修

入職後研修

まずは医療機器管理(シリンジポンプ、輸液ポンプ)を1か月学びます。その後は、da Vinciに1か月、透析業務1か月(プライミング、穿刺は3か月目から)です。

教育のスピードを一気に進めたいので、業務固定してしまうとスピードが遅くなってしまいます。今日透析だったら明日は心カテなど、ローテーション業務を組んでいますので、業務に飽きも来ない体制にしています。業務は日々ローテーションになりますので、年内にアブレーションと人工心肺以外の業務をほぼ携わります。

ペアになる先輩が業務を見てくれますので、新人が一人になることはありません。どこまで出来るようになったという報告ももらいます。入職後半年を過ぎて透析と心カテ業務がある程度出来るようになったら、当直に入るようにしてもらっています。

当直は2人で業務当直(一直二勤業務)をしますので、夜間に業務習得も出来ます。
今後の展開として、ペースメーカーを入れている人が凄く増加しているので、ペースメーカーの設定変更までを1年目の業務としてやりたいと思っています。当院で年間100名ほどペースメーカーを埋め込んでいますので、透析患者さんの比ではないくらいに患者さんが来るということになります。

スタッフを見る限り、座学で教えるよりも急ぎ足でも臨床現場で教えた方が、職場や業務に魅力を感じてくれていると思います。結果として職員の学会発表も多いです。職場に魅力を感じてもらうのに、ちゃんと年休も必ず15日前後は取らせていますし、取らない人には、有休を使うようにと勤務表に組ませてもらっています。

僕らの時代は、休まず働いて認めてもらうというような時代でしたが、今は休みがしっかりあって、住宅手当があって、それで良い仕事に還元していくと考えています。

良い職場環境がないと、必然的に良い学生さんが集まらないと思っていますので、休みもあるし、学会も行けるし、勉強も出来るという環境を作っています。今の学生は臨床経験が積めますが休みありませんでは、来てくれないと思います。

そういった職場環境からか、離職率もかなり低いですし、結果として良い学生が応募してくれるような連鎖を作りたいと思っています。私の業務としては、人材づくりをするための就業環境整備に重きを置いています。

職員のやりがい・環境整備

私が多摩総合医療センターに来た当初、臨床工学技士は電子カルテに記入する文化はありませんでした。基本的に、我々の仕事としてシャント穿刺は技術ですけど、アブレーションにしても、人工心肺にしても、(器械を)「ひねる」作業だけです。

でもそれは知識なのです。その中でやりがいを求めるとなると、自分がやったことに対してどういう結果が導き出せたかという、結果を本人に知らせる仕組みが重要だと思っています。

例えば、人工心肺業務では、電子カルテに何時間の手術をやって、水分バランスの評価を書くようにしています。自分自身がやることによって、こういう結果が出たということが分かると、やりがいにつながって行きます。ですのでやりがいを作るために、電子カルテ内に臨床工学技士記録欄を構築し、そこに記録してもらっています。電子カルテに記録を残すことによって、その他の医療職種から臨床工学技士って、こういう仕事をしてるというのを理解してもらいたいと思っています。

労働環境を整備したいと思うのは、私の実体験からなのですが多摩に赴任後、日曜日のオンコールで1晩に3回呼ばれたことがありました。埼玉の自宅から病院まで片道1時間15分かかるのですが、オンコール対応に合計で7時間、車で行き来する経験がありました。こういったことを改善するため当直体制を整備できて良かったです。

現在の目標

優秀な人材を確保し、働きやすい環境を作るのが、管理者の一番の仕事だと思っています。機構全体で、優秀な人材を確保し、働きやすい環境を作ることを成し遂げたいです。

当院には、東東京やベイエリアから勤務している職員がいます。オンコールはありませんし、当直体制ですから引っ越す必要もありません。優秀な人であれば、遠方からでも就職してほしいと思っています。現在、都立病院の臨床工学室には管理職がいませんが、今年度から管理職試験が出来る予定ですので、課長職までの道が出来ました。課長になると運営幹部になり、病院の目標に部門の意見の反映しやすくなります。

採用にあたって

採用試験については、以下のとおりです。
・論文(大都市東京でCEを目指す目的・役割など、誤字脱字もチェックポイント)
・面接(成功体験、人としての魅力)

中途採用の場合は、人物像もそうですが専門指導士など、加算がつくような資格を持っているような人材が魅力的です。そして、コミュニケーション力はとにかく大切です。コミュニケーションは今までどのように経験して来たかのバックボーンなので、どのように蓄えるかは難しいと思っています。あと一生懸命何かにのめり込んで成功体験があると良いですね。人として魅力的です。

東京都に就職を目指す学生さんは、都心に憧れている学生も多いです(苦笑い)。多摩総合のある府中市は、自然と、街並みが共存している生活しやすい地域です。生活のしやすさは、23区よりも実は良いと思います。都心と比較した立地条件では不利だと思うのですが、都立病院の中では業務が最も多岐に渡っています。多摩に見学にきた学生さんは、ほぼ都立病院の試験も受けてくれています。YouTubeでは業務内容も紹介しており、視聴して「多摩に来たい」と言ってくれる方も居ますので、ぜひYouTubeを観ていただけたらと思います。これまでに1.3万再生ほどしていますよ(2023年7月現在)。

都立多摩総合医療センター 臨床工学技士 病院紹介 – YouTube

 

取材協力

東京都立多摩総合医療センター 臨床工学室
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