【臨床工学技士インタビュー】大分県はもちろん九州の医療も牽引。長い目で人を育てていく体制が整った大学病院。豊富な臨床経験は、学術にも役立てられていた。医療従事者にとっても最良の環境。大分大学医学部附属病院で活躍する臨床工学技士たちに話を聞いた

大分大学医学部附属病院

大分大学医学部附属病院は、2021年10月に開院40周年を迎えた。「患者本位の最良の医療」が基本理念。豊かな人間性と高い倫理観を備えた医療人を育成、先端医療の開発と安心・安全な医療の提供を通し、地域社会の福祉に貢献してきた。

大分大学医学部附属病院の医療技術部門臨床工学・歯科部門には、臨床工学技士23名(女性4名)が所属している。病床数は、618床。大分県下で唯一ECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)による治療を実施しているということもあり、新型コロナウイルス感染症においては、中等症以上の患者を受け入れ救命してきた。

臨床(弘内美羽 技士)

弘内美羽(ひろうち・みう) 技士

弘内技士は、高知県出身で兵庫県の専門学校を卒業後、2022年4月に大分大学医学部附属病院に入職。

Q.どうして大分大学医学部附属病院に入職したのですか?

母が大分県出身で、祖母が大分でひとり暮らしをしていたのでサポートできるのではと思い大分県を就職先にしようと考えました。そのなかで大分大学医学部附属病院を選んだのは、専門性の高い知識と技術が身につけられるという点と最先端の医療に携われるという点、それと将来私は研究や論文に関わりたいと思っていますので、大学病院であれば実現できると思い入職しました。

Q.実際に入職していかがですか?

臨床工学技士一人ひとりの知識や業務の幅が広いと思いました。認定士などの資格取得もしやすい環境で教育面も充実していたので、先輩たちについて行けば向上心を持って仕事ができると感じました。

Q.入職してからどのような研修をしているのですか?

大きく7部門の業務にわかれています。そのうち新人は、ICU/ER(集中治療)とME機器センター(機器管理)、手術部、血液浄化センターの4部門を1カ月ごとにローテーションするというのを3年続けます。3年経ったらどの部署に行きたいか希望を出します。今後、より患者さんへの負担が少なく根本的な治療ができる分野が伸びるといわれていますので循環器のアブレーション業務にも興味がありますが、現在ローテーションしている業務には含まれていませんのでもっと勉強をしなくてはいけないと思っています。

Q.どのような勉強が必要ですか?

アブレーション業務に就くには、心電図が読めるようにならないといけません。さらに、アブレーションの症例は海外のものが多く、論文を読むために英語も勉強しなくてはいけないと思っています。

Q.臨床工学技士の仕事がこれほどまでに勉強をしないといけないものだと思っていらっしゃいましたか?

いえ、思っていませんでした(笑) ECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)の設定ひとつにしても、心臓や呼吸の状態によって変わるものはもちろん、患者さんの身長や体格によっても変わるというのは教科書ではなく臨床の現場でしか学ぶことができないところです。

1日のスケジュール

定時8:00~16:50(休憩1時間) 

弘内技士のある日のスケジュール 手術室業務の日(手術のある日)

  7:30   出勤
  7:40   チームカンファレンス
  7:50   朝礼
  8:00   手術の準備 人工心肺の回路組み上げ 薬液の準備など
10:00 手術開始 人工心肺業務の補助
16:00 手術終了

16:00   休憩

17:00   勉強会
18:00   終業

月の残業時間は20~30時間程度。日によって業務量に差がある。

Q.目標は?

専門学校のときに行った実習先の主任技士の方が学会活動を積極的にされていました。『研究をして論文を書くことにより臨床工学技士としての輪が広がり新しい情報を得ることができる。それは最終的に患者さんのためになる。』ということを教えてもらいました。今度、福岡県で開催される日本体外循環技術医学会(JaSECT)があるのでそちらに先輩方と一緒に参加して、まずは学会発表の勉強をします。

教育(荒倉真凪 技士)

荒倉真凪(あらくら・まさなぎ) 技士

荒倉技士は、大分県出身で入職9年目。臨床工学技士として新しく携わる業務について先陣を切って経験し部員に広めるという役割も担っている。

Q.入職してからどのような業務をなさっていますか?

主に手術室で業務を行なっています。私が入職したときは最初に配属された部署でスペシャリストを目指すという体制でしたので、入職時に人工心肺業務を希望し配属してもらいました。こちらは大学病院ですので、最新の医療機器を使って治療に参加できる点がすごく魅力的だと感じています。

Q.人工心肺業務を希望した理由は?

学生のころに様々な機器の勉強をするのですが、なかでも人工心肺は、座学のときから魅力的だと思っていました。専門学校の3年生のときの臨床実習先として選んだのが、人工心肺業務をしている大分大学医学部附属病院でした。実際に自分の目で見るとやっぱりやりたいという気持ちが強くなりました。直接、患者さんの命をあずかるというところに責任を感じています。

※大分大学医学部附属病院は、2022年6月に九州では初となる国産ロボットのhinotori(ヒノトリ)を導入した。da Vinci Siとあわせて2台体制でロボット支援手術を行なっている。

Q.大分大学医学部附属病院は、九州で初めて国産ロボットのhinotori(ヒノトリ)を導入していますね?

