【臨床工学技士インタビュー】Medical Engineer(メディカルエンジニア)という言葉が日本で浸透する前からいち早くME室を設け、積極的に臨床の現場で活躍してきた亀田総合病院。若手スタッフが半数を占めるも、古き良きところは残しつつも、時代の先を目指す現場で話を聞いた

亀田総合病院

江戸時代から現在の地で代々医療を提供してきた亀田家が礎となっている亀田総合病院。千葉県南部の基幹病院であり、亀田メディカルセンター※ の中核として機能する施設で、優れた人材、高精度機器を導入・駆使し、急性期高度医療を提供している。

34の診療科に917床の病床数があり、民間病院でありながら、千葉県の救命救急センター、総合周産期母子医療センター、基幹災害拠点病院などの指定を受ける。今回は、亀田総合病院のME室を立ち上げた高倉照彦(たかくら・てるひこ)室長と3年目の齋藤将大(さいとう・しょうた)技士に話を聞いた。

※亀田総合病院を中心とした医療サービス施設の総称

ME室のはじまり

高倉室長は、都内の総合病院で総務課技術員として勤務し、亀田総合病院に入職。その後ME室の立ち上げに携わる。

Q.いつごろどういうきっかけでこちらに入職したのですか?

高倉室長

1983年(昭和58年)、27歳のときに亀田総合病院に入職しました。都内の総合病院では、手術室業務に携わり電気メスを扱っていました。一緒に働いていた脳外科の先生が亀田総合病院に移ることになったのですが、当時はまだMEが浸透していなかったので手術室で業務をできる私に声がかかりました。はじめは断ったのですが、勤めていた病院よりもはるかに最先端の機械を入れているからと促されて見学に来ました。来て、この立地でしょ。海を見ながら仕事できるなんて最高と思って(笑) それで、院長に「ここにME室を作るなら来ますよ」と言ったら快諾してくれたので、そこからスイッチが入っちゃいました。

登録機器だけで約2万台もある亀田総合病院だが、保守点検業務の臨床工学技士はとして幅広く活躍している。齋藤技士もそのひとりだ。

齋藤技士

現在、保守点検管理業務を担当しています。オペ室の内視鏡の業務や病棟をまわり人工呼吸器が正しく使用されているか、患者さまに異常はないかを確認。NICUですと、生命維持管理装置や保育器の点検もありますし、新生児の先天性疾患で一酸化窒素を使う治療がある際には私たち臨床工学技士が携わって治療を行います。機械に何かトラブルがあって看護師が対処できない問題が起きたら呼ばれるという感じですね。あとは、半年に1度機械の定期点検のため、東京や幕張にある関連事業所へ行くこともあります。

*現在、49人(女性12人)の臨床工学技士が所属していて、その約半数を齋藤技士のような入職4年以下の若手が占めている。社宅があるため、オンコールなど緊急時にも迅速に対応できるのも亀田総合病院の強みだ。

1日のスケジュール

齋藤技士のある日のスケジュール
定時8:00~7:00

7:30 出社
8:00 朝礼→勤務開始
8:15~11:00 ラウンド業務へ(人工呼吸器チェックのため病棟を回る)
11:00 データ集め・整理 ※毎週火曜日は、RST(呼吸器のサポートチーム)の会議に出席
12:00~13:00 休憩(昼食)

13:00~15:00 ME室にて機器の保守管理 病棟の機器トラブル対応
15:00~17:00 人工呼吸器の回路等の交換のため病棟を回る
17:00 終礼→終業

残業は、月に10~20時間程度。当直者が1日2人、月に4~5回担当するため、オンコールでの呼び出しはほとんどない。

マンツーマンの人材育成

Q.入職後の研修制度はどのようになっていますか?

