浜松ろうさい病院
浜松ろうさい病院は、1967年に労働災害や職業病治療を主目的として設立されましたが、勤労者医療のみならず全ての疾患に対し、高度な専門医療を提供する地域の中核病院として機能としています。特に近年は、心臓や大血管などの循環器領域および脳血管領域の救急医療の充実に努めています。そのため手術室、血管造影撮影室、ICU(集中治療室)は高い稼働率となり、臨床工学技士の活躍の場面が増えています。
今回は、心臓血管外科部長兼中央診療支援統括室(中央臨床工学部)の島本健(しまもと・たけし)部長(医師)、中央臨床工学部長(医療機器安全管理責任者)の興津英和(おきつ・ひでかず)部長、5年目の永島汐莉(ながしま・しおり)技士、4年目の松本桃佳(まつもと・もか)技士にお話をお伺いしました。
松本技士(左)・永島技士(右)
臨床工学技士を知ったきっかけ
進路は理系の大学に進みたいと思っていましたが、臨床工学技士については知識がありませんでした。進路面談で担任の先生と話しているうちに、機械を触るのが好きで、医療にも興味があるということに気付きました。
先輩に臨床工学技士になった方がいるという話を伺い、どんな資格なのか調べているうちに興味が湧いたため臨床工学技士を目指しました。
家族の付き添いで病院に行くことがあり、幼少期の頃から医療系の仕事には就きたいと思っていました。
手術室の業務に興味があったので「手術室で働ける職種って何だろう」ということで、臨床工学技士を目指しました。
浜松ろうさい病院に入職する志望動機
様々な業務を覚えられる総合病院を希望していました。そこで、求人募集が出ていた当院の病院見学に行きました。見学の時に先輩方に教育プログラムについて伺い、ジェネラリストとして様々な業務に携われると伺ったため、浜松ろうさい病院を志望しました。
一病院目は、地元が浜松なので、浜松で総合病院の募集が出た順に受けて受かったからという理由でしたが、通勤時間と業務内容が理由で転職しました。
二病院目になる浜松ろうさい病院では、ジェネラリストとして満遍なく業務に就けますし、人数が少なくて小回りが利く分、自分がやりたいことができます。業務に対して提案ができて、柔軟にやらせていただけるのが魅力だと思っています。
新人も1年目からアブレーションや人工心肺に携われますので、成長速度が速いと思います。
人工心肺は島本先生が着任された入職後の4か月目から入らせてもらって、業務に就いてから3か月目でセカンド業務を覚えて、6か月目で先輩に後ろで見ていただきながらメイン操作ができるようになり、予定症例であれば1年かからずにメイン操作ができるようになりました。
心臓血管外科業務に入って2年11か月(2023年9月現在)なのですが、弁置換、MICSや大動脈解離など基本的な術式の操作が一通りでき、また人工心肺業務では難易度が高いとされる胸腹部手術もメイン操作ができています。
このスピードで業務を覚えられる病院は日本全国を見てもなかなかないのではと思います。他の病院ですと人工心肺やアブレーション業務は、やりたくても携われないと聞きますが、当院では入職1年目から入れますので、是非やりたい業務がある方は当院を志望してもらえればと思います。
現在やっている業務
主に循環器業務を担当していて、心臓カテーテル業務、ペースメーカー業務、アブレーションを担当しています。
そのほか、血液浄化業務、呼吸器関連業務、ME機器管理なども行っています。頻度は少ないですが人工心肺業務も行っており、メインも指導者管理の下、数件行った経験があります。
人工心肺をメイン業務としています。アブレーション業務は担当していませんが、その他は永島技士同様に、ローテーション業務になりますので、一通り担当します。
当院に入職するとメインは人工心肺業務かアブレーション業務のどちらかになります。
一日の業務の流れを教えてください
定時 8:15~17:00(実労7:45、1時間休憩)
日当直、夜勤なし、オンコール対応
永島技士 一日の業務の流れ
8:15 臨床工学部カンファレンス(業務確認、連絡事項)
8:30 機器準備
9:00 始業前点検
9:30 業務準備(術前CT画像から3Dモデル作成、患者情報入力など)
9:45 術前カンファレンス
10:00 患者さん入室
10:10 手術開始
13:00 手術終了、片付け
14:00 お昼休憩
15:00 業務記録(使用物品と手技記録、業務記録を電子カルテに記載)
16:00 カテ業務終了後、医療機器管理業務
16:45 終業カンファレンス(担当業務状況の確認、連絡事項)
