【臨床工学技士インタビュー】トヨタグループ8社と刈谷市、高浜市によって運営される刈谷豊田総合病院。2024年の医師の時間外労働時間の規制を前に臨床工学技士の業務拡大を見据える。個々の意識の高さが臨床工学科のレベルの高さに繋がっていた

刈谷豊田総合病院

704床を有する刈谷豊田総合病院は、トヨタグループ8社と刈谷市、高浜市によって運営されている。
先進的な医療機器を完備して高度な医療を提供する中核病院として地域に貢献。愛知県がん診療拠点病院にしてされており、腹腔鏡や胸腔鏡、手術支援ロボットda Vinci(ダヴィンチ)による低侵襲手術(3台所有)を積極的に行っている。中央管理している機器は、約1,500台以上にのぼる。今回は、臨床工学科の藤田智一(ふじた・ともかず)副部長と島田俊樹(しまだ・としき)技士に話を聞いた。

臨床工学科

藤田 副部長

刈谷豊田総合病院(本院)のほかに刈谷豊田東病院と高浜豊田病院という関連施設にも臨床工学技士が在籍しています。本院だけで30人(女性10人)、3施設合わせると50人(女性20人)の臨床工学技士がいます。本院と関連施設にいる臨床工学技士は数年単位で人事異動があります。

Q.業務内容はどのようになっていますか?

本院では、手術室グループ(手術室・ICU)とCE管理グループ(血液浄化・中央機器管理・内視鏡センター・高気圧酸素治療・不整脈)に分かれて業務をしています。入職するとどちらかのグループに配属になり、数年ペースで人事異動を行いほかの業務も習得してもらいます。

Q.最初の配属はどのようにして決めるのですか?

入職前に面接を行います。必ずしも希望の部署に配属されるというわけではありませんが、患者さんのことも考慮して男女比などもみながら配属します。

Q.患者さんのことを考慮するとは?

例えば、消化器内視鏡検査時など意識がしっかりとした状態で治療や検査を受ける場合、同性に行なってもらいたいという患者さんもいらっしゃいます。そういった配慮に対応できるよう配属の際に男女比も意識しています。必ずしも希望通りとはいきませんが、もちろん面接時に聞いている希望も加味します。

1500以上のチェック項目

Q.どのように人材育成しますか?

プリセプター制度※ を採用しており、新人1人に対し指導者を1人付けます。手術室グループに所属した新人は、数年単位、早くても3年くらいはそこの部署にいてから次の部署へ。一方、CE管理グループに所属した新人は、血液透析、内視鏡、機器管理というのはほかの関連施設である刈谷豊田東病院と高浜豊田病院でも共通している業務であるので、早い段階で関連施設を含めてローテーションします。

研修内容は、施設ごとに細かな部分でやり方が違うのでそれぞれの施設に任せています。統一させている内容が、力量評価です。力量評価は、例えば “特定の医療機器の点検ができる。” 透析だとシャント(自己血管)に針を刺すことができる。人工血管のシャントに針を刺すことができるなど、細かい項目に分けてチェックしています。項目数は、血液透析業務における力量評価項目だけで約110項目、当院臨床工学科が行っている各種領域の力量評価項目数を合わせると約1,600項目あります。クリアできないと次のSTEPへ進めないというハードルを設けています。なかなか勉強する時間もないですが、学校で国家試験を勉強したことだけが役に立つかというと、臨床ではそうはいかないですよね。臨床は臨床の課題があるので、入ってからが本当の勉強になってくる。それを疎かにしてしまうと、進化し続ける医療の進歩についていけなくなってしまいます。自己研鑽をしっかりしてほしいという意味合いも込めて課題などももうけています。

※先輩が後輩をマンツーマン指導・教育する制度

方向転換

島田 技士

愛知県出身の島田技士は、地元の高等専門学校を4年生のときに中退。その後、臨床工学技士を目指し大学に入学した。入職して今年で11年目になる。

豊田市出身で、まわりの環境もあり工業関係の仕事に就くだろうと思っていました。ただ、高専に通っているうちに違和感を抱くようになり、エンジニアとして企業で働くよりも現場で動いて社会に貢献したいと思うようになりました。助産師である母が臨床工学技士という職業があることを教えてくれました。機械を触るのが好きな自分に合っている職業だと思いました。

Q.実際に臨床工学技士として働いていかがですか?

天職だと思います。元々手術自体に興味がありました。手術の技術やフォローを重視してテクニックを学びたいなと思っていて、刈谷豊田総合病院であれば学校の授業では絶対にやらないこと新しいことをやっていけるというところで手術室グループを希望しました。現在は、タスク・シフト/シェアの関連で、スコープオペーレータ業務いわゆるカメラ持ちをしています。告示研修の対象になっている内視鏡外科手術の時のカメラの保持にやりがいを感じています。もちろんそれだけではないですけどね。

Q.スコープオペレータの難しいところはどういったこところですか?

