【臨床工学技士インタビュー】ゼネラリストとスペシャリストの両立をめざす、東部の医療を支える東京都立墨東病院

東京都立墨東病院

当院は、1961年4月1日に、伝染科病院の旧本所病院と普通科総合病院であった旧墨田病院とを統合し、区東部における唯一の公的医療機関として開設されました。1999年には築地産院が当院の周産期センターに移転統合され、現在の765床 の総合病院に生まれ変わりました。当センターは2017年に都内で6施設目となる「スーパー周産期センター」に認定されています。

2020年10月には患者・地域支援(PR)センターを開設し、患者サービス、地域医療連携をさらに発展させて参りました。都内に4か所しかない「高度救命救急センター」と合わせ、安全で信頼される救急医療の充実をめざしています。

23区東部唯一の高度救命救急センターで、都立病院機構で最初に「臨床工学科」が院内組織として設置された東京都立墨東病院臨床工学科松下賢一(まつした・けんいち)係長にお話をお伺いした。

松下係長が臨床工学技士を知ったきっかけ

もともと理工学部で学んでいました。2つ下の弟に届いた進学案内パンフレットをみて、医学と工学の知識を活かした医用工学という分野で活躍できる臨床工学技士があることを知り、大学在学中から資格を取りたいと思っていました。

当時は専科など短期間で受験資格を取得できる仕組みが無かったため、3年間専門学校に行って、受験資格を取得しました。機械工学が専攻でしたので、工学系分野は得意でしたが、新たに学ばないといけない分野も多くありました。

新しい職種でニーズがあると思っていましたし、患者さんの役に立つ仕事だと思ったので、臨床工学技士になろうと思いました。

東京都立墨東病院の志望動機

様々な業務をやりたいという希望もあり、大学病院などにも興味がありました。

当時の都立病院は東京都衛生局の管轄で、それまで臨床工学技士の採用実績が少なかったので、情報があまりありませんでしたが、臨床工学技士の公務員採用があるという事で受験しました。資料解釈のテストなど公務員試験独自の試験があったので、受からないだろう…、受かったらラッキーと思いながら受験しました。

配属は荏原病院で、脳神経外科所属で高気圧酸素治療に3年従事しました。1人職場でしたが緊急呼出もあり、当時はポケットベルを持たされて、夜中でもタクシーで駆けつけていました。

その後は、豊島病院で3年、主任昇任で墨東病院へ異動して2年、広尾病院に10年、その間に係長に昇任し、墨東病院へ異動して7年目です。

都立病院に臨床工学技士が配置された当初は、職員の所属が腎臓内科や、事務部門の用度係ということもありましたが、ようやく30年かかって臨床工学科が出来ました。

 

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いつ頃から臨床工学部門は拡大したのですか?

 

墨東病院では、腎センターの増床、当直、手術室常駐業務(ロボット手術)など、新たな業務ニーズによって、人員が、22名(男女:男16名・女6名、年齢構成:20代5名、30代8名、40代7名、50代2名)まで拡大してきました。

採用後、数年経つと主任への昇任試験が受けられます。異動のタイミングはおおむね5~10年おきくらいが多いです。都立病院機構の中で人員配置が多い病院は、多摩総合医療センターと墨東病院です。

 

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どうしたら役職があがるのでしょうか?

 

昇任は、日々の業務実績や経験年数がポイントとして換算されて、昇任試験の受験資格を得ることが出来ます。

主任級職選考、係長級職選考、管理職選考が制度としてあります。

今年度、墨東病院に臨床工学科長の管理職ポストが設置され、昇任選考が実施されました。2024年度以降には、都立病院機構のほかの病院へも、臨床工学科の設置を目指しています。

松下係長の日常業務

主に人工心肺業務、機器管理業務と管理業務になります。
管理業務は、人事管理や日常業務管理などです。院内会議は医療安全対策室会議、手術室運営会議、救急診療委員会、診療運営会議、コメディカル連絡会、人材開発プロジェクトなどに部門代表として参加しています。

 

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コメディカル連絡会はどんなものですか?

