今回は臨床工学技士に必要なコミュニケーション力について、現役臨床工学技士の私の体験を交えながら書かせて頂きます。臨床工学技士の仕事内容を、改めて考えてみますと、臨床工学技士法では、生命維持管理装置の操作、保守管理とありますが、これは医師の指示のもとに行わなければなりません。特に、人工呼吸器などの生命維持管理装置は患者さんの状態を医師、看護師などと確認しながら、その都度、相談し操作を行うことになります。臨床工学技士は、医師と治療について会話をする場面が数多くあります。医師以外にも、他職種との連携が多い仕事ですので、病棟からの連絡で人工呼吸器対応や、手術室からは麻酔器の対応など様々な所で仕事をする機会が多く、臨床工学技士は、病院中の色々な職種の方と関わらなければならない職種だといえます。臨床工学技士は、たくさんの場所でたくさんの人と接するため、円滑に仕事を行うためにもコミュニケーション力がとても重要になります。
他職種との連携の仕方
私自身もそうなのですが、大きい病院になるほど、顔馴染みの病院スタッフと顔を合わせる事が少ないため、人と会話をすることが得意でない方は、なかなか業務を円滑に行うことが難しいと感じます。特に新卒や転職して間もない頃は、他職種とのコミュニケーションで苦労している臨床工学技士の方も多いのではないでしょうか?臨床工学技士が人工呼吸器に関する業務で、どのように他職種と関わるのか、私の経験から例を挙げていきます。
臨床工学技士は毎朝、人工呼吸器をつけている患者さんの状態をチェックしますが、そこで、その日の担当の看護師に、患者さんの夜間の状況などを聞きます。担当看護師のやり取りから、得た情報を元に人工呼吸器離脱に向けて設定を変えられるか判断します。その後、医師に設定を変更してもよいかの確認を取り、医師との相談の結果、設定変更の指示をもらうことで初めて、人工呼吸器の設定変更を行うことができます。設定を変更後、看護師に設定が変更になった理由とともに、設定が変更になったことを再度伝えます。このように、臨床工学技士は人工呼吸器の設定を変更するという操作を行おうとするだけで、医師と看護師の2職種とのやり取りが必要となります。設定変更の操作は、時間にして数秒で終わる作業ですが、その数秒の作業のために、医師と看護師とのしっかりとした連携が必要となるため、日頃からしっかりと、他職種とのコミュニケーションをとり、信頼関係を築くことが大切となります。
コミュニケーションを取るうえで気をつける事
日頃から真摯に仕事に取り組んでいれば、他職種との信頼関係は知らない間に築けていきますので、人との会話が苦手な方が、無理してコミュニケーションを積極的に取ろうとする必要もありません。残念なことに、他職種からの生命維持管理装置などの機器に関する相談を受けた際、自分自身が忙しいからという理由で後回しにしたり、「そんなことで、いちいち連絡してくるな」と怒鳴る臨床工学技士も見てきました。このような対応を取っていると、他職種との信頼関係が築けるはずもなく、病院中の他職種から頼られることも、重要な情報が入って来なくなります。スムーズに業務を行なうことが難しく、仕事に支障が出る場合もあります。せっかく頼られている状況を自分の都合で手放してしまうのは、とてももったいないことです。臨床工学技士に限らず、医療職は自分の思い通りに仕事をこなすことが難しい職種です。業務の途中で呼び出されたり、急患の対応に追われたりすることがあります。ルーティンの仕事は優先的に終わらせておき、何かあった時に慌てず、落ち着いて業務ができるように、準備しておくことがコミュニケーションを築くためには、大事なことだと思います。
臨床工学技士の悪い例をあげましたが、当然逆のこともあります。必要な情報を聞きたくても、他職種の都合で聞き出せない場合もあるということです。看護師などの、他職種の方も日々、目まぐるしく変わる状況の中で自分の仕事だけで手一杯になっていることもあります。こちらの要件を伝えたかったり、欲しい情報をもらおうと、声をかけても「忙しいので後で」と対応してくれない時も多々あります。日頃からコミュニケーションをきちんと取ることで、こちらが困っている雰囲気を察して、対応してくれる方が近くに必ずいます。例えば、担当の看護師でなくても、わざわざ調べてくれて、色々と情報を教えてもらえることができます。本来であれば、あちらの仕事の隙間時間のタイミングを見計らって話しかけるといった、時間のロスを日頃のコミュニケーションや対応をきちんと取っていれば、円滑に業務を進めることができるというわけです。今回、臨床工学技士のコミュニケーション力について書かせて頂きましたが、これはどんな仕事をする上でもとても必要なことだと思います。コミュニケーション力は、時間をかければついてくるもので、まず日頃から真摯に仕事に取り組んでいれば周りはきちんと見て評価してくれています。間違っても、頼ってくれている人に対して、自分の都合で失礼な態度を取ったり、手を抜いて仕事をすることがないように、初心を忘れず仕事に向き合うことがコミュニケーション力をつける第一歩になると思います。