永井病院について
永井病院は1947年2月16日に開設され、以来約75年にわたり、三重県津市で二次救急指定病院として医療を提供しています。その歩みの中で2015年に新病棟の建築、2017年に救急専門病床の新設、2023年春に救急科を創設し、今では年間3000件近くの救急搬送を受け入れています。
緊急治療や手術を必要とされる循環器疾患、消化器疾患、整形外科疾患を中心に、一般的な二次救急医療を加え、それをサポートする透析センター、急性期から在宅までを網羅するリハビリセンターなど様々な職種が力を合わせ日々我々が提供できる“最善の医療”を追求しており、2023年秋には心臓血管センターを新たに開設しました。
整形外科・循環器内科・消化器外科・救急科の4本の柱で、地域に根差した医療を提供している病院です。
刈谷豊田総合病院 藤田副部長と聖隷浜松病院 北本室長から、「臨床工学技士の活動が盛んないい病院」と推薦いただき今回の取材に至ります。
多職種連携のタスク・シフト/シェアを推進して、内視鏡室・透析センターなど様々な部門において、管理責任部署という位置づけで、臨床工学室から責任者を配置。一人ひとりが病院全体目線で患者さんに向き合えるように医療提供を進める臨床工学室の奥田将(おくだ・ひとし)室長と山口翔(やまぐち・しょう)主任にお話をお伺いしました。
山口主任に聞いてみた
山口主任
臨床工学技士を知ったきっかけ
両親が看護師でした。そういった環境で育ちましたので、将来的には病院で働くのだろうと思っていました。医療職は手に職で安定的な仕事というイメージがありました。
臨床検査技師、理学療法士、診療放射線技師、薬剤師などは知っていたので、一日職場体験で見学したのですが、医療職に持っていたイメージと違うと思っていました。
一日職場体験で見た医療は、山口主任の思われている医療職のイメージと何処が違っていましたか?
職場体験のときは、看護師や理学療法士は回復期のイメージが強かったので、急性期業務にアグレッシブに取り組めるような仕事をしたいと思っていました。
母が透析センターで働いており、その縁で母の同僚に臨床工学技士と言う職種の方がいるという事で、お話する機会を設定してもらいました。
機械を触る仕事ということで、私もPCが好きだったので、興味のありそうな仕事だと思いました。
透析や人工心肺のイメージはついたのですが、その方が、車のメンテナンスから日曜大工まで何でもこなすスキルを持っている方だったので、特殊だとは思いますが、凄い!あの人みたいになりたい!臨床工学技士になるとあの人みたいになれるのではないかと思って臨床工学技士を目指しました。
就職に関して
三重県には大きな病院が少なく、人工心肺業務を行う病院に空きがない状況でしたので、最初の勤務先は、慢性期の透析センターで働いていました。
当時は心カテ業務をやっている病院もまだ少なかったのですが、知り合いに話を聞くうちに、心臓カテーテル検査や冠動脈形成術(PCI)が行えるということで、永井病院に転職しました。カテーテル室が併設していることもあり、臨床工学技士が手術室業務に参入し始めた時期でした。私の業務ウェイトとして手術室業務が中心となっていったのですが、その頃は周辺の病院に人工心肺業務以外に手術室業務を行っている施設の知り合いがおらず、右も左もわからない中で臨床工学技士として出来る仕事を手探りで探しながら、現在の業務を確立して行きました。
業務に関して
臨床業務は、ほぼ手術室にいます。その中で医師の業務を直接的にサポートする業務が多く、清潔補助、スコープオペレーター、麻酔補助等の業務がメインになります。
当院で行う臨床工学技士の業務は一通りできますので、時間があれば、ラウンドをして人が足らない業務に入ったり、教育をしたりします。
業務は、手術室業務、中央材料室業務、アンギオ室業務、内視鏡室業務、透析室業務の5つに分かれています。
臨床業務以外は、資材の選定や医療安全、今は多職種でアイデアを出して病院ウェブサイトを制作するプロジェクトを担当したり、企画に関する業務にも携わらせていただいています。
地域的な課題なのですが、三重県は医師も不足していて、臨床工学技士が医療の質を確保する役割が多い地域です。この背景からタスクシフトシェアに主眼を置いた活動をしています。
定時 8:30〜17:00(8.5時間拘束、休憩1時間)
夜勤・当直なしオンコール体制
全職員平均残業時間 15時間程度
① 手術室業務
・手術室準備:高圧蒸気滅菌器の立ち上げ、器械展開、部屋の準備(麻酔器・電気メス・腹腔鏡等の機器類の使用前点検、ナビゲーション手術支援装置、自己血回収装置の回路準備など)、薬剤準備など。
・患者入室後業務:患者確認の実施、バイタルサインの確認、麻酔導入補助など。
・手術開始後業務:清潔補助業務、外回り・麻酔補助業務、清潔補助終了後は使用した器械の洗浄・滅菌前点検など。
手術の開始から終了まで、全工程に携わり、安全に手術を行える提供しています。
② 中央材料室業務