 

事務とコメディカル部門の代表者が集まって、院内での情報を共有する会議です。機構や院幹部、事務部門からの情報共有を受けたり、各部門で課題になっていることを報告する会議です。

 

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人材開発プロジェクトはどんなものですか?

 

組織横断的に多職種で人材育成に取り組むプロジェクトです。まずは、キャリアラダーの整理から始めていますが、臨床工学部門では、これまで体系的に取り組めていませんでしたので、他の職種の取り組みを参考にさせてもらおうと思っています。臨床工学部門では都立病院共通の業務習得評価基準を作りましたが、病院毎に特色がありますので、墨東病院版の評価基準にブラッシュアップしようということになっています。

松下係長の一日の業務

日勤業務 8:30~17:15
当直業務 8:30~17:15(日勤)、17:15~25:30(準夜)、25:30~8:30(管理当直)の一直二勤務
オンコールなし 緊急時は担当が捕まれば担当者で対応
月間残業時間 10~20時間程度

臨床のある日は、1日中手術室。
下記は、管理業務が中心の日の一日の流れ。

8:30 朝礼
8:35 手が空いたら機器管理業務を行う(定期点検・日常点検を行う)
9:15 会議
12:00 お昼休憩
13:00 打合せ、会議、勤務表作成、会議資料作成
15:00 打合せ、会議
17:00 終礼(会議内容の共有、翌日の業務、各種検討会など)
17:15 労務管理、会議資料作成など

どういう臨床工学科にしていきたいか

スタッフの働きやすい職場環境の改善に終始すると思います。

都立病院は、東京都の医療を支えるという大きな役割がありますので、そこに貢献して行けるようにする為には、しっかりした医療サービスの提供体制を作っていくことだと思います。その為には、スキルアップや人材育成ですが、少子高齢化になると労働者の絶対数が不足するので、そこをどうトランスフォーメーションするか臨床工学的な立場で提案していかないといけないと思っています。

AIや業務支援システムに移行していかないと、どんどん人手不足のスパイラルに陥るので、そこにどうやって臨床工学技士として携わっていけるか。システム管理などを提案していかないといけないと思います。

定年退職年齢も延長され、私が定年を迎えるころは、65歳(役職定年は60歳)になるそうです。

4月に新人が配属されたら

覚えてもらう業務は、①腎センター業務、②カテ業務(カテ検査・治療、虚血、不整脈領域)、③ICU・救命センター業務(高気圧酸素治療・呼吸器ラウンド)、④手術室業務(ロボット手術業務、心臓血管外科業務)⑤機器管理業務です。

係長は4名おり、私(松下係長)は全体管理で、他の3名はICUや透析室などの業務をみてもらっています。
主任以下は、ローテーション業務に加え、人工心肺か不整脈を担当してもらいます。

配属から3日間は都立病院機構で医療安全、感染や機構のルールなどを学びます。
4日目からは、職場で業務を学んでもらいます。
1.土曜・祝日の透析業務(穿刺まで)があるので、透析業務を覚えてもらいます。
2.カテーテル検査室業務、ユニット業務 (ICU業務、救命センター業務、CHDF、補助循環業務(ECMO、IMPELLA、IABP))をマスターしてもらいます。

翌年3月くらいから当直の練習をして、4月から当直メンバーになります。

2年目は、各業務の完成度を高めて、3年目からは、不整脈か人工心肺にはいります。

墨東病院では人財育成センターを設立し、職員のモチベーションをあげ、やりがいを持って働くことのできる職場作りに取り組んでいます。
多職種協働でECMOシミュレーションを開催するなど、チーム医療の推進にも取り組んでいます。

ECMOシミュレーションの様子

 

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人工心肺は皆さん難しいとお聞きするのですが、アブレーション業務は何が難しいのでしょうか?

