透析専門クリニックで働く臨床工学技士が教える!臨床工学技士になって失敗したこと

筆者は都下の透析専門クリニックにて臨床工学技士として従事しています。これまでおよそ15年の経験より、臨床工学技士になって失敗したことについて、記事にさせていただきます。医療における失敗は2種類に分類されます。一つめは、患者の生死に関わる重大なミス、「アクシデント」で、二つめは、アクシデントになる前のミス、「インシデント」です。今回は「インシデント」の話になります。

インシデントを未然に防ぐ為にやるべき事とは

当施設ではRO装置、透析液供給装置(セントラル)の正常稼働、濃度チェックから業務が始まります。正しく洗浄できているか、消毒の残留はないか、濃度が適正か、というのはアクシデントにも繋がりかねませんのでとても重要です。透析液の清浄化を図るためには、エンドトキシンと細菌の測定が必要になります。

透析液を採取する際には採液手技による検出を防ぐために、適正な手技で行う必要があります。次は回路のプライミングを行います。自動プライミングを採用していますが、回路の接続、装置との接続、ダイアライザーの確認が重要です。気泡の混入、接続部よりの漏れ、残血や凝固、血圧低下の危険性があります。患者が入室して体重を測定しますが、測定にも注意が必要です。正しい測定ができないと、除水を行っても適正体重よりの増減、除水量・除水速度過多による血圧低下、濃縮による凝固などの危険性があります。当施設ではおよそ5年前よりモニタリングシステムが導入され、自動的に計算を行ってくれるため、除水量の計算ミスによるインシデントは激減しました。装置の設定値も重要です。透析モードの間違いは効率の低下や血圧の低下、除水量の計算ミスは前述のとおり血圧低下、適正体重よりの引き残しを、除水速度の設定ミスは血圧低下、血液濃縮・残血・凝固、引き残しの危険性があります。血液流量は濃縮による残血や凝固、抗凝固剤の設定値は残血や凝固、止血時間に関係します。補液速度は効率の低下、濃縮の危険性、透析液流量は効率の低下の危険性があります。以上のように装置の設定値は重大なミスに繋がる項目が多いので、ダブル・トリプルチェックが必要になります。当施設では臨床工学技士によるダブルチェック、看護師によるチェックが行われています。装置の設定が完了すると穿刺準備になりますが、まずシャントの確認が必須です。聴診器によるシャント音の確認、スリルの触知を確認します。シャントに問題がなければ穿刺部位検討します。どこに麻酔テープを貼付しているか、再循環はしないか、十分な血流量は確保できるか、止血に問題はないかなどを検討し、穿刺部位を決定します。穿刺部位の消毒も重要です。アルコールの耐性によってはイソジンを使用したり、2度消毒し特に感染に注意を払わなければならない場合もあります。患者によって性格、麻酔テープの有無や痛みへの感受性が異なります。血管の穿刺難易度も人それぞれです。

もし穿刺に失敗したら、患者の性格や血管の難易度を鑑みて判断します。許可がもらえるなら自身で再穿刺、同僚や相性の良いスタッフに交代することも有効です。慢性透析の患者とは定期的に顔を合わせることになるので、コミュニケーションも重要になります。当施設では去年より超音波エコー装置が導入され、適正な血管の評価が可能になり、エコー下穿刺の技術を習得したスタッフも増えてきたため、穿刺やシャントトラブルは激減しました。穿刺後、穿刺針の固定、回路の接続になります。固定がしっかりしていないと抜針の可能性が高まり、出血や血圧低下、再穿刺の原因となります。認知症やコミュニケーションに問題のある患者については、安全のために軽い抑制が必要になることもあります。回路の接続時に、脱血側と返血側を間違うと再循環による効率の低下、穿刺針と回路の接続がしっかりしていないと回路脱落による出血の原因になります。当施設では去年までに逆接続による再循環の発生は年1度以下でしたが、脱血側に印をつけ、チェック体制を強化することによってインシデントの発生を抑制しています。

透析での確認について

透析中は設定値や血圧、測定値や装置の運転状態の確認を行います。透析中に服薬する患者もいるので、服薬の時間帯、種類などの確認が必要になります。透析が終了し、返血作業になります。返血時に投与する薬の種類や量は、ミスが起こりやすいところなので十分に確認します。患者によっては禁忌薬があることもあります。抜針時には、圧迫する場所、強さが出血時間や止血時間に関わるので注意が必要です。患者がいなくなった後は、透析装置の洗浄、消毒作業になります。消毒液や、RO膜の再生のための塩などの残量はしっかりと確認します。ウィークリータイマーが設定され、自動的に洗浄手段が選択される場合がほとんどですが、次亜洗浄や酸洗浄の回数などはもう一度確認する必要があります。近年は透析液の排液が下水道管を障害することが問題になっているため、排液のpHを調整することが必要になります。当施設では、除害装置の設置も検討されていますが、消毒液の濃度を調整して対応しています。