新人で入職すると、5年目以上の臨床工学技士が指導者として付きます。新人教育プログラムに沿って課題に取り組み、面接などをしながらクリアしたら次のステップという感じで業務に必要な技能を身につけていきます。当面の目標として、1年後には当直に入れるように育成をします。

指導者とプランを立てて、今週はこういう風に進めて1か月後にはこれくらいできているようにと目標を定めます。1業務に1枚の評価表があるので、書かれてある項目ができるようになればその業務をひとりで担当できるようになります。そのために、口頭諮問やレポート提出、ときには実地テストをすることもあります。目的や目標が明確化されることで取り組みやすかったです。

Q.しっかり業務を習得してもらうシステムなのですね?

亀田総合病院では、専門に特化してもらうように育てていきます。ローテーションをするならせめて10年勤めてくれないと一人前にならないし、中途半端になると思っています。5年以上同じ業務を続けていれば、しっかり業務を習得できているので何も言わなくても自分で判断もできるし動けるので、そこから次へ異動してもらいます。私はこのやり方を貫き通しています。

普段から備える

亀田総合病院は、基幹災害拠点病院としての役割もある。病院独自で災害対策マニュアルを策定し、地震や火災、停電などを想定した訓練を行っている。実際に東日本大震災のときは、福島県の老人保健施設を丸ごと鴨川市に疎開させ、グループの社会福祉法人と医療・介護面で必要な協力をおこなったり、福島県から透析患者を受け入れたりと様々な医療支援の経験を持つ。

Q.普段からどのように災害に備えているのですか?

立地上天候不順によって停電が発生することがありますが、現場のスタッフは突然電気が止まっても自分が何をすべきなのかわかっていますので、慌てることはありません。生命に直結する機器はバッテリーを備えてありますし、非常用発電機が40秒以内に稼働し電気が供給されることもわかっていますので、いざというときは対処できる体制は整っています。1年に1度電気設備の法定点検のため、病院中の電気を止めて点検する必要があるのですが、みんな慣れているので落ち着いて対処できるところも強みですね。

世の中に貢献できる臨床工学技士

臨床工学技士全員に課していることは、1年に1演題。学会でも研究会でもいいので病院の外での研究発表を行うことです。1年間に1人1回発表しても50演題になりますから相当な数になりますよね。本人にとっても病院にとってもPRになるのでWin-Winでとても良いことです。そういうことに関して亀田総合病院は手厚く支援してくれていて、この出張費は全額出してもらえます。

Q.齋藤技士は学会でどのような発表をしましたか?

齋藤技士「入職2年目の去年、千葉県臨床工学技士会で輸液ポンプについて発表しました。亀田総合病院では、A社製とB社製の2社の輸液ポンプがあるのですが回路は1種類なので、異なった会社の回路とポンプを使ったときにどういった誤差がでるのかということをテーマにしました。臨床上の安全の担保という面で、輸液の精度や回路の閉塞をみてメーカーの定める基準値内で収まるのかというところを検証しました。今回は、業務の中で気になっていたことをテーマにしました。もちろん、先輩にはアドバイスをもらえる環境ではありますが、演題などは自ら決めて発表したので、とても達成感のある貴重な経験になりました。」

求める人材

まずは、健康体であること。協調性があり、コミュニケーション能力が高い人。そして、部下たちに求めているのは、医師や看護師たちが喜ぶ医療機器を提供してほしいと。使いたいときに必要な機材が提供できない、使用中に不良や不具合が発生することなどがないよう常に最良の状態で貸し出せることが使命だと思っています。その使命を共有してもらえる人がいいですね。あと、メディカルエンジニアであることにこだわっているのは、機械を作ってもらいたいと思っているから。例えば、亀田総合病院が画期的なレーザーメスや輸液ポンプを開発したと評判になってメーカーから『うちで作らせてください。』と言ってもらえたらこれは最高だなと思います。

 

取材協力

医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 ME室
〒296-8602 千葉県鴨川市東町929番地 TEL.04-7092-2211(代表)
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