今年6月に九州初導入しました。さらに今年8月にはhinotori(ヒノトリ)を使った初めての手術も実施しました。私は、hinotori(ヒノトリ)のファーストチームといって看護師と臨床工学技士のメンバーのひとりに選ばれました。名古屋の病院に施設見学に行ったり、eラーニングといってWeb上で勉強をしたりして導入から初症例まで立ち合いました。ここまで大きな機器は滅多に導入されないので責任もありましたし緊張もしましたが光栄なことでした。

Q.実際に使用していかがでしたか?

国産なので、日本人が使いやすい設計になっています。特にモニターが日本語で表記されるので使いやすさを感じました。海外製の機器ですと表示は英語になります。もちろん、それでも支障はないのですが、日本人だからこそ使いやすさを感じましたね。あとは、比較的安価に導入できる点や部品が調達しやすい点、小さいオペ室にも対応できるコンパクトさが売りのようです。

Q.貴重な経験になられたようですね?

そうですね。元々ほかの手術支援ロボットを操作していたということもあり、私に声がかかりました。次の人に引き継ぐためにマニュアルやチェックリストなどを一から作るという作業自体も初めての経験でした。

Q.臨床以外の活動はどのようなことをしていらっしゃいますか? 

大分県の臨床工学技士で体外循環業務に関わっている人たちが集まって話し合うというセミナーが年に数回あります。そこでECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)の講師をしたり各施設どういう症例があったなどを発表したりして情報共有をしています。あとは、ドクターヘリの運用について検討しているところです。最近実施された講習では、補助循環をヘリコプターに乗せることができるのかということや、ヘリコプターのエンジンと搭載する機器が電波障害を起こさないかなどの確認をしました。ヘリコプターのなかは思ったより窮屈で人が4人乗って機器が乗ってさらに患者さんを乗せることになるので、どう機器をコンパクトに収めようかということや回路の長さを考えなくてはいけないなと感じました。

Q.今後の目標は?

常に新しい治療や機器の情報を取り入れていきたいです。大分大学医学部附属病院でしか行っていない治療などもあり、重篤な患者さんが当院へ来るケースが多いです。私としては、何にでも対応できるような臨床工学技士になって、それを当院だけではなくほかの病院にも広めていくことができるような活動ができたらと考えています。

研究(小野浩平 技士)

小野浩平(おの・こうへい) 技士

小野技士は、大分県大分市出身で県内の専門学校を卒業後、2年半大分県の北部にある別の病院での勤務を経て大分大学医学部附属病院へ入職した。

Q.どういうきっかけで大分大学医学部附属病院へ入職したのですか?

地元である大分市に戻りたいというのと様々な分野の仕事に携わりたいと思い大分大学医学部附属病院へ入職しました。これまで担当してきた業務は、ICU業務、透析業務や特殊治療を経て再びICU業務をしてきました。今年の6月からは、ER(高度救命救急センター)の担当になりました。そして4年前から大学院へ通っています。ICUの急性血液浄化療法の分野で興味のあることがあったのでそれについてもっと勉強をしたいと思いがあって大学院へ通いはじめました。そろそろ論文の最終段階に入らないといけないところです。

Q.大学院へ通うことになったきっかけは?

私の場合、上司が修士課程を修了していて身近な存在で大学院へ通っていた人がいたということが大きいですね。さらに、学会に行った際、ほかの施設の臨床工学技士も大学院へ通っている人が多くいて、臨床工学技士としての知識が深められると勧められました。近くにこんな素晴らしい環境があるなら自分も通ってみようと思いました。

Q.具体的にはどのような研究をなさっているのですか?

透析では、血液中の不純物を浄化するために膜を使用します。たくさんの種類の膜がありその比較をしています。研究では、2種類の膜にどのような違いがあるのかを調べました。膜の特徴として毒素の抜けやすさがあります。ただ、患者さんの体格や年齢によって毒素が抜けやすい方がいい場合とそうでない場合があります。ICUにいらっしゃる麻酔科の医師が元々同じような実験をされていました。急性血液浄化の分野での研究は少ないので新しい膜が導入されたときに研究をやってみたいという思いがあり、手を挙げました。すでに、実験などは終わっていますのであとはまとめるだけという形なのですが、なかなか進みません。でも論文の提出まであと1カ月くらいしかないのでがんばるしかありませんね(笑)

Q.論文を提出したらどのようなことに励んでいきたいですか?

今年の6月からERの担当になりました。医療機器がどんどん新しくなったとしても人間の力はまだまだ必要だと思います。集中治療に携わって目の前の人を助けていきたいです。また、知らない分野について勉強をして臨床工学技士としてのレベルアップをはかりたいです。

Q.臨床も研究も深められる充実した施設ですね?

大分大学医学部附属病院では、学びたいという気持ちがあれば積極的に学ぶことができる環境です。大分県の近隣では、医学系の研究ができてかつ夜間に通えるような大学がありません。働きながら大学院へ通いたいという人にとってはいい環境だと思います。また、来年の4月に29年ぶりの新たな学科として先進医療科学科が大分大学の医学部に新設されます。なかでも臨床医工学コースは、国立大学としては初めて臨床工学技士の国家試験の受験資格を得ることができるようになります。今後、ますます魅力的な施設になると思います。

 

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大分大学医学部附属病院 医療技術部門臨床工学・歯科部門
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