17:00 終業
月間残業10~20時間程度
松本技士 一日の業務の流れ
8:15 臨床工学部カンファレンス
8:25 手術室、人工心肺の回路組み、プライミング
9:00 患者さん入室、麻酔サポート、術野の消毒など
9:45 タイムアウト、手術式確認・問題点の共有
10:00 開始
13:30 手術終了(弁置換などの場合)
14:00 ICUにDrと共に患者帰室、血液ガス分析、人工呼吸器の設定
14:30 お昼休憩
15:30 機器管理業務
16:45 終業カンファレンス(それぞれの担当している業務が終わったのか、17時以降に残
業があるかの確認が主、事務からの連絡事項など)
17:00 終業
月間残業10~20時間程度(全員が全業務のオンコールなので、人工心肺業務をメインにしているからと言って、突出して残業は多くならない)
臨床工学技士としての目標
主に循環器業務に携わっているので、心血管カテーテル専門臨床工学技士、不整脈治療関連専門臨床工学技士などの循環器関連の資格取得を目標にしています。
学会に関しては、心臓血管外科の島本部長から「アカデミックに活動していこう!」ということで、1年1回以上の発表を目標に頑張っています。体外循環技術認定士や透析関連の資格は取得したいと思います。
臨床工学技士のやりがい
業務を行っていくうえで医師からの信頼が増えたことはもちろんですが、臨床工学技士という職種を認識してもらえる環境にやりがいを感じます。
6年前に興津部長が着任され、業務委託していたME医療機器メンテナンスを臨床工学技士で行うなどの業務改善や、内視鏡業務、手術室、外来部門などへの業務参入を行いました。
私は5年前に入職しましたが、当時と比較して臨床工学技士業務のフィールドが広くなったことで、臨床工学技士の認知度が高まっていると感じています。
今では医師、看護師、コメディカル、クラークさんや清掃員さんにも声を掛けてもらえるようになり、とても嬉しく思います。
一緒に働いている他職種の方から「困ったら臨床工学技士に聞けば、なんとかなりそう!」と声がけしてもらえます。ドクターからも、これはどうしたらいいの?と頼りにしていただくこともあります。
また心臓血管外科と臨床工学部でやっているInstagramも見ていただいている方からの「いいね」や「コメント」があり、これにもやりがいを感じています。
大動脈解離で退院した患者さんが手術から1年後に、わざわざお住まいの東京から再訪問され感謝のお言葉をいただけた時には、この仕事をしていてよかったと改めて感じました。 Instagram にその時の様子が載っているのでぜひご覧ください
浜松ろうさい病院 心臓血管外科&臨床工学部【公式】(Instagram)
臨床工学技士を知らない高校生へ
臨床工学技士という言葉だけでも、検索してもらえたら嬉しいなと思いますね。
若い方やなじみのない方向けにもInstagramをやっていますので、気軽にInstagramをフォローしてもらえたらいいなと思います!
浜松ろうさい病院 心臓血管外科&臨床工学部【公式】(Instagram)
中央臨床工学部長 興津部長に聞いてみた
新人が4月に入職してきたら
3日間は初期オリエンテーションで、医療安全、感染対策、電子カルテの基本操作、各組織の成り立ち、ろうさい病院の規約などを学びます。
4日目からは、現場のOJTが始まります。1年目は、オンコールに入れるように、機器管理業務、心血管カテーテル業務、血液浄化業務(HD、CRRT)を主体にしてすすめていきます。習得に時間のかかる人工心肺業務や不整脈関連業務も不定期ですが同時に業務を担当させ、雰囲気や先輩の動きなどを学んでもらいます。
2~3年目、手術室業務や症例数の少ない特殊血液浄化療法などを加えながら、人工心肺業務もしくはアブレーション業務を担当し修練を重ねていきます。3~5年でゼネラリストしての成長に加え、専門分野を伸ばすように認定士取得や学会発表などが中期目標になります。
5年目以降、専門性の高い人工心肺業務とアブレーション業務どちらの業務にも対応できる臨床工学技士は少ないので、10年目を目標に専門性の高い業務にも対応でき、周術期先般を担えるスーパーゼネラリストを輩出できればというのが私の目標です。
中規模施設は医師数も少なく包括指示が多くなる傾向があります。そのため病態を理解した上で対応が求められる場面が多く、必然と自己研鑽が求められるので経験を積むいい施設と考えています。
業務範囲をお聞きすると3~4倍のスタッフがいても良さそうですよね?
