慶應義塾大学病院
1917年(大正6年)細菌学者・北里柴三郎博士が初代学部長となり、医学部が発足。それから3年後の1920年(大正9年)に北里氏を病院長として大学病院が開院した。以来、100年以上にわたり日本の医療業界を牽引してきた慶應義塾大学病院の医用工学室には、32名(女性8名)の臨床工学技士が所属している。今回は、冨永浩史(とみなが・こうじ)課長に話を聞いた。
冨永浩史 課長
親を安心させた大病院への入職
私は福岡県出身で地元の高校を卒業後、静岡の大学へ進学しました。大学の同級生の半数はメーカーに就職するような時代でした。私も一般企業を受けましたがイメージが湧きませんでした。それよりも病院実習で楽しそうに働いている臨床工学技士の方たちを見て、私もこちらの道に進みたいなと思いました。
Q.慶應義塾大学病院を選んだ理由は?
親からは地元へ戻ってきてほしいと言われ地元福岡の病院も受けましたが、自立したいという気持ちが強くありました。親も納得するような病院へ入職をしようと思い慶應義塾大学病院を志望しました。
Q.入職していかがでしたか?
入職してすぐは、体力勝負で新しい仕事を覚えていくというのは大変でした。すごいところに来たのだなと思いました。現在も同じシステムなのですが、ローテーションで様々な業務をして知識を深め広い視野を身につけ臨床現場の厳しさの中で様々な経験を積むことができました。
明確化されたキャリア形成プログラム
Q.入職するとどのような研修を行いますか?
慶應義塾大学病院では、入職歴ごとに役割や目標設定を明確化しキャリア形成をしていきます。入職すると基礎研修として血液浄化センター、手術室、機器管理室、心臓カテーテル。専門研修として人工心肺、不整脈治療(アブレーション・デバイス)、ICUの7部門を2カ月ごとにローテーションしていきます。2年目の途中からは1度まわったところを今度は1カ月ずつローテーションします。1、2年目の新人スタッフのうちは、業務実践と夜勤業務に入ることを目標に仕事を覚えていきます。
Q.3年目以降はどのように研修を行いますか?
3年目~5年目は、ローテーションスタッフという次のステップへ進みます。1、2年目でローテーションした7つの部門を今度は指導者という立場で業務を行い指導経験も積みます。そうすることによってしっかりと業務を定着させます。6年目〜10年目はリーダースタッフとなり、7部門の部門リーダーとなるための研修を行います。同時に体外循環技術認定士や不整脈治療関連専門技士などより高度な専門資格の取得を目指します。10年目以上になると管理者スタッフとして臨床工学技士の業務だけでなく管理職になるための研修も行います。
Q.冨永課長の専門分野は?
私は、 ICUと人工心肺と不整脈治療の3分野です。できれば専門分野は1人2つ持とうというのを目標としてやっています。
専門領域が一つではどうしても経験年数を積んでいく中で視野が狭まっていってしまいます。2つ以上持つことで視野・知識を広く持ちながら成長を目指していきます。人員の循環もあり職場環境も向上すると考えています。少ない人数で多くの仕事に対応していくには部内での協力体制という点においても重要です。日々お互いに協力しながら業務を行っています。これは医用工学室の特色と言えるのではないかと思っています。
Q.冨永課長は、どういう順番で経験を積んでいったのですか?
冨永課長「最初の専門領域ではICUで3年業務をしました。そのあと、不整脈治療を5年、人工心肺を3年専門で担当しました。」
人工心肺はどのくらいでまわせるようになりましたか?
もともとローテーションで人工心肺業務も担当していたので、専門となって1年半くらいで独り立ちできるようになりました。
早いですね。
慶應義塾大学病院の特長として、日本屈指の症例数があります。心臓の手術に関していえば毎日行われています。症例数が多いということは短い期間でたくさんの経験を積むことができます。手術室は、外来手術も入れて25部屋あり、年間1万5,000件の手術をしています。手術室の各部屋には、麻酔器が置いてありますので朝一番に臨床工学技士が点検をします。手術が終わると終業点検を行い緊急手術に備えてあります。このように手術件数が多くなると病棟や集中治療室、病院全体の稼働が上昇し、医療機器を扱う我々の業務機会も増えるということになります。
1日のスケジュール
ある日のスケジュール ※集中治療室業務勤務の場合
定時8:00~16:30
8:00 出勤
8:15 集中治療室でのカンファレンス(各診療科の医師を含む)
8:50 NICUで人工呼吸器 保育器などの点検
9:50 PICUで人工呼吸器などの機器点検
10:15 各病棟をまわって人工呼吸器などの機器点検、搬送用の人工呼吸器準備
11:30 休憩1時間(昼食など)
12:30 ICUでの人工呼吸器管理、急性期血液浄化準備等、
CPAP(持続陽圧呼吸療法)導入の外来対応
15:00 患者へ在宅用の医療機器の説明
16:00 救急外来の人工呼吸器の点検など
16:30 終業
夜勤(16:00~翌朝9:00)。
通常夜間は夜勤者が対応することになっています。色々な業務をみんなができるようにしているので、誰が夜勤についても夜間の仕事を幅広く柔軟に対応できるというのは強みであり、ローテーションをしているから成り立っていることです。基本定時16時半で帰宅可能です。日勤帯業務は夜勤者に引継ぎ16時半以降は帰宅または自己研鑽に使うことができます。
充実の福利厚生
Q.学会・資格取得に対する補助はありますか?
学会参加や資格の取得にかかる費用は、一部サポートがあります。義務ではないのですが、2~3年目くらいに東京都臨床工学技士会などで一度発表経験を積み、どういう下準備をして発表に臨むかというノウハウを学んでもらうようにしています。
Q.休暇制度はどうなっていますか?
有給休暇のほかに季節特別休暇があります。1年間のうちどこかで9連休を交代交代で取ります。これは有給とは別なので、法律で定められている年間5日間の有給も取得することになります。もちろん、産休育休も取得することが可能です。奥さんの出産後に5日間の特別休暇、数年前から男性職員は奥さんが出産して自宅に戻ってきてから最大3年の育児休暇の取得が可能になりました。今のところ奥さんの体調が回復する数週間程度の取得パターンが多いです。私の子どもが産まれるころにはなかった制度がどんどんできてきています。
医療機器の担い手として
Q.求める人材
勉強ができるだけではなく、臨床工学技士にはコミュニケーション能力も必要ですので総合力のある人ですね。ただ、偏った人材もいていいと思っています。例えば、パソコン操作にすごく詳しいけれど、コミュニケーションを取ることが少し苦手という人がいたとしても諦めずにチャレンジしてもらいたいですね。
臨床工学技士は担当ごとに分かれて仕事をするので部門を任せていける人材であったり、患者さん・チーム・病院を考えられる人材へ業務スキルを身に付けながら成長できるよう目指しています。