カメラといっても通常皆さんが思うようなものとは違います。操作する向きによって画が変わってきます。表現が難しいのですが…。例えば、人間の身体を外側から見る場合は右側から覗きこむ左側から覗きこむということができますが、内視鏡のカメラはそういったことができません。練習をしていないとできない技術なので特に気をつけています。

様々な種類の手術用カメラがありますが、当院で主に使用しているカメラは簡単に言えば一眼レフカメラをビデオカメラとして使用しているイメージです。しかし、お腹の中なので動きが非常に制限されます。表現が難しいのですが・・・例えば、正面にこちらを向いた人間がおり、自分は一眼レフカメラを手で持っているとして、相手の左耳を写そうと思ったら自分の体と頭を動かして右側から覗き込む、右耳を見ようと思ったら同様に左側から覗き込んで写しますよね。しかし、手術ではトロカーと呼ばれるところからしか写すことができなく、覗き込む動作ができません。三脚で場所を固定されたまま、相手の右耳、左耳を写して!と言われているイメージです。普通の一眼レフカメラのレンズでは不可能ですが、手術用のレンズ(スコープと呼ばれます)は真っ直ぐにしていても斜め下が見えるように特殊な加工がされており、これの向きを操作することによって三脚で場所が固定されていても(トロカーからでも)右側、左側から見ることができます。ただ右側左側だけでなく、向きやズームの調節など実際は、習得すべきテクニックはもっとありますし奥が深く難しいです。内視鏡外科手術においてカメラは術者の目ですから、術式もよく勉強して臨んでいます。

1日のスケジュール

島田技士のある日のスケジュール (スコープオペレータの業務がある日)

定時8:30~6:50

8:00 出勤
8:30 朝礼
8:35 麻酔器の始業前点検
8:50 手術のブリーフィング
9:00 器械出し ME機器の点検 手術前の準備
9:20 手術にスコープオペレータとして参加→レントゲン撮影
~11:15 手術終了後は、片付けなどに参加

12:15 休憩(昼食)1時間

13:15  次の手術の器械出し
16:00  手術室グループ管理の医療機器の保守・点検 自主トレなど
16:50  終業

 

島田 技士島田 技士

スコープオペレータ業務は、医師と共に手術に携わりますが通常業務と併行して行うことが多いです。手術前の準備はもちろん、手術前の空いている時間があれば機械出しやME機器の点検などもします。

 

藤田 副部長藤田 副部長

島田技士は、入職時から手術室業務を希望していました。業務拡大という時代の流れと人の努力もあって仕事の幅を広げていったと思います。現在では、臨床工学技士の業務範囲追加に伴う厚生労働大臣指定による研修(告示研修)の講師も務めるまでになりました。彼のようにひとつの業務に様々な視点持っているということは素晴らしいことです。

 

拡大する業務を見据えて

Q.これからの目標は?

 

島田 技士島田 技士

今回のタスク・シフト/シェアでスコープオペレータの業務がはじまっただけで終わりではありません。2024年になると医師の残業時間がかなり制限され、時間内に業務が終えられないということが出てくると思います。現状、医師たちのなかには想像できていても体感していないのでなんとかなるだろうと考えている人たちが多いと思います。制限がかかってくると(時間内に)できないということが出てきます。今後、臨床工学技士がロボット支援手術など関わっていかなければならない分野が増え、業務はさらに拡大すると想像されます。そういうところに我々は貢献していかなれければならないと思っています。

 

藤田 副部長藤田 副部長

私が臨床工学技士という職に就いたころから比べると様々な業務拡大をしています。ただ、業務を拡大するだけではなくふりかえってみて、見直しもしていかなくてはならないと思っています。そうすることによって臨床工学技士がもっと貢献できますし、仕事も確立していくのではないかと考えています。

 

求める人材

 

藤田 副部長藤田 副部長

技士としてこれをやりたりたいという強い想いがあること。入職してからが本当の勉強をしていかなくてはならないですから、まずは気持ちの面ですね。それと、チーム医療ですので当然コミュニケーションスキルも必要になってきます。医師や看護師をはじめ、ほかの業種と一緒に仕事をしますので、同等の技術や知識が必要になります。向上心を持って自己研鑽できる人が望ましいですね。

 

取材協力

刈谷豊田総合病院 診療技術部 臨床工学科
〒448-8505 愛知県刈谷市住吉町5-15 Tel.0566-21-2450(代)
採用情報
見学問合せ:総務室人事グループ (0566-25-9236)までお問合せください。