病院としても前向きなのですが、2019年の体制変更後から間もないこともあり、徐々に増員している状況です。人工心肺やアブレーション件数増だけでなく、タスク・シフト/シェア体制強化には臨床工学技士の介入が重要と理解をいただいてますので、業務拡大の進捗に合わせ協議しながら進めている状況です。
教育の体制
法改正に伴う研修は、保守点検に必要な資格に関しては、公費支援があります。
学会、セミナーに関しては、年間計画を立案し、研究出張費で参加をしています。
すべての学会参加費を賄うのは難しいため、院内の学術集団会等で演題報告を行い優秀演題の賞金などを活用してできる限り参加できる体制に努めています。
タスク・シフト/シェアについて
MICS手術のスコピニストや麻酔補助の要望が上がっています。これまでも診療科からの依頼については「Yes」のスタンスで対応してきましたので、積極的に介入を考えています。しかし近年、急速に業務拡大を行ってきたためスタッフ1人あたりの業務量も大幅に増加しており、慎重に進めていく方向性です。
採用に関して
学力は不問です。誠実で向上心を持った方を求めています。ゼネラリストを目指すということは、幅広い領域の技術取得と常にアップデートも求められます。そのため、積極的に学ぶ姿勢が最も重要であり、待ちの姿勢では務まらないと考えています。
当院は、業務体制を一新してから間もないため、まだまだ改善や構築していかなくてはならないことが多数あります。でき上がった業務を吸収していくのでなく、こののびしろを一緒に構築していく経験は代えがたいものになると考えており、病院と一緒に成長していきたいと考える方が来てくれることを望んでいます。
松本技士は興津部長が面接して採用されたかと思いますが、他の方と比べて何を評価されましたか?
松本技士は、面接が非常に上手だったんですよ (笑)
元気いっぱいで、頑張りますのアピールがすごかったです (笑)
質疑においても何をしたいかというビジョンがはっきりしていましたね。
心臓血管外科 島本健 (しまもと・たけし) 医師 部長赴任
【心臓血管外科 島本健 (しまもと・たけし) 部長略歴】
2009年より岡山県倉敷中央病院にて日本を代表する心臓血管外科医である小宮達彦先生のもと11年半勤務し、多くの手術の執刀指導経験を積む。グループ全体で日本の心臓血管外科症例数の10%もの症例数を占める全国最大規模の心臓血管外科医局である京都大学医学部心臓血管外科湊谷謙司教授の御推挙により2020年10月1日浜松労災病院に着任。
心臓血管外科部長 島本医師(左)・松本技士(中左)・永島技士(中右)・中央臨床工学部 興津部長(右)
臨床工学技士に理解があります。こういう先生と働けることが、我々臨床工学技士のモチベーションにもつながっているので、コメントいただけるようにお願いしました。
ドクター、臨床工学技士、病棟看護師、ICU看護師、手術室看護師、管理栄養士、リハビリ、MSWの多職種でMicrosoft Teamsで、心臓血管外科の患者様が入院してから退院するまでをトータルサポートするということをやっています。
オンラインで普段からも、ドクターなどとディスカッションしているので、コミュニケーションの取れている病院だと思います。患者様が入院したら病棟チャンネルに患者毎にスレッドがたち、薬剤部が持参薬の鑑別について記入し、ドクターが患者さんを診たら、術前カンファレンスというスレッドに患者さんのデータをアップし、手術が終わったら手術に関する記録を記入して患者スレッドに送り、術後の経過、一般病棟に移ったら一般病棟の看護師さんが経過を記入し、退院するまでをフォローしています。
チーム医療をMicrosoft Teamsで管理しています。松本技士が【当院の心臓血管外科におけるWEBツールを活用した取り組み】というお題で学会発表しましたので、取り組み、チーム医療の体制というのも取り上げていただければと思います。自分の仕事以外は知らないと言うのではなく、一通りの各職種の目と言うのも共有できればと思っています。
臨床工学部は、診療部とテクノロジーを兼ね備えた部門ですので、情報システムが弱い病院でしたので、Teamsの導入はセキュリティ上の問題で、電カルとは切り離して運用したいので、PCやネットワーク構築に強い興津部長に手伝ってもらっています。以前赴任していた病院は病床数も症例も多い病院でしたが、浜松ろうさい病院は症例数の多くない病院ですので、理想の医療として、多職種が参加して多職種の目で患者さんを診る最善の医療を構築しています。
人数の割には、症例も多く、信頼も得られている病院なのではないかと思います。着任前より心臓血管外科の症例は4倍くらいになりました。デスカンファレンスも通常は医師のみで行うのですが、チーム医療で、医療安全含めて共有をしています。
Teamsの導入でDX改革、働き方改革の効果はあったと思います。大病院との違いは、運用が厳格ではないので、色々な施策が打てて、フレキシブルに対応できるのが良い環境だと思います。
医療の現場では、対面でのカンファレンス等がまだまだ多いです。
Teamsを利用してオンライン上でディスカッション、サブ業務教育の確立、メイン業務教育の確立を術前から術後まで、振り返りができることで、指導者や医師から指摘される回数が少なくなり、自己評価、他己評価を常に行うPDCAサイクルをまわすことで、業務習得が早くなったというものです。
Teamsの他の使い方としては、手術中の流れや材料についてもディスカッションすることで手術時間短縮につながって患者様のためになるということもあります。
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浜松ろうさい病院 (独立行政法人 労働者健康安全機構 浜松労災病院) 臨床工学部
〒430-8525 静岡県浜松市東区将監町25 Tel.053-462-1211
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