・オートクレーブの暖気運転・BD(ボウィー・ディック)テストの開始
・前日手術にて使用した器械の洗浄・組立・滅菌(オートクレーブ、ステラッド)
・病棟で使用した鋼製小物の洗浄・滅菌
・翌日使用する借り物器械(整形外科領域)の受け取り、滅菌
・ゴミ庫の整理・手術室ホールのチェック(原則:AMで1回、PMで1回)
・翌日使用する借り物器械(整形外科領域)の滅菌→午前中業務の続き
・翌日器械の箱詰め業務、ゴミ庫の整理・手術室ホールのチェック(原則:AMで1回、PMで1回)
資材の選定や、機器購入なども、中央材料室の業務として行います。
③ アンギオ(血管撮影)室業務
・当日の情報収集、入力業務、循環器病棟にて循環器カンファレンス
・冠動脈造影検査(CAG)、経皮的冠動脈形成術(PCI)、末梢血管治療(EVT)などの清潔補助をはじめ、必要なデバイス設定から種々の機器操作まで医師のすぐ隣で必要な介助を行います。
24時間365日、緊急アンギオ対応可能としており、オンコール体制にて夜間休日関わらず緊急アンギオの対応を行っている。症例が少ない場合には、レジストリー入力業務や不整脈管理業務を並行して行います。
④ 内視鏡室業務
・内視鏡検査・治療に使用する内視鏡や装置の保守・点検
・内視鏡の洗浄及び消毒
・上部・下部内視鏡検査での医師の介助
・ポリープの切除(ポリペクトミー)・ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)、内視鏡的止血術など医師による検査・治療の介助
当院では、胃・十二指腸・大腸等の内視鏡検査・治療が幅広く行われております。臨床工学技士は様々な形で業務に関わり、安全に検査・治療が行われる環境づくりに努めています。
⑤ 透析室業務 7:30(早番)~、8:30(定時)~
・機械室立ち上げ・透析濃度測定・1クール目に使用する透析回路プライミング
・患者入室・穿刺・透析開始
※透析開始から終了まで1時間毎にバイタル・コンソールチェックを行う
・患者申し送り・薬剤・2クール目に使用する透析物品の準備・機械室業務
・患者申し送り・薬剤・翌日に使用する透析物品の準備・機械室業務
※火木土は1クールのため、14:30〜中央機器管理業務、機器メンテナンス
※土曜日は7:30〜11:30(土曜:休憩なし)、8:30〜12:30(土曜:休憩30分)
血液浄化業務では、維持透析だけではなく、腹膜透析、血液透析以外にも、重症下肢虚血・潰瘍性大腸炎・自己免疫疾患等に対特殊血液浄化療法の対応を行っています。
永井病院のやりがい
医師の働き方改革を迎える中、臨床工学技士として業務を増やしていけるのでチャレンジしやすい環境です。病院も背中を押してくれてキャリア支援もしっかりしてくれます。
現在のスタッフは15名で、平均年齢が29歳と若いメンバーが揃っており、フレッシュでやりがいを感じられる環境が整っています。
タスク・シフト/シェアが強いと言っていただけるのですが、シフトというと業務の奪い合いみたいなネガティブなイメージがあるのですが、タスクシェアで多職種連携して、治療計画を立てて患者さんをサポートする体制の構築をしています。
他の病院から来た医師には「臨床工学技士が器械だししてくれるの?カメラ持ちしてくれるの?麻酔も見てくれるの?やりやすい」と言われますので、当院の特徴と認識できています。
カテーテル領域の業務では、特に緊急的なカテーテル治療で医師が手術などを安全でスムーズに進めやすい配慮、清潔野での補助も行っており、医師が治療計画を検討する中にもチームとしてサポートできる体制に貢献しています。
特に外部から来ていただく医師には、手技に集中しやすい環境を作っているので、やりやすいというお言葉を頂戴します。
奥田室長に聞いてみた
奥田室長
入職後研修、各段階の目標など
入職後は、基礎の医療安全や感染管理・就業規則関係の研修が1日通してあり、その後各部門への配属を行います。6か月の試用期間を経て、実際の部門配属となります。
1~2年目は、半年くらい1つの部門業務をしっかりと習得に努めて、臨床工学技士としての知識と技術を身に着けてもらうことを目標とします。半年後から1つ目の業務を行いながら、2部門目の業務を習得します。現在は夜勤・当直体制はなく、待機体制をとっているため、待機業務に従事が出来るような業務習得をしていきます。
1つの業務を軸として習得し、自身の強みとして持てるよう知識・技術の習得に努めていき、それに加えて、幅広い分野の習得を進め、待機体制を担えるような業務習得を進めます。入職後の業務配置は、個人の希望にも配慮しつつ、病院で必要とされる部署への配属を検討していきます。特色としては、地域の個人病院であり、業務に直接触れられる場面が多いため、各部門の実務経験数は若いうちから積みやすい環境です。
3~5年目で、部門ごとの中心的な役割を担えるような知識・技術を習得したうえで、自部門だけでなく他部門との連携、多職種とのつながりによる患者さんへの医療提供を意識できるように成長を促していきます。
