臨床工学技士とは、国家資格を取得した医療職種のひとつです。医療業界のエンジニアとして医療と工学の知識を持ち、病院やクリニックを中心として活躍しています。認知度は高くありませんが、幅広い業務をおこない、病院では必要不可欠な存在となっている臨床工学技士。今回は、臨床工学技士の資格についてご紹介します。
臨床工学技士とは
臨床工学技士は、1987年5月に制定された「臨床工学技士法」に基づいた国家資格です。日々進歩する医療業界で、医療機器の高度化や複雑化が進み、それに対応するために国家資格の必要性が高まりました。まだ35年(2022年現在)と比較的歴史の浅い職業ですが、医療系のテレビドラマや漫画に取り上げられることもあり一般の人への認知度も高まりつつあります。最近のコロナ禍により、ECMO(体外式膜型人工肺)を使用した治療を取り上げられることが増え、臨床工学技士が主に操作していると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。英語表記では、CE(Clinical Engineer)やME(Medical Engineer)とされるため、病院内ではCEさん、MEさんと呼ばれています。医師の指示のもとに生命維持管理装置の操作および、医療機器を安全に使用するための保守点検をおこなう、医療機器の専門医療職種です。チーム医療の一員として日々、患者の生命維持をサポートしています。
臨床工学士になるためにはどうすればいい?
臨床工学技士の学校
臨床工学技士は、高校卒業後に養成校(大学、短期大学、専門学校)において厚生労働大臣が指定する科目を修得します。その後国家試験に合格すると免許を取得することができます。大学では臨床工学技士になる科目以外にも、一般教養も修得するため、幅広い分野について学びます。そのため病院やクリニック以外への一般企業への就職や、大学院での研究も視野に入れることができます。専門学校では、3年間という短い期間で医療現場の即戦力となるようなカリキュラムが組まれているため、1日でも早く現場で働きたい人に向いています。最近では、高い技術の習得や研究のために働きながら大学院に進学する臨床工学技士も増えています。
国家試験の合格率は?
2022年の国家試験の合格率は80.5%でした。毎年70~80%の合格率なので、学校の授業に沿って勉強していれば比較的難しい試験ではないといえます。
臨床工学技士の仕事とは
臨床工学技士の仕事は年々拡大しているため、代表的な業務を紹介します。病院やクリニックによって業務内容も大きく変わります。
血液浄化業務
体内に貯まった老廃物や代謝物を排泄できなくなったときにおこなう治療で、血液透析療法、血漿交換療法、血液吸着法があります。臨床工学技士の代表的な業務のひとつで、回路の組み立てからプライミング、穿刺、患者の管理、機器の操作を主におこなっています。
手術室業務
臨床工学技士の花形ともいえる心臓手術においての人工心肺業務や、補助循環装置の操作や管理、手術室で使用する医療機器の保守点検をおこないます。また2021年の法律改正により、内視鏡を使用した手術で、術野内でのビデオカメラ操作が業務に追加されました。
心血管カテーテル業務
心臓病の検査や治療をおこなう際に、心電図や周辺機器の操作をおこないます。他にも術野に入り医師の補助をおこなう施設もあります。緊急時には補助循環装置の操作もおこなうため業務の範囲が多岐にわたります。
高気圧酸素業務
高い気圧の環境下で酸素を吸入することにより、体内の酸素量を増やす治療です。一酸化炭素中毒や壊死に対しての治療をはじめ、さまざまな疾患に使用されています。臨床工学技士は操作や管理をおこなっています。
集中治療室業務
集中治療室は、術後の患者や命に関わるような患者を収容し集中的に治療をおこなう場所です。持続的血液浄化や人工呼吸器、補助循環装置の操作や管理をおこないます。2016年の診療報酬改定で、集中治療室での施設管理において専任の臨床工学技士が常時院内に勤務している、との基準が制定されたため、多くの病院では当直や夜勤など24時間体制をとるようになりました。
不整脈治療業務
ペースメーカーやICDを植え込む際に医師の指示のもと設定を、その後外来診療での定期的な確認をおこないます。最近では、遠隔モニタリングといった自宅から情報が送られてくるペースメーカーやICDも使用されていて、異変があった際には医師に報告します。心房細動の治療のアブレーションでは、3Dマッピングの操作をおこない、医師の補助をおこなっています。
医療機器管理業務
病院内にある機器を安全に使用できるように保守点検をおこない、管理をおこなっています。また、安全に使用できるよう定期的に勉強会を開催し、周知するのも臨床工学技士の役割です。
どんな人が向いているの?
医療機器を専門に扱うため、機械が好きという方に向いています。また、患者の変化に気が付いたり、チーム医療を円滑におこなったりするためのコミュニケーション力も重要になります。業務の範囲も広いため、様々な分野について興味を持って情報収集できる方も活躍できます。急変時の対応も多いため、冷静に状況を把握できる方も医療の現場では向いているといえるでしょう。
まとめ
まだまだ知名度の低い臨床工学技士ですが、年々業務の範囲が広がり、今後も活躍する場が増える職業でしょう。国家資格でもあるので一度取得すれば、さまざまな場所で働くこともできます。