 

不整脈は、見えない心臓内の電気活動を心電図として捉えながら治療を行います。さらに、パソコンを使って心臓の形や電位をモデル化する3Dマッピング技術があります。多くの治療戦略があり、それを理解していかないといけないのと、技術の進歩が凄く早くて、ついていくのは頭の柔らかい若い子じゃないと出来ないような業務です。ゲームが得意な子なんかは、そういう事が得意なんでしょうけど、私くらいになると、もう手が動かない、マウスが動かせない感じです。専門でやって行かないと、技術の維持が難しいと感じています。

人工心肺業務は医師やスタッフとのコミュニケーションが難しいと思います。事故があると患者さんに大きな障害になってしまいますので、医療安全上のこともあって、みんなでローテーションとはいかないと思っています。

朝礼終礼で重要なことを伝えても、皆が毎日いるわけではないので、情報共有は、グループウェアを活用しています。

人工心肺業務は、人材育成ステップを作っています。

①シミュレーション環境で訓練を行い、習得状況を審査する
②臨床での訓練を受けて、習得状況を審査する(補助者が付いてメイン操作)
③合格したらメイン操作で臨床経験を積んでもらう
④3年従事すると体外循環技術認定士の受験資格を得られる
⑤体外循環技術認定士を取得する

不整脈業務は、トライアンドエラーでよりよい方法や手順を見つけながらやっています。どんどん技術が変わりますし、ドクターが変わったりしてやり方が違ってきたりしますので、その都度覚え慣れてもらいます。デバイスも増えているので、それらの使い方も習得します。

人工心肺は、あまりやる事が変わらないので、マニュアル化しやすく、教えやすいのですが、不整脈領域は次から次へと新しい技術が出てきますので、応用力を身につけて行かないといけません。

業務は3年すると一通りは習得できますので、自己研鑽でスキルアップを何処までやって行くかという範疇になります。一般的には4~5年で主任級職選考を受ける流れです。

墨東病院だから出来る業務もあって、業務を覚えるチャンスが多い病院かと思います。

資格・学会

墨東病院で無いと困るのは、体外循環技術認定士です。

デバイスの植込み、TAVIやIMPELLAの施設認定が取れなくなってしまいますので、体外循環技術認定士は常に在籍するようにしています。心臓血管外科の修練施設の認定にも体外循環技術認定士が必要です。

資格取得の費用は東京都立病院機構で出してもらえますし、取得すると手当も支給されます。

その他、呼吸療法認定士や透析技術認定士などの資格取得の費用や時間も支援しています。
自己研鑽の学会・セミナー聴講の参加費の一部も研修費から補助されます。

採用について

中途採用の場合は、臨床経験や資格を重視しますが、職場に馴染めるコミュニケーション能力や協調性も見ています。
ちゃんと会話が出来るか、分からない所は分からないと聞いてくれるかといった普通の事です。

新卒採用の場合は、新人さんはゼロから始まるので、コミュニケーション能力、協調性が重要な要素だと思います。
ただ、国家試験に落ちてしまうと採用取り消しになるので、国家試験に合格する実力はつけておいてほしいです。

採用は機構全体で行うので、どの病院に配属になるか分かりませんが、良い職員を採用出来れば機構としてプラスになりますので、多くの方に受験してもらいたいと思っています。

墨東病院は、臨床工学部門が科になった1号病院ということで、機構からも期待が大きな病院です。

係長は、管理監督者にはなっていますが、実際には管理職ではなくて、労働者として超過勤務手当も出ます。

科長になると、管理職として、機構や病院の企画・運営に貢献することが求められます。科長の役職が出来たことで、今後はキャリアプランとして目標になると思います。

区東部では総合病院が少なく、墨東病院への地域ニーズは高いです。地域ニーズにこたえるために、臨床工学技士として、医療の質、安全への貢献を期待されていると思います。

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