今回は臨床工学技士が仕事をする中で、管理が大変だと思う医療機器について、現役の臨床工学技士の私の経験から感じたことをお話しさせていただきます。
医療機器管理の問題点
医療機器はそれぞれの種類によって使用頻度が違い、毎日のように使用する機器もあれば、たまにしか使用されない機器もあります。使用頻度にかかわらず緊急時に備えるため、臨床工学技士は全ての医療機器を定期的に点検しなければなりません。定期点検は、その医療機器が使用されていない時に行いますが、使用頻度が高いと空いた時間を確保することができず、定期点検を行うことが難しくなります。それに加え、定期点検対象の医療機器が貸出後、行き先がわからなくなることがあり、定期点検がなかなか行えないこともあります。
使用頻度が高い医療機器は、病院内のどこで使用されているかを、把握することがとても大変です。これは私が勤務する病院での経験ですが、管理が大変な医療機器は輸液ポンプです。使用頻度が高く、行き先がわからなくなることがあります。輸液ポンプは臨床工学技士が管理している医療機器の中で一番使用頻度が高く、管理する台数も多いため、毎日のように色々な場所で使用されます。外来から病棟、手術室など、さまざまな場所で使用されるため、毎日のようにどこかに貸し出されています。病院全体での輸液ポンプの使用量が増えると輸液ポンプが不足する事態が度々起こり、その結果、ME機器管理センターでの貸し出しシステムを使用せずに、部署間での貸し借りが行われたり、緊急時に不足することを恐れ、部署で輸液ポンプを確保するといったことが起きてしまい、輸液ポンプの行き先がわからず、機器を点検することが困難になります。こうなると、臨床工学技士は点検対象の輸液ポンプを見つけるために、病院内を探し回ることになり、仕事の効率も悪くなってしまうのです。大きな問題として、使用頻度が高い医療機器は、部品の劣化や故障、破損などが起こる可能性が高いので、早急に対応しなければならないのですが、行き先がわからないために、機器の異常に気付くのが遅れてしまいます。
管理が難しい医療機器とは
少し話がそれますが、輸液ポンプ不足を防ぐためには、輸液ポンプの数を増やすか、輸液ポンプの使用量を減らすという対策が考えられると思います。しかし、輸液ポンプの使用頻度が高い状態が、ずっと続いているわけではなく、使用状況に波があり、たくさん余っていることもあるのです。輸液ポンプの数を増やすことは費用面から考えると安易に増やすことができないのが現状です。使用量を減らすことで、費用面では輸液ポンプの購入、あるいはレンタルをしなくて済むのでメリットがあります。輸液ポンプの使用基準(どのような場合に輸液ポンプを使用するか)を病院全体で統一化することが困難であり、薬剤を低流量で注入することが多く、落差点滴では不可能なため、輸液ポンプを減らすということは今後、考えにくいとの結論に至り、現在も輸液ポンプ不足の解消に繋がっていません。
使用頻度の観点から見ると、透析装置も毎日使用するために管理が大変な医療機器だと感じます。輸液ポンプ同様、空いた時間の確保が難しいこともあるため、あらかじめ組んでいたスケジュール通りにメンテナンスすることが難しい機器の一つです。メンテナンスを行った日は、その透析装置は使用できなくなるため透析スケジュールにも影響がでてしまいます。故障や水漏れなどで透析液に触れる部分の修理を行った場合も、その透析装置は使用できなくなるため、患者さんの透析スケジュールを変更しなければならず、患者さんに迷惑をかけてしまうことがあります。手術室で使用する麻酔器などの医療機器も、毎日のように手術が入っているため、空いている時間を確保することが難しく、確保ができても、時間が短いことが多いので、管理が難しいです。手術のない日に点検を行う予定を立てていても、緊急で手術が入ることがあるため、なかなか思うように管理できません。そのため、朝早くから点検を行い、手術が始まる前に点検を終わらせるといった工夫をしながら管理を行っています。
まとめ
このように患者さんに医療機器を安心、安全に使用してもらうために、臨床工学技士は、日頃から医療機器の管理を行うために計画を立てて点検を行います。しかし、医療現場では想定外のことが多く起きるため、実際にはスケジュール通りに点検を行うことができず、医療機器管理に苦戦している臨床工学技士の方も多いと思います。今は便利なシステムがたくさんあり、どこで医療機器が使用されているかをすぐに把握することができる時代です。それをきちんと使用できなければシステムが存在している意味がなくなってしまうので、システムを有効活用するための働きも臨床工学技士の重要な仕事の一つだと思います。