5年目以上では、病院全体を意識しながら、患者・職員・地域が満足できる医療提供を目標に臨床工学技士という形にとらわれない医療貢献をそれぞれの個性に合わせ実現できるようにサポートしていきます。
教育はプリセプター制度が導入されています。特に新人の方に対しては固定のプリセプターでメンターとしての役割を果たしています。
臨床工学室の運営について
永井病院の臨床工学室では、手術室・カテーテル室・内視鏡室・透析センター・ME室・ICUなどの病棟業務など幅広い範囲で業務を行っており、主任・副主任だけでなく、部門リーダーも配置しています。それぞれの部門にて、臨床工学技士が責任感を持った行動を促すためにも、それぞれの部門で常に中心的な役割を担うようにしています。
内視鏡室・透析センターなど様々な部門において、臨床工学室が管理責任部署であるという位置づけをいただいており、一人ひとりが臨床工学室だけでなく、病院全体の視点から患者さんに向き合えるように医療提供を進めております。
業務内容について
手術室業務・カテーテル業務・不整脈関連業務・内視鏡業務・血液浄化業務・機器管理業務・病棟補助業務等、幅広い部門での業務に従事しています。
働く人材不足の世の中に向けて多職種による業務連携が求められる医療機関でも、当院臨床工学技士は先行して多職種連携に取り組み、すでに広い部門で活躍しています。
病棟や他のコメディカル部門、様々な委員会に臨床工学技士が介入しており、標準化・手順化など他部門に関わり今まで養ったノウハウを病院全体の部門に広げております。
業務の習得手順、共通業務と専門業務など
各部門の業務に関しては、部門ごとの教育計画に基づいて教育を進めています。個々の職員の成長スピードや達成度合いが異なるため、プリセプター制度を導入しており、進行状況のチェックやサポートをリアルタイムで行えるようにしています。
若い段階から業務経験を積みやすい職場であるため、実際の手技などに触れながら、振り返りの場を設け、頭だけでなく体でもしっかりと理解できるようにシミュレーションも欠かさず行っています。
医療機器管理の中央管理を始めとした共通業務に関しては、担当を持ち回りで行い、病院全体の医療機器のメンテナンスなどに取り組んでいます。
医療機器管理専従の臨床工学技士を配置していない分、医療機器管理に関する改善や検討を行うプロジェクトメンバーを選抜し、日々検討の場を設けております。
教育体制・教育支援環境について
学会活動・資格取得などに関しては、病院が支援してくれており、業務範囲拡大の告示研修も受講が進んでおります。
経験年数の少ない職員も学会発表などの外部活動を行っており、事前に月に1回部門発表の機会を設けて、自己学習や人に伝えるような機会を作っています。
当院臨床工学室では、2~3部門業務を担える臨床工学技士を目標としています。各部門にて業務習得期間に幅はありますが、部門業務教育計画を元に業務習得に努めています。
福利厚生等(働きやすさ、長く勤めてもらえる環境つくり)
コロナ禍で一時期中断していましたが、毎年病院旅行があり、様々な場所で職員同士が交流を深める機会があります。普段あまり関わらない職種とも交流をできるため、息抜きだけでなく、コミュニケーションを広げる場にもなっています。
臨床工学室では、それぞれが働きやすい環境作りを念頭に置いており、学びの場やプライベートな時間なども作りやすいように配慮した勤務構成にしています。
採用に関して
採用試験に関しては、事前アンケートと1次面接(主任、室長)・2次面接(総務部長・看護部長)などを行い、選考しています。
当院には現在15名の臨床工学技士が従事しており、今後の多職種連携の中心として臨床工学技士が活躍できる病院なので、これからもやる気のある人材は採用を進めていく予定です。
勉強ができることや器用であるというだけでなく、何に取り組むにおいてもやる気があることが伸びるきっかけになると考えているので、学ぶこと・患者さんに向き合い医療提供をすること・周りの職員とコミュニケーションをとること・どんな取り組みにおいてもやる気がある人を募集したいと考えています。
活動的な方にとって充実した職場だと考えており、「やる気」のある方はぜひ一度病院を見学して、臨床工学室や病院の雰囲気を感じてください。
見学受入に関して
学生の方は1年、2年生のうちから様々な臨床工学技士の業務をみて、何の業務が楽しいのかな?っていうのをイメージだけでも掴んでもらえるといいと思っています。私が学生の頃には、実際の医療現場を見ることができる機会があり、自身が取り組みたい業務を見つけることができました。
学生の早い段階から、実際の業務を見て働くイメージが湧けば、もう少し勉強のやる気を出してもらえるんじゃないかなと思います。笑
これから臨床工学技士を目指す人などには、実際の現場を見てもらうことが一番かと思うので、見学をご希望の方は、臨床工学室までお電話でご連絡ください。